プールで遊ぼう

「暑いわねえ」
「本当に暑いですね。」
「涼しい場所とか、無いのかしら。」
「避暑って言うと、軽井沢とかですかねえ。」
「あんなの、戦前の、有閑階級の時代の、話よ。今はそこらのがきが
 都会の暑さを引き連れて、群がってるだけよ。」
「北海道なんていいかもしれませんね。」
「そうねえ、いっそ南半球へ行くとか。」

「暑いですね・・・」
「う、う、う、この情念で、暑さを、振り払ってやる。」
「・・トモノさん・・もっと暑くなるから、止めてください。」
「ごめん、なんか、暑さで、脳みそ、とろけてきたみたい。」

「あっ、そだ。こないだの、ラブホで風呂に水を張って、ちゃぷちゃぷするとか。」
「あそこ、遠かったです。それに、トモノさんの運転する車に、乗ると、ものすごく疲れるんです。」
「そうね、お疲れひろしくんだったものね。」
「でも、わざわざ、ラブホで水風呂しなくても、プールと言うものが、ありますよ。」
「そーよ、ひろしくんえらい。行こっ。さっ、出かける用意して。」
「えっ、今からですか、もう、夕方近いですよ。」
「大丈夫、充分間に合う。」
「間に合ってもいくらも居れないですよ、入場料、もったいないし。」
「なに言ってるのよ。水着を買いに行くに、決まってるじゃないの。」
「はー、そう、決まってるんですね。」

「ふー、百貨店に入ると、ほっとするわね。」
「ええ、そこらのベンチに一日座っていれば、充分避暑になりますね。」
「ひろしくん、水着あるの?」
「ええ、一応去年、買ったのが・・、あっ、でもトモノさん、
 去年買った水着が云々とか言ってましたよね。わざわざ買わなくても、持ってるんじゃないですか。」
「・・・・男と違って・・・女の子は、去年の水着なんて、着れないの。」
「は、はいわかりました。」

「あの、僕、ここで待ってますから・・」
「なに言ってるのよ、せっかく見立てしてもらうために、一緒に来たのに。」
「いや、やっぱり恥ずかしいですから。」
「次は、下着売り場へ、行くのよ。こんなところでなに言ってるの。」
「ひー、勘弁してください。水着は、つき合わさせていただきますので、下着だけは・・・」
「もー、根性無し、まあ、今度だけは、下着売り場は許してあげる。」

「わー、色々あるんですね。カラフルだし、形も・・、こんなんだと、トモノさんでは
 はみ出しちゃいそうですね。
「なに言ってるのよ、うーん、でも、ちょっと、着れないデザインも、あったりするわね。」

「これなんかどう」
「あ、よさそうですね」
「これは」
「すてきですね」
「こんなんも、いいかもしれない」
「きっと似合います」
「ちょっと、あんた、何でもいいみたいね。」
「いや、あの、でも、トモノさんが着ているところが、ちょっと、イメージできないと言うか。」
「ふーん、でも、中身は良く知っているじゃない。」
「あの、そんなこと、大声で、言わないでください。」
「いーじゃない、この素敵なおねーさんの、中身知ってるんだぞ、って、自慢になるじゃない。」
「はー」

「でも、やっぱり着てみないと、わからないのは、事実よね。」
「そーですね」
「じゃ、ちょっと見繕って、着てみるわね、そこで待っててよ。」
「はい・・・」

「どう、これは」
「えーと、あの」
「あんまり気に入らないのね、じゃあ次行くよ。」

「これじゃどう」
「あの、なんというか」

「こんなんは?」
「うーん、えーと、その」

「何か言いたいことがあるんでしょ。」
「あの、トモノさん、わざとおっぱい強調するようなのばかり、選んでるのでは。」
「そら、もちろんよ。アピールすべきところを目立たせるのが、ファッションの、基本よ。」
「ううう、あの、僕としては・・・。」
「ふふ、僕としては、私の、おっぱいが目立たないほうがいい?」
「えと、あの、ええ」
「うれしいわ、そう言って欲しかったから、わざと選んだ、デザインだもの。
 実は別に気に入ってたわけじゃないのよ」
「もう、僕を、弄りたいだけだったんですね・・・・」
「ちがうって、ちゃんと、そう言ってくれて、うれしかったんだから。」

「じゃ、これにするわね。」
「そうですね・・・」

「さっ、帰ろっか。」

ひろしの中では、プ−ルを、提案しとことを、悔やんでいた。
トモノと、プールに行ったら、それはそれで、散々翻弄されるであろうことが、
想像に難くなかったからである。

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「ひっろしくんっ、さっ、行こうか。」
「おはようございます、トモノさん。何かご機嫌ですね。」
「そりゃそうよ、ひろしくんと、おでかけ、それもプール。ご機嫌にもなるわよ。」
「あの、まさか、お弁当を、作ったとか、言いませんよね。」
「その、まさかのまさかよ、朝の5時に起きて大変だったんだから。」
「・・・・・・・・」
「どうしたのよ」
「いえ、トモノさんのお弁当、楽しみだな、と、思って。」

「涼みに行くのに、なんでこうなの。」
「うう、混んだ電車には、乗りたくないものですねえ。」
「うう、何か微妙にいろんな人の、体が当たってる様な気がするし・・・」
「あっ、トモノさんそこの壁のところに立って、僕が、ガードしますから。」
「ありがと、ふう、ちょっと落ち着いた。」
「でも、トモノさんは、前のガードが大変ですよね。」
「なに言ってるのよ、でも、これは、はんでぃーだよね。優先座席に座る権利があるわ。」
「はあ、ご高説、承っておきます。」

「なにこれ」
「人ですねえ」
「どこからこんなにぞろぞろ湧き出してくるのよ。」
「といっても、僕たちも、湧き出した口ですから。」
「しかたないわね、とりあえず、入場しましょ。」
「トモノさん、帰るとか、言い出すかと思ったんですけど。」
「せっかくここまで来たんだから、意地よ。」

「あの、女子の更衣室の、出口あたりで待ってますから・・。」
「私が先に、出てきたら、どうしたらいいの?」
「一般的に、それはあり得ないらしいです。」
「せっかく、水着を、着込んできたのに。」
「えええ、ほんとですかー。」
「嘘に決まってるじゃない。ま、女の子のほうが、着替えに時間がかかるわよね。」

「あっ、トモノさん、こっちですよ。」
「おまたせー、もう、更衣室の混雑ったら、半端じゃなかったわよ。」
「でしょうねえ、あれだけぞろぞろ出てきますものね。」
「で、何か言うことは無いの?」
「あっちで、シャワー浴びましょう。」
(スルーしやがった。)「そうね、着替えただけで、汗だくよ。」
(トモノさんの水着の結構さは、わかってますよ)「それからどこかに場所を確保しましょう。」

「あの、なんかえらく視線を、感じるんですけど。」
「そお、街を歩いている時の、5割増程度じゃない。」
「あの、街でも、そんななんですか、視線のシャワーって感じですけど。」
「いい女はこれを甘受しなければいけない、義務があるの。ただいつもの、賛美の視線だけでなく
 かなり、敵意の視線があるわね。」
「え、なんでトモノさんが、敵意を受けないといけないんですか?」
「なに言ってるのよ、敵意を受けてるのは、あなた、ひろしくんよ。」
「ぼ、僕がですか、どうして」
(どこまで、続けるつもりだ、こいつは)「あたしの隣に居るのが、既に罪なのよ。」
「うーん、なんだかよくわからないですけど、水に入りましょうよ。」
「そうね」

「わ、きもちいい。よみがえった気分よ。」
「ええ、でも、僕につかまっててくださいよ。これだけ人が居ると、すぐに見失いそうで。」
「うん、やさしいね、ひろしくんは。」
「あの、それほどでも、あっ、あんまり強くしがみつかないでください、ちょっと刺激が強すぎるかも。」
「でも、ほらだんだん深くなってきたから、つかまってないと、溺れちゃうじゃない。」
「はいはい」
「トモノさんは泳げないんですか?」
「まあ、高校の体育ぐらいは、こなせたけど。」

「ね、ね、お姫様抱っこして。」
「なにを、唐突に ?」
「あのカップル見て、浮力があるから、簡単なのよ。首につかまるから、お尻をちょと
 支えてくれればいいのよ。」
「えと、あれ、ほんとに、簡単ですね、体重ほとんど感じない。」
「うふふ、ひろしくんに、しがみついてるだけで、どこまでも運んでいってもらえる。」
「あの、トモノさん、あんまりおっぱい押し付けないでくださいよ。
 水から上がれなくなっちゃうじゃないですか。」
「あら、どうして、何か困ったことでもあるの?」
(うーむ、これは絶対に、確信犯だ。)「うー、少なくとも、クールダウンの時間は、くださいね。」

「あの、そろそろ、お弁当食べません?、せっかくトモノさんが作ってくれたんだし。」
「はいはい、お口に合うと、いいんですが。」
「なんだかえらく、殊勝ですね」(だいじょうぶなんだろうか)「お茶買ってきます。」
「あ、おトイレに行くから、ついでに、買ってくるわ。」
立ち去る、トモノの後姿を見ながら、
(胸もいいけど、ビキニに、包まれた後姿も、また絶景だな。)
(あ、なんやら、話し掛けてる、男がいる。あっさりいなしたようだけど。でも)

「ああ、お待たせ、トイレも混んでたけど、もうやたらに、男どもがまとわりついて・・・。」
「なんか、言われたんですか?」
「さー、なんだか言っていたけど、ぜんぜん聞いてなかったから。それより、お弁当よ。」
(ふふ、それなりに、気にしてくれていたのね)

「美味しかったです、ご馳走様でした。」
「おそまつでした」
「しかし、あいかわらず、視線が、びんびん飛んできますね。」
「あら、感じてるんだ。どう、注目される気分は。」
「僕が、注目されてるわけじゃないでしょう。」
「それは、ちがうわよ、私の隣にいるんだから、私と同じぐらい注目されてる理屈よ。」
「ちっとも嬉しくない状態ですね。」
「そりゃそうよ、私だって、ちっとも嬉しくないよ。ナンパされないだけ、ひろしくんのほうが
 大分ましよ。」
「今度は、ウオータースライダー、行きます?」
「うん、あれは好き。」

「造波、プールもありますよ。」
「私を、ちゃんと、捕まえておいてよ。」

「はー、なんかしっかり遊びましたね。」
「そうね、楽しかったよ。」
「大丈夫ですか、ゲート出たところで、待ってますよ。」
「ああ、ちょっと時間かかるかもしれないけど・・」

「トモノさん、降りる駅ですよ。」
「はー、もう朝?」
「寝ぼけないでください、降りますよ。」
「あー、ひろしくん。」
「もうじき、家に着きますから・・。」

「もう寝る。」
「あ、ちょっと待って、服脱がせますから。」
「ああ、今日は、しないよ。」
「そんな事言ってません。服が皺になるでしょう。」
「うん、一緒に寝よ・・・」
「離してくださいよ、あーん、もう、僕も眠いです。はああ・・・・・・・・・」


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人ごみのなかに出て行ったら、単なる、バカップル話に、なってしまいました。
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おまけ
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下着売り場

「あの、トモノさん、僕ここで待ってますから、ゆっくりと、買い物してください。」
「前に、『今度だけは、許してあげる』って、言ったでしょ。今日は、ちゃんと、付き合ってもらうんだから。」
「あの、水着と違って、かなり恥ずかしいんですけど・・・」
「恥ずかしい?、そんなもん、根性で乗り切るのよ。」
「あの、それは、根性とは、だいぶ別の話だと思うんですが・・・・。」
「えー、もうぐちゃぐちゃ言わないの。いくよっ。」
「あ、あ、あ、そんなに、むりに引っ張らないでください。袖が伸びます・・・。」

「あの、ちょっと刺激的なのを試したいんですが。」
「はい、では、このようなものは、いかがでしょうか。」
「うーん、ちょっと、違う感じかな。」
「では、こちらはいかかでしょうか。ご主人様、いかがですか?」
(ひっ、ご主人さまあ?)
「あら、いいかもしれない。どお、ひろしくん?」
「お客様は、素敵な、スタイルをしていらっしゃいますからむしろこのような大胆なデザインの方が、お似合いかと。」
(あの、トモノさんがこれを着けて、あんなとか、こんなとか・・・・)
うっ、鼻血が、でそう。
「こちらなども、お客様のような方には、お勧めしているんですよ。」
「そうねえ、でもひろしくん、どうかしら。」
「ご主人様にも、きっと喜んでいただけると思いますよ。」
(くー、もうだめ)
「あ、あ、あの、僕トイレに、行ってきます・・・・。」

(あら、もう臨界点に達しちゃったのか、もうちょっと遊びたかったのに。)

「ほかにも見せていただけます?」
「そうですね、このようなものは、いかがでしょうか。
 素敵な、彼氏を刺激するには、ちょうど良いかと・・・。」


 

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