会場の聴衆の前列にそのときの教え子たちがいた。男の子も女の子も、
四十近い齢になっていた。それでいて、まぎれもない教え子の顔を持って
いた。
私が話し出すと女の子たちは手で顔を覆って涙をかくし、私も壇上で絶句
した。おそらく彼女たちはそのとき、帰ってきた私をなつかしむだけでなく
私の姿を見、私の声を聞くうちに二十年前の私や自分たちのいる光景をあり
ありと思い出したのではなかったろうか。
講演が終わると、私は教え子たちにどっと取り囲まれた。あからさまに
「先生、いままでどこにいたのよ」と私をなじる子もいて、「父帰る」という
光景になった。教師冥利につきるというべきである。