第六部 中国の友人たち
2.江南水郷古鎮めぐり
(2)烏鎮(うちん)(2010年5月)

今回の中国旅行は大腿部の疼痛と額の傷という二つの不安を抱えたままの出発となった。左足大腿部の疼痛は3月下旬から続いており、薬を飲んでなんとか抑えていた。額の傷は、出発を三日後に控えた夜のアクシデントだった。これも、左足の疼痛が原因かと思う。夜、風呂へ入ろうとして2階から階段を降りてきて、最後の段を踏み外した。よろけて前へつんのめり、斜め前の壁の角に、しこたま額を打ち付けた。「しまった!あぁ、旅行に行けない!」と言葉が出てしまう。相当な出血で、市民病院の夜間救急へ駆け込む事態となった。CTまで撮ったが、特に異常はなく、傷パワーパッドを貼るだけの処置で済んだ。
 しかし、さすがに、三日後の出発は叶わなかった。旅行は一度、キャンセル。航空券など、多額の取消料が発生し、こちらも痛かった。
 足痛のリハビリと額の傷の手当で10日ほどはおとなしくしていたが、そのまま放置していた旅行鞄を見るにつけ、気持ちがうずうずし、遂に、5月25日、出発した。

 烏鎮(うちん)(ここは、浙江省。「水郷古鎮」の地図を見てください)

5月28日、上海の中心地、人民広場を8時に出発する烏鎮一日ツアーに参加した。私と中国人の友人Duは、上海火車站から人民広場まで、タクシーで移動。朝の上海は渋滞がひどい。でも、30分ほどで人民広場着。ここは上海体育館近くや上海南站近くにある長距離バスのバスターミナルなどと違って、正規のバスターミナルではない。公園近くの道路に小型バスが5、6台並んでいる。私たちは、そんな一台に、目印の小旗を見つけて乗り込んだ。予約をしていた人が遅れたようで、8時15分に出発。
  出発して、すぐに高架に乗る。途端にバスは動かなくなる。少し動いては、また、止まる。運転手は、「上海の高架は道路ではなく、駐車場です」と言いながらも冷静。毎日のことで慣れているのだろう。私はイライラする。一昨年の秋、上海から同じようなバスで朱家角へ行ったが、そのときは、渋滞を半時間ほどで抜けた。今回は、その比ではない。運転手の言うのには万博も影響しているとのこと。1時間ちょっとかかって、渋滞を抜け出し、やっと高速走行に入る。10時半、浙江省の桐郷というところで高速を降り、物産店に入る。桐郷は、菊茶の名産地ということで、私たちは一室に連れて行かれ、菊茶を試飲。添乗員は店の経営者とグルで、客に、菊茶を買わそうとする。結構高いし、荷物になるので、私は買う気がなかったが、友人Duはいくつも買っていた。
 11時半、烏鎮着。あいにくの雨。傘を差しながらの見学となる。添乗員について回る。私は自由に見学するほうが好きなのだが、Duが添乗員の説明を聞きたがる。木雕館、茅盾(ぼうじゅん)故居、などを見て1時過ぎに昼食。
 
 

烏鎮のバスターミナル ここが入り口(観光ゲート)
烏鎮の大門 烏鎮、水郷風景
道観前の広場。この写真の右端に少し見えているのが舞台。ここで劇が上演される。 「桐郷花鼓劇」 京劇の原型は江南地方という
木彫がすばらしい
藍染
茅盾(ぼうじゅん、1896~1981)の故居。作品は、『子夜』『腐食』『霜葉は二月の花に似て紅なり』『藻を刈る男』など。
近代中国最大の共産作家といわれる。


 昼食は、
25元で別料金。昼食を終えて、やっと自由参観になったが、2時40分には出発するという。「えっ!」と声に出てしまう。自由参観の時間は一時間もないのである。
 2時50分、烏鎮出発。バスに20分ほど乗って皮革製品のデパートのような大きな建物に到着。4時45分出発とのこと。こんなところで一時間半も時間をつぶすことになる。買い物に関心のない私にとってはまったく無駄な時間である。
  いよいよ、高速道路に乗り、一路上海へ戻るのだ。出発してすぐに、添乗員が、「上海の入り口で検問があるので、各自、身分証明書の用意をしておくように」と怖いことをいう。私の場合、パスポートの用意ということだ。高速道路を一時間あまり順調に走り、上海が近くなったところで、添乗員の予告どおりの検問。全数チェックではないが、私たちのバスは、警官の振る赤いライトに指示され、側道に入れられる。停車していると警官が乗り込んでくる。座席を見渡す。いよいよ、身分証明書を出せと言われるのかと思っていると、警官は添乗員と二言、三言、話して降りて行った。すぐに発車。ほっ!と安心。
  でも、その後に朝の「行き」以上の渋滞が待っていた。
 「上海の高架は道路ではなく、駐車場です」の言葉通り。まったくの駐車場。ほんとに動かない。朝は止まっているより、少しでも動いている時間のほうが長かったが、今度は、止まっている時間のほうが長い。朝は渋滞を抜けるのに一時間だったが、今度は、一時間半かかって、七時半にやっと、人民広場に帰り着いた。烏鎮に居たのは3時間ほどで、買い物の時間を含め、往復に8時間以上かかった計算である。友人Duは大きな旅行鞄、手提げ鞄を二つ、スリッパ、財布などの革製品のほか、菊茶の茶缶数個、たくさんの買い物をして満足そう。私は、楽しみにしていた烏鎮観光が不完全燃焼でふくれっ面。ゆっくりと、また別の機会に来たいと思う今回の烏鎮一日ツアーであった。