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| 「――無茶、……しやがって、」 腕をタオルの拘束から解放した途端、投げつけられる罵声。 「ごめん、……えっと、大丈夫?」 「大丈夫じゃねぇよ」 「ごめん」 「謝るなっ」 「ごめ……あ、」 言われたそばから謝罪の言葉が出そうになって、慌てて口を噤(つぐ)む。かなり無体な事を彼に押し付けてしまった、と反省する。 彼は一時的にだけど、目が見えない状況に陥っているのだ。その「目に包帯」とある意味、挑発的な格好でいるが、本人はかなり不安に感じているだろう。そんな不安に苛(さいな)まれて自分を頼ってきたというのに、それを官能的だと勝手に読み違え、その上、調子に乗って無理矢理セックスまで持ち込んでしまった。彼が怒るのも無理はない。 「……蜂蜜」 「え?」 何を言おうとしているのか判断できなくて、顔を上げる。 「ちゃんと買って返せよっ」 「あ、はい」 自分達の間に蜂蜜の瓶が転がっていて、中身の方はもうほとんど残っていない。 「んで、水」 「み、みみ、水っ?」 水って――ええと? 次から次へと言葉が飛んできて、ついていけない。 「喉、カラカラなんだよっ」 言われて、彼の声が掠れている事に気付く。慌てて冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、ペットボトルのまま手渡と、一気に飲み干した。 明かりに照らされて、きらきら光る水を喉に流し込む――。 たったそれだけの事なのに、彼の何かを食すという姿は、何かこう……妙な色気があると思ってしまう。だからさっきも、変に気持ちが高揚したわけだけど……。 きっと、この人を心底恋しい、と思うからこその衝動。 不意に彼の手がこちらに向けられる。伸ばされた手を取ると、そのまま身体を預けてきた。 「なっ……何? どっか痛い?」 かなり無理をさせてしまったので、どこか身体に痛みでもあるのかと心配になって訊くと、 「――風呂、」 「え?」 頭を胸に押し付けられた状態では、声がくぐもってよく聞こえない。すると、彼は少し身体を離して、 「風呂だよっ。誰かさんのせいで、身体中ベタベタして気持ち悪いし、あちこち痛くて動けないんだよっ」 「わ、悪い」 手元にあった、今まで彼を拘束していたタオルで、身体中に残る蜂蜜や体液を拭っていくと、 「だから、謝るなって言ってるだろっ。謝るくらいなら、さっさと風呂場へ連れて行けっ」 「は、はいっ」 タオルを手放し、彼を担ぎ上げると、すぐ背後にあるユニットバスへの扉を開く。 ふわり、と彼の腕が首に回される。身体に残る甘い蜂蜜の香りと、彼の甘い体臭が鼻を刺激する。そして、コツン、と頭が肩に乗せられ、 「……今度さ、お前が目隠ししろよな」 ぼそり、と耳元で囁やかれる。少し高めのトーンが耳に心地好かったが、その内容が内容なだけに、 「ええっ?」 驚いて声が裏返る。 「厭、とは言わせねぇぞ?」 凄みを利かせて、脅すように声を低めてくる。 それにしても、そんな要求をしてくるとは……、彼らしいといえば彼らしい。彼が望むなら、何でもしてやる気は充分にある。こういうのを惚れた弱みとでも言うのだろうな。 自分の彼に対する執着に対してか、彼の無邪気な要望に対してなのか、思わず苦笑が零れ、 「……はい、」 そう返事をすると、触れるだけのキスが返ってきた。 |
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