コクン、との喉が動くのを、アルデバランは肩で息をしながら見つめていた。
情けないやら恥ずかしいやらで、今すぐ自分の頭をゲンコツで殴りながらマッハで走ってスニオン岬に行き、勢い良く海へダイブしたい。
或いは、今すぐ処女宮に駆け込んで、仏陀の像の前で念仏をシャウトしながら激しく木魚を連打したい位の気持ちなのだが、それでもから目を逸らす事が出来なかった。
「・・・・・・・な」
白い首筋や肩も、キャミソールからちらりと見えるふっくらとした胸元も、つい今しがたまで自身が包み込まれていた小さな唇も、何もかもが余りにも艶かしくて。
「何て事をしてくれてるんだーーッ!?!?」
思わず大声を上げてしまった。
「・・・・・・やっぱり、嫌だった?」
しまったと思った時にはもう遅く、は傷付いたように俯いてしまった後だった。
「い、いや、嫌とかどうとか言っているのではなくてだな・・・・・!」
そう。
嫌ならいつでもを振り解けた。
にしてみれば、目一杯の力で押さえつけていたつもりなのだろうが、アルデバランにとっては無いに等しい拘束だった。
振り解かなかったのは、恐らく自分よりも恥ずかしい思いでいたであろうに恥を掻かせない為、
そして何より、アルデバラン自身もこうなる事を密かに望んでいたからだった。
「・・・・・・・ただ、驚いたんだ。まさかが・・・」
「だって私、言ったわよね?アルデバランが好きだって。」
「・・・・・・ああ、言ってくれたな。」
「アルデバランも、私の事好きだって・・・・・、言ってくれたわよね?」
「・・・・・・ああ、言った。」
「だから私、ずっと待ってた。だけどアルデバランは、いつまで経っても私に触れてくれなかったでしょ?」
「それは・・・・・・・」
それには理由があった。
これまで一人で密かに悶々と悩んでいたが、こうなった以上、包み隠さずに伝えるべきだ。
そう思って口を開きかけた瞬間、の鋭い声が突き刺さった。
「しゃらくさいのよ。」
「しゃらくさい、って・・・・・;」
らしからぬ言葉遣いに唖然としたのも束の間、が今にも泣きそうな顔をしている事に気付き、アルデバランは口を噤んだ。
「心が結ばれたのなら、身体も結ばれたいって思うのが当然じゃないの?」
「いや、俺は・・・・・・」
と言いかけたその瞬間、突然が驚愕したように大きく目を見開いた。
「ハッ!?も、もしかして、アルデバランの『好き』ってそういう意味じゃなかったの!?」
「いやその・・・・」
「もしかして、私の思い込み!?」
「いや、あの・・・・・」
「ああもう馬鹿ぁ!だったら早く言ってよーっ!私一人で馬鹿みたいじゃない!」
アルデバランは、またしても弁解のチャンスを逃してしまった。
それにしても、今日のは良く喋る。
多分、黙ると余計恥ずかしいからなのだろうが、物凄い勢いで喋っている。
「ああもう、こんな簡単な事、何で私も今の今まで気付かなかったかなぁ!?盲点だったわ、最初にそう疑ってみるべきだったのに・・・・!」
口下手なのが災いして、アルデバランは後手に回るばかりだった。
「あああぁぁ・・・・・・、もう無し!今の全部無し!!」
「え、えぇっ・・・・!?」
「本当にごめんなさい!全部無かった事にして!綺麗さっぱり忘れて!ね!?」
今、この時までは。
「じゃ、じゃあお邪魔しました〜っ!」
脱いだカーディガンをひったくろうとするの手を、アルデバランは強く掴んだ。
「っ・・・・・・!」
「ちょっと待て。自分だけ言いたい事を言って逃げる気か?」
「に、逃げ・・・・るなんて・・・・・・」
「帰るなら、俺の話を聞いてからにしろ。」
強気な態度で有無を言わせずを横に座らせると、アルデバランはの手首を掴んだまま話し始めた。
「別にお前の思い込みじゃない。俺の言った『好き』はそういう意味だ。」
「そ・・・・・・・なの・・・・・・・?」
「当然だ。でなければ、何度もお前一人だけを食事に誘ったり、ましてここに泊めたりなどせん。」
「・・・・・・・」
「ただ、考え過ぎていたんだ。お前はいつも素直に自分の気持ちを伝えて来てくれたが、俺はそうされる事に慣れていなかった。だから、嬉しくなればなる程考え過ぎて、気が付けばいつもタイミングを逃していた。」
ずっと一人で悶々と抱え込んでいた悩み事は、いざその気になってみると拍子抜けする程呆気なく口に出来た。
馬鹿馬鹿しい、そう思って、アルデバランは苦笑した。
「こんな大きななりをしている癖に、気の小さな男だろう?」
「そんな・・・事・・・・・」
「出来れば、見限らないでいて欲しいんだが。」
「そんな・・・・・・」
「良かった・・・・・」
「ぁ・・・・・」
ひとたびその気になれば、そう、こんなにも簡単に。
「ちょっと・・・・、待っ・・・んっ・・・・・!」
突然立場が逆転し戸惑うを抱きすくめて、今度はアルデバランの方から口付けた。
そう言えばは、事に及ぶ前に力ずくでどうのこうのという妙な事を話していたが。
「はっ・・・・・んん・・・・・・」
これは多分、それには当て嵌らない。
は、差し込んだ舌を柔らかく受け止め、抱きしめ返してくれている。
何より、ついさっき腹を割って本音を話し合ったところだ。
もうこれ以上、何を思い悩む必要もない。
「ぁ・・・・・ん・・・・・・・」
唇から小さな顎を伝ってキスを滑らせ、甘い香りのする首筋に顔を埋めてみる。
柔らかい項や鎖骨をも啄ばみつつ、小さく震えているの肩に掛かった2種類のストラップをそっと指で引っ掛けた。
どちらも何やらちまちまと可愛らしいデザインの、繊細で華奢なストラップだ。
ほんの少し力加減を誤れば、すぐに切れてしまいそうでちょっと怖い。
「・・・・・簡単に千切れそうだな。」
「出来れば千切らないでね、お気に入りだから・・・・・」
苦笑いのに苦笑いで答えて、アルデバランは些か慎重すぎる手付きで、それらをの肩から滑り落とした。
白い両肩が露になると同時に、胸元が大きくはだける。
不安定に胸元に纏わりついているだけになったブラジャーとキャミソールをほんの少し引き下げると、ツンと上を向いた珠が顔を出した。
「あ・・・・・・!」
それを口に含み舌で転がしつつ、アルデバランはのスカートをたくし上げ、ショーツを引きずり下ろして秘部に手を触れた。
「んっ・・・・・!」
花弁は既に柔らかく綻んでおり、秘裂からトロトロと熱い蜜が零れている。
アルデバランは、それを絡めつけた指をゆっくりと内部へ潜り込ませていった。
「あ・・・んっ・・・・・、はっ・・・・・!」
深く挿入し、掻き回すように内壁を擦れば、の太腿がピクン、ピクンと細かく痙攣する。
しっとりと濡れた唇からは、甘い吐息。
艶かしい姿態、心を蕩かすような温もり。
自分でも呆れる位、貪欲に求めていける。
「あっ、やっ・・・・!」
一旦指を引き抜き、今度は両脚を開いて高く持ち上げ、秘部を露にさせた。
「やだっ、待って、アルデバラン・・・・・・!」
「今更『待った』はないだろう?」
「だってこんな・・・・、恥ずかし・・・やぁっ・・・・!」
皆まで聞き終わらぬ内に、アルデバランは秘裂を舌で割り開いた。
「ん、はぁッ・・・・・、あー・・・・・ッ!」
止まらない蜜を啜り、茂みの中からぷっくりと立ち上がっている花芽を舌で転がす。
腰をくねらせて喘ぐを、夢中で追い立てていく。
あれほどグズグズと二の足を踏んでいたのが嘘のように、躊躇いは一切無かった。
「あっ、はぁっ・・・・!もっ・・・・・駄・・・目ぇ・・・・・、ああぁっ!」
むしろ。
「あっ、やぁんッ!!」
涙目で身体を小刻みに震わせるを見ていると、『もっと、もっと』と貪欲になってくる。
自分で思っていた以上に随分やせ我慢を重ねてきた事が、今になってひしひしと実感出来た。
「もう・・・・・・・良いか・・・・・?」
アルデバランは、艶かしく鳴きながらコクコクと頷くに覆い被さり、とうに回復を果たして再び硬く猛々しくそそり立った己の分身を秘裂に押し当てた。
「ぁ・・・・・・、はぅっ・・・・!」
腰を突き上げると、微かな粘着音と共に自身が熱い蜜の海に沈み込んでいく。
その柔らかさと熱さに、繋がった部分から蕩けてしまいそうだ。
「はっ・・・・、あぁっ・・・・・!」
黒く潤んだ瞳が、こちらを見上げている。
そんな瞳をして見ないで欲しい。
本当に抑えが利かなくなりそうで怖い。
「ぁぅっ・・・・!」
自身を一気に押し込み、背を反らせて震えるの乳房にむしゃぶり付いた。
身体全体で、を感じたかった。
「あんっ・・・・、アルデバランッ・・・・・!」
「はぁッ、はッ・・・・!」
「あぁっ、やぁっ・・・・!ああぁっ!!」
堪えきれずに思いの丈をぶつけるように突き上げると、自身が最奥をズンと押し上げたのが分かり、それと同時に、が一層鋭い嬌声を上げた。
「くッ・・・・・、済まん、辛いか・・・・・・?」
「ひあっ・・・はぁっん・・・・!」
は固く目を瞑って、首を振りながらも甘くすすり泣いている。
こんな時、女がどんな感覚に囚われているのか、残念ながら男の身では理解出来ない。
気持ち良いのか、それとも痛いのか、苦しいのか、辛いのか。
「あぅんっ、分かんな・・・・・ッ・・・・・、あぁぅっ!」
それをふと考えると、このままこの激しい熱情に身を任せてしまう事が急に後ろめたくなって、アルデバランは律動を止めた。
「・・・・でも・・・・・・」
「でも・・・?」
「嬉しいよ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
けれど、は微笑んだ。
勝手に我慢を重ねた挙句、今度はそれを爆発させてしまった呆れるくらい不器用な男に、優しく微笑みかけてくれた。
「この重さも・・・・・、ふふっ・・・、胸毛がフワフワ擽ったいのも・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・身体の中がアルデバランで一杯になって・・・・・、何も考えられなくなるのも・・・・・、全部嬉しいから・・・・・・、だから・・・・・、もっと抱いて・・・・・・」
の腕が背中に回された瞬間、自分でも驚く程の強い感情がアルデバランの心身に訴えかけた。
が愛しい、と。
愛しくて愛しくて仕方がない、と。
「・・・・・良いのか?そんな事を言っても。調子に乗って『今日は帰さん』とか言ってしまうかも知れんぞ?」
「ふふっ・・・・、本当?・・・・・・嬉しい。」
「フッ・・・、言ったな?」
「あっ・・・・、あぁぁーッッ・・・・!」
アルデバランは、再び腰を深く沈めた。
『今日は帰さない』なんて気障な台詞が似合う柄でないのは分かっているが、似合わなくても柄じゃなくても、本当に今日は帰せそうになかった。
今日はもう、身体も気持ちも止められそうにない。
の中で互いの体温を分け合って、心も身体も溶け合いたい。
何度でも、何度でも。
翌日。
「デ・ス〜。お邪魔しま〜す。ちょっと良い?」
「お〜、お前か。で、どうだったんだ昨日は?うまくいっ・・」
「あの〜・・・・、これ。」
巨蟹宮を訪ねたは、デスマスクの質問を遮って彼に紙袋を差し出した。
「あぁ?何だぁ?」
「果物。さっき、ロドリオ村の朝市で買って来たの。良かったら食べて。」
「へー、そりゃどうもありがとよ。でも何で?」
「ううん別に、只のお裾分けっていうか・・・・・、ほら、色々お世話になったから。ほんのお礼っていうか。えへへ・・・・」
突然の意味不明なプレゼントと、はにかんだの笑顔。
この二つで何となく、なーんとなく、察しがつくというものだ。
「へー・・・・・、なるほど。そういう事か。」
「うん、まあ・・・・・」
昨日までのしょぼくれた顔が嘘のような満ち足りた顔を穴が開く程じっと見つめてやると、はやけに明るい声を上げた。
「ほっ、本当、色々有難うね!感謝してますっ!」
「おう。これからはこの巨蟹宮に足を向けて寝るなよ。」
「はいっ、分かってますっ!じゃ、お邪魔しました〜!」
「何だおーい、もう帰るのかよ!?」
引き止める暇もなく、はそそくさと出て行ってしまった。
頬を赤く染めて恥らうような笑顔を浮かべたままで。
「・・・・・・・・・お〜お。幸せそうな顔しやがって。」
本人は照れを隠したつもりだったのだろうが、とんでもない。
むしろ全身で『照れています』と言っていたようなものだ。
しかし、そこまで照れるからには、昨日は余程熱く激しい時間を過ごしたのだろう。
「ふーん・・・・・、アルデバランとがなぁ・・・・・・」
二人の顔を思い浮かべてチラリと想像してみて、デスマスクは口をへの字に曲げた。
確かにあの二人がうまくいったのは喜ばしい事なのだが、目下のところ日照り続きの身にとっては、羨ましいというか当てられるというか何というか。
「・・・・・・・何かムカつくな、コンチクショー。」
侘しい独り者の僻みだと分かってはいるけれども、あいつらの話は当分聞いてやらねぇ、と心に誓うデスマスクであった。