最近、求めても避けられてしまう。
唇すら許してはくれない。
理由は分からないが、こうなったきっかけだけは辛うじて分かっている。
そう、あの時からだ。
何があったのか答えてくれれば良いのだが、はただ一方的に私を避けるだけ。
もう限界だ。
また今日も拒んでしまった。
彼が悪い訳じゃない。
でも、どうしても駄目なのだ。
事の発端は数週間前。
沙織の供でアフロディーテと一緒に行った、所謂『上流階級』の人々が集うパーティーの場でのこと。
溜息の出るような美しい容貌とスマートな物腰を持ち合わせているアフロディーテは、常連の婦人達の大のお気に入りであった。
社交上失礼のないように彼女達の相手を務める、それ自体に問題はない。
だが、彼は一つミスを犯したのだ。
折に触れてさりげなくを気遣う、その完璧な優しさが却って仇になった。
女の勘は鋭いもの。
彼のを見る目に気付いた婦人達は、さりげなく、だが陰湿で残酷な仕打ちをにしたのだ。
余裕と欺瞞に満ちた笑みを浮かべて近付き、わざとらしくの容姿やドレスを褒めて。
それから歯に衣を着せた慇懃無礼な口調で、の心を切り裂いた。
彼を愛する自信を、彼に愛されている確信を、粉々に打ち砕くように。
最初は何を言われているのか分からなかった。
だが、遠回しな皮肉が延々と続くうちに心に小さな黒い染みができ、やがてそれは大きく広がっての心を塗りつぶしてしまった。
猜疑心という、醜い闇色に。
それ以来、は彼の愛に素直に応えられなくなった。
「、今夜は私とゆっくり過ごさないか。」
執務の帰り、双魚宮を素通りしようとしたを半ば強引に引き込んで、アフロディーテは精一杯寛容に誘った。
疼くようなこの欲を今日こそどうにかしたい、二人の愛を確認したい。
その焦りを出来るだけ表に出さないように。
だが。
「・・・・ごめん、やりかけの仕事があるの。」
「ならば私も手伝おう。」
「いいの。一人で出来るから。」
は相変わらず余所余所しい。
目も合わせず出て行こうとするの腕を、アフロディーテは必死の思いで掴んだ。
「離して。」
「離さないよ。何故そんな態度を取るんだ?私が何かしたかい?」
「・・・・別に何も。」
「ならば尚更納得がいかない。説明してくれないか。」
アフロディーテは、が逃げないように腕の中に閉じ込めて問い詰めた。
「君は私の気持ちが分からないのか?こんなにも君を求めているのに一方的に避けられる、この気持ちが。」
「・・・・ならアフロは私の気持ちが分かるの?」
「だから、それを教えてくれないか?言ってくれなければ、分かるものも分からない。」
ようやく心の片鱗を見せたに、アフロディーテは優しく諭すように続きを促した。
だが、それはの心を解すどころか、逆に感情を決壊させる引き金になってしまった。
は力一杯もがいてアフロディーテの腕から逃れ、感情のままに叫んだ。
「分かる訳ないわ!これ以上好奇心なんかで私を乱さないで!!」
「なっ・・・・!何を言う!?」
「だってそうでしょう!?それ以外に私と付き合う理由なんてないじゃないの!」
「何を馬鹿な事を!君を愛しているからに決まっているだろう!!」
「その理由がそうでしょう!私が物珍しかったから、好きになったと錯覚してるんじゃないの!?」
「、いい加減にしたまえ!」
あまりの言い草に、アフロディーテは思わず声を荒げた。
は一瞬ビクッと肩を震わせたが、薄らと涙の滲む瞳でアフロディーテを睨み返した。
「もうアフロの顔なんて見たくない!私はあなたの退屈凌ぎの玩具なんかじゃない!」
のその言葉を聞いた瞬間、アフロディーテの中で何かが弾けた。
「・・・『好奇心』・『退屈凌ぎ』・・・、君は私を愚弄しているのか?」
「・・・・・」
剣呑な空気を纏ったアフロディーテに怯えたは、口を閉ざした。
そして、今まで見たことのない彼の姿が恐ろしくて思わず後退る。
だが下がれば下がる程、アフロディーテは近付いてくる。
距離を取らせまいとするように。
「赦さないよ、。どうやらお仕置きが必要なようだね。」
「な、何をするつもり・・・!?」
「口で言っても分からないなら、その身体に分からせるまでだ。この私の愛を・・・」
「やっ・・・・、いやぁっ!!」
怯えて拒絶するをものともせず、アフロディーテは強引にその身体を抱き上げて寝室へと運んだ。