「ああ・・・・、最っ高・・・・・」
アフロディーテに背中や肩をマッサージして貰いながら、は気持ち良さそうな溜息をついた。
何と居心地の良い空間なのだろう。
清潔なベッドに、柔らかな灯りに、仄かな甘い薔薇の香り。
アフロディーテはこういう空間を作る事が得意なようだ。
何と完璧な男性であろう。
美しい容姿と、それに不釣合いな程の強さを持ち、そしてこんな風に至れり尽くせりの優しさで女心を擽る術も心得ている。
そんな彼に密かに抱いている気持ちは、確かに恋と呼べるものなのだが、それを口に出す事はには出来なかった。
の目に、アフロディーテは余りにも眩しすぎて。
手の届かぬ高嶺の花に憧れるような、少し切なさの混じった甘酸っぱい気持ちを、胸の中で温め続ける事しか出来なかったのだ。
「ふふ、それは良かった。それにしても結構凝っているね。」
「え、そう?」
「ああ。ほら、肩なんか特に。」
「あぁッん!効っく〜〜!!」
身体を震わせるに、アフロディーテは目を細めた。
その仕草も、その声も、まるで情事の時を彷彿とさせる。
尤も本人はそんなつもりでないだろうが、つい劣情を催してしまう。
思えば、はいつもこうして無防備な姿を見せてくれる。
身体を預けるという意味ではなく、心の事だが。
はいつも裏表なく、損得もなく、ありのままで接してくれる。
そんな女性が未だかつて周りにいた事があっただろうか。
そう気付いた時には、に想いを寄せている自分が既に居た。
「セクシーだね、。」
「えぇ!?なぁに急に?」
「そう見えたからさ。やっぱり君は魅力的だよ。なりふり構わず君を求めたくなった、なんて言ったらどうする?」
アフロディーテはマッサージの手を止め、そう告げた。
軽い口調とは裏腹に、今にも弾けそうになる心を内に秘めて。
しかしは、恥ずかしそうに笑っただけだった。
そして。
「ま・・・・、まさか〜!そんな事有り得ないわよ〜!」
目線を逸らしてころころと笑いながら、そう言った。
その言葉はどういう意味なのか。
それを考える冷静さを、今のアフロディーテは欠いていた。
男として見てはいないと、そう言われた気がして。
そして気が付けば、の傍らに身を横たえ、を腕の中に閉じ込めていた。
「どうしてそう言いきれる?」
「え・・・・・、だって・・・・・」
「目を逸らさないで。私を見るんだ。」
の顎を軽く掴み、自分の方へ向けさせてみれば、黒い瞳が戸惑うように揺れている。
「君がどう思っているのか知らないが、私だって男だ。少なくとも君の前では、只の一人の男にすぎない。有り得ない事はないだろう?」
「アフロ・・・・、違うの、私は・・・・!」
「細々した言葉は聞きたくない。もし嫌なら、私を全力で拒んでくれ。」
「アフ・・・・ロ・・・・・?」
驚いたように強張っているの瞳が、僅かに濡れている。
脈が無いのだろうか。これは完璧に独りよがりの片思いなのだろうか。
今にも涙ぐみそうなの表情に、罪悪感が胸をじりじりと焦がすのを感じる。
しかしそれでも、アフロディーテは自分を止められなかった。
「そんな顔をしても駄目だよ。君が本気で拒まなければ、私はこのまま君を抱く。」
にというよりはまるで自分に言い聞かせるようにそう告げて、アフロディーテはゆっくりとの顔に己の顔を近付けていった。
どうしてアフロディーテのキスを拒む事が出来ただろうか。
優しく絡めてくる舌を噛む事など、身体を撫でる温かい手を振り払う事など、どうして出来ようか。
いつも有り得ないと否定していた夢が、こうして現実のものとなっているのだから。
「は・・・・ぁ・・・・」
パジャマの裾から入り込んできた手が、胸や腹を撫でていくのを、は瞳を閉じて感じていた。
「、まるで夢みたいだ。ずっとこうしたかった・・・・」
少し緊張があるものの、大人しく身を任せてくれるの耳元に、アフロディーテは熱に浮かされたような声でそう囁いた。
早く全てを見たい。
その一心で、アフロディーテはのパジャマのボタンに手を掛けた。
優しい色合いの、タータンチェックの木綿のパジャマが、ゆっくりと左右に開いていく。
こんな素朴な寝衣が、ふわりと漂う柔らかな香りが、大きな安堵感をもたらす。
これみよがしに高級なランジェリーや香水などより、余程魅力的だ。
全て脱がせてしまうと、アフロディーテはに覆い被さった。
白く盛り上がった胸に口付け、その先端に舌を這わせる。
「は、あんっ・・・・・」
小さく身じろぎしたを動かないように腕で抱きとめ、アフロディーテはの身体を弄り始めた。
「んっ、あぅっ・・・・!」
「綺麗だ・・・・・」
リップサービスのつもりなどではない。
本心が勝手に賛辞の言葉を紡ぐのだ。
しかしは、泣き笑いのような表情を浮かべて首を横に振った。
「やめてよ・・・・、そんな事言わないで・・・・・!」
「どうして?」
「だって・・・・、何か複雑・・・・・」
「複雑?」
「擽ったいし、恥ずかしいし、とにかくこんなの有り得ないんだもの・・・・」
またしてもの口から、『有り得ない』という言葉が出た。
やはりは、自分を男として見ていないのだろうか。
自分が滑稽なピエロに思えて、虚しささえ感じ始める。
「・・・・どうして『有り得ない』なんて言うんだ?」
「アフロ・・・・・?んっ、あんっ!!」
物悲しげなアフロディーテの様子を恐る恐る伺っていたは、突然秘部にアフロディーテの指を感じて身体を震わせた。
「あぁっ!や・・・あぁっん・・・・!」
「有り得なくなんてないだろう?」
の耳元でそう囁きながら、アフロディーテはの秘部を弄った。
茂みに隠れている花芽を擦り、振動を与えるように小刻みに指を動かすと、は四肢を突っ張らせて甘く啼く。
アフロディーテはそれに煽られるようにして、目に付く至るところにキスを降らせ、指の動きを早めていった。
「はぁんっっ!!んっ、あんんッッ!」
「有り得なくなんてないよ。だって私は・・・・・・」
「違・・・・、ちが・・・の・・・・、アフロ・・・・・」
アフロディーテに翻弄され、荒く途切れる息の合間に、は必死で訴えかけた。
「そんな意味じゃ・・・・・、あぁぁん!!」
卑猥な音を立てて、アフロディーテの指が泉に沈み込む。
は反射的にそれを締め付けた。
「お願・・・・・、聞いてっ・・・・!んぁっ、はぁっ・・・・!」
「聞いてるよ。言ってごらん。」
そう言いつつも、アフロディーテは愛撫を止めない。
首筋や胸を這う舌も、身体の中をかき回す指も、何一つ。
「違うの・・・・!だってずっと、私の片思いだって・・・・、思ってたから・・・・んんっ!!」
「・・・・・・」
「だから、そういう意味なの・・・・」
「・・・・・ふっ、くっくっ・・・・・」
「アフロ・・・・?」
愛撫を止め、クスクスと軽やかな笑い声を上げるアフロディーテ。
がその様子を訝しんでいると、アフロディーテは不意に深い溜息をついた。
「何て事だ。どうやら私達は、同じ勘違いをしていたようだ。」
「え?」
「つまり私も、同じ事を思っていたんだ。君は私の事など見ていない、とね。これでも結構深刻に悩んでいたんだよ?」
「嘘・・・・・」
「嘘じゃない。でも・・・・・、勘違いで良かった。」
今度はアフロディーテが表情を崩す番だった。
安堵や嬉しさがそっくりそのまま浮き出て、優しく柔らかな笑顔になっている。
は思わず、その笑顔に見惚れた。
「・・・・・やっぱり綺麗だね、アフロ・・・・・。」
「ふふ、君のお世辞は擽ったいね。」
「お世辞じゃないんだけど・・・・・」
互いに目元を綻ばせて微笑みながら、二人は惹かれ合うようにして深いキスを交わした。
待ちきれずに身体を深く繋げた。
この時をどれ程待ち侘びた事か。
「んんっ、あぁぁっっ!!」
「はぁっ・・・・、・・・・・」
自身を包む熱い内部の感触に、アフロディーテは夢中になっていた。
こんなに強い情欲を感じた事など、未だかつてない。
自分にしがみつき、甘く啼きよがる相手を、これ程愛しいと思った事も。
「・・・・・・!」
「きゃあぅっ!」
堪らなくなっての身体を繋がったまま抱き起こし、胡坐を組んで強く抱きしめる。
そのせいでより深く入り込んだ楔に奥を貫かれて、が生理的な涙を一粒零す。
その涙を唇で拭い取り、アフロディーテはの身体を揺すり始めた。
「あっあ、ふぅっ・・・・・!」
「愛してる、・・・・・・!」
「あ・・・・、私、も・・・・はんっ!」
抱きすくめる腕も、硬い胸板も、身体を突き上げる楔も全て、熱くて力強い。
いつもは女性に見紛うような美貌も、この時ばかりはそうは見えなかった。
どこからどう見ても男性そのものだ
こんなに情熱的なアフロディーテは、にとって初めて見る彼であった。
「あっあぅっ、ん!アフロ・・・・、大好き・・・・・」
潤んだ瞳でうわ言のように呟いたに煽られ、アフロディーテはその身体を再びベッドに組み敷いた。
押し倒した場所は、自分が脱ぎ捨てた寝衣の上だったが、そんな事はどうでも良かった。
上質のシルク素材が気に入って買ったものだったが、皺になろうが、溢れて止まらない蜜で濡れようが、全く気にもならなければ惜しくもない。
「、愛してる、愛してる・・・・・!」
「んぁぁんっっ!!」
アフロディーテはの腰を高く持ち上げ、打ち下ろすようにして腰を振るった。
本当はもっと色んな言葉でこの気持ちを伝えたいが、口をついて出るのは『愛してる』という言葉だけ。
それがもどかしくて、アフロディーテは益々律動を早めていった。
「あっあっあっ!はぁっ、あっ、ふぁっっん!!」
「はぁッ・・・・、はっ・・・・・」
「アフロ・・・・、もう・・・、だ・・・・・め・・・・・っん、あぁぁ・・・・!!」
一足先に達したが無意識の内に泉を収縮させ、その刺激でアフロディーテも破裂しそうな欲望を一気に解き放った。
安らかな寝息を立てて眠っているを見つめていると、ふと腕に走る僅かな痛みに気付いた。
見れば二の腕に細い引っかき傷がついている。
それは薄皮一枚程度の小さな傷だが、やけにちりちりと存在を主張していた。
まるで先程の事が、夢ではなかったと証明するように。
「ふっ・・・・、いつの間に・・・・・」
行為に夢中で気付かなかった自分に少々呆れつつも、アフロディーテは嬉しそうに微笑んでを腕に抱き、眠りに就いた。