天秤宮での独り暮らしを始めてから、早くも一週間程が過ぎた。
『近い内に顔を見に来る』と言って出て行った童虎は、まだその約束を果たしに来ない。
今日も今日とて、一人寂しく眠るだけ。
そんなある夜の事。
不意に眠りが途切れたの耳に、微かな音が飛び込んで来た。
勢いよく水が流れるような音が。
眠る自分以外誰も居ない筈の天秤宮から、音など聞こえてくる筈がない。
つい今しがたまで感じていた泥のような眠気など一瞬のうちに覚めたは、上掛けを蹴飛ばし耳を澄ませてみた。
空耳ではない。
やはり誰かが居る。
とすれば、それが誰かなど考えるまでもない。
は寝起きとは思えない俊敏な動きで床を出ると、急いで音のする方向に向かった。
夜露に濡れた身体を熱いシャワーに打たせていると、不意に誰かの気配を感じた。
それが誰かなど考えるまでもないし、まして警戒する必要はない。
だが。
ガチャッ!!
「童虎!!??」
「おお、。・・・・どうした、そのような顔をして?」
その気配の持ち主・は、今にも怒鳴り散らしそうな形相をしていた。
そしてその見立ては寸分の狂いもなく。
「どうしたじゃないでしょ!?童虎こそ何を呑気にシャワーなんか浴びてるのよ!?」
「夜露で身体が冷えたからのう・・・・。それより、服のまま浴室に入っては・・・」
寝衣のままズカズカと浴室に踏み込んで来るを、童虎は一応窘めてはみたが、興奮したにその忠告は届かなかったらしい。
ズボンの裾が濡れるのも構わずに詰め寄って来た。
「大体いつ戻ってたのよ!?何で起こしてくれなかったの!?」
「つい今しがたじゃが・・・、お主がよう眠ってたのでな、何も起こす事はなかろうと・・・」
「起こしてよ!!!気を使うポイントが違うのよ!!」
はどうも相当頭に来ているらしい。
目を吊り上げてブツブツと文句を言っている。
それには流石の童虎も逃げ腰になり、ただひたすら謝るしかなかった。
「わ、悪かった・・・・!ともかく先に湯浴みを済ませたいのじゃが・・・」
「どうぞ。」
「どうぞと言われても・・・・、そこに居られては・・・・」
「私も一緒に浴びるもの。」
平然と当たり前のように言ってのけたに、童虎はもう何も言えなかった。
今更ながら服を脱いだは、タオルを身体に巻きつけ改めて浴室に入った。
中では童虎が、多少困ったような顔をして突っ立っている。
その顔が心持ち赤いのは、湯気のせいだけではない。
一方は、そんな童虎の様子など全く気付かず、上機嫌で湯を被っていた。
何しろようやく帰って来てくれたのだ。
嬉しく思わない筈がない。
「五老峰はどうだった?」
「ん?ああ、いつも通りじゃったよ。紫龍も春麗も息災じゃ。」
「そっか、良かった。」
湯の熱さに身体の慣れたは、止めたシャワーをフックに掛けてタオルを手に取った。
「折角だから、背中流してあげる。」
「い、いや儂はよい。先程流したばかり・・・」
「良いから!ほら、背中向けて!」
童虎の辞退を聞き入れず、は強引に泡立てたタオルで童虎の背中を擦り始めた。
そこまでくれば最早嫌とも言えず、童虎は大人しくされるがままになった。
身体をなぞる手の感触が、薄いタオル越しに感じられる。
たかがこれしきの事で熱くなるのは、きっと肉体が若いからだろう。
長い年月を生きた今更、この反応には気恥ずかしいものがある。
だが、それに逆らう事は出来なかったし、またする気もなかった。
「、儂はもう良い。」
「そう?じゃあお湯流す・・・」
「次はお主の背を流してやろう。」
言うが早いか、童虎は泡だらけの背中を流す事もせず、の身体を包んでいるタオルをそっと取り払った。
白くて細やかな泡が、の身体を彩っていく。
その上を、童虎の手が優しく慈しむように這う。
「、じっとしておれ。動いては洗えんだろうが。」
「だって擽ったいから・・・・・。タオル、使わないの?」
身体を撫で回される感触に顔を赤らめたが、恥ずかしそうに口籠った。
だがタオルなど使っては、の肌に触れられないではないか。
童虎は小さく笑うと、そ知らぬ振りをして手を動かし続けた。
「ん・・・・、もう・・・・、人の話聞いてるの?」
「聞いておる。」
「んっ・・・!」
童虎の手が、泡を擦り込むようにの胸を弄る。
最早『身体を洗う』という行為ではない。
泡のせいで滑りが格段に良くなっている肌は、いつもより敏感に刺激を受け取るようだ。
「あ・・・・ん・・・・」
最初は掌を使った膨らみ全体への緩やかな愛撫。
それが次第に範囲の狭まった、刺激の強いものとなっていく。
固くしこった突起を親指と人差し指で摘まれて、はびくりと身体を震わせた。
「あぁッ・・・・ん!」
童虎は摘んだ突起を軽く引っ張ったり、指先で押し潰すように捏ね始めた。
執拗に責められる其処だけ泡が流れ落ち、小さく丸い形が露になっている。
その官能的な姿に益々昂った童虎は、手に石鹸を握り新たな泡を指先にしたためると、の下腹部へと持っていった。
茂みを一撫でした手は、更に奥深い部分へと進んでいく。
他の何処よりも柔らかでデリケートな肌を、壊れ物を扱うようにそっと撫でると、は擽ったそうな声で小さく笑った。
「ふふ・・・・、やんッ、擽ったいってば・・・・!」
「これ、じっとしとらんか。」
くすくすと笑いながら身を捩るを、童虎は片腕でしっかりと抱き固めた。
そして、茂みの中でひっそりと息づいている花芽に泡を塗し、指の腹で擦り始めた。
「あん・・・、あッ・・・・・!」
身体中で一・二を争う程敏感な部分への愛撫を、立ったまま受け続けるのは辛い。
腰が震えて、今にもタイルの上に座り込んでしまいそうだ。
だが童虎の腕はそれを許さなかった。
「はん、あんッ!んんっ・・・ぁ・・・・!」
細い声を上げて震えるをしっかりと抱き、童虎はその花弁を弄り続けた。
「ぁ・・・・ん・・・・」
ひとしきり愛撫を受けたは、息も絶え絶えであった。
童虎に支えられ、立つのがやっとの状態である。
童虎は力なく寄りかかってくるの身体を抱いたまま、再びシャワーの栓を捻った。
ザァァァ、という心地良い水音が、たちまち浴室内に響き渡る。
「流してやろう。」
「ん・・・・・、あっ!」
を抱いたままシャワーに打たれ始めた童虎は、再びの秘所に手を這わせた。
泡を落とす事が目的なのだが、やはり性感帯に当たる場所なだけに、がまた扇情的な声を上げ始める。
童虎の手が花芽を、花弁を撫でていく度、は小さく身を捩じらせて喘いだ。
「や・・・・、もう、駄・・・目・・・・」
「泡を落とさねばならんだろう?じっとしていろ。」
「そ・・・んな、事、言ったって・・・・、あぁん!」
秘裂を指で割られ、その中心を丹念に拭われる。
泡を落とす事が目的なのは分かっているが、身体は反応せずにはいられなかった。
その証に、秘裂は拭っても拭っても、泡とは違う熱いぬめりが取れない。
むしろそれは益々溢れ出て止まらないのだ。
「も・・・・、いいよ、童虎・・・・、泡、取れた・・・から・・・・」
「そうか?」
「う、ん・・・・、だから・・・・、もう・・・・」
行為を制止しているのか、或いはその先を求めているのか。
の言葉はどちらとも取れるようなものであったが。
童虎は己の腰に巻いていたタオルを取り払うと、タイルの壁にの背を預けて片脚を抱え上げた。
言うまでもなく、後者と解釈したのである。
「んあああっ!!」
一気に奥まで貫かれ、は甘い悲鳴を上げた。
不安定な姿勢と滑るタイルが心許なくて、童虎の首に抱きついて身体を固定するも、下から勢いよく突き上げられる振動が容赦なくを揺さぶる。
「あんっ!童・・・虎!怖い・・・、滑りそう・・・・!」
「案ずるでない、儂が支えておる・・・・」
「ふっ、あぁッん!!」
童虎の力強い腕が、タイルと背中の隙間から入り込んで身体を支えてくれる。
確かに全体重をかけて寄りかかってもこれなら大丈夫だが、今度は別の問題が発生し始めた。
童虎に身体全体を預けたような現状では、貫かれる衝撃を自分でコントロールする事が出来ないのだ。
「あんっ、あんっ、ああーーッ!!」
は身動き一つ出来ぬまま、強すぎる刺激を全て受け入れるしかなかった。
猛々しい楔が、身体を何度も出入りしていく。
出しっぱなしの湯の熱も手伝って、は意識朦朧と揺さぶられ続けた。
「はァッ・・・ん!童虎・・・・、もっと・・・・」
「こうか?」
「ひああッ!!ち・・・が・・・!もっと、ゆっく、りぃ・・・!」
ズン、と音がしそうな程突き上げられ、身体を震わせるに、童虎は薄く苦笑した。
そうしてやりたいのは山々だが、もう身体が言う事を聞かない。
「ふっ・・・、あれも駄目、これも駄目とは・・・我侭な娘じゃのう・・・」
「だって・・・・、やんっ、あぁん!!」
「済まんが、止められん・・・・!」
「あぁぁん!!」
脚を抱え直される振動で僅かに跳ね上がった腰は、一瞬後に落ちて童虎の楔に深々と貫かれた。
それが皮切りであったかのように、童虎は絶頂を目指してより激しい律動を始めた。
「ひぃッ、あ・・・!はあぁッ・・・・!!」
シャワーの流れる音と童虎の息遣い、それにの嬌声が混じって浴室に木霊する。
湯気の熱さと童虎の熱さに、頭の芯から溶けそうになったその瞬間、童虎の楔が内壁のある部分を強く突き上げた。
「ふあぁぁッ・・・・!!!」
「くぅッ・・・・!」
完全に蕩けきってしまうそのポイントを一分の狂いもなく突かれ、はそのまま気の遠くなるような絶頂へと駆け上がった。
最後に感じたのは、楔の引き抜かれる感触と、腹に掛かる液体の熱さだけであった。
互いに果てた後も、シャワーだけは依然勢いを失っていない。
ぐったりと床に座り込むに、童虎はその湯をそっと浴びせかけた。
途端に、の腹部にかかっていた童虎の情熱の証が流れていく。
その様子を、は頬を上気させながら、何処か焦点の定まらぬ目で見つめていた。
「お水・・・・、飲みたい・・・・」
「水か?分かった。」
童虎は頷くと、水の栓を捻って手桶に少しだけ汲んだ。
そして自らの口で手桶の水を含むと、に口移しで飲ませた。
白い喉がコクン、コクン、と鳴る。
「美味し・・・・」
「ははは、上せてしもうたようじゃな。」
「童虎がお湯出しっぱなしにするから・・・、熱くて・・・・」
本当はそれだけでなく、ようやく帰って来てくれた童虎との情交の激しさや悦びも十二分にあったのだが。
何となく気恥ずかしくて、はそれを告げずに赤く染まった顔を顰めてみせた。
「はははは、それは済まんかったのう。」
「早く出よ・・・、もう気絶しそ・・・・」
「おお、それはいかんのう。」
そう言うと、童虎はの身体を抱え上げた。
「ようやくゆっくりお主と過ごせるというのに、早々に気絶されてはかなわんからな。」
「じゃあ暫くは・・・、ここに居られるの?」
「ああ。そのつもりじゃ。」
「良かった・・・・、嬉しい。」
顔を綻ばせたに、童虎は目を細めて呟いた。
「お主が眠っておったから明日にしようかと思うておったのじゃが・・・、折角起きとるのだ。今宵は寝かさずにおこうか。」
「え?・・・・ま、マジで?」
「ふふふふ、マジじゃ。」
の言葉を真似る童虎の瞳が、珍しく悪戯好きの少年のような輝きをしている。
勿論嬉しく思うのだが、先程の気の遠くなるような情交とこの後の長い夜を想像すると。
「お、お手柔らかに・・・・、ね?」
と願わずにはいられないであった。