「おやすみ。」
「おやすみなさい。」
いつものように穏やかな笑顔で見送ってくれるアイオリアに、もまた、いつもと同じ笑みを浮かべた。
だがその笑みは、部屋のドアを閉めた途端に消え失せる事を、彼は知らない。
そして、の心が限界にまで昂っている事も。
「寒いな・・・・・」
今夜は今までで一番寒い夜だ。
そんな事を考えながら、アイオリアは一人になったリビングの電気を消し、ソファにごろりと横たわった。
「はぁ・・・・・」
景気の悪い溜息が、暗いリビングに小さく響く。
が来てからずっと、彼はここで寝起きしている。
広いベッドで思う存分身体を伸ばして眠れないとか、今夜のようにやけに冷え込む夜が厳しいとか、そんな事が問題ではないのだ。
辛いのは・・・・
「・・・・ん?」
物思いに耽っていたアイオリアは、背後に視線を感じて振り返った。
そこには、床に就いた筈のがいた。
「どうした?眠れないのか?」
暗闇に所在無げに立つに、アイオリアは身体を起こして問い掛けた。
「ねえ、寒くない?」
「ん?ああ、そうだな。それで眠れないのか?ならばこれを・・・」
そう言って、アイオリアは自分用の毛布を差し出した。
寝具類はこれで全てに渡す事になるが、全く構わなかった。
だがは、小さく首を振ってそれを断った。
その代わりに。
「!?」
は、突如アイオリアの胸に飛び込んで来た。
洗い髪の香りがふわりと鼻腔を擽り、胸に当てられた掌が身体中の血を熱くさせる。
「や・・・、やめるんだ・・・!」
次の瞬間、アイオリアは思わずその肩を押し返していた。
こんな事態に陥って、どうして平常心を保っていられようか。
日頃のほんの些細な触れ合いでさえ、十分にこの心を疼かせるというのに。
そう、辛いのは正にこれだった。
寒さは耐えられる。寝苦しいのも耐えられる。
だが、純粋に友好の情を表してくれる相手を前に、己の欲望を抑え込むのは至難の技なのだ。
ここ暫く寝食を共にしている内に、彼はそう痛感していた。
なのに。
「何故だ・・・、何故こんな・・・・・」
「・・・・どうしてそんな事訊くの?」
「どうしてって・・・・、、俺だって男だぞ!?」
「分かってる。」
「たとえ冗談でも、こんな風にされたら何もしない保証なんて出来ない!それ位分かっているだろう!?」
「うん。」
「だったら・・・」
『止めてくれ』、そう続けかけたのだが。
がそれを遮った。
「そんな保証、してくれなくて良いの。」
「なっ・・・・!?自分の言ってる事が分かっているのか!?」
「分かってる。冗談なんかじゃないから。」
暗闇で、の瞳が微かに揺れている。
吸い込まれるような瞳の輝きに抗う事は、アイオリアには出来なかった。
まさか夢ではないだろうか。
目の眩むような現実は、却って夢幻の如く思える。
だがそれはやはり、夢などではなかった。
腹の上に跨る、の重みは確かなものだ。
恐る恐る伸ばした手でボタンを外す感覚も、しっかりと感じられる。
「・・・・・」
アイオリアは、ごくりと喉を鳴らした。
肌蹴たパジャマの間から見えた白い胸が、余りにも扇情的で。
もっと見たいと思った瞬間、アイオリアの手はの腕からパジャマをするりと抜き去っていた。
「アイオリアも・・・・」
今度はの手が、横たわったままのアイオリアのパジャマにかかる。
一つずつボタンを外して、逞しい胸板を露にし。
そして。
「!?」
声が上擦っているのが、自分でも分かる。
それもその筈、の手はズボンにまで伸びてきたのだ。
「そ、そっちはいい・・・!自分で・・・・!」
「いいからじっとしてて。」
心は羞恥を訴えて拒むが、身体はに全てを委ねたかのように動かない。
そうこうしている内に、とうとう下半身に冷たい空気が触れ始めた。
「あ・・・・・」
の声が、一瞬竦んだように詰まる。
何故だかは見ずとも分かった。
己の分身がどんな状態になっているかなど、既に自覚済みだからだ。
痛い程の沈黙を、アイオリアは無言のままで耐えていたのだが。
「・・・・?なっ・・・!」
突如背筋に痺れが走った。
己に触れる、生温かい何かを感じ取ったからである。
それがの舌だと気付いた時には、既に始まってしまっていた。
「ぅッ・・・・・!」
背筋に甘い痺れが走る。
の温かい口内に包まれる分身が、解き放たれる瞬間を待ち侘びて更に固く大きく膨れ上がっていく。
― もう駄目だ・・・・!
理性の糸が切れる音が、頭の中で聞こえた気がした。
その瞬間、アイオリアはの腰を掴んで持ち上げていた。
「やっ・・・!?」
一瞬感じた浮遊感と、腰から下に触れる冷たい室温に驚いたのも束の間、は瞬く間に快楽の海へと投げ出された。
「あぁん!ぃやッ・・・・!」
腰が落ち着いた場所は、アイオリアの顔の上だった。
着衣を引き下ろされて露になった花弁に、アイオリアの舌を感じる。
「あっあっ、あんッ!やぁん!」
与えられる快感が強すぎて、腰は勝手にその勢いを緩めようと浮く。
だが、アイオリアの腕はそれを許さない。
「やぁッ・・・・!や・・・め・・・・!」
「今更止められん・・・・・!」
「あっっ、駄・・・目・・・、あぁぁ!!」
アイオリアはしっかりとの腰を抱え込み、己の顔の上に押さえつけた。
そして、舌で秘裂の間を割り、茂みに隠れている核までをも一息に舐め上げる。
口の中に零れ落ちてくる蜜は、まるで媚薬の如くアイオリアの劣情を高めていった。
「はんッ、あっ!あふっ・・・・!」
もはや形成はすっかり逆転していた。
煮え切らない関係に痺れを切らし、思い切って賭けに出たまでは良かった。
だがまさか、アイオリアがこんなに激しい熱情を秘めていたとは思わなかった。
嬉しく思う反面、貪られるような力強さに慄かずにはいられない。
天を向く彼への愛撫もままならず、はひたすら身体を震わせて喘いだ。
「はぁッ・・・・!リ・・・ア・・・!も・・・・・」
少しでいいから、身体を鎮めて欲しい。
途切れる息で、はそう懇願したつもりであったのだが。
「・・・・」
「?・・・・あ・・・・、あ・・・・・!」
解放されたと思ったのも束の間、はまたしても浮遊感を覚えた。
軽々と抱えられた腰が下ろされた先、それはアイオリアの腰の上であった。
「はぁぁぁ・・・・!」
「うッ・・・、くッ・・・・!」
ゆっくりと、だが確実に、アイオリアはの中に入り込んでくる。
互いの圧迫感に、二人は深く息を吐き出した。
「は・・・ぁ・・・・」
「、好きだ・・・・・」
「本・・・当・・・・?」
「本当だ、ずっと・・・・こうしたかった・・・・!」
「ふ、あぁぁッ!!」
アイオリアの真摯な呟きが耳に入った瞬間、は体内を突き上げられる力に翻弄され始めた。
「あンッ、あっ、んあぁ!」
「ふっ・・・、くっ・・・・!」
「あふっ、あ・・・、もッ・・・、ゆっく・・・、やぁぁ!」
は、涙を滲ませてアイオリアの上で跳ねていた。
体内を塞ぐアイオリアの分身は、嵐のようにを揺さぶる。
その質量と自重が相乗し、子宮までをも貫かれるような勢いだ。
「好きだ・・・、・・・・!」
「あっ・・・!わた・・・し・・・も・・・・、あうぅッ!」
アイオリアの両手が、の胸を鷲掴みにした。
「・・・・!」
「きゃうッ!」
弾力のある膨らみを揉みしだき、つんと尖った突起を捏ね回して、その感触を貪る。
だが指先だけでは満足出来ず、アイオリアは上体を起こしての背を抱え込んだ。
「はぁんッ!あんっ!」
アイオリアは、仰け反ったの胸に唇を寄せた。
舌に触れる突起の固さに酔いしれ、左右交互に吸い付き、舐め回す。
その度に、己を包む内壁がひくひくと痙攣するのが分かった。
「やんっ、あっ、あんんッ・・・!リ、アぁ・・・・!」
「・・・・!」
「リア・・・・、あ・・・、好・・・き・・・、大好・・・き・・・!」
うわ言のように好きだと繰り返すの唇を吸い、アイオリアは夢中で腰を打ちつけた。
果てはもう、目の前まで迫っている。
「俺もだ・・・・、・・・・、くッ・・・・!」
「あぁーーーッ!」
びくびくと震える白い身体を強く胸に抱きしめて、アイオリアは思いの丈を熱い泉に解き放った。
「済まない・・・、順序を狂わせるつもりではなかったのだが・・・・」
「ふふっ、謝らないでよ。だって私が誘惑したんだから。」
「そ、そうだったな、ははは。あ、いや・・・・」
生真面目に謝るアイオリアに、は軽やかな笑い声を上げた。
「私としては安心してるのよ?もし拒まれてたら、恥ずかしくて一生顔合わせられないところだったんだから。」
「こ、拒むなど・・・・」
「でもちょっと吃驚した。」
「何がだ?」
「リアってこんな人だったんだね。」
にんまりと笑うに、アイオリアは首を傾げた。
「どういう意味だ?」
「最初は私が襲った筈なのに、いつの間にか襲われてるような気になっちゃったもん。こんなに激しい人だったなんて知らなかった。」
「っ・・・・!・・・・!」
たちまち赤くなったアイオリアの顔を見て、は声を上げて笑った。
いつもの、ずっと好きだったアイオリアだ。
凛々しく男らしいが、色恋に関しては少々奥手そうな。
だが今は、新たなアイオリアを知ってしまった。
その雄々しさに違わぬ程、激しく翻弄してくれる彼を。
初めて知ったそのギャップが、益々愛しさを掻き立てる。
「全く・・・、吃驚したのはこっちだ。」
「何で?」
「何故って・・・・、まさかが俺の事を・・・」
男として想っていたなんて、今の今まで気が付かなかった。
完全に自分の片思いだと、そう思っていたのだから。
だが、それは嬉しい勘違いだった。
今こうして、願ったもの全てが手に入ったのだから。
笑顔も、甘い声も、白い肌も、全て。
いつものも、今夜のように艶かしいも、どちらも愛しくて堪らない。
― きっともう、手放せない。
同じ想いを感じながら、二人は身体を寄せ合って笑い合った。