双児宮に夜が訪れた。
静かで穏やかな。
だが、その腕に抱かれてもまだ眠りに誘われない者がいた。
「どうした、眠れんのか?」
背後から兄の声が聞こえ、カノンは後ろを振り返った。
見ればその顔は何やら浮かない。
しかしきっと、自分も同じ顔をしているだろう。
「お前こそどうした。眠れんようだが。」
隣に腰を下ろしたサガに、カノンはウイスキーを勧めた。
いつもなら断るであろうそのグラスを、今夜のサガは素直に受け取った。
「眠れる筈がなかろう。」
「まぁ、な。」
言葉少なにグラスの中身を飲み干して、二人は溜息をついた。
口に出さずとも、互いの心は手に取るように分かる。
きっと、自分と同じだと。
「はもう眠っただろうか。」
「だろうな。今頃人の気も知らないで、呑気に夢でも見てるだろうよ。」
二人とも、以前から気付いていた。
自分と同じように、片割れの方もを想っている事に。
だがそれを表に出した事はなかった。
表に出せば、二人の間に決定的な亀裂が生じる。
これが他人ならどれ程気が楽だろう。
しかし、相手は自分と血を分けた実の兄弟なのだ。
同じ女を愛する事は、言うなれば禁忌。
けれど。
「サガ。俺は自分を抑える自信がない。仮に今夜は出来ても明日は、明後日は・・・」
「言うな。分かっている。」
いつになく弱気なカノンの言葉を、サガの鋭い一言が遮った。
皆まで言われずとも承知している。
自分も同じ気持ちだからだ。
愛する女と一つ屋根の下で暮すのに、疼くような欲望を抑えきれる訳がない。
気持ちの強さは両者とも全く同じ。
退く気は互いにない。
ならば。
「サガよ。行き着くところまで行ってみるか?」
「ふっ、貴様の口車に乗せられるようで好かんが・・・・、敢えて乗ろう。」
ならば追い求めるしかあるまい。
それがどれ程エゴイスティックな事だとしても。
鍵はかかっていなかった。
扉は安易に開き、不埒な気持ちを抱く侵入者二人をすんなり招き入れる。
それがまるでの自分達に対する気持ちのようで、二人は思わず苦笑を浮かべた。
「無防備に寝こけやがって・・・。」
「は・・・・、受け入れてくれるだろうか?」
「ここまで来たんだ。受け入れさせてみせる。」
「・・・そうだな。」
いざ本人を目の前にして少し躊躇したサガに、カノンは強気な笑みで発破をかけた。
もう今更退く気はないし、それはサガも同じだろう。
拒まれ、軽蔑される事など恐れていても始まらない。
後悔するぐらいなら、最初からこんな真似はしない。
二人は小さく頷き合って、幸せそうに眠るに近付いた。
まだ眠りが浅かったのだろうか。
二人の腰がベッドに沈んだ後、の瞼はゆっくりと開かれた。
「サガ?カノンも・・・・。」
「起こして済まんな。」
「ううん、良いけど・・・。どうかした?」
流石に少し驚いているようだ。
はぎこちない笑顔を浮かべながら、上半身を起こした。
だが、その表情が二人を突き動かす事になろうとは、この時のには予想もしない事だった。
「ちょっ・・・・!」
気付いた時には既にベッドに押し倒され、4つの瞳がを見下ろしていた。
「何してるの!?ちょっと二人とも・・・!」
「、私達は・・・・、お前を愛している。」
「え・・・・!?」
突然の告白に、は驚いた。
好意を寄せていたのは自分だけだと、そう思っていたから。
「俺もサガも退けんのだ。俺達は二人とも、お前が欲しい。」
「・・・・どういう、事・・・なの?」
今ここで、どちらかを選べという事なのだろうか。
二人への想いに戸惑う自分に、決着をつける時が来たという事だろうか?
だが二人の答えは違っていた。
「俺達を受け入れて欲しい。」
「『達』・・・・?」
「そうだ。私とカノン、両方を受け入れて、そして両方にお前を与えて欲しい。」
「なっ・・・・」
つまり、二人に同時に抱かれて欲しいと、そういう事だろうか。
だとすれば、正直なところ目も眩む程魅惑的な申し出だ。
両方に想いを寄せるにとって、こんな甘美な選択肢はない。
だが、頭の中には警笛が鳴り響く。
「でもそんな事・・・・」
「分かっている。普通じゃない事は重々承知の上だ。」
「もしが私達を好きでないのなら仕方がない。だがそうでなければ・・・」
二人はじっと、自分の答えを待っている。
こんな事は、倫理に反するだろう。
もしかしたら、いつか仲がこじれて二度と修復出来なくなるかもしれない。
けれど。
「私も・・・・、二人が好き、よ・・・・」
には愛する二人の誘いを拒む事が出来なかった。
ベッドの上で、二人が衣服を脱がせてくれる。
丁寧に、一枚ずつ。
躊躇うのは、後悔しているからじゃない。
ほんの一時の些細な動揺と緊張に過ぎない。
何故なら自分が望んだのだから。
サガとカノン、二人に抱かれる事を。
「・・・・・」
「ん・・・・・」
ベッドに横たえられ、最初に触れたのは、サガの唇だった。
強張る身体を解すように、優しく柔らかく触れてくる。
だがその甘い口付けは、名残惜しげに緩く下唇を噛まれてすぐに終わった。
「、こっちを向け。」
「あっ・・・ぅ・・・・・」
身体を反転させられ、またすぐ新たな口付けが降ってくる。
今度は先程とはまた違う、深くて息も止まりそうなものだ。
キスの仕方が、二人が別人だと証明している。
たとえ同じ顔、同じ身体を持っていても。
その後も代わる代わる二人の口付けを受け入れる間に、の身体はすっかり強張りが解けていた。
息も絶え絶えで、ぐったりと二人の間に横たわる事しか出来ない。
「はっ、はぁッ・・・・・」
「大丈夫か、?」
「何だ、キスぐらいでだらしがないぞ、。」
からかうような笑みを浮かべる二人に、は上気させた顔を顰めてみせた。
「し、仕方ないでしょ・・・。だって私ばっかり・・・」
「フッ、それこそ仕方あるまい。私はカノンとキスするなんて御免だからな。」
「気色の悪い事を言うな。それは俺の台詞だ。」
髪を梳ってくれながら軽口を叩く二人に、は思わず笑いを零した。
初めて二人に裸体を見せた事。
初めて二人の一糸纏わぬ姿を見た事。
そして、三人で愛し合う事。
それらの緊張が全て、髪を伝わって二人の掌に吸い取られていくようだ。
はゆっくりと瞼を閉じ、心地良い二人の手に身を委ねた。
「あ・・・う・・・・」
身体中の至る所で、ぴちゃぴちゃと淫らな音が聞こえる。
何処をどちらが触れているか、そんな事は最早分からない。
ただとにかく、身体中を二人の指や舌が這い回っている。
「はぁっん!」
「・・・・ここか?」
「やっ、あっ!あぁん!!」
下方から聞こえる声は、カノンであろうか。
その低い囁きが聞こえた直後、花弁を目一杯割られる感触を覚えた。
そして、普段は決して外気の触れない薄い皮膚に吸い付かれる。
「やっ、駄目ッ・・・!あっ、あんッ!」
「、こっちを向くんだ。」
「ん・・・あっ!」
をよがらせる弟に対抗意識を燃やしたのか、サガの唇がおもむろにの首筋を吸い上げた。
の上半身に覆い被さり、サガはその視線を独占する。
そして。
「あふっ!」
薄く色付く膨らみの頂を爪弾く。
小さく跳ねたの身体をマットレスに沈み込ませて、何度も何度も。
「あっは・・・・んッ!あ・・・、サ・・・ガ・・・・」
「・・・そうだ、もっと私の名を呼んでくれ。」
「サ、ガぁ・・・・、あんんッ!」
頂の両方をサガの指と舌で刺激され、は切なげな声で彼の名を呼び続けた。
それを聞いて面白くないのはカノンである。
「おいサガ、退け。場所交替だ。」
「ああ。」
サガと入れ替わりにの上半身を独占したカノンは、ぼんやりと潤んだの瞳を見据えて不敵に笑いかけた。
「、俺の名も呼べよ。」
「え?あ、ひあぁ!」
耳にぬるりとした感触を覚えた。
思わず身体が震えるようなそれは、カノンの舌である。
「ほら。早く呼べよ。」
「はぅッ・・・、カ、ノン・・・・・」
「もっとだ。」
「カノ・・・ン、あっ、やァッ・・・・!」
耳朶を甘噛みされながら、またしても胸の頂を捏ね回される。
秘部ではサガが茂みを掻き分け、突起を擦り上げている。
「んあぁ、やぁぁ!!おか・・・しく・・・・なっ・・・・」
「なれ・・・・」
「イけよ・・・」
「ぅああぁーーーッ!!」
強すぎる快感に背を浮かせて、は絶頂に駆け上がった。
同時に二人の男から愛撫を施され、味わった絶頂は、思った以上に甘く強いものだった。
その余韻を引き摺ったまま、ぐったりと横たわる。
だがまだこれからだった。
「、。」
「大丈夫か?」
「うん・・・・、何とか・・・」
目を薄らと開けて頷くに、二人はまた苦笑を浮かべた。
「これしきの事でへばっていては、話にならんぞ。」
「だって・・・・・」
「まだまだ私達はこれからだからな。」
同じ顔で笑うサガとカノン。
それを見たは、気だるそうな声を上げて小さく笑った。
「ふ、そっくり。」
「・・・・どうやら元気らしいな。」
「うむ。余計な口を利く余裕があるのなら、もう大丈夫だろう。」
呆れつつも嬉しそうな笑みを浮かべると、二人はをベッドの中央まで引っ張った。
力なく伸びるの脚を大きく割り、まずその間に座り込んだのはサガである。
カノンはというと、ベッドから一旦離れ、何かを手に取ってサガに投げ渡した。
それは避妊具だったらしく、サガの手の中で包みの破られる音が小さく鳴った。
「あ・・・」
「何だ?」
「ううん、何でも・・・」
サガが今正に侵入を果たそうとしているのに、カノンはすぐ隣にいる。
サガもまるで気にしていないし、一体どうする気なのだろう。
だがそんな疑問は、一瞬のうちに弾け飛んだ。
「やだっ!」
「ククッ、そんなに嫌だったか?鳥肌が立ってるぞ。」
「だって・・・!カノンが変なとこ・・・・!!」
は頬を真っ赤に染めてカノンを睨み上げた。
彼の指が、未だかつて誰にも触れられた事のない秘蕾に触れたからだ。
「カノン、やめておけ。それは余りに酷いだろう。」
「まぁ、な。相当痛がるのは確実だろうな。」
「ちょ・・・、まさか・・・」
人の悪い笑みを浮かべるカノンの顔を見て、は彼の思惑を悟った。
「だっ、駄目!駄目駄目駄目!!そこは絶対駄目!!!」
「そんなに嫌がらなくても良いだろう。」
「何言ってんの!?そんなの無理に決まってるじゃない!」
「じゃあ俺はどうしてくれる気だ?ん?」
カノンの目が、一瞬強い欲望の光を放った。
「お前がサガとお楽しみの間、俺は一人で指を咥えて待っていろと、そういう事か?」
「そんな・・・・」
「それこそ余りに酷いんじゃないか?三人でと決めたばかりなのに。なぁサガ?」
「う、うむ、まあそれは・・・・」
「ぅ・・・、分かったわよ・・・、じゃあこうすれば・・・良いでしょ?」
恥ずかしそうに己の手を引き寄せるを見て、カノンは満足そうに微笑んだ。
「うあぅッ!んむっ、んっ・・・・」
貪られている、そんな被虐的なイメージさえ浮かぶ。
サガに組み敷かれ、体奥深くを貫かれて。
あまつさえ、口内をカノンの楔に塞がれて。
冷静な思考を保つ事が出来ない。
「ふぐッ・・・・ぅぅ・・・、んッ・・・・!」
「くっ、良いぞ、・・・・」
「口の方も・・・、なかなかじゃないか・・・・」
「ん、ぅ・・・・んぐっ!」
艶かしい舌の感触に昂ったカノンが、の喉奥深くまで楔を打ち込む。
そのせいで、は涙目になってむせ返った。
「んはぁ・・・、はぁッ、はっ、あっ、あァんッッ!!」
むせた拍子にカノンの戒めから抜け出したを、サガが力強く突き上げる。
身体の芯に響くような猛々しい振動に、浮かんだ涙が細かく散っていく。
「あんっ、やっ、はァっん!」
「口が留守だぞ、。」
「あっぅ・・・、ぅむ・・・・」
霞む頭で考えられる事など何もない。
ただひたすら二人を受け入れ、乱れる事しか出来ない。
「うぅっ、んっ!んっ、ふっ、ふぅぅーーッ!!!」
「うっ、・・・・!」
「くっ・・・・!」
体内で大きな脈動を感じた直後、口内の楔もそれに劣らぬ程大きく弾けた。
どちらかの指が、口元を拭ってくれている。
「はっ、はっ、はぁッ・・・・」
「零してるぞ。」
「あ・・・む・・・・」
飲み下しきれなかった雫を絡め取ったその指が、口内に入ってきた。
はそれに、カノンの指に、まだ朦朧とした意識のまま舌を絡めた。
秘所には誰かの手を感じる。
溢れすぎてシーツにまで滴る蜜を、ティッシュで拭ってくれているようだ。
多分それはサガだろう。
「は・・・・あ・・・・」
「大丈夫か、?」
「あんまり・・・大丈夫じゃ・・・ない・・・・」
「なんだ、もう音を上げたのか?」
「だって二人とも・・・、加減してくれないもん・・・」
「これでも十分加減したつもりなんだがな。」
サガはしれっと言ってのけて、の髪を掻き上げた。
優しいその仕草が、疲れた身体に心地良い眠気をもたらす。
だが、まだ眠る事は許されないようだった。
「さて、次は俺の番だな。」
「え・・・!?本気!?」
「当たり前だろう。俺はまだ一度もしてない。」
「そんな・・・・」
には悪いが、ただ放つだけでは飽き足りない。
それはカノン自身がまだ勢いを失っていない事が、そして早くも既に避妊具まで装着済みである事が、十二分に証明していた。
「ほら、来い。」
「あ、ちょっ・・・!サガ、助けて〜!」
「悪いがそれは出来ん。諦めて付き合ってやってくれ。」
同じ男としてカノンの気持ちが良く分かるサガは、カノンに組み敷かれていくを苦笑で見送った。
「あぁぁ!」
「ほら、逃げるな、。」
「あぐぅッ!」
「、もっと口を開けるんだ。」
「うぐっ、んっ、ん・・・・・」
マットレスに組み伏せられ、後背位を取らされて、今度はカノンと一つになっている。
口内にはサガの楔が差し込まれ、先程と全く同じ状態だ。
ただ二つ違う点を挙げれば、上下の口を塞ぐ相手が変わった事と、の体力の低下。
特に後者は深刻なものだった。
只でさえ二人とも質・技量共に長けているのだ。
その二人を同時に相手して、平気でいられる筈がない。
強い快感と口を塞がれる息苦しさに、失神しそうな程なのだ。
「はっふ・・・ぅ・・・・ぐ・・・」
「、・・・・」
「んぁ・・・・」
徐々に力を失い、口元の緩んできたを、膝立ちになったサガが呼びかけた。
朦朧とした頭でその声を聞き止めたは、顔を僅かに上げて彼の呼びかけに応えたのだが。
「っ・・・・!」
思いもかけず、それがサガの情欲を益々煽り立ててしまった。
ぼんやりと潤んだ瞳に、涙の跡が残る頬。
小さな唇一杯に咥え込まれた己の分身。
そんな表情を見せ付けられたサガが、思わず我を忘れてしまうのも無理はなかった。
「うぐっ!!」
本能のままに腰を突き出したサガに喉の奥まで貫かれ、は大粒の涙を零した。
「はぁッ、はぁッ、はっ・・・あっ・・・・」
反射的にむせ返り、サガから逃れたは、浅い呼吸を繰り返した。
「はぅっ、ん、あ・・・、やぁぁ!」
その隙をついて、カノンの楔が根元まで深く侵入を果たす。
後背位独特の奥深くまで刺し貫かれる衝撃に耐えられず、自由になったの唇から高い悲鳴が上がった。
「あんっ、あぁんっ、ひッ・・・!」
「、口を開けろ。」
「ぅぐ・・・、んむ・・・・」
もう限界だ。
意識を繋ぎ止める糸が、今にも切れそうに細く磨り減っている。
そんなビジョンが頭に浮かんだその刹那。
「んぅっ、ふっ!うぅぅーーッ!!!」
「っ、・・・・!」
「ふぅッ・・・・!」
二度目の爆発が、一度目に劣らない程の激しさをもって身体の上下で起こった。
そしての意識は、そこで途切れた。
が気付いたのは、柔らかな日差しが降り注ぐ頃だった。
「目が覚めたか?」
「身体はどうだ?どこか痛むか?」
「あ・・・・・、ううん、平気・・・・」
二人に挟まれて朝を迎えたは、昨夜の事を思い出して上掛け深くに潜り込んだ。
「ははは。何を今更恥ずかしがっているんだ?」
「だって・・・・」
「昨夜は驚いたぞ。まさか失神するとは思わなかった。」
「だって・・・・」
恥ずかしそうな口調から、やや憮然とした口調に変わる。
そんなの両側から、同じ低い声が聞こえてきた。
「初日から無理をさせて済まなかったな。」
「うむ。今夜はもう少し加減してやる。」
「うん・・・って、えっ!?こ、今夜!?」
昨夜の激しすぎる情交を思い出してうろたえるに、二人の笑い声が降り注がれた。
「まだまだ共に過ごす夜は続くぞ、。」
「覚悟しておけ、。」
そう、まだまだ続くのだ。
サガとカノンと、そして自分の関係は、始まったばかりなのだから。
「な、なるべくお手柔らかに・・・・お願いします・・・」
僅かに怯えながらの返事に、愛する二人の笑い声がまた響いた。