「貴鬼は?眠りましたか?」
「うん、バッチリ。」
夜も更けた白羊宮のリビングで、ムウとは膝をつき合わせていた。
「今日はいつになくはしゃいでいましたからね。手を煩わせませんでしたか?」
「全然!子供の世話は慣れてるもの。」
「ふふ、そうでしたね。」
「不思議な子だけど、やっぱりまだまだ子供よね。」
は目を細めてそう言った。
「さてと、そろそろ寝ようか。」
「そうですね。もう夜も遅い。私のベッドを使って下さい。」
「でも・・・・・」
「良いんですよ。貴女に風邪でも引かれては困りますからね。」
ムウは柔らかく笑った。
だが本音を言えば、同じベッドで眠りたい。
それはもそう思っている筈なのだ。
貴鬼が居ると、他の連中に下世話な詮索をされずに済むというメリットはある。
だが同時に、心ゆくまで愛し合えないというデメリットもあるのだ。
それがムウとの密かな悩みではあったのだが、そんな事で貴鬼を何処かへ追い出す事はし難い。
理由が理由だけに、流石に申し訳ないと思ってしまうのである。
「・・・・じゃあ借りるね。おやすみ。」
はムウに挨拶程度の軽いキスをした。
ここで止めておく方が良い事は分かっている。
だが、折角共に過ごす夜なのだ。
求める気持ちを抑えきれない。
「ちょっと・・・・、ムウ!?」
「やはり・・・・、寝るのはもう少し後にしませんか?」
「でも・・・・、貴鬼が・・・・」
「それは貴女次第ですよ。声を落として下されば気付かれずに済みます。」
「そんな・・・・」
困った顔をしつつも、はムウの唇を拒みはしなかった。
「んっ・・・・・・」
ムウの手が、唇が、肌を弄る快感に負けそうになる。
しかしは、歯を食い縛って声を押し殺した。
「んくっ・・・・、うぅ・・・・」
前開きのパジャマの、ボタンだけを外した状態が何とも味気ない。
本当なら全て脱ぎ去って、堂々と互いの温もりを味わいたい。
だがこんな状態で交わる事に、悲しい哉、すっかり慣れてきてしまった二人であった。
「あんっ!」
「しっ・・・・、聞こえますよ。」
「だって・・・・」
声を上げられて困るのなら、もう少しお手柔らかに願いたいところなのだが、ムウは的確に性感帯を突いてくる。
胸の先端と茂みに隠れた紅い芽、上下の突起を同時に刺激されて平気で居られる筈がない。
「はっあ・・・・、んんっ!」
舌と指の感覚を身体の上下に感じる。
声を出してはいけないと分かってはいるが、唇が勝手にあられもない声を紡いでしまう。
それを塞ぐ為に、は手近にあったクッションを掴んだ。
それを己の顔に押し当てようとしたのだが。
「あ・・・・・むッ・・・・」
その前に、ムウのしなやかな指が唇を割って入ってきた。
どうやらそれで声を抑えろという事らしい。
ついうっかり噛み締めてしまわないかと心配ではあるのだが、はその指に舌を絡めて吸い付いた。
「んむ・・・・、ぅ・・・・・」
声が殆ど漏れなくなってから、ムウはのパジャマのズボンを下着ごと引き下ろした。
もうすっかりの息は上がっている。
そろそろ絶頂が近付いて来る頃だろう。
如何に慌しい交わりとはいえ、おざなりにしたくはない。
ムウは、蜜を滴らせる泉に指を滑り込ませた。
「んくっ!」
途端にの身体が跳ねる。
散々敏感な核に刺激を与えられてすっかり蕩けている其処は、ムウの指を待ち侘びていたかのように締め付けている。
「ふぁ・・・・ぅッ・・・・」
最初は緩やかだったムウの指の動きが、次第に早まってくる。
奥へ奥へと捻じ込まれる衝撃に、危うくまた声が漏れそうになる。
しかし堪えねばならない。
は無我夢中で、口内のムウの指に舌を絡めた。
「んぐっ、んっんっ、くぅッ、うぅーーー!」
より奥まった部分をすとんと突かれ、の背筋に甘い電流が走った。
大きく身体を震わせて絶頂に駆け上がる。
そんな姿と噛まれた指のほんの僅かな痛みが、ムウの劣情を限界にまで高めた。
「は・・・・あ・・・・」
「いきますよ・・・・」
「あっん・・・・・!」
まだ荒い息をしているにも関わらず、ムウが体内への侵入を果たした。
指とは比較にならない質量だ。
「あ・・・・、ゆっく、り・・・・」
「分かっていますよ。」
「んぅっ!」
ムウはの上に身体を預けると、今度はキスでその唇を塞いだ。
律動の早さはさほどでないが、ぴったりと密着出来るお陰で深く繋がる事が出来る。
「んっ・・・・はぁッ・・・・・」
「・・・・・」
濡れた眼差しで見つめてくると、視線でも交じり合っている気になれる。
こうしていると、聖闘士といえども、自分も只の男なのだと実感出来る。
それがどれ程幸せな事であろうか。
「ふぅッ・・・!んっ、ぅ・・・・!」
ゆっくりと、だが深く穿たれる楔に、くぐもったの声が甘さを増してくる。
もっと欲しいと言わんがばかりに、の両脚が腰に絡み付く。
ムウは了承の意思を深い口付けで伝えて、より深く腰を沈めた。
「んぅーッ!ふぁっ・・・・はんッ!」
隙間もない程密着する互いの身体。
息苦しそうに喘ぎつつも、は全身でムウを受け入れた。
口内を塞ぐムウの舌を吸い、背を軽く曲げ、楔を打ち込まれる律動に合わせて腰を揺らしながら。
そろそろ限界が近い。
そう悟ったムウは、に預けていた上半身を起こした。
「あん・・・・、はぁ・・・・・」
「いきますよ。声・・・・、気を付けて下さいね。」
「うぅ・・・・、じゃあ加減し・・・・んあぁ!」
言い終わらぬ内に、ムウはの腰を掴んで激しく揺すり始めた。
申し訳ないが、加減は出来ない。
目くるめく絶頂の波を味わいたい。
「あはぁッ、あぁん!」
先程とは打って変わったリズミカルな律動に、自分でも驚く程甘い声が出た。
何か声を塞ぐ物を探そうとしても、勢い良く貫かれる衝撃に翻弄されてろくに何も考えられない。
咄嗟に、は自分の手を口元にもっていった。
「はっうぅ・・・・、んっ、くぅーーッ!」
握り締めた手を唇に押し付け、は必死で声を抑えた。
この苦労を知ってか知らずか、ムウは追い込みをかけるように強く体奥を抉ってくる。
ムウは苦しげな吐息を漏らすだけだが、自分はそうはいかない。
こんな時、いつも思う。
女は辛い、と。
反射的に出る反応を抑えるのは、至難の技なのだから。
「くっ・・・・・」
「はっあ・・・・、うぅーーッ、んんーーーッ!」
もう限界だ。
これ以上抑えられない。
そう思った瞬間、一際強く深く貫かれて、は大きく身体を跳ね上げた。
「んぅっ、くっ、んんんーーーー!!!」
「っ・・・・!」
楔が引き抜かれる感覚を覚えた直後、腹の上に温かいものを感じた。
それが意味するところを無意識のうちに悟ったは、安堵と激しい快感の余波で放心してしまった。
が身体の回復を待っている間に、ムウは貴鬼の様子を見に行っていた。
「貴鬼、起きてなかった?」
「大丈夫ですよ。ぐっすり眠り込んでいます。」
戻って来たムウは、ようやくもたもたとパジャマのボタンを留め始めていたにふわりと微笑みかけた。
「手元が覚束ないですね。大丈夫ですか?」
「・・・・誰のせいだと思ってんのよ・・・・」
「ふふ。さぁ、誰でしょうね・・・・」
さして悪びれもせずに、むしろ嬉しそうに微笑むムウは、に代わってボタンを留めてやった。
「出来ました。」
「・・・・ありがと。」
何だか小さな子供に返ったようで恥ずかしい。
が、時々こうして手放しに甘やかしてくれるのが嬉しい。
擽ったいけれど、愛されていると実感出来るから。
「さてと。じゃあ今度こそ寝ようかな。」
「そうですね。」
「明日になって貴鬼に何か言われたらどうしよう?」
心配半分冗談半分で笑う。
そんなに、ムウは余裕の笑みを向けた。
「大丈夫ですよ。あれだけ細心の注意を払ったんですから。」
「そうよね。大丈夫よね!じゃあ、おやすみ〜♪」
「おやすみなさい。」
一緒に眠れなくても、また数時間後には眩しい朝を共に迎える事が出来る。
二人は満ち足りた思いで、それぞれの睡眠を取るべく別れた。
翌朝起きてきた貴鬼は、昨夜ここで何が起こっていたかを知る事なく、元気にリビングをうろついていた。
気付かれていないのは良いのだが。
「どうしたの、ムウ様?お姉ちゃんも。座って食べないの?」
「「・・・・・・」」
数時間前に身体を重ねた場所に無邪気に腰掛けられると、内心気まずくならずにはいられない二人であった。