本日の予定:宅で夕食。(メインは焼き茄子)
という訳で、12宮の住人達はこの日、宅に結集する予定である。
この何という事のない一日が、ある道を拓く日になるとも知らないで。
「ーー!邪魔するぞーー!」
勝手知ったる他人の家。
ミロ・カミュ・アイオリアの三人は、ぞろぞろと宅に足を踏み入れた。
そして。
「?」
いつもなら迎え出てくれる筈のが、リビングのソファで小難しい顔をしているのを目に留めた。
「何をしているんだ?」
「あ、カミュ・・・・・・・・」
「何だそれは?」
「ごめんリア・・・・・、ちょっと・・・・・黙って・・・・・・」
にこりともせず、口調は至って真面目、その割に視線は何処か恍惚と明後日の方を向いている。
そして、注目すべきはその手元。
不思議に思ったミロは、に近付いてその肩に触れようとした。
だが。
「だーーーーっ!!」
「なっ、なんだなんだ!?」
「触んないでミロ!!危ない・・・か・・・ら・・・・・」
は突如大声を張り上げたかと思うと、またモゴモゴと語尾を濁してしまった。
「こりゃ暫く・・・・・」
「そっとしておくしか」
「ないようだな・・・・・。」
呆気に取られた三人は、まさか焼き茄子の出来加減など尋ねられる筈もなく、がいつものに戻る時をじっと待った。
ややあって。
「・・・・・っ、あ〜〜ん気持ち良いッ・・・・・!」
『!!!』
その時は、の突然の嬌声でもって訪れた。
「あ〜〜、最っ高・・・・・、スッとした〜〜!!あ、お待たせ♪」
「あ、ああ・・・・・・。」
「いきなりとんでもない声出すから何事かと思ったぞ;」
「え?何が?」
「いや何でもない。」
慌てて顔を引き締めぶんぶんと首を振るミロの横から、カミュが訝しそうに尋ねた。
「、それは・・・・・・何をしていたのだ?」
「え?何って・・・・・・・・・」
はきょとんと首を傾げたまま、当然のように即答した。
「耳掃除よ。」
彼らも驚いたが、も驚いた。
何しろこの三人、耳掻きを知らないというのだから。
「やだ〜ホント!?」
「ああ。見た事もない。」
「嘘っ!?じゃあいつも皆、耳掃除どうしてるの!?」
そう訊かれた三人は口をへの字に曲げて、口々に答えた。
「俺は風呂上りに綿棒だな。」
「私もだ。」
「俺も。多分皆そうじゃないか?」
「へ〜・・・・、じゃあ皆、これ知らないの?」
驚いたように言って、は手に持っていた耳掻きを掲げてみせた。
そう、てっぺんに綿帽子(コケシもなかなか捨て難い)のついたアレである。
それはともかく、今更こんな些細な事で文化の違いを目の当たりにする事になろうとは。
全くもって世界の壁とは高く厚いものである。
「この気持ち良さを知らないなんて・・・・・可哀相・・・・・。」
「いや、そんな事で同情されてもな;」
「へ〜、ちょっと興味あるな。俺もやらせてくれよ!」
「いいよ〜。はい、どうぞ。」
早速興味を示したミロはから意気揚々と耳掻きを借りて・・・・・、
「・・・・・・・・・怖い。」
と呟いた。
プッと笑ったのは、呆れたのはカミュとアイオリア。
二人は苦笑したり顔を顰めたりして、ミロを叱責した。
「情けない、黄金聖闘士ともあろう男がこんな細い棒切れ一つで。」
「馬鹿言えカミュ!この細い棒をこう・・・・、耳に入れてみろっ!」
「どれ?・・・・・・・・・むっ!?」
「どうだ!」
「確かに・・・・・・侮れん・・・・・!一体どの辺りまで進めて良いのやら・・・・」
「どれ、俺にも貸してくれ。」
「ああ、アイオリアも試してみろ!」
「うっ・・・・・!」
「そら見ろ!!」
怖気付いたのは己一人でないと分かり、ミロは豪快に仁王立ちで笑ってみせた。
「あはは!そっかそっか、慣れてなかったら怖いかもね〜。」
「はずっとこれを使っているのか?」
「そうよ〜。もうこれ無しじゃ生きていけないわ!日本から持って来て本当に良かった!だってこれ、こっちじゃ売ってないでしょ?」
「ああ、少なくとも俺は見た事が無いな。しかし気になるな、耳掻きの快感・・・・。是非とも一度味わってみたいものだ。」
「じゃあ、私がしてあげよっか?」
「良いのか!?じゃあ頼む!」
ミロは嬉々としてに耳掻きを返すと、の隣にペタリと座り込んだ。
だがは、そんなミロを即座に窘めた。
「駄目よそんな所に座ってても!こ・っ・ち!」
がポンポンと叩く場所は、自身の太腿。
それを見たミロは、喜びながらも幾分照れつつポリポリと頭を掻いた。
「そこか?参ったな・・・・・、俺は重いぞ?」
「平気平気。さ、どうぞ。」
「じゃ、遠慮なく。」
「だーーーッ!ちっがーーう!!座るんじゃないの!膝枕!!」
「えっ、膝枕!!」
『膝枕!?』
ミロとカミュ・アイオリアの声が見事にハモる。
だが、膝に座るより遥かに嬉しいこのシチュエーションを断る筈もなく、ミロは残り二人のじっとりした視線を完全に無視して、浮かれ気分での膝に頭を置いた。
第二陣で現れたのは、デスマスクとシュラ・そしてアフロディーテのトリオであった。
彼らは入るなり、リビングから聞こえてくる会話を聞いて絶句した。
「あ・・・・・ヤバい・・・・・。これ癖になりそう・・・・・・」
「ふふふ、でしょう?」
「やば・・・・・、・・・・・、俺もう・・・・・・・!」
「気持ち良い、ミロ?」
「ああ・・・・・・、もっとしてくれ、もっと深く・・・・・・!」
ドタバタガンッ!!!
「オルァお前ら!!俺様に隠れて何ヤってんだーー!?」
「痛っ!!シュラ、貴様今力いっぱい私を突き飛ばしたな!!」
「済まん、わざとではない!!」
「来るなりやかましいな、お前達も;」
「ちょっと静かにしてやってくれないか、の気が散るとミロが大変な事になる。」
「なんだアイオリア、カミュ。お前達ももう来てたのか・・・・っていうか・・・・・、そこのお二人さん、お前ら何してんだ??」
デスマスクは、の膝枕でうっとりとしているミロと、ミロの耳を細い棒で掻き回しているを凝視した。
「ん〜?これ?これはねぇ・・・・・、耳掃除・・・・・・。」
「声を掛けるなデスマスク!!俺との気が・・・・散、る・・・・・!」
「ミロ。随分気持ち良さそうだが、の膝に涎など零したらこの私が承知せんぞ。」
「うるさいアフロディーテ・・・・!そんな・・・・事・・・・・・」
「ありそうで怖いな。気をつけておけ。」
呆れるアフロディーテとシュラはアイオリアとカミュから説明を受け、第二陣の三人組(デスマスクは説明など聞くまでもなく乗り気だった)もたちまち興味を示した。
「駄目だ。次は私の番だからな。それが終わったらアイオリアだ。」
「うむ。俺達が済んだ後なら構わんぞ。順番だ。」
「分かった。ならば待つとしよう。」
「しゃーねーな。おら、早くしろよ!」
「分かってるわよ!ちょっと待ってて!」
「、余り慌ててミロの鼓膜を突かんようにな。ククッ。」
「な〜に言ってるのよシュラ!私の耳掻き人生を舐めちゃ駄目よ〜?」
「何の人生だそれは。」
俄然やる気を出す、快感の絶頂に居るミロ、順番を待つ残り五人の男達は、本日の本来の目的も忘れて耳掃除に夢中になっていった。
二番手、カミュ。
「あ・・・・・。カミュ、耳綺麗・・・・・」
「そうか・・・・?」
「うん。こんなのつまんな〜い!!」
「つ、つまるとかつまらんとかの問題なのか?」
「そういうものよ、『耳掻き道』って。多ければ多い程、大きければ大きい程燃えるのよ。」
「なるほど・・・・・・。次は必ず・・・・・・。」
「はい、またどうぞ〜。」
三番手、アイオリア。
「うわっ!」
「なっ、何だ!?どうした!?」
「うわっ、うわっ、うわ〜〜!!リア最高ーーーッ!!」
「え、そ、そうか・・・・?」
「うわ〜、耳凄いよ〜!!よくこんなに溜めたね〜♪」
「うっ・・・!俺はそんなに汚いか?これでも一応、掃除はしているつもりなんだが・・・・」
「ああ違うの!ごめんごめん!つい嬉しくって♪」
「そ、それも『耳掻き道』か?」
「そうよ!じゃ、張り切って参りますか!」
四番手、デスマスク。
「おっ・・・・・、おお・・・・・・・!」
「どう?良いでしょ?」
「う〜〜む・・・・・、なかなか・・・・・、新しい快感だな、こりゃ・・・・・」
「は〜〜い、終わり・・・・・っと!」
「おうッ!・・・・・っお〜〜・・・・・、何だ今のは?」
「これ?綿帽子だよ。仕上げはこれで細かい屑を一掃するの。気持ち良いでしょ?」
「ああ、また頼むぜ。」
五番手、シュラ。
「・・・・・・・・・」
「そんなに固くならないで!大丈夫だから!」
「しかしな・・・・・・、頼むから、余り奥までやらないでくれよ?」
「なぁに?怖いの?」
「ばっ、馬鹿を言うな!!ただ、耳の中など他人に触られた事が無いからだな・・・・!」
「はいは〜い分かりました。リラ〜ックスリラ〜ックス♪」
「・・・・・・・・・!」
六番手、アフロディーテ。
「なかなかに・・・・・・、屈辱的だ。」
「えぇ!?何で?」
「女性にこんな所を覗かれるなんて・・・・・・、ちょっと恥ずかしいね。」
「そんな風に思わなくて良いよ〜!たかが耳掃除じゃない!」
「ふふっ、君の膝枕は嬉しいけれどね。」
「やだもう!何言ってんの!あ・・・・、アフロもつまんないや・・・・・。」
「そうかい?それは残念なような嬉しいような。」
「次はもっと溜めておいてね♪」
「了解、と言いたいような言いたくないような・・・・。」
などとやっている間にも。
残る黄金聖闘士達が今正に、続々と宅に集結しようとしていた・・・・・・・。