サガと固い握手を交わした後、は改めて皆に頭を下げた。
「精一杯頑張ります。改めて宜しくお願いします・・・・・」
詰まりそうになる声を懸命に励まして挨拶したら、思わず涙が滲みそうになった。
それ以上どうにかならないように俯いたまま何度も瞬きをし、ようやく顔を上げてみれば、
そこには温かい笑顔を浮かべた彼らの姿があった。
「何今更言ってやがんだ。」
はにかんだ笑顔を浮かべるの肩を、デスマスクが抱き寄せる。
女性にというより仲間に対してするような仕草で、にはそれが妙に嬉しく感じた。
言葉にならない今の気持ちを笑顔に託して彼に向ければ、彼もそれに応えるような微笑を返してくる。
これ以上このままでは、堪えきれずに泣いてしまいそうだ。
何か話さなくては。
そう考えた矢先、先に彼の低く穏やかな声が聞こえてきた。
「さて、と。次はテメェの尋問だな。」
周りをぐるりと取り囲まれ、は冷や汗を流しながら事の次第を白状した。
「・・・・ほ〜う。寝過ごした、ってか。」
「そしてどうにか帰ろうとめくらめっぽうに歩いて、却って撃沈した、と。」
やけに静かな口調のデスマスクに同調し、シュラが言いにくい事をずばりと切って捨てる。
「すわかどわかしかと騒いだ我らは、とんだ道化だな。」
「いやシャカ、それはお前が勝手に言い出したのでは・・・」
呆れたような物言いのシャカに、カミュが控えめに突っ込みを入れる。
「詰まる所はやはり私の予想通り、道に迷っていたという事だな。」
「それにしても・・・・」
アフロディーテが妙に自慢げに話を纏めた頃には、はすっかりしょげ返っていた。
そしてそれに追い討ちをかけるように、カノンが低い声でぼそりと止めを刺す。
「全く人騒がせな。」
もはやに何かを言い返す気力はなかった。
事実その通りなのだから、『ご尤もです』と小さくなるしかない。
そんなに、ミロが労わるように声を掛ける。
「まあそう言うな、カノン。だってわざとじゃなかったんだから。」
「ミロ・・・、ありがとう・・・・!」
「疲れただろう。ダメージを抜いてやる。」
「え?いや、大丈夫よ。一晩寝れば平気平気!」
「駄目だ。明日も執務があるってのに、足が痛くて階段登れませんでしたじゃ困るんだよ。
とっとと靴脱げ。」
デスマスクが半ば無理矢理を座らせ、靴を脱がせる。
「な、何する気!?」
「心配すんな、気持ち良い事だからよ。」
「だから何よ!?」
「足ツボマッサージだよ。疲れもスッキリ取れるぜ。」
「いやっ、ちょっと本当に・・・、遠慮する、遠慮しますーーー!!」
デスマスクは非常に楽しそうな表情を浮かべて、の足を掴んだ。
それに怯えたは逃げようとしたが、あろう事かミロとカノンが両サイドから上半身を固定した。
「クッククク。散々心配掛けやがったバツだ。たっぷりヤキ入れてやるぜ。」
「ヤキ!?」
は周りに助けを求めたが、誰一人動こうとする者はいない。
皆面白そうに笑って見ているだけである。
「行くぜ〜?」
「やっ、ま、待って!」
「Ready・・・・」
「待ってってば!!」
「Go!!」
「いっったあぁぁぁーーーーー!!!」
の高らかな悲鳴と黄金聖闘士達の楽しげな笑い声は、夜遅くまで聖域を賑わした。
「・・・・出来た、と。」
書き上がったばかりの絵葉書を読み返して、は微笑を浮かべた。
こうして思い返してみると、人の運命とは不思議なものだと思う。
ふとした拍子にとんでもない方向へ転がってしまう。
少し前までの自分なら想像もつかなかった生活を、今こうして送っているのだから。
日本を出てから今まで大なり小なり様々な事があった。
そこから得たものは、愛すべき良き仲間と充実した毎日。
もう今ではかけがえのないものとなっている。
そしてこれからもまた、色々な出来事があるだろう。
全てが良い事ばかりではないかもしれないけど、きっと楽しい事の方が多い。
そんな予感がする。
物思いに耽っていたは、玄関チャイムの鳴る音で我に返った。
ドアの向こうの笑顔を思い浮かべると、足取りも自然と軽くなる。
「はーい!」
今日もきっと、素晴らしい一日になる。