愛を乞う人
〜 Plunderer’s Side SYURA 前編 〜




スピーチを終えた後、沙織はすぐに他のギャラリーに誘われ、別室へと移動してしまった。
それは謂わばゲスト同士のプライベートタイム、世間話という名目で大事な商談や情報交換などを行う、パーティー参加の真の目的とも言うべき時間である。
従って沙織は、付いていくと言ったシュラとを断り、一人で行ってしまった。
後は自由に過ごして下さいと、そう言い残して。
そして二人になったシュラとは、いい加減退屈していたパーティーを抜け出し、ロビーで一息ついていた。


「あ、見てシュラ!」
「ん?何だ?」
「ほら、この館内地図。屋上に庭園があるんだって!ちょっと涼みに行かない?」
「ああ。良いな。」

二人は連れ立ってエレベーターに乗り込み、屋上へと向かった。








「良い風・・・・・・。気持ち良いね。」
「ああ。」

屋上に着いた二人は、酒と熱気で火照った身体を夜風に晒した。
綺麗にガーデニングされた庭園に咲き乱れる花が、夜風に乗ってふわりと香る。
その芳しい香りを胸一杯に吸い込みながら、は少し寂しげに呟いた。


「デスはまだ・・・・・仕事なのかな。」
「・・・・・・ああ、多分な。」

デスマスクは今『仕事中』だ。少なくとも、夜が明けない内は。
その事を知っているシュラは、意識して何でもない風に返事をした。
その時だった。
エレベーターから誰かが降り立ってきたのは。



「ふふふ、また会えて嬉しいわ。」
「俺もですよ。以前お会いした時は、こうしてゆっくりお話しする暇もありませんでしたからね。」
「本当ね。主人の付き合いで出るパーティーなんて嫌だったけど、あなたにまた会えたから、結果的には来て良かったわ。」
「今日はご主人は?」
「大丈夫よ。あの人にはお目当ての女が幾らでも居るんですもの。私がこうしてあなたと会っていても気付きゃしないわ。」

聞いたところ不倫のカップルのような会話だが、問題は会話の内容ではない。
その人物だった。
三十半ば程の見るからに上流階級の夫人と思われる女と、デスマスク。
優しげな仕草で女をエスコートするデスマスクの姿を見たとシュラは、咄嗟に二人から見えない位置に身を隠した。



「こんなに美しくて素敵な奥方がいらっしゃるのに、困ったご主人だ。」
「あら、お上手。お世辞でも嬉しいわ。」
「お世辞かどうか・・・・・・、確かめてご覧になりますか?」
「あん・・・・・・、ふふふ・・・・・」

相当に遊び慣れているのか、女は甘い声を上げて余裕たっぷりにデスマスクのキスを受け入れている。
花の香りと女の小さな笑い声に、の表情は一瞬硬く強張った。


・・・・・・・・」
「戻ろう、シュラ。」
「・・・・・・・ああ。」

単なる偶然なのだ。
ただ、運が悪かったと言い切ってしまえば、余りにもが哀れで。
シュラは険しい表情を浮かべたまま、平静を装うの肩を抱いてひっそりとその場を立ち去った。






個別に部屋が割り当てられていたのは不幸中の幸いなのか、或いは更に決定的な不幸を招く元か。
今のシュラにそれを判断する事は出来なかったが、ともかくシュラは己の部屋にを招き入れた。


「何か飲むか?」
「ううん、いい。」
「そうか。」

シュラはベッドに腰を下ろすと、まだ立ったままのを隣に座らせた。


・・・・・・、さっきのはな・・・・・・」
「分かってる。あれが『仕事』なんでしょ?」
「・・・・・・知って・・・・・いたのか?」

シュラは驚いたように眉を吊り上げた。

「・・・・・知ってたよ。今までにも何度か、女の人の影が見え隠れした事があったもの。」
「何?」
「最初は浮気だと思って、疑って腹を立てて喧嘩したわ。ほら、デスってちょっと軟派なところがあるじゃない?」

はクスクスと笑いながら、話を続けた。

「でもいつかね、デスが凄く真剣な顔して任務の事話してくれたの。人ってそんなに簡単には口を割らない、って。ギリギリの事しなきゃ無理だって。」
「そんな事を・・・・・」
「だから、信じる事にしたの。流石に・・・・・、現場を目撃したのは今回が初めてだったけど。」
・・・・・・・」
「デスは嘘なんかついてないわ。吐いて良い嘘と悪い嘘の区別ぐらい、ちゃんと分かってる。」

独り言のように呟いたは、シュラを見てふと微笑んだ。

「やだ!シュラがそんな顔する事ないでしょ〜!?」
「・・・・・・・・」
「あはは、ごめんごめん!私別に何とも思ってないから、心配しないで!」
「本当に・・・・・・何も思わないのか?」
「思わないよ!だって仕事なら仕方ないじゃない?いちいち気にしても、ね?」
「本当にそう思うのか、お前は?」
「え?」

首を傾げるを、シュラは不意に胸の中に掻き抱いた。


「シュラ・・・・・・?」
「確かにあれは・・・・・、奴の仕事だ。受けた任務は、どんな手段を用いても果たさねばならん。だがお前は・・・・、それで良いのか?」

任務は避けて通れない。だから、デスマスクの行為自体を非難するつもりはない。
だがシュラは、次第に強く込み上げてくる感情を抑える事が出来なかった。


「何であれ、悲しませるような事ばかりするなら、恋人など作るべきではないだろう?そうは思わんか?」
「でもデスは私の事・・・・、愛してるって言ってくれたから・・・・・・。それにあれは任務で、デスの本意じゃ・・・・」
「不本意も本意もない。いい加減に聞き分けの良い女になるのは止めたらどうだ?」
「そんな・・・・・・!」
「あいつの思惑がどうであれ、あいつはお前を傷つけている。そんなに愛しているなら、お前が傷つかないように、幸せになれるように、身を引くのも一つの形じゃないか?自分のものにする事だけが愛か?」
「そ・・・れは・・・・・・・」

核心を突かれたように押し黙るを見て、シュラは益々己の中の何かが昂るのを感じた。

に言った言葉が、そっくりそのまま己自身に跳ね返ってくる。
身を引くのも愛の形。それも一つの成就。
今まではそうしていた。だが、もうこれ以上は無理だ。
矛盾した事をしようとしている己を軽蔑しつつも、シュラはもう己を止める事が出来なかった。


「・・・・・・・・もう奴には渡さん。」
「え・・・・、な、何を・・・きゃあっ!」

が欲しい。心も身体も全て。
シュラはをベッドに組み敷くと、一瞬躊躇ってから情欲に溺れていった。








「やめて、シュラ!やめて!!」

押そうが揺さぶろうが、シュラの腕は解けない。
シュラの力は、聖闘士としてのみ発揮されるものだとばかり思っていた。
それが、こんな風に自分に向けられるなんて。

押しやろうとする腕を捕らえて拘束し、背ける顔を強引に戻させるシュラは、の知る思慮深い彼では無くなっていた。


「うっ・・・・ぐ・・・・・・、ん・・・・・・・!はッ・・・・!」
「逃げるな。」
「あっふ・・・・・!」

絡めた舌を離そうとするから、尚更追いたくなる。
呼吸までをも奪いかねないキスをして、シュラはの身体を完全に捕らえた。


「あっん・・・・、やぁっ・・・・・・!」

拒むの声が、心にまっすぐ突き刺さる。
仮にも友の愛する女を力ずくで奪う、何と卑劣な行為だろうか。
だが、友の愛する女は、己の愛する女。
もう今更止められはしない。理性で心を抑えるのには、もう限界だった。


「どうしてこんな事するの!?やめて!」
「どうして、だと?それを俺に訊くのか?」
「え・・・・・・・」
「お前が泣いているのを、俺に黙って見ていろと言うのか?」
「私、泣いてなんか・・・」
「泣いていただろう?」

シュラはを見下ろしたまま、硬く強張ったその頬に触れた。


「お前一人なら泣いていただろう?お前の空元気ぐらい、俺はとうに気付いている。」
「ち、違・・・・・」
「違うなら、何故俺から目を逸らす?俺がお前の事を分からないとでも思うのか?俺はずっと・・・・・、お前を見てきたのに。」
「え・・・・・・?」
、お前は奴と居ても幸せにはなれん。もう奴の元には戻るな。」
「なっ・・・・・!?」

人を傷つけた事など幾らでもある。殺した事さえも。
だけど、一つだけ絶対にしなかった事があった。
女に力を見せ付ける事だ。

「俺の側に居ろ・・・・・・・」
「ゃっ・・・・・!」

だがシュラは今その禁を破り、の服を力任せに破いた。








「はっ・・・・・ふ・・・・・・・・」

千切れた服の切れ端を下着と共に乱暴に剥ぎ取ると、丸い二つの膨らみが目の前に姿を現す。
シュラはその桜色に染まった先端を口に含み、一心不乱に苛んだ。

「あっん・・・・・・、やっ・・・・・!」

舌先が其処を突付く度に、の腕や脚がぴくりと弾む。
その反応を繰り返し愉しむように、シュラは小刻みに舌を動かした。
舌先を窄めて尖らせ、振動を与えたかと思うと、広く伸ばして先端全体を包み込み、舐め上げる。
時折音を立てて吸い付けば、は鋭い声を上げて身を捩った。

「ぅ・・・あ、あんっ!」
「・・・・・・良い反応だ。もっと声を聞かせてくれ。」
「い・・・や・・・・・・・あぁッ!」
「嫌、などと言うのはこの口か?それとも・・・・・・」
「うぐっ・・・・!」

拒絶の言葉など聞きたくはない。
己が今、恥ずべき獣になっている事は自覚済みなのだから。
シュラはの唇を己の唇で深く塞ぎ、強引に舌を絡め取ってから、のショーツの中に手を差し込んだ。
じっとりと熱を帯びている密やかな空間を鋭い右手で切り裂き、花弁を指で割り、その中心に指を少し食い込ませ、揉み解すように動かした。


「ふ・・・・・ぅ・・・・・・んっ・・・・・!」

は一瞬堪えきれないかのようにシュラにしがみ付いたが、すぐに手を離した。
『この男は私の愛する男じゃない』、そう警戒しているように。心を許していないように。
これがデスマスクなら、愛しげに抱きしめるのだろうか。
シュラは唇を離して、低く囁いた。

「はぁッ・・・・・・、もう濡れているじゃないか。」
「ふあっ・・・・・!なっ・・・・、違っ・・・・・」
「なら、これは何だ?」
「あっ!?」

シュラは不意に指を引き抜くと、すらりとした中指をに見せ付けた。
ほんの第一関節程度までだが、シュラの指には濃厚な透明の密が纏わりついている。
顔を赤くして言葉を失うに薄い笑みを見せ、シュラはその指をぺろりと一舐めした。


「やだっ・・・・・!」
「小娘じゃあるまいし、何を恥ずかしがる事がある?」
「もうやめてシュラ・・・・・、こんなのシュラじゃない、おかしいよ・・・・・。」
「・・・・・・俺が、何だと?」

殆ど丸裸で泣きそうに顔を歪めるに、シュラは低い声で訊き返した。

「シュラ・・・・・、今日変だよ・・・・・・。」
「変か?」
「え・・・・?」
「俺が女を、お前を愛したら変か。そんなに可笑しいか?」
「そんな・・・・・・・!」

違う。はそんな意味で言ったのではない。
シュラは誠実で実直な男。親友の恋人に横恋慕し、力ずくで奪うような卑劣な真似は決してしない。
はそう思っているのだ。そんな事は百も承知している。

それなのに何故だろう。
こんなにも苛々するのは。


、もう何も言うな。何も考えるな。」
「や・・・・・、シュラ・・・・・・、私・・・・・!」
「これからは俺がお前を満たしてやる。心も身体も、奴よりずっと・・・・・・」
「あっ、駄目っ・・・、やっあぁぁ・・・・・・・!」

シュラはのショーツを一思いに引きずり下ろし、両膝を大きく割った。







「あぅっ・・・・・!やっ・・・・あ、ぁん・・・・・!」

下着に阻まれながらの小手調べのような戯れはもう終わり。
己も邪魔な服を全て脱ぎ去り、遮るものなく目の前に露になっている濡れた花弁に、シュラは思いの丈をぶつけていた。
紅く色付いている花芽も、蜜を溢れさせる泉も、舌や指で執拗に攻め立てていく。
は浅い呼吸を繰り返しながらそれに翻弄され、もはや逆らう気力すら失くしていた。


「はっう・・・・・、も、やぁ・・・・っ・・・・・・!」
「そうか・・・・・・、もう指では物足りんか。」
「え・・・・、なっ、ち、違・・・・!」

だが、恥ずかしげもなく広げられた太腿の間にシュラの腰が沈んだのを見て、は血相を変えた。
このまま最後まで抱かれてしまう訳にはいかない。
力の入らなくなった腕をどうにか力ませて、は懸命にシュラを押しやろうとした。

「駄目!駄目、シュラ!!もうやめて!!」
「無理だ。」
「お願、い・・・・やぁぁっ!」

しかしそんな僅かな抵抗は何の意味も成さず、気付いた時にはは既に、シュラの全てを身体の中に受け入れていた。






「あぅぅ・・・・・、っん・・・・・・・!」
「・・・・・・・・っ、・・・・・」
「あ・・・、だっめ・・・・、あ、あぁぁ!」

シュラが身体の中を我が物顔に出入りし始めた。
その衝撃を耐える為に夢中で握り締めた手すら、無理矢理開かされて。
指と指をしっかり組まれて捉えられ、身体に深く楔を穿たれて。

そこにはもう、の自由はなかった。


「ふっ・・・あ、あんっ!あんっ、はぁっ・・・・・!」

シュラの手の甲に爪を立てながら、は呆然とシュラを受け入れ続けていた。

シュラの言葉が、表情がショックだった。
こんなにも乱暴な行為に及んでいるというのに、何故シュラは苦しげな顔をしているのだろう。
まるで自分がシュラを傷つけてしまっているようで、は己の取るべき行動を見つけられず、ただ呆然と霞む瞳でシュラを見上げていた。


「あぐ・・・・・、シュ・・・ラ・・・・・・・・」
「・・・・・それで良い、もっと俺の名を呼べ・・・・・・」
「やああぁっ・・・・・!」
「愛してる、・・・・・・・・!」
「っ・・・・・・!」

ズン、と身体の奥に強い衝撃が走った刹那、の瞳から雫が一粒音もなく零れ落ちる。

不安の無い愛が欲しいと思うのは人の常。
心から愛せる者を求めるのもまた同じ。
ならば、一体どちらに従えば良いというのだろうか。



「ふぁっ・・・・・ぅ・・・・!うぅっ・・・・・・!」
「ハァッ・・・・・・・、・・・・・・・!」
「ひっ・・・あぁ・・・・・!」

シュラはの首筋を舐め、耳朶を甘噛みし、ただひたすらに腰を打ちつけた。
耳に吹き込まれたシュラの低い声が、己の名を紡ぐ。
それに背筋が痺れるような感触を覚えたは、思わず細い悲鳴を上げて喉を仰け反らせた。
その反応にシュラもまた、情欲を掻き立てられる。
それまで抉り込むように突き動かしていた律動を、絶頂を目指した激しいものへと変え、シュラは強くを揺さぶり始めた。


「あっあっ、あぁん!やぁっ・・・・!」
「ハッ、ハッ、ハッ・・・・!」
「はっ、も・・・・、だ・・・・めぇ、あああーーーーッ!!」
「クッ・・・・・・、・・・・・!」

の内部が細かく痙攣し、そこに包まれているシュラの楔が一瞬大きく膨れ上がる。
昇り詰めた瞬間身体を離し、シュラはの白い下腹部に許されぬ愛の証を迸らせた。




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後書き

お待たせしました。デッちゃん話のシュラサイドストーリーです。
デスマスクが『お仕事』に行ってから後の話ですね。
デスマスク編で微妙に歯抜けだった部分が、このシュラサイドで埋まってくるかと
思っております。済みません、ややこしい造りで(汗)。