どうしてこうなってしまったのだろう。
初めて出逢ったのは、他ならぬこの己自身なのに。
だが、そうだ。
出逢った順番など何の意味もなさない事ぐらい、百も承知している。
愛し合ってしまった者達を引き裂いたところで、己の気持ちが報われる訳でもない。
それでも全てを承知で、奪ってやりたいと思った。
をこの手に、と。
走り出した欲望は、もう止められない。
静かな夜の帳に溶け込むようにして、デスマスクは今、の家のドアを叩いていた。
「ああ、デス。どうしたの?」
「よう、起きてたか?」
「うん、起きてたよ〜。」
「今日はシュラの奴は?来てねえのか?」
「うん、今日はね、仕事しなきゃいけないんだって。」
そんな事はとうに知っている。知っていて、念押しの為に訊いてみただけだ。
だから今夜を選んだのだから。
「ほ〜、そりゃ寂しいな。」
「あははっ!たった一晩でそんな事ある訳ないでしょ〜!」
「ん?」
ふと食欲を刺激するような匂いに気付いて、デスマスクは訝しげに首を傾げた。
「何だ?お前今頃晩飯か?」
「あ、あれ?違うの、あれはね、シュラに届けるお夜食を・・・って、ああーーっ!!」
「な、何だよ!?」
「大変、火点けっ放しだった!!きゃーーーッ!!」
は慌しくバタバタと部屋の奥に駆けて行ってしまった。
としては、ただ料理を焦がしてしまう事や、万が一ボヤ騒ぎを起こしたらという心配からそうしただけなのだろうが、何故かやけに癪に障る。
まるでの一挙手一投足は、シュラの為だけにあるように感じられて。
デスマスクは、自分でも気付かぬ内に険しい表情を浮かべて中に入った。
案の定、はキッチンで奮闘中だった。全く甲斐甲斐しい事だ。
「よう、客を放ったらかすとは、随分良いもてなしじゃねえか。」
「あ、ごめんごめん!だって火がね・・・・」
背後から声を掛けてやれば、は申し訳なさそうな笑みを浮かべて振り返った。
シンクの横には、綺麗に詰められた弁当が置いてある。
まだ隙間が空いているところを見ると、完成までにはもう少しというところだろうか。
「焦げなかったか?」
「うん、それは大丈夫だった!ギリギリだったけどね。あ、良かったら何か適当に飲んで。」
「ああ。」
俺の為には、冷蔵庫から飲物一つ取ってはくれないのか。
そんな筋違いな苛立ちを感じながら、デスマスクは何気ない風を装ってに近付いた。
「なかなか美味そうじゃねえか。」
「そう?ありがとう〜。」
「俺の分はねえのか?」
「だってデスが来るなんて思ってなかったもの!あ、明日の朝ご飯にしようと思って、お弁当に詰めた残りなら取ってあるけど。」
「・・・・・シュラの残り、か。」
「あ・・・・・・」
面白くなさそうなデスマスクの声音に気付いたは、慌てて箸を置いてデスマスクに向き直った。
「ご、ごめん!そんなつもりじゃなかったの!ただ有るのは有るよって言いたかっただけで・・・!」
「別に気にしてねえよ。飯たかりに来た訳じゃねえんだ。」
「そ、そう・・・・、なら良いんだけど・・・・・。あ、じゃあ何か用事?なに?」
安堵したは、取り繕うような笑顔を見せた。
「用か?なに、大した事じゃねえ。ちょっと貰いに来ただけだ。」
「何を?」
「お前をだよ。」
時を止めたように笑顔のまま凍りつくの腕を、デスマスクはしっかりと捕らえた。
「やっ、嫌ぁッ・・・・・!」
デスマスクは、手っ取り早くリビングに引き入れようと手を引いたが、は怯えた顔をしてそれを拒んだ。
掴まれていない方の手をばたつかせたせいで、折角作った弁当やまだ中身の入ったボウルなどが床にひっくり返ったが、それに気付く余裕も無いようだ。
つまり、それ程嫌なのだ。
自分に抱かれる事が、にとっては恐怖以外の何物でもない。
自分はこんなにも、を愛しているというのに。
「抵抗しても無駄だ。」
デスマスクは僅かに不愉快そうな声で言うと、力に任せての腕を引き摺り、リビングのソファの上に投げ出した。
「きゃあっ!嫌ぁっ!!」
毟り取るように服を脱がせ、デスマスクは早々との秘所に手を這わせた。
どうせこんな状態だ、キスなど求めたところで、応えてくれるとも思えない。
それよりは、抗えない程の痺れを早く身体に与えてやった方が得策だった。
「あぁッ、嫌ぁ!!」
「そんなに嫌がるなよ。」
「あぅっ!」
まだ茂みに隠れたままの花芽に触れると、刺激が強すぎたのか、の身体が大きく跳ねた。
気にせず揉み込むように指を動かしてやりながら、デスマスクはその耳元に誘惑の囁きを吹き込んだ。
「なあ、そんなに嫌がるなよ。俺の方がアイツよりきっと良いぜ。」
「な・・・に言って・・・・」
「まあ試しに一度抱かれてみろよ。減るもんじゃなし。お前だって女だ、どうせ付き合うなら、より感じさせてくれる男の方が・・・・・、良いだろう?」
「・・・・・馬鹿にしないでっ・・・・・!」
その瞬間、デスマスクは頬に熱い痛みを覚えた。
別に何という事はない、ただの平手打ちだ。ましてやの腕力など、たかが知れている。
なのに、それは何故かやけに痛かった。
「ってぇ・・・・・・・・」
デスマスクは打たれた頬に触れて、気まずそうな顔のをじっと見据えた。
「な、何よ・・・・・、デスが悪いのよ!こんな・・・・」
「別に謝れなんて言う気はねえよ。殴って気が済むなら、幾らでも殴れば良い。だが、お前じゃ俺は止められねえ。」
「なっ・・・・」
「もう観念しろ。」
震えるの顎を強く掴み、デスマスクはその唇を犯すように吸った。
「いっや・・・・、あ、嫌ッ・・・・・・!」
唇に触れられたのは、やはり不意を突けた最初の一瞬だけだった。
それから以降は、己のキスから何とか逃れようと、力の限り抵抗している。
どうにか唇を割り開き、舌を絡め取ろうと奮闘するが、は固く歯を食い縛っていてままならない。
「・・・・・チッ、強情だな。」
「やめて、も・・・・、いや・・・・・!」
デスマスクのキスから逃れようと、身を捻りながら思い切り顔を背ける余り、の姿勢が徐々に仰向けからうつ伏せに近いものへと変わっていく。
仕方なしにキスを諦めたデスマスクは、その身体が完全にうつ伏せにならない内に、再び手を秘所に滑らせた。
「あっ!」
デスマスクの手を不本意にも股に挟み込んでしまったは、恥じらいと絶望の声を上げたが、その時にはもう遅かった。
秘裂にデスマスクの指が割り込んで来て、中への侵入を果たそうと蠢いていたのだ。
「あぁッ、もう・・・・、やめてぇ・・・・・!」
「そんなに力籠めてたら、中が傷付いちまうぜ?」
「いあっ・・・、やぁぁッ・・・・・!」
「・・・・・・しょうがねえな。」
「はぅッ!!」
再び花芽を弾いてやると、の身体から余計な力が少し抜けた気がした。
やはりもう少し、其処を刺激してやった方が良いらしい。
デスマスクは、花芽を重点的に攻め続けた。
「あっ、ふ・・・・ん・・・・・・!」
「ここが良いか?ん?」
「あぁッ・・・・、嫌ぁ・・・・・・!」
「ハッ、よく言うぜ。その割には俺の手をしっかり挟み込んでるじゃねえか。」
「違っ・・・・!」
そう、違う筈だ。
手を退かせようと脚を開けば、より激しく本格的な愛撫が加えられるであろう事を、は分かっているのだ。
だからこれは、なりの精一杯の抵抗、全裸に剥かれ、秘めた部分を無遠慮に弄られても、まだどうにか拒もうとしているだけなのだ。
それにもう一つ、そう思える事がある。
「・・・・・・まだ濡れねえのか」
普通なら、もうそろそろ蜜を分泌させても良い頃だ。
なのにの花弁は、まだほんの僅かにしか蜜を湛えていない。
女が蜜を滴らせるのは、身体を刺激された生理的な反応、そして性的な興奮を感じる事による心理的な反応である。
それが未だこの状態という事は、興奮を感じるどころか、生理現象をも凌ぐ程ネガティブな心理状態にあるという事だ。
つまり、嫌悪。恐怖。それらを己に対して感じているのだろう。
それが癪に障った。
「・・・・・そんなに嫌がるなよ。」
「うぅっ・・・・・!」
「なあ。」
「っく・・・・・・・!」
どうにか気分を和らげてやろうと、出来る限り優しい声で囁きかけたが、の耳には全く届いていない。
このまま不毛な愛撫を続けたところで、は恐らく己を受け入れる状態になどなれないだろう。
だが、行為を止めるという選択肢は、デスマスクの中には無かった。
たとえどれ程拒まれようとも、の中に己の想いを解き放たねば、狂ってしまいそうだった。
「・・・・・・強情だな、そんなにアイツが好きか。」
喘ぎ顔とも泣き顔ともつかぬ顔を伏せているに吐き捨てるように言ったデスマスクは、不意に秘所に滑り込ませていた手を引き抜き、一旦その場を離れてキッチンへと向かった。
「デ・・・・ス・・・・・・?」
戻って来てみれば、は身体を起こしてソファの上で身を固くしていた。
言わばこの瞬間が唯一のチャンスだった訳だが、は恐怖と驚きの余り、逃げる事を忘れたようだった。
尤も、逃げたところで追いかけて、すぐに連れ戻すつもりだったのだが。
「待たせたな。続きしようぜ。脚開けよ。」
「な・・・・!?」
「何でって、まさかあれで終わりだと思ったのか?おいおい、勘違いするなよ。お前がいつまで経っても濡れねぇから、こいつを拝借しに中断しただけだぜ?」
そう言って見せたのは、オリーブオイルの瓶だった。
どうせならもう少し色気のある物にしたかったが、この際やむを得ない。
「さっさとしろよ、抵抗しても無駄だって言っただろう?」
「きゃあっ、やぁッ!!」
ソファの背凭れに必死で縋るを力任せに裏返すと、デスマスクはその腰を己の方に高く向けさせた。
およそ人目に堂々と晒すべきでない部分を曝け出される格好になり、羞恥したの抵抗がまた始まる。
だが、それはまるで無駄だった。
を押さえつける事ぐらい、片腕一本で十分事足りるのだから。
「ああ、やめて、やめてーーッ!!」
瓶の蓋を開けて、尻の上から花弁に向かって中身を零してやると、ぴったりと閉じて乾いていた花弁が、急に艶かしい艶を帯びる。
ソファや床に零れるのもお構いなしにかなりの量を垂らしてから、デスマスクは先程より触れ易くなった花弁を再び弄り始めた。
「あくっ、んっ・・・・・!」
「ククク、凄ぇ音だぜ?聞こえるだろ?」
「嫌ぁ、止めてぇ・・・・!」
オイルに塗れた花弁は、何とも言えない淫靡な音を立てて愛撫を受け入れている。
羞恥に頬を染めるに、デスマスクはわざと追い討ちをかけるような言葉を発し続けた。
「そろそろお前のアレも混じってきた頃かもな?」
「やぁッ、言わないで!!」
「ククッ。」
ようやく綻び始めた花弁を目一杯指で押し広げておいてから、デスマスクは己の分身にもオイルをたっぷりと塗した。
ここで一抹の無念を感じないではない。
本当なら、己の性技だけでを感じさせ、溢れる程に蜜を滴らせてから繋がるつもりだったのだ。
だが、この際仕方がないではないか。
己の技巧が云々ではなく、は己を受け入れる気がまるで無いのだから。
だから、早く繋がって。
その身体を支配して。
「・・・・・・いくぜ?」
「あ、あぁぁッッ!!!」
そして、熱く滾った己自身で、の内側からシュラを追い出さねば・・・・・。
「あっんッ!く、あぁッ!!」
オイルの滑りが助けてくれるとはいえ、の中ははかなり狭くきつかった。
本来なら内側から解れて溢れて来る潤滑剤を、人工的な物で外側から補ったせいか。
自身を締め付ける内壁の強さに顔を顰めながら、デスマスクはゆっくりと腰を動かしていた。
「もっと力を抜けよ・・・・。食い千切られちまう・・・・・」
「あぐっ、うぁッ・・・・・!」
「おら・・・・・・」
「ひあっ・・・ん!!」
揺れている乳房を捕らえ、その先端を捏ねてやると、が甘い声を上げた。
内壁の圧迫も、不埒な侵入者を排除しようとする固いものから、更に奥へ誘おうとするような収縮になる。
そのリズムに合わせて腰を突き入れながら、デスマスクはの背に覆い被さり、耳朶を甘噛みしながら囁いた。
「なあ、俺もそう悪いもんじゃねぇだろう?」
「やっ・・・・はんッ・・・・!アァッ!!」
「・・・・・・・なあ、何で・・・・・」
「ふぁ・・・・ッ!」
「何で俺じゃなくて・・・・・・、アイツなんだ・・・・・・」
デスマスクはを一方的に貫きながら、初めてと出逢った時の事を思い出していた。
それはにとっては不運な、そして自分にとっては面倒な出来事、只の偶然だったけれども、
後になって、あれは運命だったと感じた。
きっと出逢うべくして出逢ったのだろう。
でなければ、こんなに愛してしまう筈はないのだから。
「なあ・・・・・・・・」
「あぐっ・・・・・!」
が一番早く馴染んだのも自分だった。
ここに居る黄金聖闘士の誰よりも、一番多く言葉を交わした、一番多く笑顔を向けてくれた。
自分に一番心を許してくれていた。その自信があった。
けれど時は流れ、気が付けば、の隣に寄り添っていたのはシュラだった。
一番早く出逢い、誰にも勝る信頼を得ていると思っていた自分ではなく。
誰よりもを強く愛している自分ではなく。
「・・・・・・何で渡しちまったんだろうな・・・・・」
「あッ・・・・ん・・・・・?」
「なあ・・・・・、覚えてるか?」
悔しかったのだ。
シュラが好きだと告げたの笑顔も、を愛していると打ち明けたシュラのはにかんだ顔も、そして。
只の邪な略奪者と成り下る破目になった、己自身も。
「お前と一番最初に出逢ったのは・・・・・・、俺なんだぜ・・・・?」
「・・・・・・・覚えて・・・いるわ・・・・・・」
デスマスクの主観から言えば、シュラこそが略奪者だった。
だが客観的に見れば、デスマスク自身が略奪者だった。
ただ奪われたものを惜しみ、取り返したいと、そう願うだけなのに。
「そうだ。お前を一番長く見ていたのは・・・・・・・、この俺なんだぜ・・・・」
涙の浮かんだの瞳を見つめながら、デスマスクがそう告げた時だった。