怒涛のバレンタイン 後編




そんなこんなでやっと掃除も終り。
再び二人っきりになった。
いつの間にやら辺りはすっかり暗くなっている。


「あー、疲れた・・・・。」
「お疲れさん、ほらお茶。」
「おぅ・・・・。」
まるで熟年夫婦のような千堂と


「掃除したら腹減ったわー。」
「そやなー。たこ焼きの残りがちょっとあるけど、晩ご飯には足らんかな?」
「足らんわ。婆ちゃんも何も作って行ってくれへんかったし、なんか食わせてーな。」
「私は学食のおばちゃんか。なんかって何やねん?」
「何でもええわ。」
「ほなもう買い物行くのもめんどいから、ありあわせでええな?」
「おう。おおきに。」
「あんたも手伝うねん。」



二人で台所に並んで立って。
ありあわせの材料で夕食の支度をする。


なんだかんだ言うて、こいつとおるんが一番落ち着くな。

料理をするの横顔をそっと眺め、そんなことを思う。





出来上がった夕食を、二人で食べる。

「お前今日泊って行ったら?」
「なんや、一人で寝られへんのんかいな?」
「ちゃうわい!!一人でおっても退屈やからやな〜!!!」
「あーはいはい分かった分かった。まぁそれはええけど、うち何も持ってきてへんしな。ほないっぺん家帰って荷物取ってくるわ。」
「めんどくさいやっちゃなー。何がいるねん!?寝巻きぐらい貸したるがな。」
「寝巻きだけとちゃうんじゃ。それに泊るんやったら家にも言うとかなあかんしな。」
「さよけ、ほな食べ終わったら行ってきぃや。」
「そないするわ。」


は千堂の誘いをあっさりOKする。
二人は小さい頃からの付き合いなので、お互いの家に泊まることもそんなに珍しくない。
それぞれの家族も別段何も言わなかった。


夕食を食べ終えて、が『嫌にならん内に行って来るわ』と出て行く。
その間に千堂は風呂を沸かしてみた。
15分程経って、が小さい荷物を手に帰って来た。



「ただいまー。」
「おかえりー。もうすぐ風呂沸くで。」
「おっ、気ィ利くや〜ん?」

どっちが先に入るかでしばしモメた後、結局争いに勝利したから先に風呂に入る。




お湯の流れる音が聞こえる。


今、うちの風呂場には裸のが確実におる。


一旦意識してしまったが為に、そわそわと落ち着かなくなる千堂。
「落ち着かんかいワイ!!やぞ!?」
ブツブツと独り言を言いながら、檻に入れられた動物のように部屋の中をうろうろと歩き回る。




「何ブツブツ言うとんねん?」
「うおっ!!びっくりしたー!!」
「お風呂空いたで。早よ入っといでや。お湯冷めてまうで。」
「お、おう・・・・。」

風呂上りのに声を掛けられる。持参した寝巻きを着て、タオルで濡れた髪を拭いている。
に勧められるまま、千堂は風呂へ向かった。





なんや、意識してまうわ。
なんでや。
婆ちゃんがおらんで二人っきりやからか・・・・?


風呂に浸かりながら、千堂はの姿を思い浮かべた。
濡れた髪とラフな寝巻きが、妙に艶めかしかった。
身体を洗う薄いタオルが湿っていて、がさっきまでこの風呂場に居たことを嫌でも意識させられる。


うわ、ホンマどないしてんワイ!?
落ち着かんかい!!!


反応する自分を必死で抑えようと、冷たいシャワーを浴びる。
なんとか治まった所で、風呂から上がる。
タオルで頭を乱暴に拭きながら茶の間へ戻ってくると、が冷たいお茶を用意していた。



「はい。」
「おぅ、おおきに。」


手渡されたお茶を飲み、二人して再びゴロゴロし始める。
他愛のない会話をしながら、TVを見たり新聞を読んだりと、思い思いに寛ぐ。

「なんやあのガキ共の相手ばっかりしとってどっと疲れたなー。ホンマ色気のないバレンタインやったわ。」
「そうやなぁ。あの子らおったらうるそうてかなんわ。でもまぁたこ焼きおいしかったし、ええやん。」
「そらたこ焼きは美味かったけどやぁ・・・・」
「なんやのん?」
「・・・・なんもない。」

ふてくされる千堂をチラッと見て、一瞬にんまりと微笑む
持ってきた荷物の中から、小さな包みを取り出す。

「あんたの言いたいことぐらい分かってるわ。はいこれ。」

に手渡された物を見て、千堂の顔に満面の笑みが広がる。
「お前あるんやったら早よ出せや!」
「あの子らおる前で出したら、あっちゅー間になくなるやろ?てゆーかただ昼に持ってくるの忘れてただけやねんけど。」
「どんくさいな、お前〜!まぁええわ。おおきにな!!」
「どんくさいは余計や。早よ開けてみぃや。」
「おう!!」

細いリボンを解き包装紙を取り払うと、中からチョコレートの箱が現れた。


「そこのチョコな、めっちゃおいしいねん!高いから滅多に買わへんねんけどな。」
「へー、こら美味そうやな〜。・・・・、うん!こら美味いわ!!」
「そやろ〜!」
二人して嬉しそうに微笑む。


「私も一個食べよーっと。」
「あっ!お前これワイにくれたんちゃうんかい!?」
「私も一緒に食べるつもりで買うて来たんや!!」
「・・・・、全部食うなよ?」
「分かってるがな。・・・・・ん〜おいしーー!!」


小さなチョコレートの箱はあっという間に空になる。

「あー美味かった!たまには甘いもんも食わなあかんな!」
「なんやそれ。まあそない喜んでくれたら買うて来た甲斐があるっちゅーもんやな。」
「ホンマ美味かったわ!おおきにな、。」
「いいえー、どういたしまして。ほな歯ァ磨いてそろそろ寝よか。」
「せやな。」


交代で歯を磨き、茶の間の電気を消して2階へと上がる。
客用の布団を出し、千堂の布団と並べて敷く。
電気を消して、それぞれの布団に入った。


「よう考えたらおかしいなぁ、こんな風に寝るんも。」
「何が?」
千堂の問いかけに、が不思議そうに答える。


「いやほら、一応男と女やのに一緒の部屋に寝ててもええもんかいな、と・・・・」
「何を今更。あんたとこ泊りにきたらいっつもここで寝てるやん。」
「まぁそらそうやねんけど・・・・。」
「今までそんなん言うたことなかったのに、急にどないしたん?まぁそんな気になるんやったら私下行こか?」
「いや!!ええねん!!別に気になれへんし!!」
「?ならええけど。」

会話が止まり、部屋が静まり返る。


「なぁ、。」
「ん〜・・・・?」
「お前、お前な、・・・・・」


−ワイの事どない思てるねん?


そう聞きたいのに、口が上手く回らない。
でもこのまんまやったら寝られへん・・・・!


「お前、ワイの事、どない思てんねん・・・・。」
「・・・・・・・」
?」
「・・・・zzzzz。」





寝とるがな(涙)。


「ははは、・・・・はぁ〜あ。アホくさ。ワイも寝よ・・・・」


気持ち良さそうに眠るの顔を見つめて泣き笑いの千堂。


「・・・まぁええか。なるようになるやろ。」


またそのうち、そんな機会があれば、な。
とりあえず今日のところは堪忍しといたる。

おやすみ、




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後書き

バレンタイン夢、終了でーす!
本当はもっとギャグっぽい(てゆーか可哀想すぎる)結末だったんですが、前編もアレで、
中盤に子供達ネタが入って、後編までソレじゃあんまりアレかなと思って(何?)、路線を変更しました(笑)。
ちょっとぐらい甘くなってますかね?