老人憩いの家 前編




『拝啓 源ちゃん
元気にやっとるダニか?ジムのみんなはどうしてるダニ?
こっちは相変わらずダニ。と言いたいところダニが、ぺっこ変わったことさ起きたダニ。
暇が出来たらぺっこ遊びに来るといいダニ。待っとるダニよ。
敬具』


「何じゃこれは?」
「猫田さんからのお手紙ですか?」
「うむ。じゃがさっぱりわけが分からん。」
「遊びに来いって書いてありますね、今ちょうどジムの方も落ち着いてるし、行ってこられたらどうですか?」
「そうじゃのう・・・・。」



『拝啓 浜ちゃん
元気でやっとるダニか?そっちは相変わらず忙しいダニか?
ちっとも日本に帰ってこんからワシ寂しいダニ。
死ぬ前にもう一度、浜ちゃんに会いたいダニ。
敬具』


「何じゃこれは!?」
「日本からデスか?」
「うむ、古い連れからじゃ。急に手紙を寄越したと思ったら不吉な事書いてきおって・・・・」
「何て書いてあるデスか?」
「死ぬ前にワシに会いたい、と。」
「ソレは大変デス!すぐ日本行って下サイ!!」
「う、うむ・・・」




「ふう、やっと着いたわい。相変わらず不便なとこじゃのう。」

鴨川は一人、猫田の経営するペンション義男へとやって来た。

「おーい、猫ちゃん!ワシじゃ!!」

ドドドドド!!!

「「「ワンワン!ワンワンワン!」」」」
「「ウォン!」」
「ギャンギャン!」

「ええい!うるさいわ!!」

玄関ドアを開けると同時に、犬の群れに熱烈歓迎を受ける鴨川。
ここまではいつものことである。
だが。

「いらっしゃいませ、お一人様でしょうか?」
!!?!?!?

玄関へ入った鴨川を迎えたのは、見慣れたジイさんではなく、若い女性であった。

「何じゃ、あんたは!?」
「ここの従業員です。ようこそペンション義男へ!」
「源ちゃん!来たダニか!」
「猫!!おるなら貴様が出てこんか!びっくりしたじゃろうが!!」
「悪かったダニ。ぺっこ手が離せんかったもんで。」

鴨川が猫田の胸倉を掴んでいると、再び玄関のドアが開いた。

「いらっしゃいませ!」
「何じゃここは。わざわざ断崖絶壁に建てよって・・・。」
「浜ちゃーーん!!来てくれたダニか!」
「浜!貴様も呼ばれとったのか!」
「鴨川!ヌシも来とったのか!
猫!!貴様元気そうではないか!?何が死ぬ前にじゃ!!
「す、済まんダニ!でも年寄りだから間違っとらんダニ!?書き方さおかしかったダニか?」
「あんな書き方されたら誰でもびっくりするじゃろうが!!」
「く・・苦しいダニ!首さ絞めんでくれ!ほんとに死にそうダニ・・・・!!」
「全く人騒がせな!」
「そ、そうダニ、みんなに紹介したい人さいるダニ。」

猫田はよれよれになった服を伸ばして、従業員と名乗った女性を2人の前に出す。

 ちゃんダニ。ここでアルバイトしてくれてるダニ。」
「はじめまして。 です。どうぞよろしくお願いします。」

にこやかに挨拶されて、爺さん2人は呆気にとられてその場に固まる。

「明るくてよく働いてくれるいい娘ダニよ〜。」
「猫、変わった事というのはもしや・・・」
「そうダニ。寂しかった我が家に春が来たダニ。」
「猫田さんたら!そんなんじゃないですよ!!」

猫田の台詞に赤面したが、恥ずかしそうに否定する。

「皆さん、お荷物はそれだけですか?お部屋に運ばせていただきますね!」
そそくさと2人の荷物を持って、は部屋の奥へと行ってしまった。

「いんや〜、あの娘のお陰で毎日さ輝いてるダニ。この幸せを二人にも分けてあげようと思ったダニ。」
の後姿を見送って、嬉しそうにほのぼのと言う猫田。

「いらん世話じゃ!」
「貴様・・・、何事かと慌てて来てみれば・・・!」
「皆一人身で寂しい思いさしてると思ったダニ。そんな怒らんでも・・・・」
「「うう・・・・」」

しょぼんと肩を落とす猫田。
鴨川と浜は少々罪悪感を感じ、黙り込んでしまった。

「皆さん、立ち話もなんですから奥へどうぞ。すぐお茶をお持ちいたします!」
「そうダニ!とにかく上がるダニ!!」

荷物を片付けてきたが再び現れて、奥へ上がるよう促す。
さっきまでしょぼくれていた猫田は、うきうきとの後ろをついて歩く。

「全くあの男は相変わらずだな。」
「とにかく上がるか。」




「お待たせしました。宜しかったらお茶請けもどうぞ。」

しばらくして、が盆に日本茶の入った湯呑みと煎餅を乗せて持って来た。

「ありがとダニ〜。」
「ああ、済まんな。」
「日本茶か、久しぶりだのう。」

から湯呑みを受け取った3人は、よぼよぼと茶を啜る。

「ごゆっくりどうぞ。あ、猫田さん、私これから町まで買出しに行ってきますけど、何か必要なものはありますか?」
「いんや、特にないダニ。ワシも一緒に行くダニよ。」
「一人で大丈夫ですよ。折角お友達がいらっしゃってるんですから、ごゆっくりしてらして下さい。」
「そうダニか?済まんダニ。」
「じゃあ行ってきます!」
「気をつけて行くダニよ。」
「はい!」

車のキーを手ににこにこと去っていくに、『行ってらっしゃいダニ〜♪』と手を振る猫田。

「デレデレと鼻の下伸ばしおってからに。」
「若い頃とちっとも変わらんな。」
「そういうお前さん達だって満更でもないダニ?よそ行きの顔になってたダニよ。」
「やっ、やかましいわ!」
「だいたい死にかけのジジイの分際であんな若い娘と二人で、貴様何を考えとるんだ!?」
「下世話な発想するなダニ!あの娘はそんなんじゃないダニ!」

浜にストレートを喰らわせる猫田。

「可愛い娘ダニ?がおったらきっとこんな感じダニよ。」


孫。


その響きに少しうっとりする鴨川と浜。
ボクシングに人生の全てを捧げた自分達に、孫と呼べる存在はいない。
若い頃はボクシングさえあればいいと思っていたが、こうして年を取ると側にいてくれる誰かを求める気持ちが正直出てくる。
そんな自分に嫌気がさしつつも、猫田が言った『孫』という言葉が頭をこだまする。

「うらやましいダニ?」
「「ふっ、ふざけるな!うらやましくなんぞないわ!」」
「そうダニか?毎日肩叩いてもらったり、縁側で一緒に茶を飲んだり、楽しいダニよ〜?」

ニヤニヤと笑う猫田に、鴨川と浜はこめかみに青筋が浮かぶのを感じる。

「くっ・・・!調子に乗りおって!」
「どうしてもというなら、ちゃんに頼んでみるといいダニ。」
「誰が頼むか!!」
「源ちゃんはほんとに頑固じじいダニ。可愛くないジジイは嫌われるダニ。」
「アホか貴様!!」

再び取っ組み合いになるじいさんズ。
仲が良いのか悪いのか、事あるごとにケンカになるこの老人3人組を、果たしてはうまくさばけるか!?



続くダニ。




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後書き

初逆ハーがジジイってどうやねん(笑)。
でも書いてみたかったんです!実現出来てとっても嬉しいです、凄まじい達成感があります(爆)!
友情出演で八木ちゃんとヴォルグを出してみたつもりです。
千堂のお祖母ちゃんもですけど、一歩の老人キャラって皆可愛いと思うのは私だけでしょうか(笑)?
ちなみに管理人はダントツで猫田さんが好きです。
私のHNの由来は猫田さんから来てる・・・・わけじゃないんですけどね(笑)。全くの偶然です。

3/14 文中の誤字・表現を修正。内容には差し支えありません。