大阪恋道中 前編




「は〜・・・・。」
「なんやの、さっきから溜息ばっかり。どないしたん?」

ロードワークを終えた千堂は、の家へ転がり込んでいた。
沈んだ顔をしてやって来るなり溜息ばかりつく千堂。

「いや、ちょっとな・・・・。」
「なんやねん?」
「・・・お前、うちの婆ちゃんどない思う?」
「どないってどういう事?」
「様子がおかしいとか、なんか思わへんか?」

妙な事を口走る千堂。
はますます訳が分からない。

「別に。何やねん、ズバっと言いーや!!」
「婆ちゃん最近おかしいねん!」

思い切ったように話を切り出す千堂。

「え?おかしいってどういう風に?」
「なんかな、こう、そわそわしてるっちゅーか、落ち着きがないねん。ほんで昨日電話掛かってきてな、明日誰ぞと会う約束しとんねん!」
「それってどういう事?」
「婆ちゃん連中やったらそないそわそわせぇへんやろ!まさかとは思うけど・・・」
オトコかいな?」
オトコ言うな!!

千堂はイライラと落ち着かないのか、しきりに貧乏揺すりをしている。

「そんな気になるん?」
「当たり前やろ!そら爺ちゃんにも先立たれてもうてるし、そんなことがあってもおかしないやろとは思うけど、思うけどな!!」
「けど許されへん、と。」
「いや許すとか許さへんとかやのうて、あー、なんちゅーかやな・・・、とにかくワイどないしたらええねん!?」
「その明日会う人は絶対婆ちゃんの彼氏なん?」
彼氏とか言うな!!!でも男なんちゃうか、と思うねん・・・。」
「ちょっと気になるなぁ。」
「ちょっとどころやあるかい!もし、もしそのジジイと再婚するとか言うてきてみぃ、ワイどないリアクションしたらええねん!!」
「あんたも気ぃ早いやっちゃなー。」

大分うろたえているらしい。
貧乏揺すりが16ビートを刻んでいる。

「婆ちゃんに直接聞いたらええやん?」
「聞いたわい!せやけど『何でもあらへん』の一点張りや!頬っぺた染めて言うもんやから何の説得力もあらへんがな!!」
「あー分かった分かった。大声出しなや。よっしゃ、ほんだらこうしよ!」
「何やねん?」
後つけよ!
えーー!!??
「『えーー!!??』やあらへん。気になってしゃーないんやろ?ほなやるしかないやん。」
「お前、マジで!?それはちょっとどうやねん?」
「何言うてんねん、あんたが気にしてるからやろ?」
「そやけど・・・・。何時に行く?
思っくそノリノリやな。何時って、何時に会うって言うてんの?」
「確か、10時に難波の新歌舞伎座の前や言うてた。」
「ほな先回りしとこ。9時半にうちおいで。」
「よ、よっしゃ!おおきにな、なんか突破口が見えてきたわ!ほなワイ帰るわな!!」

言うが早いか、千堂はあっという間にの部屋から出て行った。




そしてその夜の千堂宅。

「婆ちゃん、何しとん?タンスごそごそして。」
「んー?ちょっとな、着物どれにしょうかな思て。わて明日ちょっと出掛けるさかい。」
「・・・ふ、ふーん。だ、誰と?」
「あんたの知らん人や。」
「・・・・;」


どないしよ、マジでヤバいかもしらん・・・・。


千堂は、動揺を祖母に悟られないように自室に戻った。
そして、思いつめた表情で明日の支度を始めたのであった。





そして次の日の朝。

「ほな行ってくるからな。」
「お、おう。行ってらっしゃい。」

千堂は、祖母が家を出たのを見届けてから、ダッシュでの家へ向かった。


ぴんぽーん。

チャイムを鳴らすと、即座に玄関のドアが開いた。

「おはようさん、婆ちゃん行った?」
「おう、おはようさん。行った行った!!ワイらも早よ行こ!!」

先に出た祖母を追い越すぐらいの勢いで、二人は難波へと向かった。
やはり老人の足が若者に追いつくはずもなく、あっという間に新歌舞伎座へと到着する。
目立たないように、建物の角を曲がったところでこっそりと待ち伏せする。



「あっ!来た!婆ちゃんや!!」
「まだ相手は来てへんみたいやな。」

千堂の祖母は、正面入口の脇に立って誰かを探すようにキョロキョロしている。
しばらくして、一人の老人が現れた。
千堂の祖母に向かって手を振っている。

「来た、来てもうた、どないしよ!!」
「しっ!落ち着き!!」


何やら言葉を交わした後、二人は仲良く連れ立って移動を始めた。


「おい!行ってまうやんけ!追いかけるぞ!!」
「急がんでも大丈夫や。相手年寄りやねんから。」
「そ、それもそうやな。」

千堂とは、見つからないように少し離れて二人の後をつけ始めた。




back   next



後書き

間柴兄さんの専売特許(?)「尾行」を千堂でやってみました!
ええ、ただ思いついただけです。
探偵ごっこがしたいなぁ、って。(何)
それにしてもお年寄りのデートコースってどんなんでしょうね。
婆ちゃんと連れの人をどこに連れて行ったらいいのかしら。(←ポイント間違ってる)