「ユリア様、お茶をお持ちいたしました。」
「ありがとう。」
「温かいうちにお召し上がり下さいませ。」
彼女の名は。
元々シンの居城で下働きとして奉公していたが、シンがユリアを連れて来た時から、ユリア専属のメイドとなった。
ティーセットをテーブルに置いて、いつでも飲めるようにセッティングした後、は室内の掃除を始める。
調度品はどれもこの時代によく見つけられたという程素晴らしいものばかりで、掃除には細心の注意を払わなければならない。
いや、調度品だけではない。
この美しい女主人を包む衣服も靴も宝石も、全て自分の命よりも大切に扱うようにKINGから命じられている。
勿論、ほんの少しでもユリアに対する無礼があろうものなら、即座に殺されるだろう。
しかし当のユリア自身は、自分の身の回りの世話をしてくれるのことを労い、優しい態度で接していた。
「ユリア様、そんなところにおられては風邪をお召しになります。中へお入り下さい。」
窓際で外を眺めるユリアの体を気遣い、は掃除の手を休めて声を掛けた。
「・・・ええ。でももう少し、こうしていたいの。」
「ユリア様・・・・」
ユリアが望んでここへ来た訳でないのは分かっていた。
心ここにあらずといった風に、日がな一日ぼんやりと過ごしている。
そして何より、この城の主・KINGに対する態度を見ていれば一目瞭然であった。
「ユリア。これを見ろ。全て本物だ。」
ふいに部屋の扉が開いて、シンが室内に入ってきた。
「どれもお前に相応しいものばかりだ。さあ身に着けてみろ。」
誇らしげに宝石の山を差し出すシン。しかしユリアは見向きもしない。
シンの顔が段々険しくなる。
「ユリア、いい加減にしろ!何が気に入らない!?」
「・・・それを手に入れる為に、あなたは何人殺めたのですか?」
「何ぃ?」
「私はそんな物など欲しくありません。罪もない人々の命と引き換えの美しさなど欲しくはない。」
「くっ・・・!どこまでも俺を受け入れん気だな!?しかし必ず心変わりさせてやる、この俺を愛するようにな!」
手にしていた宝石を床に投げ捨て、シンは踵を返した。
は床に散らばったそれらを拾い集める。
「ごめんなさいね、。仕事を増やしてしまったわ。」
「お気になさらないで下さい。それより、これらはどうすれば・・・・」
「後でシンに返しておいて欲しいの。」
「畏まりました。」
ユリアもを手伝って、床の宝石を拾い集める。
「ユリア様!私がやりますのでどうか・・・!!」
「いいのよ、私のせいなのですから。」
「・・・ユリア様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
は、かねてからの疑問をユリアにぶつけた。
「ユリア様はどうしてそれほどKING様をお嫌いになるのですか?」
「・・・・あの人は私の為に次々と酷い事を繰り返している。そんなこと私には耐えられないのです。」
「ユリア様・・・・」
「それに、私の心にはただ一人の人しか・・・・」
そう呟いて、ユリアは遠くを見つめる。
心にただ一人の人。
その気持ちは、にもよく分かった。
なぜなら、の心にもただ一人の男が居たから。
「KING様はユリア様が考えておられる程酷い御方ではないと、私は思います。」
遠慮がちに言うにふんわりと微笑みかけ、ユリアはテラスへ出た。
は掃除の続きを終わらせると、宝石を持って下がった。
には、シンの気持ちが痛い程分かっていた。
シンは本当にユリアを愛している。
その証拠に、シンは何一つユリアに無理強いをさせない。
ユリアがここへ連れて来られてからまだそれほど経っていないが、シンはユリアに何もしていないのだ。
ユリアが心を開かなくても、いつかその時が訪れるのをじっと待っているように見える。
しかし、ユリアは心に別の人間を住まわせている。
決して叶うことのないであろう想いに殉じるシンの姿が、まるで自分自身に見える。
KING様・・・・
夜の帳が下りた。
シンは自室で一人、酒のグラスを傾けていた。
いつになったらユリアは自分を愛するようになるのか。
ユリアをここへ連れて来てから、思いつく限りのものは全て与えてきた。
全ての人間を傅かせ、さながら女王の如く扱っている。
なのに何故。
「何が足りない・・・・」
強引に攫って来さえすれば、自分のものになるだろうと思っていた。
この想いを必ず分かってくれると信じていた。
なのに実際は、以前と何も変わっていない。
相も変わらずユリアの心には、ケンシロウが住み着いている。
自分の想いの欠片すら、受け取ろうとしない。
「・・・・くそっ!!」
グラスを床に叩き付ける。
割れたグラスの破片がそこかしこに飛び散る。
もう限界だ。
手荒な真似はしたくなかったが、もうこれ以上自分を抑えられない。
シンは思いつめた表情で、自室を出て行った。
豪奢な寝台の上で、ユリアが眠っている。
シンはその顔にそっと唇を寄せた。
「何をするのです!!」
ユリアが目を覚まして、激しく抵抗する。
「お前がいつまでもケンシロウを忘れんからだ!いつまでも俺が大人しく引き下がっていると思うな!!」
ユリアの抵抗をものともせず、強引に唇を重ねる。
雪のように白い肌を弄ろうと衣服を乱す。
「止めて、止めて下さい!!」
「止めぬ!ユリア、お前は俺のものだ!!」
「ならば死にます!これ以上辱められるくらいなら、この場で舌を噛みます!!」
そう言って、ユリアは口を固く閉じた。
死のうとしてまで自分を拒むユリアの様子に打ちのめされたシンは手を止める。
「・・・俺は諦めないぞ。必ずこの俺を愛するようにしてやる!必ずだ!!」
苦々しい表情で言い捨てて、シンはユリアの部屋を立ち去った。
雑務に追われてすっかり遅くなってしまった。
はユリアから預かった宝石を手に、KINGの私室の前に来ていた。
これを差し出したら、KING様はどんな顔をするだろう?
きっと辛いはずだ。
は酷く心が痛んだが、かと言って自分がいつまでも持っているわけにもいかない。
意を決して、はドアをノックした。
「KING様、でございます。」
呼びかけたが、返事がない。
はそっとドアノブを回した。
部屋の中にシンの姿はなく、床にグラスの破片と液体が広がっている。
は宝石を机の上に置いて、床の掃除を始めた。
「そこで何をしている?」
急に背後から声を掛けられ、驚いたは再び破片を床に落とした。
「あ、あの、ユリア様からこれをお返しするように言われて・・・・」
は机の上の宝石を手に取り、シンに差し出す。
「ユリアが?」
「は、はい・・・・。」
シンの顔がみるみるうちに歪む。
は、そんなシンの様子を恐る恐る伺った。
「あの、KING様、どうかなさいまし、きゃあ!!」
突然手を払われ、持っていた宝石が床に散らばる。
シンは立ちすくむの服に手をかけ、一思いに引き裂いた。
「いやぁ!!KING様!お許し下さい!!」
の懇願に全く耳を貸さず、その身体を床に押し倒す。
「KING様!後生です!どうかお許し下さい!!」
の涙交じりの哀願など、シンの耳には届いていなかった。
にユリアの姿を重ねて、シンはその身体を貪り始めた。