「見事だった、シュウよ。南斗白鷺拳、相も変わらぬ切れ味よの。」
長老が口を開くと、それまでの割れるような拍手の嵐は次第に治まり、やがて場内は再び静寂に包まれた。
「さて、試合も終わったことだ。先程の話とやらを訊かせて貰おう。」
「はっ。」
シュウは長老に向かって跪くと、事の次第をありのまま話した。
一部始終を聞いた長老達は、シュウの話に激昂した。
「何たる事だ!仮にも南斗六聖の一角を目指す者が、厳正な試合にそのような小細工をするとは!カシムよ、恥を知れ!!」
「南斗の名に泥を塗るような真似をした罪は重い!その罪、万死に値するぞ!」
南斗の関係者でないがこの場に居た事と、シュウやレイの話を裏付けに行った者達が手に入れてきた証拠や証言が、カシムをもはや言い逃れ出来ぬ状態に追い詰めていた。
「皆の者、そやつを捕らえ、投獄するのだ!!」
「離せーーっ!!くそっ、俺は南斗の頂点に立つ男だぞ!!」
「世迷言は独房の中で存分に吐くが良い!連れて行け!!」
「スザク様、エリザ様!!どうか俺をあなた方のお力で・・・・!スザク様、エリザ様ーーッ!!!」
カシムは、引っ立てられながら必死の形相でスザク父娘に呼びかけた。
その途端、一同の訝しむような視線が、一斉に二人へと注がれる。
「なっ、何を申すか!貴様の如き不心得者に、恩赦など与えられる筈がなかろう!」
「そうですわ!この期に及んで命乞いなど、みっともなくてよ!」
「なっ・・・・・・!き、貴様ら・・・・!!それがこの俺に対する仕打ちか!?散々尽くし、貴様らに言われるがまま、汚い仕事を引き受けてきたこの俺に対する仕打ちか!?」
「黙れ!!うつけた事を申すな!ええい者共、何をしておる!?早くその男を引っ立てい!!」
「早く連れてお行きなさい!!目障りだわ!!」
「おのれ〜!こうなれば、貴様らの野望も潰してやる!地獄へ道連れだ!!覚えていろ!!」
呪いの言葉を吐きながらカシムが連行されていった後、スザクはわざとらしい程の怒りの形相を浮かべた。
「おのれ、あのうつけ者が!諸君、見苦しい所をお見せしてかたじけない。あの男にはこの儂が厳重な処罰を与える故・・・・」
「スザクよ。その権限は、もはや貴様にはない。」
「な・・・・、あの男の言う事を信じるというのか!?」
「そこの娘をかどわかすようカシムに仕向けたのは、貴様の仕業ではないのか?」
「違う!!それは断じて儂ではない!!本当だ!!」
「そうですわ!あれはあの男が勝手に企んだ事!本当に私達は何も・・・!」
「・・・・・まあ良い。後程あの男を言及すれば判る事だ。だがスザクよ、貴様が我等を欺いた事は紛れも無い事実。」
「何っ!?儂は何も・・・・」
「ほう?ならば何故、シュウが伝承者の座を退きたいと願い出たなどと嘘をついた?シュウはそのような事、一言も申しておらぬと言うたではないか。」
「そっ・・・・・、それは・・・・・・・」
カシムを後任に推した時の口実を追及されて、スザクは口籠った。
突然の予想外な展開に、流石のスザクといえども焦りを隠せない。
言い訳の一つも出来ずに押し黙る様は、それを認めたも同然だった。
「貴様の野望とやら、とくと聞かせて貰うとしよう。処罰はその上で決める。」
「なっ・・・・!この儂を裁くというのか!?同じ長老であるこの儂を!?」
「者共、スザクを連れて行け!娘御も一緒にだ!!」
「やっ、やめろ!この儂を誰と心得る!?離せ、離せーーっ!!」
「離しなさいっ、無礼者っ!」
それでも尚且つ虚勢を張りながら、スザク父娘は門下生達に引かれて行った。
そして騒ぎが鎮まり、再び厳粛な空気に戻った場内で、長老はシュウに問いかけた。
「シュウよ。お前に一つ聞きたい事がある。」
「はっ。」
「何故掟に背いてまで、その目を捨てた?」
「・・・・・信念の為。私の信じる未来の為に、守りたい光の為に。それが私の星・仁星の宿命なれば。」
「仁星・・・・・・、それは徳高く厳しい宿命。お前はその見えぬ目で、それを貫き通すと申すか。」
「はい。」
「・・・・・・あい分かった。お前への沙汰は追って通達する。それまで道場に赴く事許さぬ。謹慎せよ。」
それだけをシュウに告げると、長老達は闘技場を去って行った。
それを機に、観衆達も散り散りに場を去っていく。
それまでの張り詰めた空気が緩んだのが引き金となったように、はシュウのもとへ駆け寄った。
「シュウ!」
「!無事だったか、怪我は?」
「私は平気よ、それより貴方こそ・・・・・!それにレイも・・・・・」
「そうか・・・・・。レイ、を救い出してくれた事、礼を言うぞ。」
「いえ、俺は・・・・・・」
「私は良い弟子を・・・・・・・、いや、友を持った。」
「シュウさん・・・・・・・」
差し出されたシュウの手を、レイは驚いたような、しかし嬉しそうな表情を浮かべて強く握った。
これが、まだまだ男と呼ぶには早い少年とシュウの、友としての最初の握手だった。
大人と子供の間で友情など有り得ないと、人は笑うかもしれない。
だが、シュウはそう思わなかった。
この少年の拳に対する一途さと心根の優しさに、一人の人間として敬服し、感謝していたのだ。
事実、この華奢な少年が逞しい青年に成長する頃には、彼はシュウにとって、得難き親友となる。
それに、ここにもう一人。
「何とも無様な姿だ。あの程度の男にそれ程手こずるとはな。」
「サウザー・・・・・・」
「この俺の手を煩わせてまで修行した結果がこれでは、納得出来ん。」
「済まぬ・・・・・。」
「一つだけ忠告しておいてやろう。貴様のその甘さは、いずれ命取りになるぞ。人質如きで闘う事を躊躇うようでは、今に降りかかる火の粉を払う事もままならんようになる。」
冷徹な男ではあるが、拳に対する志の高さは本物だ。
彼のお陰で、盲目となった今も闘い続ける術を身につける事が出来た。
思えばいつも、こうして互いに切磋琢磨してここまで来た気がする。好敵手と呼べる男だ。
願わくば、これからもずっと良き好敵手でいたい。
決して相容れぬ価値観や気性の違いはあれども、互いの拳においては、ただひたすら純粋に。
シュウはそう願いながら、小さく笑みを零した。
「忠告は受け取っておこう。だが、それが私の性分なのだ。私の闘いは、攻める為ではなく守る為にある。」
「フッ、仁星の男か。あれも守る、これも守ると、己が身を盾にする道を選ぶか。帝王の星の下に生まれついた俺には理解出来ん。」
サウザーもまた、皮肉な微笑を口元に湛えながら、そう呟いた。
そして、そのままの表情でをちらりと一瞥すると、颯爽と去っていった。
レイの怪我の手当てをしてやり、シュウとが自宅に戻った時には、既に夕方近くになっていた。
少し暮れ始めてきたにも関わらず眩しい陽光が、部屋中を温かく満たしている。
その光の中で、は黙ったままシュウの傷の手当てを始めた。
「・・・・・済まなかったな。また君に怖い思いをさせてしまった。」
無言のまま傷に包帯を巻きつけるに、シュウはそう呟いた。
「・・・・・謝るのは私の方よ。私はいつも、シュウの足手纏いになるわね。ごめんなさい。」
「何を言う!?足手纏いなどと・・・・」
「貴方は強いわ。さっきの試合、凄かった。何も知らない私でも分かる位に。私さえ居なければ・・・・・、貴方は何にも煩わされず、自分の道を歩けるのかもしれないわね。」
巻き終わった包帯が鋏に切られる音が、二人の間で鳴り響く。
その妙に小気味良い音が、シュウの耳にやけに残った。
「私・・・・・・、私ね。そう分かっているのに・・・・・・、それでも貴方の側に居たい。」
「・・・・・・・」
「こんな私でも、何か貴方の支えになれる事があるんじゃないかなんて、まだそんな風に思ってるの。馬鹿でしょう?」
「何を・・・・・・、何を言うんだ・・・・・・」
「私を助けようとする為にこんなに傷だらけになって・・・・、私のせいで貴方はこんな目に遭ったのに、それでもまだ、私はそう思うのよ・・・・」
腕に触れたままのの手が、微かに震えている。
堪えきれず、シュウはその手を取って強く握り締めた。
「君は十分私を支えてくれている。今日の試合にしてもそうだ。君のお陰で、私は試合にも勝負にも勝つ事が出来た。」
「試合にも、勝負にも・・・・・・・?」
「君を賭けた勝負には、決して負ける訳にはいかない。だから、伝承者の座を賭けた試合には、敗北を甘んじて受け入れるつもりでいた。だが、あの時君が危険を顧みずに闘技場へ来てくれたお陰で、私はあの男に伝承者の座を奪われずに済んだのだ。君にはいくら感謝してもし足りない。」
「そんな・・・・・・・」
は言葉に詰まり、ただ戸惑うように小さく首を振る。
穏やかな静寂の中で、シュウは深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
今こそ告げたい。
以前から胸に秘めていた、あの想いを。
「それに、愚かなのは私の方だ。私のせいで、君には辛い思いを何度も味わわせたのに。それでもまだ私は、君を包む者になりたいと考えている。」
「シュウ・・・・・・・・」
「修行に発つ前から、この試合が終わったら言おうと思っていた。」
思い出す。
初めて出逢った日の事を。
あの時には、まさかこんなに愛するようになるとは思っていなかった。
こんなにも、かけがえのないものになるとは思っていなかった。
「私の人生は、今までただひたすら闘いに明け暮れていた。己が拳と南斗の宿命に生き、そして死ぬのだと思っていた。だが、その考えは変わった。私は南斗六聖・仁星の男として、その宿命も、君も、背負って生きていく。背負って生き抜いてみせる。」
「え・・・・・・・・・?」
「。私と・・・・・・・・・、結婚して欲しい。」
その言葉を聞いた刹那に感じた気持ちは、到底言葉では言い表せなかった。
頭の中でどんなに言葉を探しても、何一つ浮かばない。
驚きと僅かな戸惑いと、そして溢れそうな程の喜びが、胸を一杯に満たして声すら出させない。
「・・・・・・?」
「あ・・・・・・・、私・・・・・・・・」
それだけをやっとの思いで呟くと、涙が一粒零れて落ちた。
そして、瞬く間にシュウの穏やかな顔が滲み始めた。
「私・・・・・・、私で・・・・・・、良いの・・・・・?」
「ああ。」
「足手纏いに・・・・・・、ならない・・・・・・?」
「ああ。」
「後で後悔しても・・・・・・・、知らないわよ・・・・・?」
「ああ。」
後悔などする筈がない。
こんなにも深く深く愛した人は、しかいないのだから。
こんなにも人を愛する事など、きっともう二度とないだろうから。
シュウは小さく微笑むと、涙声のを胸の中に抱きしめた。
「・・・・・・・私と、結婚してくれるか?」
「・・・・・・・・!」
両手で包み込んでいたの顔がこっくりと縦に頷かれるのが、その直後、指に伝わってきた涙の熱さが、指先や掌を通して伝わってくる。
こんなにも幸福な手触りなど、今まで感じた事はない。
その喜びと感動は余りに大きくて言葉にならず、もどかしげに唇の辺りで佇んでいる。
シュウはそれを、の唇にそっと運んだ。
「愛している・・・・・・・」
「私も・・・・・・・・、愛してるわ・・・・・・・」
そう囁き合い、二人は何度も口付けを交わした。
言葉の代わりに、何度も、何度も。
それから間もなく、南斗の長老達からシュウへの沙汰が下された。
内容は一つだけだった。
南斗白鷺拳伝承者として、南斗六聖の一角として、今後も精進せよとだけで、他流試合の掟を破った事は不問に付された。
そうして、シュウが再び道場へ顔を出せるようになってすぐ、カシムの処刑が行われた。
スザクとエリザに体よく切られた事が、余程無念だったのだろう。
断末魔の叫びまで、呪いの言葉を吐いていた。
その邪な野心と卑劣なやり方には憎しみすら抱いていたシュウだったが、斬首に処されたカシムの骸に鞭打つ事は出来なかった。
如何に卑劣な男とはいえ、死してなお憎む気にはなれなかったし、何より、裏切られ報われない死を遂げた彼を、何処か哀れに感じたのだ。
カシムが知れば、地獄の業火の如く憤慨するであろうが。
なお、スザク父娘は処刑こそ免れたものの、長老の座を追われ、宗家から絶縁を言い渡された。
それは即ち、彼らの最も恐れていた破滅を意味するものだった。
シュウや他の者の話もさる事ながら、カシムの自白が決定打になったようであった。
その後、都から逃げるようにして他所の土地に移ったと人づてに聞いたが、それから以降は何をしていたのか、定かではない。
そして、また秋桜が咲き始めた頃。
二人が出逢ったあの季節。
町の小さな教会で、シュウとは、ささやかな結婚式を挙げた。
その場に立ち会ったのは教会の神父とレイ、そして写真の中の互いの両親だけで、サウザーは教会に大きな花束を送り付けてはくれたが、姿は現さなかった。
そんな彼を、シュウは彼らしいと苦笑した。
純白のウェディングドレスを纏い、咲いたばかりの秋桜で作ったブーケを持ったは、眩いばかりに美しかった、らしい。
らしい、というのは他でもない。
夫となったシュウだけが、盲目故にその姿を見る事叶わなかったのだ。
誰もがそれを残念がったが、しかしシュウの目には、その姿が鮮やかに映っていた。
の笑顔は、暗闇の中でいつも一条の光のように輝いていたからだ。
華美なものなど何もないが、優しく揺れる花と人々の笑顔に包まれたその温かい式を、二人は心から喜び、神に互いの存在を感謝して、永遠の愛を誓った。
そして、神と人々の祝福を受けて、二人は夫婦になった。
それから三年程経ち、神は二度目の祝福を二人に授けた。
子供が生まれたのだ。
朝方の神々しい光の中で、元気な産声を上げてこの世に生まれてきた息子と、その子を命がけで産み落としたに、どれ程の感謝を捧げたかしれない。
初めて我が子を抱いた時のあの温もりと重みは、今思い出すだけでもこの腕に蘇ってくる。
と同じ髪の色と、シュウの失くした瞳を持って生まれたその子をシバと名付け、二人は心から慈しみ愛しんだ。
愛し合い、子を産み育て、糧を得る為に働いて。
そんなささやかで平穏な生活が、二人を優しく包んでいた。
緩やかに流れる時、すくすくと育つ我が子、そして、季節が移ろう度に散っては咲く花。
ずっとずっと、そんな時間が続けば良いと思っていた。
だが、時代がそれを許さなかった。
私利私欲に狂う愚かな者達の諍いがきっかけとなり、やがて世界は核の炎に包まれた。
生きとし生けるもの全てが死に絶え、世界は完全に破綻した。
美しかった海も山も川も緑も、今ではもはや見る影もない。
そして・・・・・・・・・
「ん・・・・・・・・、父さん・・・・・・・」
シバの声で我に返ったシュウは、手にしていた花の鉢をテーブルに置き、シバの様子を伺った。
きっと疲れていたのだろう。
シバは椅子に座ったまま、背凭れにもたれて安らかな寝息を立てていた。
「仕方のない奴だな。こんな所で眠っては風邪を引くぞ。」
苦笑を一つ零すと、シュウはシバを抱き上げて、自分のベッドに寝かせた。
久しぶりに抱いた我が子は、知らぬ間に随分重くなっていた。
少し前まで乳を欲しがって泣くだけだった赤ん坊は、今ではレジスタンスの少年戦士として、日々闘いに明け暮れている。
すっかり背が伸びた身体は、もうこの腕の中には納まりきれない。
体格も、幼児のものから、がっしりとした男らしいものに変わろうとしている。
いつの間に、こんなに大きくなったのだろう。
父として、それを頼もしく誇らしく思う気持ちと、少し寂しく思う気持ちに暫し板挟みになりながら、シュウは微笑を浮かべてシバの額に張り付いた髪を掻き上げてやった。
亡き母親譲りの亜麻色の、自分に良く似た少し癖のある髪を。
は、五年前に死んだ。
あの忌まわしき核戦争の副産物、死の灰がその命を奪った。
我が子シバの命を助ける為、躊躇せず死を選んだを、悲しみと共に尊敬の念でもって送り出した事が、もう遠い昔の事のようだ。
涙は、流しても流しても枯れない。
今でもまだ、を愛している。
だが今の自分には、泣いての影を追い求めている暇はない。
仁星の宿命のもとに、走り続けなければならないのだ。
今、南斗は波乱の風に晒され、荒れ狂っている。
かつてこの南斗を牛耳ろうとしたスザクとエリザ、先の核戦争にて二人とも死んだと風の噂に聞き及んだが、もしも彼等が生きていたら、今のこの乱れた南斗をどう思うであろうか。
彼等があれ程固執していた宗家は今や砂上の楼閣と化し、宗家の跡取りとされていた息女ユリアは行方知れずと聞いている。南斗六聖も、それぞれ天に地に散った。
そして自分は、かつて好敵手と呼び友と呼んだサウザーに、日々闘いを挑んでいる。
待ち望んだ世紀末がやってきた途端、彼は自らを聖帝と名乗り、その野心を露にしたのだ。
かつてのささやかな願いが叶わぬ夢となってしまった事は、今となっては残念でならないが、罪無き者を苦しめる聖帝を許す事は出来ない。
彼が宿命に生きているのと同じように、自分もまた、宿命に背く事は出来ない。
だから。
友と呼んだ男は、もう居ない。
そう思って、日々シバや仲間と共に闘っている。
「うぅ・・・・ん・・・・・」
シバが小さな唸りと共に、布団を跳ね除ける音がする。
それにまた苦笑を零して、シュウは自らもベッドに入った。
布団を掛け直してやり、シバの隣に身体を横たえると、かつて平和だった頃の温もりを一時味わう事が出来る。
朝になれば、また血生臭い闘いの一日が始まるから。
一時こうして穏やかな温もりに浸り、かつての幸福だった日々の思い出に抱かれて眠る。
それが今のシュウにとって、心に平安を取り戻す唯一の方法だった。
「おやすみ、・・・・・・・」
テーブルの上の秋桜に向かって囁きかけ、シュウは束の間の夢に沈んでいった。
その花に良く似た、のあの笑顔と共に。
。
明日をも知れぬこんな時代だが、私達は生きている。
寂しい思いをさせて済まないが、私にはまだやる事が沢山あるのだ。
罪無き人々が笑って暮らせる世を造る事、それが私の使命だ。
それを成し遂げるまで、君には逢えない。
けれど、この世を包む闇に光が差し込んだその時。
私の役目が終わった時。
その時には、必ず君に逢いに行こう。
そしてまた、あの頃のように、二人穏やかに暮らそう。
今でも瞼に浮かんでくる、秋桜の咲くあの場所で、またいつか。