「助けてくれ!頼む、子供達だけは・・・・」
「へっへっへ、そうはいかねえよ。そら死ねぇーー!!!」
「うわあぁーーー!!!」
「ぎゃあーー!!」
「お父さーーん!!お母さーーん!!!」
「うわーーん、うえーーーん!!」
「うるせえガキ共だ!親と一緒に始末しろ!!」
「やめて!!まだ子供なのよ!!命だけは!!」
「うるせえ!!」
「ぎゃーーーー!!」
「うわーー!!」
「リク!!カイ!!」
「女は連れて行け!!」
「嫌!離して!!嫌ーー!!!」
「はっ!!」
またあの時の夢を見てしまった。
目の前で両親と幼い兄弟を殺され、家を焼き払われた。
そして自分は野盗達に捕らえられ、奴隷のような毎日を送っている。
「、起きたか。」
厭らしい目付きで寝台に上がってくるこの男は、私の全てを奪った憎い敵。
この男の玩具にされ、私は不本意ながらも生き永らえている。
何度も殺してやろうと思った。しかしその度に失敗し、半死半生の目に遭わされた。
厳しい監視をつけられて自害することもままならず、ただこの獣達の思うがままにされる。
「へっへへ、全くお前はいつ見てもいい女だ・・・。」
この身を玩ばれることにも、とうに慣れてしまった。
人形のように無表情に横たわっているだけ。何かしらの反応を返せば、この獣達は狂喜するから。
それがたとえ、怒りや拒絶や錯乱であってもだ。
だから私は心を平静に保つ。いや、正確に言えば平静ではない。
いつか必ず、家族の仇をとって自由を手に入れる。どんな手を使っても。
私の中に無遠慮に入り込むこの野獣に悟られないよう、心の中で固く誓う。
「ゲイン様!表に妙な男が!!」
「何だ!今いい所なのだ、邪魔をするな!!」
「そ、それがやたらに強くて・・・・!」
「何ぃ?よし分かった。すぐに行く。」
ゲインは手下と共に部屋を出て行った。
こんなことは日常茶飯事だ。この荒んだ時代にはつきものの奪い合い。
しかしゲインはここらでは名の通った盗賊だ。
手下の数も多く、少々腕が立つ程度ではとても敵うまい。
は乱された着衣を直して、寝台から下りた。
この部屋と向こうを仕切っているカーテンの隙間から、外の様子を覗く。
その瞬間、有り得ない光景に、は目を見開いた。
「うぎゃーー!!」
「へべ!!」
手下達がまるでゴミくずのように細切れにされている。
血に染まる室内。断末魔の悲鳴。
あっという間に手下達は皆殺しにされ、ゲイン一人になった。
「嘘・・・、あのゲインを・・・・」
は、固唾を呑んで二人の様子を伺った。
「さあ、残りはお前一人だ。」
「こっ、このヤローが!!死ねぇぇ!!!」
ゲインは大鉈で男に切りかかるが、まるで微風のようにかわされる。
次の瞬間、ゲインの片腕が落とされた。
「うっぎゃああーーー!!!う、腕が、腕がぁぁーー!!」
「もう一度言う。死にたくなければ質問に答えろ。アイリという女を知っているか?」
「し、知らん、俺は何も知らん!!た、助けてくれ、命だけは・・・!!」
「本当か?」
「ほ、本当だ、知らん!!だから・・・・」
「そうか、では貴様に用はない。死ね。」
男が呟いた直後、ゲインの体は細切れになった。
「嘘でしょ・・・・。」
は呆然と立ちすくむ。
この辺りで敵う者のなかったあのゲインを、一瞬で葬り去るなんて。
男は室内を物色している。
食料や水・酒などを次々と袋に詰めていく。
この男も野盗だろうか?
しかし人を探していたようであった。
一体この男は何者だろう?
「女、何を見ている。」
「!」
気付かれてしまった。
男はの方へ歩み寄り、カーテンを引き裂く。
「ほう、なかなかいい女だ。」
男はニヤリと笑っての顎をもたげる。
鋭い刃のような視線に、は凍りつく。
「女、お前の名は?」
「・・・・」
「ゲインの女か?」
「・・・・・・」
身体は蹂躙され尽くしたが、心までは蝕まれていない。
は返事をしない代わりに、強い視線で男の目をまっすぐ見つめた。
「ふっ、面白い女だ。俺が怖くはないのか?」
「・・・怖くないわ。」
「ほう。」
男は、の顔を面白そうに見つめる。
怖くないはずなどなかった。あのゲイン一味を紙切れのように一掃したのだ。
恐怖が全身を支配している。
「女、命だけは助けてやる。とっとと失せろ。」
男はの顎を離して背を向け、そう呟く。
渇望した自由。それが今やっと手に入った。
嬉しくないはずはない。
しかし次の瞬間、は途方に暮れた。
自由を手に入れて、何処へ行けばいい?
家族もなく家もなく、行くあてもない。
この荒れ狂う時代に何の力も持たない女一人、どうやって生きて行けばいいのか。
きっとこのまま外に出たところで、ゲインに代わる野獣の餌食になるだけだろう。
そんな奴等は星の数ほど居るのだから。
それならば。
「・・・何処にも行く所なんてないわ。」
「俺には関係のないことだ。」
「私を連れて行って。」
「断る。俺は自分の身一つで精一杯なんでな。」
「ただでとは言わないわ。何でもする。あなたの人探しの手伝いだって。」
「人探し」という言葉に、男は反応する。
男は再びに振り返り、真正面に立つ。
「・・・何でも、と言ったな。」
「・・・・ええ。」
男の問いかけに頷く。
突然男はの衣服を切り裂いた。
「!!」
「どうした、震えているぞ。怖いか?」
男は面白そうに口の端を吊り上げての顔を覗き込む。
「・・・・怖くなんてないわ。好きにすればいい。その代わり私を連れて行ってくれるわね?」
「フン、よかろう。そこまで言うのなら連れて行ってやる。」
「約束よ?」
「男に二言はない。」
そう言ってを寝台に押し倒し、覆い被さる。
獰猛な獣のような笑みを浮かべてを見つめ、男は言った。
「もう久しく女を抱いていない。せいぜい楽しませてもらうとするか。」