A56. 高頻度抗原に対する抗体:通常は誰もが持っている血液型抗原(つまり高頻度抗原)を、たまたま持っていない人が輸血や妊娠・出産による免疫反応で抗体を産生してしまう。

追加情報

症例 : 81歳 男性
病歴 : 慢性腎不全にて平成9年他院にて透析導入、平成10年より当院にて透析中
    大腸癌、前立腺癌(ホルモン療法中)、老人性痴呆、胆石
輸血歴 : 他院での詳細は不明だが、当院ではなし

平成13年10月6日に不規則スクリーニング陰性、交差試験すべて陰性にてMAP3単位輸血。輸血後異常認めず。その後の輸血歴はなし。
平成13年11月6日 不規則スクリーニングすべての血球でクームス法にて(W+〜1+)の凝集を認め、MAP4単位の交差試験も主試験にてクームス法で (1+)。直接クームス(1+)となり、DT解離試験を行い、解離液にてスクリーニングを行うがすべての血球で凝集を認めた。(当院ではブロメリンは使用していませんので、スクリーニング、交差試験は生食法、アルブミン、抗グロブリンで判定してます。)
院内にて抗体の同定が不可能なので、外注にて抗体同定を依頼しましたが、「クームス法にて凝集を認めますが、血液型特異性もみられず同定できません。また直接クームス (1+)」という結果が返ってきました。アンチグラムを見ますと、ブロメリンでの反応はす べて陰性だったようです。
この時点で、血液センターのほうに緊急ではないが輸血するにはどう判断したらよい のでしょうか。と問い合わせてみましたところ、高頻度抗原(JMH)に対する抗体ではないか。というお答えでした。そのことを確認する為にフィシン処理したパネルセルを頂き、 未処理のものと比較してみましたところ、処理血球にてすべて(−)となったので、抗JMH抗体でしょうという結論でした。結局、JMH陰性の血液というのは用意できませんと言われましたので、何本か交差試験を行うと凝集の強弱があると思うので反応の弱いものを使用して下さい。という事でした。
平成13年11月7日 MAP4本交差試験を行い、うち2本凝集が弱いものがあったので、注意しながら入れて下さいという事で結果返却しました。
輸血後特に異常を認めず、輸血効果もあったようで、その後11月15日に再度2単位輸血後しばらくは輸血のオーダーはありませんでした。
また、平成14年7月16日にHb 4.0g/dlで再度5単位輸血のオーダーがありました。このときの結果がすべてで主試験・副試験ともにクームス法で(+)、直接クームス(+)になってしまったのです。この時点で再度DT解離をやっているのですが、スクリーニングで凝集を認めませんでした。(私がやったわけではないもので詳細は不明です・・・)実際肺炎を合併していて、抗生剤(ファーストシン、カルベニン、バンコマイシン)を使用されていたので、そのせいで副試験が(+)になったと考えればよいのでしょうか?解離試験で陰性化するというのもよくわかりません。主治医から輸血のオーダーがあり、5単位すべての凝集があったので血液センターに問い合わせたところ、Rhの型を調べて、ABOとRhの型を合わせたら入れられます。ということでしたので、Rhを外注し、血液を用意してもらって、合計MAP4単位輸血されました。輸血の効果も見られ、溶血性のデータもなかったです。

疑問点
・不規則抗体の同定で、型特異性がなく、ブロメリンで凝集がない場合、すぐに高頻度抗原(JMH抗体)に対する抗体と考えていいものなのでしょうか?ほかの可能性として考えられる事はないのでしょうか?
・臨床側への対応としては十分なものだったのでしょうか。
この対応で本当に良かったのか、考え方はあっているのか、追加試験としてやっておかなければならなかったことは他になかったのか。当検査室のような試薬の限られた中でどこまでやっておけばいいのか、疑問が残った症例でした。
今後のためにもこのような場合はどう考えるのがよいのか、教えていただきたいのです。よろしくお願いいたします。


コメント
私も抗JMHは経験しております。
今回の症例と同様にフィシンクームス法(酵素法)が陰性となり、最終的に血液センターさんで抗JMHと同定して頂きました。

それから、疑問点についてですが検査の進め方は問題ないと思います。
スクリーニング血球およびパネル血球すべてに反応する場合、(非特異反応や複合抗体などのケースもありますが...)高頻度抗原に対する抗体が疑われます。
日本人で比較的よく検出される高頻度抗原に対する抗体には、抗Jra、抗JMH、抗Dibなどがあります。その中で、酵素法で陰性になる抗体の1つに、抗JMHがあります。(詳しくは、aaBBテクニカルマニュアル13版435ページをご参照下さい。)
ただ、酵素法で陰性になるからと言ってすぐに抗JMHと同定できるとは限りません。例えば、これも経験症例ですが、抗Chido(チド)などもクームス法陽性で、酵素法は陰性になります。(ちなみに、これは珍しい抗体なので平成14年2月の地方医学検査学会で発表させて頂きました。下記抄録を参照下さい。)
やはり抗JMHと同定するためには、JMH - 血球と患者血清の反応や患者血球のJMH抗原の検査を実施しなければなりません。要するに血液センターさんは検査結果から最も可能性の高い抗体を考えておられるのだと思います。

今回のような場合、輸血に関してはクロスマッチで凝集反応の弱い製剤を選択するしか方法はないと思います。また、輸血時の注意事項の説明や、輸血副作用の有無、輸血効果なども、しっかりとフォローされていて素晴らしいと思います。結構こちらのフォロー(経過観察)が大事です!

最終更新日:2014.3.6


抗Chaが疑われた一症例(平成14年2月発表抄録より)

【はじめに】
 今回、我々は不規則抗体検査試薬血球全てに対し間接抗グロブリン法で陽性を示し、抗体同定に苦慮した症例に遭遇したので報告する。
【症例】
 75歳、男性、MK再発術後。Hb6.0g/dlのため赤血球MAPがオーダーされる。
【検査結果】
血液型 O型RhD陽性
不規則抗体スクリーニング(BioVue) 間接抗グロブリン法 陽性、ブロメリン法 陰性。
不規則抗体同定(マニュアル法)パネル血球との反応 生食法は全て陰性、PEGクームス法 各々のCellとの反応(w+〜2+)、アルブミン加抗グロブリン法 各々のCellとの反応(1+〜2+)、フィシンクームス法 全て陰性。自己対照は全ての検査方法で陰性。直接抗グロブリン試験 陰性。患者血球の抗原 Jr(a+)、JMH +
【考察】
 自己対照を除く全てのスクリーニング血球やパネル血球と間接抗グロブリン法で凝集反応が起こることから、高頻度抗原に対する抗体の存在を疑った。患者血球はJra、JMH抗原共に陽性となり抗Jra、抗JMHは否定された。また、抗Iは生食法でも反応することから否定され、酵素法で陰性になることから、酵素処理によって破壊される抗原に対する抗体が疑われた。
最終的に自施設では抗体同定ができなかったため、血液センターに抗体同定を依頼した。その結果、患者血球と抗Chaとの反応および患者血清とCh(a−)血球ならびにC3d/C4d感作血球との反応から抗Chaが疑われた。
【まとめ】
 Chido(C4)抗原は、高頻度抗原に属する抗原である。このChido抗原は抗Chidoと結合し、間接抗グロブリン法で弱く反応する。輸血用の血液製剤は、間接抗グロブリン法の凝集反応の弱い製剤を準備したが輸血は実施されなかった。