喘息発作再び

 喘息により入院し、1週間くらいたった。
 喘息治療である全身性のステロイド注射による治療は終え、さらに24時間の持続吸入を治療を終えようとしていた。
 そんなある日の朝。
 
 ゆーさくにまた喘息発作が起こる。
 2時間くらい咳き続ける。
 主治医は、薬の流量を減らしつつあった持続吸入を元に戻した。
 
 その日の夜、主治医が当直だった。
 持続吸入をフルでしていたにもかかわらず、再び喘息発作は起こる。
 主治医はかなり悩んだ挙句、再び全身性のステロイド注射の指示を出す。
 夜中の処置。
 病室の明かりがつく。
 滅多なことがない限り、夜中の処置はベットの枕元灯を使うのだけど。

 ステロイド注射は効くのに30分くらいかかる。
 確かに、このときも注射をして30分くらいして、発作は収まった。
 主治医は言った。
 「ゆーさくさんの喘息発作には、どうやらステロイドが早くよく効くようだ・・・」。


 正直、この時期の記憶はあやふや。
 これを機に喘息の大発作が何回か繰り返されるのだ。
 
 常に発作のときは主治医がベットサイドについていてくれた。
 持続吸入はフルでしている、ステロイド注射も打っている。
 しかし、ステロイド注射は打つ時間の間隔が決まっている。
 大体、次のステロイド注射の時間まで、あと2時間1時間という辺りで、ゆーさくの喘息発作は起こっていた。
 いつも、ステロイド注射の時間がきて注射を打ち、それが聞き始め発作がおさまるまで、主治医は付いてくれていた。

 主治医は単に付いてくれているだけではなかった。
 ベットに腰かけ、ゆーさくの胸に手を置き呼吸介助をするようにしながら、「うーん、どうすれば・・・」と考え込んでいた。
 そして「やはり呼吸器にのせなあかんのか・・・」「うーん、わからん」といい、悔しそうな顔をして頭をかいていた。
 小児科病棟には呼吸器がない。
 NICUから借りるか、もしくは転院となる。


 私は一度思い切って聞いてみた。
 「咳が止まらなかったら、最悪何がおこるんですか?」
 主治医は言った。
 「除脈が起こり、心臓停止です。でも、除脈が起こる時には、サチュレーションも落ちるから、すぐわかるはず。」

 ・・・咳が止まるか、心臓が止まるか・・・
 その現実を知り、ステロイド注射が出来るまでの時間が私には怖くなる。
 考えればわかることなのだけど、当時そこまでゆーさくの病状を理論的に考えることのできなかった私は喘息重責発作の恐ろしさを知った。


 また、日曜日、主治医が救急外来当番の日にも発作がでた。
 主治医は外来をほったらかしで、ゆーさくのベットサイドで考え込んでいた。
 何度か外来からコールの電話が主治医のPHSにかかる。
 最初は「わかりました」と丁寧に答えていたのだけど、そのうち「どんな患者さん?それなら待ってもらってて」というようになる。
 しかし、ゆーさくの発作はなかなか止まらない。

 とうとう外来の看護師さんが主治医を呼びにきた。
 「外来が込んでてクレームが出始めています。最初の患者さん、もう2時間まっているんですけど・・・」
 主治医は、ゆーさくの発作が止まらないわ、外来の催促はあるわで、とうとうキレてしまう。
 「当直緊急時のときは、オンコールでセカンドドクターを呼ぶ!」
 主治医の怒鳴り声に、外来の看護師さんは困ったように病棟を去っていった。
 ただ、ゆーさくと主治医を見守る私は何も言えず突っ立っていた。


 何回かの大発作が起こり、数日で喘息重責発作は収束を向かえる。
 最悪の除脈が起こるようなこともなかった。
 ステロイドや持続吸入の薬量を徐々に減らしていき、最初に再び喘息重責発作が起こりはじめ10日ほどで、喘息は落ち着いた。

 当時は、目の前に起こることで精一杯だったのだけど、後から振り返るとかなり緊迫していた日々だった。
 「ゆーさくさんは重度の喘息です。
 アレルギーはないし(流動食にアレルギーがあるかどうかでアレルギー検査をすませていた) 未熟児慢性肺疾患からの喘息です。」
 主治医は言った。


 嘔吐物誤嚥による窒息、舌根沈下による上気道狭窄、未熟児慢性肺疾患により風邪が重症化しやすい・・・呼吸トラブルを何回か経験し、気管切開を決めた。
 とうちゃんもかあちゃんも気管切開をしたら、ゆーさくの呼吸状態は落ち着くと思っていた。
 しかし、落ち着くどころか、新たに喘息が本格化する。
 とうちゃんもかあちゃんもやりきれない気持ちになる。
 
 気管切開を終え、新たな生活をスタートさせたのに、家で過ごしたのはたったの2週間。
 この入院は、5ヶ月くらい続くことになる。