喘息発作

 2月13日、明け方のことだった。
 気管切開後、ゆーさくの咳き込みが爆弾のように日に何回かあったのだけど、そのときの深夜も咳き込みがきっかけだった。
 咳き込みがなかなか止まらず、鎮静剤の座薬を入れる。
 しかし、沈静剤が効かなかった。
 さらにサチュレーションが90前後のまま・・・。
 「これは、いつもの咳き込みと違う」と思い、B病院の深夜救急に行った。

 当直はたまたま主治医だった。
 主治医はすぐに聴診をして一言いった。
 「喘息だよ・・・」

 このときは、臨時の吸入をして、一度は咳き込みがとまる。
 主治医は、いつもの吸入に生理食塩水(人間の体液と同じ成分)を多めにいれ、なるべく吸入の時間を長くするようにしていた。
 これで咳き込みが止まったので、家でも生理食塩水を混ぜて吸入時間を長くするような指示をくれた。
 そして、そのときは、家に帰る。


 次の日、やはり咳き込みはいつも以上に多かった。
 丁度、金曜日で主治医の外来は午後で終り、土曜日は主治医の外来はなく、土日も主治医が当直かどうかわからない。
 吸入時間を長くしても、だんだん咳き込みは止まりにくくなる。
 もう一度、主治医に診察してもらい、吸入時間を長くしてもダメだったときの対応を聞いておこう、と思い、診察へ行った。

 病院についてしばらくして、また咳き込みがはじまる。
 家を出る直前に吸入をしたばかりで、40分くらいしかたっていない。
 主治医は外来を別の先生と交代し、NICUの処置に行っていた。
 しかし、主治医は外来の看護師さんが連絡を取ると「吸入をもう一度してもらってて。すぐ降りる」といってくれ、降りてきてくれた。

 主治医は「んー、やっぱりあかんかったか・・・」という。
 一応、1時間も間が開いていない2回目の吸入(通常は4時間あけなければいけない)でゆーさくの咳は一旦とまる。
 「もう家でやれることは、ないなぁ。吸入を立て続けにしないと止まらないとなると、それは副作用の問題で僕の元でせなあかんことやし、入院になる」主治医は言った。
 ・・・こないだ、D病院を退院したばかりなのに・・・かあちゃんはうんざりしたのであった。


 入院手続きが終わり、病室に移動する。
 その間も、長時間ではなく、断続的にではあったが、ゆーさくは咳き込む。
 主治医が病室にやってきた。
 「今までやっていた吸入は、集中的に短時間吸入したら6時間くらい効果がある持続性のある薬で、定期的にする吸入。しかし、今のゆーさくさんには薬の効果の持続性がない。違うやりかたで、たえず即効性のある薬を吸入し続けるプロタノールという薬による吸入があります。それをやります。」主治医は言った。
 そして、病室の酸素の供給口に、その持続吸入器トをつなぎ、さらに長いホースで吸入器とゆーさくの気管切開孔をつなぐ。
 ”シュー”という音とともに、ゆーさくは24時間持続吸入を開始した。

 持続吸入を開始し、ゆーさくの咳き込みは落ち着く。
 そうして、喘息を起こして、2日目の夜を迎えた。
 

 ところが、夜の10時ごろ、ゆーさくはまた咳き込みはじめる。
 たまたま主治医が病棟にいて、すぐに駆けつけた。
 ゆーさくの咳き込みの音は、気管カニューレが笛のような役割を果たし、病棟の廊下に響き渡っていたらしい。
 「また、咳き込みはじめましたか・・・」少し苦笑いをしていた。
 この咳き込みは、なかなか止まらなかった。
 吸入をしているのに、止まらない・・・主治医は考え込む。

 しばらくして主治医が「ステロイドを使います」と言い、準備をしにいった。
 ステロイドの薬を点滴の管を使い注射する。
 ステロイドが効くまでに30分くらいかかる。
 その30分くらい、ゆーさくは咳き込み続けた。
 そして、ステロイドが効いたのか、ゆーさくは落ち着き寝始めた。


 さらにそれから4時間くらいたった夜中から明け方頃だったと思う。
 またまた、ゆーさくは咳き込みはじめる。
 看護師さんは先生に連絡をとった。
 主治医は(もちろんだけど)帰宅していて、当直の先生がきた。
 小児科で一番偉い先生だった。
 
 当直の先生は、通常の吸入や、咳止めの頓服薬など、一通りやるように指示をだす。
 しかし、ゆーさくの咳き込みは止まらない。
 そこで「ステロイド、繰り上げて入れて」と指示をだす。
 そしてステロイドが効く間、ゆーさくの咳き込みを見守りつつ、当直の先生は言った。
 「これで止まらなかったら、人工呼吸器にのせる必要があります」・・・。
 
 「えっ?またA病院にいかなあかんのですか?」
 細気管支炎で気管内挿管をしたときを思い出す。
 あの時は、人工呼吸器治療が必要になったのだけど、B病院に小児用の人工呼吸器がNICUで塞がっていて病棟にはなかった。
 他にも理由があったのだけど、あの時は結局大きいA病院に転院となった。
 しかし、A病院は対応に関して、とうちゃんやかあちゃんは不満があるので、あまりお世話にはなりたくなかった。
 当直の先生は言った。
 「いや、臨時の集中的な呼吸器だから、転院までしなくても、もし呼吸器の空きがなかったとしても、手動呼吸器で様子をみます」

 咳き込みがとまらなかったら、人工呼吸器・・・。
 当直の先生と看護師さんとかあちゃんでステロイドが効くのを待つ。
 かあちゃんは咳が止まるのを祈るようにゆーさくを見守っていた。
 願いはかなう。
 しばらくして、ゆーさくの咳き込みは収まり、再度ゆーさくはしずかに寝入った。

 それから、咳き込みは起こらなかった。
 次の日も。
 咳き込みが落ち着いたので、私はほっとした。

 しかし、のちにこの喘息発作の繰り返しを、喘息重責発作ということを知る。
 咳き込みは、喘息の大発作であった。
 喘息はよく聞く病気。
 正直、喘息がこんな大変なことだとは思っていなかった。