気管切開決定

 細気管支炎による呼吸状態の悪化からゆーさくは、急遽小児科病棟の充実した大病院A病院へ転院、A病院を退院した次の日B病院の主治医の元へ診察に行った。
 主治医は言った。
 「もう、気管切開しかないですね・・・」
 「そのとおりです。」
 私は言った。
 
 舌根沈下による上気道狭窄だけならば、鼻マスクによる呼吸器、ネーザルCPAPでも対応が可能。
 しかし、ゆーさくは慢性肺疾患があり、肺そのものが未熟なため、風邪やら喘息などでの呼吸状態悪化のリスクが高い。
 現に、細気管支炎で気管内挿管をし、さらに挿管だけでは不十分で呼吸器治療を行ったばかり。
 さらに、脳性麻痺による舌根沈下以外の問題もある。
 現に、その半年前に嘔吐物の誤嚥による窒息事故を経験した。

 「舌根沈下の問題だけでなく、今回の細気管支炎のようにゆーさくさんはちょっとした風邪が命に関わる危険が高い。
 気管切開をすることで、治療する側としてもすぐ呼吸器につなげられることができ、危険な状態になっても治療がしやすい。」
 主治医はそういった。
 「そうですね、この半年で2回も死にかけてから気管内挿管することが起こったらさすがに・・・。」
 私も主治医の言うことはよくわかった。
 主治医と私の意見は一致。

 そこで、私は主治医に質問。
 「どうしましょ?一応おとうさん連れてきて先生と直に話をさせる機会をつくるべきでしょうか?」
 ・・・そうなのだ、私が納得していてもとうちゃんが納得しているのかはわからない。
 細気管支炎で気管内挿管をしたゆーさくを見たとうちゃんは、そのときは気管切開やむなし、と言っていたものの、今はどうなのか、少し不安があった。
 「いや、おかあさんから話が伝わり、おとうさんもOKいうなら、いいですよ。」
 主治医は言った。

 さらに、手術先の病院を相談する。
 B病院では大人の気管切開手術はするけれど、子供の気管切開手術は行われない。
 別の病院にいって手術をしてもらわないといけなかった。
 主治医はA病院を薦めた。
 しかし、今までのA病院での対応や小児科主治医とのやりとりを通じて、私がA病院は嫌だなあと思った。

 また、A病院のそばにD病院がある。
 D病院は、ゆーさくの通う保育園に提携しており、また、保育園の目の前にある。
 さらに、保育園側からゆーさくもD病院小児科に一度「こういう子がいますよ」とかかっておいてくれ、といわれていた。
 手術後の通院を考えると、D病院のほうが保育園登園前にちょいと診察へ・・・という小技が効く。
 私は「保育園登園のことを考えるとD病院のほうが助かります」と主治医に言ってみた。
 主治医は「そうだなぁ。D病院にカルテをつくらなあかんし、おかあさんの言うことも大事やし、D病院のほうがいいかもね」と言ってくれる。
 
 主治医にD病院に連絡を取ってもらい、すぐに紹介状を書いてくれ、D病院への段取りは整う。

 一方で、主治医の診察の日の晩に、とうちゃんに改めて、手術への確認を取る。
 とうちゃんは、「挿管したときは、さすがに気管切開は仕方ない、と思ったけど、やっぱり少しまだ気管切開をしなくても、という気持ちがある」ということを言った。
 「んなこといって、またこないだみたいに挿管することになるのもあかんやろ〜」
 「そうなんだよな。だから、気管切開しかたないかな」

 こうして、ゆーさくの気管切開は最終決断された。
 
 数日後D病院へ行き、D病院での小児科の先生と話をする。
 さらに、D病院では気管切開は、耳鼻咽喉科が行うということから、耳鼻科の先生とも話をする。
 耳鼻科の先生は「呼吸トラブルが多くて、さらに舌根沈下が起こってるならば、気管切開をしたほうがいいですね」と言い、小児科の先生と手術日の調整にすぐに入ってくれた。

 1月6日、D病院入院、術前検査などを行い、1月14日気管切開術が行われることに決まった。

 とうとう、気管切開に向けての具体的な行動に入る。
 D病院受診の日から手術まで3週間くらいあった。
 ゆーさくの声が出にくくなるのが可哀想だというという親心、気管切開の在宅ケアについてさっぱりわからず、手術後にどういう生活になるかわからないという不安、一方でこれでゆーさくの呼吸は楽になりこれからゆーさくはもっと元気になるかもしれないという期待、など、いろんなさまざまな思いがぐるぐる駆け巡っていた。