イヤーな話
what's the year?
品種データの年号
フクシアの品種ガイドやカタログには、品種名と共に花色などのデータが記載されます。
「◯△※▼年」という年号もその1つです。
この年号は何を表すのでしょう? その品種が育種 (作出) された年でしょうか?
それがどうも一概には言えなさそうです。
というわけで、イヤー (year) な話の始まりです。

品種ガイドというのは、George Bartlett による
Fuchsias 〜
A Colour Guide 〜 のように、品種の紹介がメインの書籍のことです(同書の場合は2,000品種以上が掲載されています)。
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混沌とした世界
結論を先に書きますと、
品種ガイド、カタログその他に記載された品種データの年号は、
- 品種ガイド、カタログその他の間で食い違いがあり、
- 同じ書籍内でさえ一貫した基準を見いだすことは困難な場合があり、
- 一般栽培者には何を意味するのか確認できない数字である。ただし信頼できる他の資料で裏付けを取れる場合もある。
と管理人は思っております。
もう先を読む必要がないぐらいですが (ええ本当に)、以下、年号表記の実例などを挙げます。
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登録年の表記
JAAR (year) の欄に 「1988年」 と記載されています。
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このように、年をずらして複数の機関へ登録されている品種は他にもあります。
けれどもある本に 「本書の品種データに記載されている年号は、その品種が初めてintroduce (紹介、導入、発表の意味) された年です」 と記されているとしましょう。
また NKvV に先に登録され、後年に AFS に登録された品種がいくつも掲載されているとします。その年号が、AFS の登録年だったり NKvV
の登録年だったりしたらどうでしょう?
この書籍は何を基準に 「初めて introduce 」 された年としているのかと読者は悩んでしまうでしょう。しかし実際にそのようになっている本もあるのです。

それでも、多数の品種データをすばやく閲覧できる品種ガイドの価値は十分にあるとは思います。
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AFS の品種登録とは
ここで AFS の品種登録について簡単に書きます。
AFS は International Society for Horticultural Science (国際園芸学会) の委托により、1967年よりフクシア品種の国際登録機関となっています
1)。
登録データベースを見ると、品種名、登録された年、登録番号、育種者名などがわかります。
新品種は AFS に登録することで国際的に唯一無二の品種であると認められたことになります。

AFS の登録データベースはウェブから自由に閲覧できますが、閲覧方法は変わることがあります。
この原稿を書いている時点では、品種名を入力すると、登録年、育種者、登録番号のデータが呼び出せるようになっています。
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AFS に登録されていない品種もある
しかし AFS に登録されていない品種も多数あります。
まず非常に古い品種は登録外です。
James Lye やLemoine が育種したビクトリア時代の品種がそうです。有名なトリフィラ・タイプ Gartenmeister Bonstedt
なども登録外です。試しに、AFS の登録データベース閲覧ページで古い品種の名前を入力して検索してみてください。データベースからは何の返事も返ってこないはずです。
現代ブリーダーである Goulding (イギリス) の有名品種にも、AFS に登録されていないものが多数あります (これらは
NKvV には登録されている場合があります)。
エンジェルス・イヤリング (写真) も AFS には未登録です (いずれも2008年末時点)。
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古い品種の年号
さて、品種ガイドの年号には AFS や NKvV に登録した年が採用されていることがわかりました。
しかしそのようなシステムがなかった時代の品種についても、品種ガイドにはたいてい年号が記されています。
古い品種の情報をどこから得るのか管理人は承知していません。
ナーサリーのカタログなどビジネス上の文書や、育種者本人による記録が残っていて、それらを基にしているのかもしれません。
その場合、品種ガイドの年号が何を表すのかは、幸運に恵まれれば別の資料から窺い知ることができます。
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たとえば、Clair de Lune の場合、Leo Boullemier の
The Checklist of Species, Hybrids and
Cultivars of the Genus Fuchsia に 「この品種は1880年頃に育種されて云々」 とエピソードが書かれています
2)。
このエピソードが頭に入っていれば、別の文献で Clair de Lune の欄にただ 「1880年」 と書かれていても 「ああ、これはたぶん育種された年を書いているのだ」
と推測できるわけです。
けれども多くの場合、年号が何を表すのか読者は推し量れません。
また、古い品種の年号が見る資料(市販の書籍、登録データベースなど)によって異なることも珍しくありません。いずれも育種年を採用しているが何かの理由で年号が異なるのか、ある書籍は育種年を採用し、別の書籍はたとえば売り出した年を採用しているから年号が異なるのか、etc.,etc.,
読む側にとっては何が何だかわからないのです。
まことに混沌とした世界と言えましょう。

NKvF (オランダフクシア協会) の登録データベースの場合はAFS とは異なり、古い品種も登録されて登録番号が与えられています。
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新しい品種の年号も資料によって異なり根拠が不明なことがある
現代の品種についても、掲載されている年号が資料間で異なり、年号の根拠も確かめられない場合があります。
右の品種 Ben Jammin の年号は、
- AFS の登録データベース - 1995年、
- Find That Fuchsia - 1995年、
- Fuchsias 〜 A Colour Guide 〜 - 1993年、となっています。
1995年と書かれていれば、AFS に登録した年を採用したのだろうと推定できますが、1993年は何の年か管理人には裏付けが取れないままです。
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原種
品種ガイドなどで種 (原種) を紹介する場合、初めて introduce された年とはその種が初めて学術記載された文献の発表年を指すと理解しています。
しかしながら手元の品種ガイド等を見るかぎり、年号も記載者名も書籍間で必ずしも一致していません。
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栽培者、サイト運営者の悩み
こうして見てみますと、「year (年号)」 はなかなかクセモノです。
冒頭に書いた結論の言い換えになりますが、管理人は今のところ次のように考えています。
「品種の説明に書かれた年号は育種 された年であったり、登録された年であったりと一貫性のないデータである。何を表す年かわかるのは、自分自身が一次資料による裏付けを取れる場合だけである」
誰でもアクセスできる一次資料としては、AFS などによる公的な品種登録データ、育種者自身の著書やサイトがあります。
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では私たちがサイトで品種を紹介し、年号を記そうとするとき、誤解や混乱を避けるにはどうすればよいのか … ?
年号を書かないという手もありますが、最新の品種なのか歴史に裏打ちされた品種なのかぐらいは伝えたいのが人情です。
これはもう、サイト運営者がそれぞれにベストと思う方法で書くしかないでしょう。
また、サイトや品種ガイドを閲覧する側は、資料によって異なる年号が書かれていること、その年号が何 (育種年、登録年など) を表すかも一定していないことを心に留めておくのがよいと思います。
(2009年12月15日)
(2014年11月22日編集:WALZ HoornをWALZ Harpに訂正)
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参考 (数字をクリックするとページ内のリンク先へジャンプします):
- 1) BOULLEMIER. L.B.、The Checklist of Species, Hybrids and Cultivars
of the Genus Fuchsia、Blandford Press (1985)、p.13
- 2) BOULLEMIER. L.B.、The Checklist of Species, Hybrids and Cultivars
of the Genus Fuchsia、Blandford Press (1985)、p.121
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