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自生地を知る

understanding natural habitats of fuchsias

主な原種の自生地

フクシア属には100を超える原種が確認されています。
ここでは BFS の ALL ABOUT FUCHSIAS で 「今日のフクシアの交配に広く使用された」 あるいは 「今日のフクシアの育種に重要な役割を果たした」 とされている種、およびエンクリアンドラ・タイプの交配親とされている種に焦点を絞り、それぞれの自生地を表にまとめました 1)

表内のデータは Euro-Fuchsia より引用していますが、Euro-Fuchsia もこれらのデータを他の文献/CDより引用しているので、拙サイトでは孫引きしていることになります 2)
文献名/CD名についてはEuro-Fuchsia をご覧ください。

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種名 地域 標高
F. magellanica Quelsia 中央および南アンデス (チリおよびアルゼンチン) 〜パタゴニア南部 0 〜 1750m
F. coccinea Quelsia リオ・デ・ジャネイロ州北部 1400 〜 2000m
F. regia Quelsia 3つの亜種 (ssp) により:
ブラジル東部の湿林、
ブラジル パラナ州、
リオ・デ・ジャネイロ州
それぞれ:
1000 〜 2400m
800 〜 1750m
500 〜1500m
F. boliviana Fuchsia 北アンデス〜ペルー南部、コロンビアおよびベネズエラ 1000 〜 3000m
F. triphylla Fuchsia ハイチ、ドミニカ 1100 〜 2000m
F. fulgens Elobium メキシコ西部の湿気のある場所、小川のほとり 1450 〜 2300m
F. splendens Elobium メキシコおよびコスタリカの、通常は湿林に自生 2400 〜 3400m
F. microphylla
ssp. microphylla
Encliandra メキシコ北部山岳地帯  2100 〜 3200m 
F. thymifolia
ssp. thymifolia
Encliandra メキシコ北部 2000 〜 3200m

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表を見れば、フクシアはいわば熱帯の高山植物であるとの印象を持たれるでしょう。
F. magellanica のみ標高がゼロメートルから始まっていますが、この種は中央アンデスから南米最南端のパタゴニアまで広範な緯度をカバーしている点に着目してください。

中央アンデスの森林限界は標高3000mであるのに対してパタゴニア・アンデスのそれは標高数100mであり中央アンデス高地とパタゴニア低地は環境的にきわめて類似しているそうです 3)。つまり、自生地の標高が広範囲におよぶといっても、その環境は似たり寄ったりだということです。

和書でフクシアの自生地に触れているものには、日本放送出版協会による 『よくわかる栽培12か月 フクシア』 があります。
「フクシアの原生地、アンデスを訪ねる」 というわずか2ページの記事ですが、栽培上示唆に富んだ貴重な内容です (記事の執筆は国立民族学博物館 名誉教授 山本紀夫氏) 4)
同書が多数のページを割いている月ごとの作業は、実際の栽培環境により大きく異なります。たとえ 「標準地域」 にお住まいでも調整が必要です。しかし自生地の情報は事実そのものです。

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熱帯雲霧林

「フクシアの原種にとって最大の自生地 -- 雲霧林 (cloud forests) は、世界でもっとも危機にさらされている環境である」
これは E. Goulding の言葉です 5) (「最大の自生地」 の原文は "the most common natural habitats for fuchsia species")。

熱帯雲霧林とは、熱帯の山岳地帯にあり、湿度が高く、しょっちゅう霧が立ちこめている常緑の森林です。詳細な気温データは残念ながら見つかりませんでしたが、一部の雲霧林についてはツーリスト向けのデータがレジャーサイトに掲載されているのでそれを参考にしてみましょう 6)
そのサイトによると、熱帯コスタリカにある Monteverde (モンテヴェルデ) 自然保護区 (標高約1400m) の毎日の最高気温の平均は、1月〜12月までいずれの月も24〜27℃の間に収まっています。また最低気温の平均は15〜17℃の間に収まっています。

写真は Monteverde の熱帯雲霧林

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さらに高地の自生環境を推定するため、 Monteverde の気温を基準に標高2000mと3000mの気温を計算してみましょう。
標高が100m上がるごとに気温は0.6度下がるという計算式に当てはめれば、標高2000mの最高気温は1年を通じて約20.4〜23.4℃、最低気温は約11.4〜13.4℃です。同じく標高3000mなら最高気温は約14.4〜17.4℃の範囲、最低気温は約5.4〜7.4℃です。

熱帯高地とは、気温の年較差が小さいという熱帯の特徴を維持したまま、その標高ゆえに低温側にシフトした環境と考えれば良いでしょう。

上記の気温はコスタリカの Monteverde を基準に算出した値です。
最初の表にある標高2000m、3000mの気温が必ずこの値になるという意味ではありません。しかしながら、フクシアを栽培している方は、はじき出された2000mの気温が、だいたいフクシアの適温であることにお気づきでしょう。

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熱帯雲霧林については、2004年に UNEP (国連環境計画) の WCMC (世界自然保全モニタリングセンター) が発表したレポート Cloud forest agenda 7) に詳しく解説されています。このレポートによると、熱帯雲霧林の59.7%はアジアにあり、25.3%は南北アメリカに、15%がアフリカにあるそうです。
Cloud forest agenda (pdfファイル) は UNEP WCMC のサイトからダウンロードできます。この記事を書いた時点では、メニューから [UNEP-WCMC Publications] - [Publication List] - [UNEP-WCMC Biodiversity Series] の順にクリックすると当該ページにたどり着きます。
ここですみませんが余計な話をします。

手元の資料に 「ペルーのフクシア原生地」 と文字入れされた写真があります。
岩がゴロゴロした灌木地帯で、空を覆うような樹木はなく、雲霧林とはほど遠い風景です。
残念ながら写真をアップできませんが、こういう場所も自生地です。

「最大の自生地は熱帯雲霧林」という表現が一人歩きして、いつのまにか 「フクシアの自生地は熱帯雲霧林」 になっては困りますのであえて書いておきます。

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クールオーキッド

ラン栽培の経験はほとんどありませんが、フクシアと少々縁のある植物のように思えます。
それはクールオーキッド (cool or cold growing orchids) と呼ばれる好冷性のランが、フクシアと同じ中南米の熱帯雲霧林を故郷としているからです。

"cloud forest"、"orchid" をキーワードに検索すると、Masdevallia (マスデヴァリア)、Odontoglossum (オドントグロッサム)、 Lycaste (リカステ) など、日本でも広く知られているクールオーキッドがヒットします。

写真はリカステの園芸品種
ランの栽培書 8) やラン関係サイトを見ると、クールオーキッドの温度要件は、管理人が考えるフクシアのそれとよく似ています。
暖地では、四方がガラス製のショーケース型冷蔵庫にクールオーキッドを入れて、適温を維持している栽培者もいるようです。

フクシアの場合、大きさの関係でショーケース型の冷蔵庫に入れるのは難しそうですが、徹底的に涼しく過ごさせるラン栽培者の姿勢は見習いたいものです。

フクシアにとって高温、特に夜温の高さは黄泉の国への近道です。

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パタゴニアの F. magellanica

Monteverde やそこから計算した2000m、3000mの気温は、真夏はもちろんのこと冬もない気候を思わせます。

実際、上表の F. bolivianaF. triphyllaF. splendensF. fulgensF. thymifolia は、H1 (耐寒性なし、霜害厳禁) に分類されています。
標高3400mに自生していても耐寒性がないのは、フクシアの場合驚くことではありません。

一方、マゲラニカ・タイプの園芸品種は、H1よりも耐寒性に勝るH2が多いですね。
そのような性質をもたらしたのは、耐寒性にもっとも優れたH3の F. magellanica でしょう (F. coccineaF. regia から耐寒性を受け継いだ品種もあるかも知れません。いずれもH3です)。

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最初に書いたように F. magellanica は広範な緯度にわたって自生しています。その1つ、南米最南端の地パタゴニア (南米の南緯約40度以南の地域) の気温を検討します。
ここではパタゴニアの都市、チリの Punta Arenas (プンタ・アレナス、南緯約53度) を例にとりましょう。
世界気象機関 9) のデータによると、1月 (真夏) の平均最高気温が14.7℃で平均最低気温は6.5℃、7月 (真冬) の平均最高気温が3.7℃、平均最低気温は-1.1℃になっています。

なるほど、このような環境に自生しているなら、フクシアとしては低温に強いことも頷けます。
写真はパタゴニアのTorres del Paine (トーレス・デル・パイネ) 国立公園
F. magellanica も自生しています。

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対照的な気候の下で

自生地の環境を知ることは大切だと言われていますが、フクシアに関するかぎり管理人の近隣ではあまり意識されていません。
6月頃 (気温はすでに30℃超) に 「これからどんどん咲きますよ」と言いながら売っているお店を目にするからです。
冷涼地ならいざ知らず、暖地でそれはないでしょう。購入者は株をほどなく失い、挿し木も失敗して、「フクシアは戦力にならない植物」 との印象だけが残ります。
辛口のことを書いていますが、そのような園芸店を非難するためではなくて、現実がそうである以上、栽培者の側で賢明な判断をするしかないと思うからです。

フクシアと同じく中南米の高地に自生するクールオーキッドは、エキスパートが経営するラン園で扱われており、買う側もそれなりの心構えをして買うのです。

自生地との気候差が大きければ、フクシアと折り合いをつけるための労力はいささかなりとも増します。
けれども自生地の気温を念頭に置いて、購入時期を誤らず、好適温度を外れる前に早めの対策を講じれば、せっかくの品種をわずかな期間で失う確率もそれなりに下がりますのでどうか環境を整えることを心掛けてフクシアとお付き合い願えればと思います。

※ 雲霧林およびトーレス・デル・パイネ国立公園の写真は写真素材サイトPIXTAより購入し、規定に従って使用しているものです。

(2010年3月4日)

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参考 (数字をクリックするとページ内のリンク先へジャンプします):

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