New York Times v. United States ペンダゴン・ペーバーズ事件

 

 合衆国政府はニューヨーク・タイムズ社とワシントン・ポスト社のベトナム戦争に関する記事の公表を差し止めることができない。ペンダゴンペーバーズ事件。
 

ニューヨーク・タイムズ 対 合衆国

New York Times v. United States     
 (The Pentagon Papers Case)

403 U.S. 713 (1971)

合衆国最高裁判所

Supreme Court of the United States

1971

 

First Amendment to the Constitution of the United States
 Congress shall make no law respecting an establishment of religion or prohibitingthe free exercise thereof; or abridgingthe freedom of speech, or of the press; orthe right of the people peaceably to assemble, and to petition the government foa redress of grievances.

合衆国憲法修正第1条
「合衆国議会は、宗教の国教化を尊重する、もしくは自由な宗教活動を禁止する法律、または言論、出版の自由、もしくは平和的に集会し、苦情の救済をもとめて政府に請願する人民の権利を縮減する法律を制定してはならない。」


≪事件の経緯≫
1976年、当時のマクナマラ(Robert McNamara)国防長官は,アメリカのベトナム政策は失敗だったと確信し、この失敗を繰り返さないようにするため,アメリカのインドシナ政策に関する資料を広く収集し報告書を作成するよう指示した。このためにプロジェクトチームが組まれ,ランド研究所(Rand Corporation)の研究員,ハーヴァード大学の歴史学教授,国防総省と国務省の官僚ら,合わせて34人のメンバーで構成された。1 年半後の1968年12 月に,「ベトナム政策に関する合衆国政策決定過程の歴史 (History of U.S. Decision-Making Process on Viet Nam Policy)(全47巻) および「トンキン湾事件の司令と統御に関する研究(Command and Control Study of the Tonkin Gulf Incident)」(全1巻)、本文約3,000 頁,資料約4,000 頁に上る膨大な記録、いわゆるペンタゴン・ぺーバが完成した。各頁には「極秘(top secret)」のスタンプが押されていた。
 このプロジェクトチームの中に,ランド研究所の経済学者ダニエル・エルズバーグ(Daniel Ellsberg)がいた。エルズバーグは,この文書を公表すればベトナム戦争を早期に終わらせることができるのではないかと考え,ランド研究所の金庫に保管されていた文書のうち,当時進行中の和平交渉に関する4巻を除く43巻を,「極秘」のマークを白紙で覆ってコピーした。コピーされた文書は、アイゼンハワーからニクソンまで4代にわたる大統領の在任中、政府が危険性と戦費を実際よりも高く見積り,他方で戦勝の見込みが低いと判断しており、国民を欺いてきたことを示していた。エルズバーグは、1971年2月から3月にかけて,ニューヨーク・タイムズの記者のシーハン(Neil Sheehan)に接触し,文書のコピーを手渡した。
 6月13日,ニューヨーク・タイムズ社は、記事の連載を開始した。しかし,その2日後、合衆国政府の請求にもとづいて、文書公表に対する暫定的差し止め命令(temporary restraining order)が出された。エルズバーグは、今度は,ワシントン・ポストにコピーを渡した。ワシントン・ポストは、6月18日に記事の連載を開始したが、この連載に対しても暫定的差し止め命令が出されると、エルズバーグは、他の17紙に文書を渡した。


≪差し止め命令≫
ある行為をさせない、させるための裁判所の命令
 次の3種類がある。
暫定的差し止め命令(temporary restraining order):
 緊急性があり、差し止めなければ直ちに回復不能な損害(irreparable injury)を生じ  させる と裁判官が判断した場合に、他方当事者に通知することなく、また審理を経る ことなく、申立人の一方的要求にもとづいて出される差し止め命令。 次の「予備的差 し止め命令」について裁判官が判断するまで効力をもつ短期的な命令である
予備的差し止め命令(preliminary injunction):
 差し止めなければ回復不能な損害が生じると申し立てられている場合に、差し止め命令 の是非が最終的に終局判決によって確定するまで効果をもつ命令。 裁判官が、申立人 と他方当事者それぞれの主張を聞いた上で、申立人が最終的に勝訴する可能性、回復不 能な損害の範囲などを考慮して認めるか否かを決定する。
局的差し止め命令(permanent injunction)
 差し止めが報道の自由を侵害して違憲であるか否かなどの本案について事実審理を行  い、それにもとづいて出される終局的な差し止め命令。

●ニューヨーク・タイムズ
 ニューヨーク南部地区の連邦地裁は、暫定的差し止め命令を認めたが、予備的差し止め命令を求める合衆国政府の請求を退けた。連邦控訴裁は、暫定的差止命令の継続を認めた上で,本文書の公表が「合衆国の安全に重大かつ差し迫った危険を引き起こす」かどうかについて,さらに審理するよう求めて事件を地裁に差し戻す決定を行った。この決定に対して、ニューヨーク・タイムズ社が最高裁に上告した。

●ワシントン・ポスト
 コロンビア地区の連邦地裁も控訴裁も暫定的差し止めを認めたが、予備的差し止め命令を認めなかったので、合衆国政府が最高裁に上告した。
  


≪合衆国最高裁判決≫
 この判決は、執筆者を明示しない「裁判所の意見(per curiam)」として公表された。簡潔な意見であり、要約すると以下のようになる。
 表現に対する事前抑制は、 違憲であるという強い推定を受ける。政府には、そのような制約(事前抑制)を課すことを正当化する重い責任がある。ニューヨーク・タイムズ社の事件においてニューヨーク南部地区の地裁が、ワシントン・ポスト社の事件において、コロンビア地区の地裁と控訴裁が、政府はそのような責任を果たさなかったと判決した。われわれはそれに同意する。


以下では、個別意見の書いた裁判官の一人、ブラック(Black)裁判官による意見を抜粋して読むことにする。

≪Paragraph 1≫
 [1] When the Constitution was adopted, many people strongly opposed it because the document contained no Bill of Rights to safeguard certain basic freedoms . [2] They especially feared that the new powers granted to a central government might be interpreted to permit the government to curtail freedom of religion, press, assembly, and speech . [3]In response to an overwhelming public clamor, James Madison offered a series of amendments to satisfy citizens that these great liberties would remain safe and beyond the power of government to abridge. [4]Madison proposed what later became the First Amendment. [5]In the First Amendment the Founding Fathers gave the free press the protection that it must have to fulfill its essential role in our democracy. [6]The press was to serve the governed, not the governors. [7]The Government’s power to censor the press was abolished so that the press would remain forever free to censure the Government. [8]The press was protected so that it could bare the secrets of government and inform the people. [9]Paramount among the responsibilities of a free press is the duty to prevent any part of the government from deceiving the people and sending them off to distant lands to die of foreign fevers and foreign shot and shell.

上のブラック裁判官の意見の前半部分を理解するためには、次の解説による背景知識の確認が有用である。

[解説]
 植民地から独立した13の「邦(state)」(州の前身)の 55名の代表がフィラデルフィアに集まって憲法制定会議を開いて議論し、1787年に合衆国憲法(案)が採択された。この憲法案は、その成立のために、13の邦のうち9の邦の議会による批准(承認)が必要であった。
 各邦で批准の是非が議論されているときに、表現の自由の保障や令状のない捜索押収の禁止などを定めた「権利章典(Bill of Rights)」が含まれていないことついて、不満や批判の声が強く、必要な数の批准がえられることが危ぶまれた。そこで、起草者達は、この案が批准され合衆国憲法が発効すれば、修正条項として「権利章典」を憲法に追加することを約束した。1788年に必要な批准がえられ、合衆国憲法が成立し、翌1789年に施行された。この憲法は、「もともとの憲法(original constitution)」と呼ばれることがある。
 施行の年に、第1回合衆国議会が開催され、ワシントンが初代大統領に選出され、修正第1条~第10条までの憲法修正条項(権利章典)が採択された


[第1文]
When the Constitution was adopted, many people strongly opposed it because the document contained no Bill of Rights to safeguard certain basic freedoms.

〈語句〉
・the Constitution 名) 合衆国憲法
・adopt 他) 1.~を採用する、2.~を採択する、3.~を養子にする
  adopted 形)採択された
・strongly 副)強く
・oppose 他)~に反対する、対抗する 名)opposition
・the document 「その文書」= 合衆国憲法
・contain 他)~を含む   
・Bill of Rights 「権利章典」
・safeguard 他)~を守る、保護する  名)保護手段、安全装置
・certain 形) ある、特定の                             ※何(誰)かが分かっていても、あえて明言しない場合に使われる。
      例)A certain man came.
・basic 形)基本的な                              ・freedom 名)自由   

  

〈文法〉
・ to safeguard…
   文法判断の限界:この不定詞の用法
     ① 副詞的用法 「~を保護するために」
     ② 形容詞的用法「~を保護する権利章典」 
             the Bill of Rights ←〔 to safeguard…〕         ※どちらでも同じ趣旨が伝わるが、①の場合「保護するために権利章典を含んでいなかった」となるので、「含んでいない」ことが権利保護に資すると言っているようにも読めなくもないので②の方が良い。
 
〈訳〉                                
 合衆国憲法が採択された時、多くの人々がそれに強く反対した。その文書が、特定の基本的自由を保護する権利章典を含んでいなかったからである。

 

 

[第2文]
They especially feared that the new powers granted to a central government might be interpreted to permit the government to curtail freedom of religion, press, assembly, and speech.

〈語句〉
・They = 第1文の many people
・especially 副)特に、とりわけ
・fear  他)~を恐れる、名)恐れ
・power 名)権限、権能
・grant 他) (願いに承諾して)~を与える、 許す
・central government 中央政府=合衆国政府
・might 助動詞 may 「かもしれない」の過去形
・interpret Atodo~ Aが~すると解釈する
  →(受動態) A is interpreted to do~ 「Aが~すると解釈される」
・permit Atodo~ Aが~することを許す
  ※不定詞のtoには、前置詞のtoと共通する意味があり、「~する方向で解釈する、許  す」という含意がある

curtail 他)1.(経費を)削減する
       2.(権利を)縮小する、制限する
・freedom 名)自由
・religion 名) 宗教
・press 名)出版、報道
・assembly 名)集会
・speech 名)1.言論、2.演説

 

〈文法〉                                 ・基本構造:第3文型                               They feared 〔that the new powers…〕                    S    V      O   「彼らは…ということを恐れた。」

文型の二重構造:               
  feared that のthat節の中の文型:第2文型
      powers~ might be interpreted~  
        S         V    C

  grantedは動詞ではなく、「~に与えられた」という意味の過去分詞の形容詞
   的用法であり、powersを修飾する。
    それが分かる理由:① grantは他動詞なのに目的語が右にない。
             ②(might) be の箇所が動詞部分である。
    powers←(granted to a central government) might be~


〈訳〉
  多くの人々は、中央政府に与えられた新しい権能が、宗教、出版、集会、言論 の自由を制限することを政府に許していると解釈されることを特に恐れた。




[第3,4文]
In response to an overwhelming public clamor, James Madison offered a series of amendments to satisfy citizens that these great liberties would remain safe and beyond the power of government to abridge. Madison proposed what later became the First Amendment.

〈語句〉
・in response to ~に対応して
・overwhelming 形) 圧倒的な  overwhelm 他)~を圧倒する
・public 形)国民一般の、公の
・clamor 名) 非難の声、叫び(声)
・James Madison ジェームズ・マディソン
  合衆国憲法の主たる起草者。彼も含めて起草者たちは、「建国の父達(Founding
  Fathers)」と呼ばれる。第4代大統領。
・offer 他) ~を提供する、申し出る、提案する
    名)提供、提案、(売買の)申込
・a series of~  一連の~
・amendment 名)(合衆国憲法の)修正条項
・satisfy 他)~を満足させる 、納得させる
  satisfy A(人) that…(文章)…「…であるとAを納得させる」 
・liberty 名)自由
・would 助)will の過去形:過去の時点から見た未来
   ※ここでは、マディソンが修正条項を提案した時から見た未来
・remain 自)~の(状態の)ままである
・beyond 前)~を超えている
・power 名)権能
・abridge 他) (権利など)を縮減する
・propose 他)~を提案する=offer
・later 副)後に
・First Amendment 修正第1条


〈文法〉
・to satisfy citizens that …:不定詞の副詞的用法「市民に…を納得させるために」
 このthat…の内部の動詞のremainの補語(c)が二つある:
       remain ①safe & ②beyond~abridge

power←(to abridge) 不定詞の形容詞的用法「縮減する権能」

what の用法 「外と内」の働き
 例えば、〔What she likes〕 is a cake.という文章では、 whatの節は、文全体(外) の主語になっているが、what 節の内部では、likes の目的語になっている。
 本文では、what 節は文全体(外)ではproposed の目的語になっており、内部では、
 became の主語になっている。

〈訳〉 
 国民の圧倒的な非難の声に応えて、ジェームズ・マディソンは、これらの自由が侵害されないままであり、自由を制限する政府の権限が及ばないままであることを国民に納得させるために一連の修正条項を提案した。マディソンは、後に修正第1条になったものを提案した。
 



【第5文】
In the First Amendment the Founding Fathers gave the free press the protection that it must have to fulfill its essential role in our democracy. 

〈語句〉
・First Amendment 修正第1条
・Founding Fathers 「建国の父達」=合衆国憲法の起草者達
・free press 名)自由な報道機関
・protection 名)保護
・fulfil 他)(義務など)を果たす、遂行する
・essential 形) 不可欠な、本質的な
・role 名)役割
・democracy 名)民主主義

   

〈文法〉
・基本構造:第4文型  
  Founding Father gave  the free press  the protection
        S   V        O       O
  「建国の父達は、自由な報道機関に保護を与えた。」

・that it must…は、protectionを先行詞とする関係代名詞    
  protection ←(that it must have~)「それがもたなければならない保護」
   ※have to fulfil ~「~を果たさなければならない」と見て、thatをprotectionを
   の内容を説明する同格節と解釈すると意味不明の文になる。to fulfil ~は、不定詞   の副詞的用法「~を果たすために」              

〈訳〉
 修正第1条において、建国の父達は、自由な報道機関がわれわれの民主主義において不可欠な役割を果たすためにもたなければならない保護を与えた。




【第6文】
The press was to serve the governed, not the governors.

〈語句〉
・press 名)報道機関
・serve 他)1.~仕える、3.~の役に立つ、~に資する   
・govern 他)~を支配する、統治する
・governor 名)1.知事、2.植民地の総督、3.統治者

〈文法〉
・The press was to serve ~   
  be動詞+to不定詞:主に次の5つの意味をもつ    
  ※基本的意味は、「~する方向を向いている」 
    ① 予定: The party is to begin at seven.
    ② 義務: What am I to do?  
    ③ 可能:  Not a star was to be seen.  
    ④ 意図: If you are to succeed, you must make efforts.
    ⑤ 運命: Man is to die. = Man is mortal.    
     ⑤の例文から分かるように、この不定詞は形容詞的用法である。

・the+形容詞=「~な人々」  
  the rich=rich people  
  the injured = injured people   
  the governed 統治される者、被治者

〈訳〉
報道機関は、統治する者ではなく統治される者に仕えるべきものとされていた。




【第7文】
The Government’s power to censor the press was abolished so that the press would remain forever free to censure the Government.

〈語句〉
・power 名)権能
・censor 他) ~を検閲する  censorship 名)検閲
・press 名)報道機関
・abolish 他) ~を廃止する
・forever 副)永久に、永遠に
・free to do 自由に~できる(する) 
・censure 他) ~を非難する

〈文法〉
so that S +[may, would, can]… 「Sが…できる[する]ように」

〈訳〉
 報道機関が未来永劫に変わらず政府を自由に批判できるように、報道機関を検閲する政府の権限は廃止された。



【第8文】
The press was protected so that it could bare the secrets of government and inform the people.

〈語句〉
・press 名)報道機関
・protect 他)~を保護する
・bare 形) 裸の
    他)1. ~を裸にする、2.(秘密など)を暴露する
・secret 名)秘密 、機密
   classified  1.分類された、2.機密扱いの
・inform 他)~に知らせる、~に情報を提供する
   inform A of B  A (人)にBを知らせる
   informed consent インフォームドコンセント(情報を提供された上での同意)

〈文法〉
・so that S +[may, would, can]… 「Sが…できる[する]ように」

〈訳〉
政府の秘密を暴露して人々に知らせることができるように報道機関は保護された。




【第9文】
Paramount among the responsibilities of a free press is the duty to prevent any part of the government from deceiving the people and sending them off to distant lands to die of foreign fevers and foreign shot and shell.

〈語句〉
・paramount 形)もっとも重要な、最高の
・among 前)(3つ以上のもの)の間に
・responsibility 名)責任
・free press 名)自由な報道機関
・duty 名)義務
・prevent A from ~ing  Aが~するのを防止する、妨げる
・part of the government 政府の部門(立法、司法、行政)
・deceive 他)~をだます、欺く
・send off ~ (学校や旅などに)~を送り出す      
・distant land 遠く離れた土地=ベトナム
・die of (病気や飢餓などが原因で)死ぬ
・foreign 形)外国の、異国の
・fever 名)熱、熱病
・shot 名)発砲、銃声
・shell 名)砲弾、薬莢
   shot and shell ワンセットのフレーズとして「銃弾」と訳しておく。

〈文法〉
・基本構造:第2文型
  Paramount という単独の形容詞が強調のために文頭にある→倒置構文
  Paramount is the duty →Theduty is paramount
                 S   V    C
・倒置構文の作り方
   ① 強調する語を文頭に置く(目立つ)
   ② 残りの部分を疑問文の語順にする。

・prevent~from 〔deceiving…and sending…shell.〕
   防止すべき事柄は、文末まで続いている。
・to die of ~:結果を表す不定詞「~して(その結果)…」

〈訳〉
自由な報道の責任の中でもっとも重要なのは、政府のいずれかの部門が人々を欺いて遠い国に送り異国の熱病と異国の銃弾で死なせることを防止する義務である。





≪Paragraph.2≫
[1] In my view, far from deserving condemnation for their courageous reporting, the New York Times, the Washington Post, and other newspapers should be commended for serving the purpose that the Founding Fathers saw so clearly. [2] In revealing the workings of government that led to the Vietnam war, the newspapers nobly did precisely that which the Founders hoped and trusted they would do. [3]To find that the President has ‘inherent power’ to halt the publication of news by resort to the courts would wipe out the First Amendment and destroy the fundamental liberty and security of the very people the Government hopes to make ‘secure.’[4]No one can read the history of the adoption of the First Amendment without being convinced beyond any doubt that it was injunctions like those sought here that Madison and his collaborators intended to outlaw in this Nation for all time.[5]The word ‘security’ is a broad, vague generality whose contours should not be invoked to abrogate the fundamental law embodied in the First Amendment.


【第1文】
In my view, far from deserving condemnation for their courageous reporting, the New York Times, the Washington Post, andnewspapers should be commended for serving the purpose that the Founding Fathers saw so clearly.

〈語句〉
・view 名)1.景色、2.見解
・far from ~ing  ~するどころか
・deserve 他)~に値する
・condemnation 名)非難
・courageous 形)勇敢な  courage 名)勇気
・reporting 名)1.報告、2.報道(記事)
・commend A for B  BのことでAを褒める、賞賛する
・serve 他)1.~仕える、2.~の役に立つ、~に資する
・purpose 名)目的
・Founding Fathers 建国の父達=合衆国憲法の起草者
・clearly 副)明らかに、明瞭に

〈文法〉
 purpose ← 〔that the Founding Fathers saw so clearly〕
      that は、purposeを先行詞とする関係代名詞
       ※他動詞 saw の右に目的語(何を見たか)がないので分かる。

〈訳〉
私の見解では、ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙、その他の新聞は、その勇気ある報道について非難に値するどころか、建国の父達が非常に明瞭に見定めた目的に貢献したことで賞賛されるべきである。



【第2文】
In revealing the workings of government that led to the Vietnam war, the newspapers nobly did precisely that which the Founders hoped and trusted they would do.

〈語句〉
・reveal 他)~明らかにする
・working 名)仕事、所業
・led、lead の過去形、lead to  ~につながる、(結果として)~になる、~に導く
・Vietnam war ベトナム戦争
・nobly 副)気高く、立派に、堂々と
・did 代動詞 do の過去形「行なった」
・precisely 副)正確に、まさに
・Founders = Founding Fathers  建国の父達=合衆国憲法の起草
・hope 他)~を希望する  hope A to do Aが~することを望む
・trust 他)~を信用する  trust A to do Aが~すると信用する
・would 助)will の過去形:過去の一時点(憲法の起草者)から見た未来

〈文法〉
・in~ing  ~するにあたり、~するさいに
workings of government ←〔that led to the Vietnam war〕
    that は関係代名詞、led の前に主語がないので分かる
    先行詞は、意味からgovenmentではなく、workings
that ←〔which the Founders…do〕 that は、代名詞「それ」
  「建国の父達が…したところのそれ」→「建国の父達が…したこと(もの)」
    that which = what
・基本構造:第3文型
   newpapers did  that
     S     V   O

〈訳〉
ベトナム戦争へと導いた政府の所業を明らかにするにあたり、新聞は、建国の父達がまさに新聞がなすべきであると望み信じたことを気高く行なった。



【第3文】
To find that the President has ‘inherent power’ to halt the publication of news by resort to the courts would wipe out the First Amendment and destroy the fundamental liberty and security of the very people the Government hopes to make ‘secure.
 補足)この文の前に、政府側が差し止め命令の根拠として、ある情報の公開が国家の安全(natinal security)を危険にさらす場合、そのような公開から国家を守る権限が、行政府の長として、および軍最高司令官としての大統領にあると主張しているが、その根拠となる法律が示されていないことが指摘されている

〈語句〉
・find 他)~を認定する
・inherent 形)固有の、本来の、内在する
・power 名)権能
・halt 他)~を停止させる、自)立ち止まる、停止する
・publication 名)出版、発行、刊行、公開、公表
・resort 名)(手段に)訴えること、頼みとすること
・wipe out 1.~を拭く、2.(記憶などから)消す
・First Amendment 名)修正第1条
・destroy 他)~を破壊する
・fundamental 形)根本的な、基本的な
・libery 名)自由
・very 形)まさにその
・make 使役動詞「~(な状態)にする」
・secure 形)安全な make A secure 「Aを安全(な状態)にする」

〈文法〉
・基本構造:第3文型
 主語=To find out that~courts
     that 節の内部も第3文型:President has power
 動詞=①wipe out, ② destroy
 目的語=①First Amendment, ②liberty and security
inherent power ←〔to halt~courts〕
      不定詞の形容詞的用法「~を停止させる固有の権能」
・would 主語に仮定の意味がこめられている仮定法過去
    「~であると認定するとすれば、それは~することになるであろう。
・security of the very people [that] the Government hopes to make secure
  people の後に関係代名詞が省略されている。
   Government hopes to make ≪the very peole≫ secure
   「政府はまさにその人々を安全な状態にすることを希望した」の「まさにその人々   (the very peole)」を先行詞にした文。
    ※使役動詞のmake の目的語が右にないから分かる。

〈訳〉
大統領が裁判所という手段に訴えることによってニュースの公表を差し止める「固有の権能」をもっていると認定するとすれば、それは修正第1条を消し去り、基本的自由と、政府が「安全」な状態しておきたいと望むまさにその人々の安全を破壊することになるであろう。



【第4文】
No one can read the history of the adoption of the First Amendment without being convinced beyond any doubt that it was injunctions like those sought here that Madison and his collaborators intended to outlaw in this Nation for all time.

〈語句〉
・adoption 名)1.採用、2.(法令などの)採択、3.養子縁組
・First Amendment 名)修正第1条
・convince 他)~に確信(納得)させる、~を説得する
 convince A that…  Aに…ということを確信させる
・beyond any doubt まったく疑いの余地なく
・injunction 名)差し止め命令
・sought 他)seek ~を求めるの過去分詞形
・Madison、James Madison ジェームズ・マディソン
    合衆国憲法の主たる起草者。第4代大統領。
・collaborator 名)協力者 ここでは憲法の共同起草者達
・intend to do ~することを意図する
・outlaw 他)非合法化する、不法とする、禁止する
・for all time いつまでも、永久に

〈文法〉
・No one can read~without being… 「…することなしに~を読めない」
・being convinced that… (…ということを確信させられる→)
  「…ということを確信する」
・it was injuctions~that Madison…強調構文
 「マディソンが…したのは差し止め命令であった。」
  ※it was から始まり、that以下が完全な文章であることから分かる。
・those、 injunctions の繰り返しを避けた言葉
  injunctions like those←(sought here) 過去分詞の形容詞的用法
 「ここ(本件)で求められている差し止め命令と同様の差し止め命令」

〈訳〉
マディソンと彼の共同起草者達がこの国において永久に非合法化すること意図したのは、本件で求められているものと同様の差し止め命令であったと何らの疑いもなく確信することなしに、修正第1条の採択の歴史を読むことはできない。



【第5文】
The word ‘security’ is a broad, vague generality whose contours should not be invoked to abrogate the fundamental law embodied in the First Amendment.

〈語句〉
・security 名)安全
・broad 形)広い
・vague 形)漠然とした、曖昧な
・generality 名)一般性、一般的な意味
 ※ここでは文脈から「汎用性」という意味で使われている。
・contour 名)輪郭、外形
・invoke 他)~を呼び起こす、発動する、援用する
・abrogate 他)~を縮減する
・fundamental 他)根本的な、基本的な
 fundamental law「根本法」は、報道の自由を制約してはならないという法を指す。
・embody 他)~具体化する、具現する
・First Amendment 名)修正第1条

〈文法〉
  vague generality←〔whose contours should not be invoked
   whose はgeneralityを先行詞とする関係代名詞 
   ※訳しにくいのでwhose のところで区切って訳す。

〈訳〉
「安全」という言葉は、広く漠然とした汎用性のあるものであり、その輪郭は、修正第1条に具現された根本法を縮減するように拡張して援用されてならない。

補足: 「安全」という言葉は、漠然として汎用性があり、それを拡大解釈して「国家の安全」を理由に、報道の自由を制約してはならないという趣旨。


【解説】
 最高裁判決に至るまでの事件の背景と経緯は、スピルバーグが監督し、トムハンクスとメリルストリープが共演した「ペンダゴンペーバーズ・最高機密文書」(2018年)によって映画化された。
 「報道機関は、統治する者ではなく統治される者に仕えるべきものとされていた
(The press was to serve the governed, not the governors) 」(Paragraph 1 第6文)は、有名な文章であり、この判決の速報を新聞社に電話で伝える記者のセリフの一部として映画にも出てくる。おそらく、統治者(governor)は、立法と行政に携わる公務員(政府)のことであり、統治される者(governed)は、国民のことを指しているのであろう。
 しかし、よく考えてみるとこれは間違っている。主権者は国民であるので、国民こそが「統治する者」である。立法や行政に携わる公務員は、国民によって選ばれた代理人である。その代理人が適正に任務を遂行していない場合、それはその代理人を選任した主権者である国民の責任である。この事件では、代理人は2つの大きな誤りを犯した。1つは、主権者を欺きながらベトナム戦争を継続したことであり、2つめは、それを告発しようとした記事を差し止めようとしたことである。その究極的責任は、国民にある。
 代理人である政府が授権された任務を適正に行っているかどうかを常に監視する必要がある。政府を監視することは、主権者である国民が主権を適正に行使していることを自ら点検することでもある。そのような国政にとってきわめて重要な監視任務は、国家の機関が行うこともあるであろうが、限界がある。私的企業である新聞社などのマスメディアがそのきわめて重要な役割を担っている。彼らは競争原理によって動いている。国民にとって重要な情報を他社よりも迅速に公にするという苛烈な競争のもとにある。そのような競争原理が、代理人である政府を監視して、その情報を主権者に知らせることについて、有効に機能している。
 国民は、主権者でありながら公にされていない政府活動に関する情報を自ら得る能力を備えていない。もしそのような情報を収集し公開するマスメディアの活動を阻害すれば、それはすなわち民主主義の破壊につながる。マスメディアの使命はまことに大きく、その活動の自由を保障することは民主主義の維持と発展に不可欠である。ブラック裁判官の意見は、このことを説得力のある格調高い文体で宣言している。
「自由な報道の責任の中でもっとも重要なのは、政府のいずれかの部門が人々を欺いて遠い国に送り異国の熱病と異国の銃弾で死なせることを防止する義務である。」(Paragraph 1 第9文)

2020年04月13日