U.S. v. Virginia  男子軍事大学への女子の入学: 性による差別

厳しい訓練で知られる男子軍事大学に女子を入学させないのは平等保護条項違反

合衆国 対 ヴァージニア州
United States v. Virginia

518 U.S. 515 (1996)
合衆国最高裁判所
Supreme Court of the United States
1996


 ヴァージニア軍事大学(Virginia Military Institute: VMI)は、軍および市民生活においてリーダーシップを発揮できる「市民の兵隊(citizen soldier)」を養成することを目的としており、卒業生の多くが軍や企業で要職を占めている名門男子校である。学生は、軍服風の制服を着て、厳格な規律のもとでプライバシーのない軍隊式の兵舎(バラック)で集団生活し、肉体的にも精神的にも過酷な訓練を受ける。VMIは、私立大学であるが、ヴァージニア州から財政的支援を受けており、また州議会のコントロールの下に置かれている。
 1990年に合衆国政府は、この大学に入学を希望する女子高校生を代表して、女子に入学を認めていないことが、「どの州も誰に対しても法の平等な保護(equal protection of law)を拒んではならない」と定める修正14条の平等保護条項に違反するという憲法訴訟を提起した。合衆国最高裁は、違憲判決を出した。最高裁の多数意見を代表して法廷意見を書いたのは、ギンズバーグ裁判官である。


≪Par.1≫
[1] To summarize the Court's current directions for cases of official classification based on gender, the State must show at least that the challenged classification serves important governmental objectives and that the discriminatory means employed are substantially related to the achievement of those objectives.  

[2] The justification must be genuine, not hypothesized or invented post hoc in response to litigation.  [3] And it must not rely on overbroad generalizations about the different talents, capacities, or preferences of males and females.


[第1文]
  To summarize the Court's current directions for cases of official
  classification based on gender, the State must show at least that the
  challenged classification serves important governmental objectives and
  that the discriminatory means employed are substantially related to the
  achievement of those objectives.

〈語句〉
・summarize 他)~を要約する
● the Court 名)合衆国最高裁 

   大文字の Courtは「合衆国最高裁」の意味で使われることが多い。

・current 形)現在の、流通している
・direction 名)1.指示、命令、2.方角、道順
・case 名)(訴訟になった)事件、ケース
・official 形)公式の、公務上の
・classification 名)分類
・based on ~にもとづく
・gender 名)性、ジェンダー
・the State 名)州、この場合はヴァージニア州
・challenged 形)異議が申し立てられている、違憲であると主張されている
・serve 他)~に役立つ
・governmental 形)政府の
・objective 名)目的、目標
・discriminatory 形)差別的な
・means 名)手段
・employed 形)用いられた
・substantially 副)実質的に
・be related to ~に関係している
・achievement 名)達成(したこと)


〈文法〉
● To summarize~は、to tell the truth「本当のことを言うと」などと同様に、

  意味上の主語が話者(筆者)である独立不定詞「~を要約すると」

● 基本構造:第3文型、目的語の that 節が2つある。
  State must show → ① that the challenged…objectives
           ↘ ② that the discriminatory…objectives
  二重構造:
   ① の that 節の中の構造:第3文型
    classification serves objectives
       s      v     o   「分類は目的に役立つ。」

   ② の that 節の中の構造:第2文型
    means are related
      s    v   c  「手段は関係している。」

● employedは、後に目的語なく、すぐにareが続いているので過去分詞の

 形容詞的用法であると分かる。
   means ←〔 employed 〕 are… 「用いられた手段は…」

● 上の①②の that 節は、性別による分類が合憲となるための2つの条件である。
 discriminatory means を「差別的手段」と訳すと、差別かどうかを判定する基

 準の中ですでに差別であると結論していることになり論理的でないので「区別的

 手段」と訳すほうが良いであろう。英語の discriminate には、単に「区別する、

 識別する」という否定的含蓄のない意味がある。


〈訳〉
  性にもとづいた公的分類に関する事件について当裁判所が現在示してい

 る指針を要約すると、州は少なくとも次のことを示さなければならない。
 すなわち、違憲であると主張されている分類が重要な政府目的に資する

  といこと、および用いられている区別的手段がそれらの目的の達成に実 

  質的に関係しているということである。
 ※注釈:当たり前の例であるが、例えば、自治体が女性のみに無料で乳がん
   の検診を受けさせるという場合は(男性も乳がんになることがあるが)、
   この基準を満たしている。)



[第2文]
 The justification must be genuine, not hypothesized or invented post hoc in
  response to litigation.

〈語句〉
・justification 名)正当化、正当化理由
・genuine 形)本物の、正真正銘の
・hypothesized 形)仮定された、仮説上の
・invented 形)発明された、考案された
・post hoc 副)事後に
・in response to ~に対応して
・litigation名)訴訟


〈文法〉
● must be の補語は、3つある。
  ① genuine ② not hypothesized  ③ invented  
    not hypothesized = must not be hypothesized
                「仮定されたものであってはならない。」

〈訳〉
 正当化理由は、真正なものでなければならず、訴訟に対応して事後的に仮

 定されたものや考案されたものであってはならない。
  (注釈:「訴訟に対応して事後的に考案された」理由が主張された例として、

   1982年の合衆国最高裁の判決、MississippiUniversity for Women v.

   Hoganがある。最高裁は、ミシシッピ州の女子大学が男性の入学を拒否して

   いることが平等保護条違反すると判決した。審理において大学側は、

   「男性がいると女子学生が悪影響を受(adversely affected)」と主張し

   た。しかし、この大学では以前から男性の聴は認められていた。



[第3文]
 And it must not rely on overbroad generalizations about the different
 talents, capacities, or preferences of males and females.

〈語句〉
・rely on ~にたよる、依存する
・overbroad 形)広すぎる
● generalization 名)一般化
 “overbroad generalizations”「広すぎる一般化」とは、「女性は妻として家庭を

 守っ、子供を育てるものだ」などのことである。

・talent 名)才能
・capacity 名)1.(潜在的な知的)能力、2.収容能力(定員)
・preference 名)好み、選好
・male 名)男性
・female 名)女性


〈訳〉
 またそれは、男性と女性の異なる才能、能力、選好に関するあまりに広範

 な一般化に依存してはならない




≪Par.2≫
[1] First, the Commonwealth contends that single-sex education provides important educational benefits, and that the option of single-sex education contributes to diversity in educational approaches.  [2]However, Virginia has not shown that VMI was established, or has been maintained, with a view to diversifying, by its categorical exclusion of women, educational opportunities within the Commonwealth.  [3] In cases of this genre, a tenable justification must describe actual state purposes, not rationalizations for actions.


[第1文]
  First, the Commonwealth contends that single-sex education provides
  important educational benefits, and that the option of single-sex education
  contributes to diversity in educational approaches.

〈語句〉
● Commonwealth 名)1.イギリス連邦、 2.国家、 3.州
 ケンタッキー州、マサチューセッツ州、ペンシルバニア州、ヴァージニア州

 には、State ではなく、Commonwealth を使う。

 ここでは、被告のヴァージニア州。

・contend that… …ということを(強く)主張する。
・single-sex education (単一の性の教育→)男女別学教育
・provide 他)~を提供する
・educational 形)教育の、教育上の
・benefit 名)利益、利得
・option 名)選択肢
・contribute to ~に貢献する
・diversity 名)多様性
・approach 名)取り組み方、手法


〈文法〉
● 基本構造:第3文型、目的語のthat節が2つある。
  Commonwealth contends  → ① that single-sex…benefits
    S        V     ↘② that the option…approaches
   「ヴァージニア州は、

      ①that…ということと、②that…ということを主張する。」


〈訳〉
  第1に、ヴァージニア州は、男女別学教育が重要な教育上の利益を提供

  すということ、および男女別学教育の選択肢が教育手法の多様性に貢献

  すると主張する。



[第2文]
  However, Virginia has not shown that VMI was established, or has been
  maintained, with a view to diversifying, by its categorical exclusion of
  women, educational opportunities within the Commonwealth.

〈語句〉
・Virginia 名)ヴァージニア州
・show that… …ということを示す、証明する
・VMI 名)ヴァージニア軍事大学
・establish 他)~を創設(設立)する
・maintain他)~を維持する 
・with a view to ~ing ~する目的で
・diversify 他)~を多様化する
・categorical 形)分類別の、ある範疇に入るものすべての、無条件の
・exclusion 名)排除
・educational 形)教育の、教育上の
・opportunity 名)機会
・Commonwealth 名)州、ヴァージニア州


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
  Virginia has not  shown { that…Commonwealth }.
    S         V       O
  「ヴァージニア州は、{   }ということを証明していない。」

● has not shownは、結果を表す現在完了である。
 「結果としてその主張は認められない」という含意がある。

● has been maintained は、継続を表す現在完である。「創設以来ずっと

● 動名詞 diversifying の目的語は、educational opportunities であり、
  間に by~women が挿入されている。

● exclusion of women は、of の前後で exclude women の関係がある。
 このような ofを「目的格のof」と呼ぶことがある。この知識は名詞句を文章

 化して訳す場合に役立つ。


〈訳〉
 しかしながら、女性を無条件に排除することによって州内の教育機会を

 多様化するという目的で、VMIが創設され、維持されてきたことをヴ

 ァージニア州は示していない。



[第3文]
 In cases of this genre, a tenable justification must describe actual state
 purposes, not rationalizations for actions.

〈語句〉
・case 名)(訴訟になった)事件、ケース
・genre 名)ジャンル、部類
● cases of this genre は、「平等保護条項に違反する性差別が申し立てられてい

 るケース」という意味である。

・tenable 形)批判に耐えうる
・justification 名)正当化、正当化理由
・describe 他)~を描写する、説明する
・actual 形)実際の、現実の
・purpose 名)目的
・rationalization 名)1.正当化、2.合理的説明
・action 名)1.行動、2.訴訟
  

〈文法〉
● state には、①状態、②州、③国家などの意味がある。actual state は

 「実際の状態」という意味で使う。

  actual state purposes が「実際の州の目的」という意味であるのは、

  ヴァージニア州がどういう目的でVMIを創設し維持してきたかが議論になっ

  てことから分かる。

   この文の actual は、第2パラグラフの第2文の genuine と同じ意味で、

  また、hypothesized と invented と反対の意味で使われている。

● rationalizations for actionsは、「行動の正当化」という意味にもとれるが、

 actionが「訴訟」という意味で使われているのは、上述の第2パラグラフの

 第2文に“invented post hoc in response to litigation” 「訴訟に対応して

 事後的に考案された」という表現があり、この言い換えであることから分かる。
  ※ 日本語でも「出るところに出る」という表現を裁判所に訴えるという

    意味で使うように、おそらく、「行動(action)を起す」というよう

    な表現から、「訴訟」という意味が生じたのであろう。 
   拙稿「日常語の法律用語としての固定化について」『英語教育』

   (2013年2月号) 92頁参照 。                                                

〈訳〉
 この部類のケースでは、批判に耐えうる正当化を行うためは、訴訟のため

 の辻褄合わせではなく実際の州の目的を説明しなければならない




≪Par.3≫
[1] In 1839, when the Commonwealth established VMI, a range of educational opportunities for men and women was scarcely contemplated.  [2] Higher education at the time was considered dangerous for women; reflecting widely held views about women's proper place, the Nation's first universities and colleges -- for example, Harvard in Massachusetts, William and Mary in Virginia -- admitted only men.  [3] VMI was not at all novel in this respect: in admitting no women, VMI followed the lead of the Commonwealth's flagship school, the University of Virginia, founded in 1819.
 


[第1文]
 In 1839, when the Commonwealth established VMI, a range of educational
  opportunities for men and women was scarcely contemplated.

〈語句〉
・Commonwealth 名)州、ヴァージニア州
・establish 他)~を創設(設立)する
・VMI ヴァージニア軍事大学
・range 名)範囲
・educational opportunities 教育の機会
・scarcely 副)ほとんど~ない
・contemplate 他)~を熟慮する、~をもくろむ

〈文法〉
● when…VMIは、 1839を修飾する関係副詞節
「ヴァージニア州がVMIを創設した1839年において」、または「1839年

 に、その年にヴァージニア州はVMIを創設したのであるが」

● a range of~
  「~の範囲」という意味と「様々な」という意味がある。「男女の教育機会

  の範囲」でも「男女の様々な教育機会」でもよいと思うが、動詞が was

 (単数)であるので、「範囲」と訳す方が良いように思う。
   そもそも女性が大学に入ることが認められていなった時代のことであり、

  男女別にするのか、共学の方が良いのか、というような「範囲」は問題にな

  らなかったという趣旨である。


〈訳〉
 ヴァージニア州がVMIを創設した1839年において、男女の教育機会

 の範囲というものは、ほとんど念頭におかれていなかった。



[第2文]
  Higher education at the time was considered dangerous for women;
  reflecting widely held views about women's proper place, the Nation's first
  universities and colleges -- for example, Harvard in Massachusetts,
  William and Mary in Virginia--admitted only men.

〈語句〉
・Higher education 名)高等教育
・dangerous 形)危険な
・reflect 他)~を反映する
・hold 他)(考えなどを)もつ、いだく
・view 名)見解
・proper 形)適切な
・place 名)地位、立場
・University 名)大学、特に大学院をもつ4年制の総合大学
・college 名)大学、特に大学院のない2年または4年制の単科大学
・Nation 名)国家
・Harvard 名)ハーヴァード大学
・Massachusetts 名)マサチューセッツ州
・William and Mary 名)ウィリアム・メアリー大学
・Virginia 名)ヴァージニア州
・admit 他)~の入学を認める

〈文法〉
● consider O+C 「 O が C であると考える(みなす)」という第5文型の受動

 態が使われている。O is considered C 「O は C であると考えられている。」
  education was considered dangerous 「教育は危険と見なされた。」
 判決にはこの記述の部分に注が付いており、ハーヴァード大学医学校教授の著作

 に「厳しい勉学と男子との学術的競争の心理的影響が女子の生殖器官の発達を阻

 害する」という趣旨の記述があることが紹介されている。

● reflecting….は、分詞構文である。前にコンマではなく、セミコロンがある

 ので、前の文ではなく後ろの文とつながっていることが分かる。Nation’s 以

 下の文と意味が合うように適当な接続詞でつなぐ。ここでは「….を反映して」

 くらいの意味である。
  分詞構文のポイントは、前後の文脈を考えて何が「適当な接続詞」かを自分

 で考えることである。

● widely held views 過去分詞の形容詞的用法「広くもたれていた見解」

● ダッシュの挿入があるが、主文の基本構造は、第3文型である。
   universities admitted men
      S     V      O  「大学は男性を入学させた。」


〈訳〉
 当時高等教育は女性には危険であると考えられていた。女性の適切な地

 位に関して広く行き渡った見解を反映して、国の最初の大学――例えば、

 マサチューセッツ州のハーヴァード大学やヴァージニア州のウィリアム

 &メアリー大学――は、男性のみを入学させていた。



[第3文]
 VMI was not at all novel in this respect: in admitting no women, VMI
  followed the lead of the Commonwealth's flagship school, the University of
  Virginia, founded in 1819.

〈語句〉
・VMI ヴァージニア軍事大学
・not at all まったく~ない
・novel 形)目新しい
・respect 名)点
・follow 他)~について行く、従う
・lead 名)先導
・flagship 名)1.旗艦 2.最も重要なもの 形)最も重要な、1番目の
・founded 他)~を設立する 

〈文法〉
● in admitting~ 「~の入学を認めることにおいて」

● flagship schoolの後に、名詞が and なしに並列されているので、前後が同格

 の関係であことがわかる。

● University of Virginia, ←〔 founded in 1819 〕
  found という他動詞の後ろに目的語がないので過去分詞の形容詞的用法

  である。「1819年に設立されたヴァージニア大学」

    
〈訳〉
 この点において、VMIは決して目新しくなかった。女性をまったく入学

 させないことにおいて、VMIは、ヴァージニア州の最重要学校、つまり

 1819年に創立されたヴァージニア大学に追随した




≪Par.4≫
[1] Second, the Commonwealth argues, "the unique VMI method of character development and leadership training," the school's adversative approach, would have to be modified were VMI to admit women.  [2] However, the parties agree that some women can meet the physical standards VMI now imposes on men.  [3] Neither the goal of producing citizen soldiers, VMI's raison d'etre, nor VMI's implementing methodology is inherently unsuitable to women.  [4] State actors controlling gates to opportunity may not exclude qualified individuals based on fixed notions concerning the roles and abilities of males and females.


[第1文]
  Second, the Commonwealth argues, "the unique VMI method of character
  development and leadership training," the school's adversative approach,
  would have to be modified were VMI to admit women.

〈語句〉
・Commonwealth 名)州、ヴァージニア州
・argue 他)~を主張する、論じる
・unique 形)独特な、
・VMI ヴァージニア軍事大学
・method 名)方法
・character 名)性格
・development 名)発達、発展、開発
・leadership 名)リーダーシップ、統率力
・training 名)トレーニング
・adversative 形)(意味などが)反対を表す
・approach 名)アプローチ、取り組み方
● adversative approach は、この表現だけでは意味が分からない。判決の別の箇

 所に「肉体的過酷さ、精神的ストレス、絶対的な平等処遇、プライバシーの欠如、

 詳細な行動規則、望ましい価値の教化」を特徴とする教育方法であるという説明

 がある。

  adversative は、adversity「逆境」という語と関連するので「逆境的アプロー

  チ」と訳しておく。

・modify 他)~を修正(変更)する
・admit 他)~の入学を認める


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
  Commonwealth argues,  { "the unique … admit women }
      S       V     O

        「ヴァージニア州は、{ } と主張する。」

● Second 「第2に」は、第2パラグラフの文頭の First「第1に」に続いて、

 ヴァージニア州側の主張の2つめであることを示している。“the unique…

 training,” は、ヴァージニア州側の主張の引用である。

● argues の目的語の中を見ると、would have まで動詞がないので、その前の
 approach までが、大きく見た場合の主語であることが分かる。“the unique…
 training,” the school's adversative approach の間に and がなく、意味から判

 断して後者が前者の言い換え(同格)であることが分かる。

● were to…は、前の述部にwouldがあること、直前のmodifiedで文が完結しうる

  ことから、=if VMI were to admit women「仮にVMIが女性の入学を認めると

  すれば」 であることが分かる。
  were to は、実現の可能性に関わらない純粋な話の上での仮定を表す。

  この用法は「実現の可能性の乏しい、ありそうもないことの仮定」と説明

  されるが、江川泰一郎の『英文法概説』(金子書房)に次の説明がある。
  「Were to が未来を表わすのは、were のためではなくwere to(つまりbe to
  の仮定法過去)のためである。未来表現の be to を仮定法について使うと、

  それだ事柄の実現性に対する強い疑いを表わすことになる。そこで were

  toは『仮に~するとしたら』という、いわば議論のための仮定の呈示に使われ

  るのである。議論のための仮定の呈示だから、その内容は…実際にはまず起こ

  りえない事柄でもいいし、…現実に起こりうる事柄でもよい。」(§169)

  (改訂新版、1964年)
   議論の上での仮定であるから、結果的に「ありそうもないことの仮定」に

  なることが多いであろうが、このような至当な解説が継承されていないのは、

  まことに残念である。


〈訳〉
 第2に、仮にVMIが女性の入学を認めるとすれば、「人格開発とリー

 ダーシップ訓練に関するVMIの独特の方法」、つまり、この学校の逆

 境的アプローチが修正されなければならなくなるであろうとヴァージニ

 ア州は主張する。



[第2文]
  However, the parties agree that some women can meet the physical
  standards VMI now imposes on men.

〈語句〉
・party 名)(訴訟の)当事者 ここでは合衆国政府とヴァージニア州
・agree that… …ということに同意する
・meet 他)(基準など)を満たす   
・physical 形)1.肉体の、 2.物質の
・standard 名)基準
・impose A on B  B(人)にA(義務、負担など)を課す 


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
  parties agree { that some women…men }
    S     V     O 

  「当事者達は、{ }ということに同意している。」

● VMI now imposes on men
  VMI の前に関係代名詞が省略されていることは、次の2点から分かる。
    ①すでに第3文型(women meetstandards)が完成している。
    standardsとVMIが接続詞なく並列されている。
    imposesの目的語が後ろにない。

   standards←〔 (which) VMI now imposes on men 〕
   

〈訳〉
 しかしながら、VMIが現在男性に課している肉体的基準を充たすことが

 できる女性もいるということに両当事者は同意している。



[第3文]
  Neither the goal of producing citizen soldiers, VMI's raison d'etre, nor
  VMI'simplementing methodology is inherently unsuitable to women.

〈語句〉
・neither A nor B  AもBも~ない 
・goal 名)目的
・produce 他)~を作り出す、輩出する 
● citizen soldiers 市民兵士 この呼称は、判決の他の部分で「市民生活と軍務

 においてリーダーシップを発揮する準備のできた人」と説明されている。

・raison d’etre  存在理由 この語はフランス語。英語に直すと reason of being
・implement 他)~を実施する、実行する 
・methodology 名)方法論、やり方
・inherently 副)本質的に、本来的に 
・unsuitable形)不適当な


〈文法〉
● VMI’s raison d’etre は、その前のgoal of…soldiersの言い換えである。

 「市民兵士を輩出するという目的、すなわちVMIの存在理由」
  neither A nor B のAに該当する部分に接続詞なしに名詞句が並列されている

  ことか分かる。


〈訳〉
 VMIの存在理由である市民の兵士を輩出するという目的も、VMIの

 実施方法も本質的に女性に不向きであるということはない。



[第4文]
  State actors controlling gates to opportunity may not exclude qualified
  individuals based on fixed notions concerning the roles and abilities of
  males and females.


〈語句〉
● State actor 「州の行為者」
   合衆国憲法修正第14条は「州は、・・・法の平等な保護を拒んではなら

  ない」と規定しており、州政府(行政、立法、司法)による差別を禁止して

  おり、私人の行為は禁止していない。VMIは、私立大学であるが、ヴァー

  ジニア州による資金援助を受けており、また州議会のコントロールの下に置か

  れている。そのためVMIの入学制度が「州の行為」とみなされるとみなされ

  ており、ヴァージニア州がこの訴訟の直接の被告となっている。

・gate 名)門、門戸
・opportunity 名)機会
・exclude 他)~を排除する
・qualified 形)資格のある
・individual 名)個人
・based on ~にもとづいて
・fixed 形)固定的な
・notion 名)概念、観念
・concerning~に関して
・role 名)役割
・ability 名)能力
・male 名)男性
・female 名)女性


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
  actors may not exclude individuals 
   S         V     O

    「行為者は個人を排除してはならない。」

● controlling は、現在分詞の形容詞的用法
   actors ←〔 controlling…opportunity 〕
 「機会への門をコントロールしている」の「機会」は「教育の機会」のことで

  ある。

  要するに、どのような人を入学させるかを決定するというような意味である。

● based on…females は、その内容から exclude を修飾する副詞句だとわかる。
 「~にもとづいて排除する」


〈訳〉
 教育機会の門戸を制御している州の行為者は、男性と女性の役割と能力

 に関する固定観念にもとづいて資格のある個人を排除してはならない。



【解説】
 アメリカでは、19世紀中頃に各州が「既婚女性の財産に関する法律」(Married Women’s Property Act)を制定するまで、女性は財産を所有する権利をもたなかった。また、黒人男性の投票権は、1870年制定の修正第15条によって認められたが、女性に投票権が認められたのは、その半世紀後の修正19条が制定された1920年のことであった。
 第2次大戦後、バーの男性所有者の妻あるいは娘でなければ、女性はバーテンダーとしての免許を受けられないことを定めたミシガン州法が平等保護条項に違反するという訴訟が提起されたが、合衆国最高裁は、女性がバーテンダーとして働くことで生じる「道徳的問題や社会的問題」を理由にこの法律を合憲とした(Goesaert v. Cleary(1948))
 「ステレオタイプ」という言葉がある。「判で押したように多くの人に浸透している先入観、思い込み、認識、固定観念やレッテル」などと定義されている。はじめの全般的説明のところで、「法廷意見を書いたのは、ギンズバーグ裁判官である」と書いたが、このルース・ギンズバーグ(Ruth Ginsburg)裁判官は、女性である。そこを読んだ人の多くが当然に男性であると思ったと想像する。それが「ステレオタイプ」である。現在、合衆国最高裁の9人の裁判官のうち4人が女性である。
 この判決の趣旨は、「軍服風の制服を着て、厳格な規律のもとでプライバシーのない軍隊式の兵舎で集団生活し、肉体的にも精神的にも過酷な訓練を受ける」というVMIの教育方法に適正のある人を入学させるべきであり、おおよそ女性はおしなべてそのような適正をもたないと見なすことは「ステレオタイプ」であり、適正の判断に性別は関与性をもたない(irrelevant)である、ということであろう。
 この判決を受けてVMIは、女性の入学を認めるようになった。VMIのホームページによると学生の8人に1人がが女性である。

  

2018年03月04日