Korematsu v. U.S.  日系アメリカ人の強制退去

第2次大戦時の日系アメリカ人の強制退去命令は合憲

コレマツ 対 合衆国
Korematsu v. United States
323 U.S. 214 (1944)
合衆国最高裁判所
Supreme Court of the United States
1944

 



 1941年12月に日本軍がハワイの真珠湾を攻撃すると、アメリカ本土の西海岸に対する攻撃を恐れたフランクリン・ルーズベルト大統領は、翌1942年2月に大統領令9066(Executive Order 9066)に署名した。この命令は、スパイ活動や国防関連施設への破壊工作に対して防衛措置をとるために、国防長官や軍司令官に、つぎの権限を与えた。① 軍事地域(military areas)を指定する。② 軍事地域内の人々に、地域内に留まるべきことを命じる。③ 軍事地域から退去すべきことを命じる。この命令に違反すると、連邦法によって1年以下の禁固刑や罰金に処せられた。
 西部方面司令長官に任命されたディウィット中将は、大統領令9066の授権にしたがって、ワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州、アリゾナ州の太平洋岸から約100マイルの帯状の地域を、地理上敵国による攻撃やスパイ活動や破壊工作を受けるおそれがあるとして軍事地域に指定し、軍事地域内のすべての日系アメリカ人に対して、夜8時から朝6時まで外出を禁じる夜間外出禁止令(curfew order)を出した。さらにディウィット司令官は、軍事地域内を108の地区に分割し、それらの地区に順次「民間人退去命令(Civilian Exclusion Orders)」を出し、そこに居住するすべての日系アメリカ人にその地区から6日以内に退去し、競馬場などに設けられた集合センターへ集合することを命じた。その後、軍事地域内の約12万人日系人が強制収容所に送られた。
 この訴訟の原告であるフレッド・トヨサブロウ・コレマツ(Fred Toyosaburo Korematsu)は、1919年に日系移民の両親の三男として生まれた。一家は、カリフォルニア州オークランド近郊に住み、両親は苗木栽培を生業としていた。彼は、オークランドの職業学校で溶接を学び、造船所の溶接工となった。1941年に彼は海軍に志願したが、胃潰瘍を理由に不適格とされた。彼には、ボイタノ(Boitano)という名前のイタリア系アメリカ人の恋人がいた。二人の仲は深まり結婚を約束したが、異人種間の結婚を禁じるカリフォルニア州法のために結婚できないでいた。
 戦争が始まり、日系アメリカ人に退去命令が出されると、彼はボイタノと二人で中西部に行くと言って家と出た。しかし、中西部に移り住むための十分な資力がなかったため、サン・リアンドロの別の場所に部屋を借りて隠れるように暮らし始めた。その間、日系人であることを隠すために顔の整形手術を受けた。1942年5月9日にサン・リアンドロを含む周辺地区に退去命令が出され、5月22日の午後、彼はボイタノと二人で通りを歩いているところを警察に逮捕、起訴された。連邦地方裁判所での事実審理によって連邦法違反で有罪とされた(刑の宣告猶予、5年間の保護観察)。コレマツは、退去命令が、日系人のみを対象とした人種差別であり、合衆国憲法修正第5条に違反するとして上訴した。
 修正5条は、「何人も法の適正なプロセス(due process of law)によらずに生命、自由、財産を奪われない」と規定している。州の法律が差別なものである場合、修正第14条の平等保護条項が適用される。この条項は「どの州も誰に対しても法の平等な保護(equal protection of law)を否定してはならない」と定め、明示的に差別を禁止している。しかし、この訴訟で問題とされているのは、連邦政府の法令であり、平等保護条項は適用されない。修正第5条は、連邦の法令を対象としているが、差別を禁じる明示的な文言がない。このため修正第5条の「法の適正なプロセス」に差別禁止が含まれると解釈されてきた。ここにも連邦国家であるアメリカ合衆国の特徴が表れている。
 合衆国最高裁判所の9人の裁判官は、6対3で合憲と判断し、多数意見を代表してヒューゴ・ブラック(Hugo Black)裁判官が判決文を書いた。



Par.1
[1]It should be noted, to begin with, that all legal restrictions which curtail the civil rights of a single racial group are immediately suspect. [2] That is not to say that all such restrictions are unconstitutional.  [3] It is to say that courts must subject them to the most rigid scrutiny.  [4] Pressing public necessity may sometimes justify the existence of such restrictions; racial antagonism never can.


[第1文]
 It should be noted, to begin with, that all legal restrictions which curtail
 thecivil rights of a single racial group are immediately suspect.

〈語句〉
・note 他)~に注意して心に留める、特に言及する
・to begin with 最初に、第一に
・legal 形)1.法律の、法に関する、 2.適法な
・restriction 名)制限、限定
・curtail 他)~を削減する、切り詰める
● civil right 名)市民的権利 
 広義では、契約を締結する権利など市民が個人として有するさまざまな権利を
 さすが、狭義では選挙権、公教育、雇用、住居の選択など、さまざまな面で平
 等な扱いを受ける権利をさす。

・single 形)単一の
・racial 形)人種の
・immediately 副)ただちに
● suspect 形)疑わしい 他)~を疑う 名)容疑者 
 ここでは、「違憲であることが疑われる」という形容詞の意味で使われている。


〈文法〉
● It should be noted~that…:
 文頭にIt があるので、その前に何もない(代わりをする名詞がない)から、

 it~that…の構文「…は~である」であることが分かりやすい。
  例えば、It is true that she can speak French. 「彼女がフランス語を話せる

 というは本当です」という文では、あくまで英文は、「それは本当です、彼女

 がフランス語話せるということは」と言っている。 

  この構文は、最初に「それは」と言って、「何が」という疑問を持たせて、

 それをthat…で説明する構文である。
  it~to の構文や so~that の構文(それほど~)も同様である。


● that 節の中の基本構造:第2文型
    restrictions are suspect
       S   V   C  制限は疑わしい」

● 関係代名詞節
    restrictions←〔which  curtail~〕 are
      S            v1     V2
 主語に関係代名詞が付いた場合、関係代名詞節の内部に動詞が1つあり

 (curtail)、その後の2つめの動詞(are)が基本構造(この場合は第2

 文型)の動詞であり、その前まで関係代名詞節であることが分かる。

 
〈訳〉
 はじめに、単一の人種グループの市民的権利を削減するすべての法的

 制限は、ただちに違憲であることが疑われることが留意されるべきで

 ある。



[第2文]
 That is not to say that all such restrictions are unconstitutional.

〈語句〉
・restriction 名)制限、限定
・unconstitutional 形)憲法違反(違憲)の


〈文法〉
● That is not to say that…
  That は、全文の内容「違憲の疑いがあること」を受けている。not to say は

  不定詞詞的用法である。「そのことは…ということではない」→

  「そうはいっても…いうことにはならない。

● not…all は、部分否定「すべてが…であるというわけではない。」
 

〈訳〉
  そう言っても、そのような制限すべてが違憲であるというわけではない。



[第3文]
 It is to say that courts must subject them to the most rigid scrutiny.
 Pressing public necessity may sometimes justify the existence of such
 restrictions; racial antagonism never can.

〈語句〉
・subject A to B  AをBに服させる
・rigid 形)厳格な、厳密な
● scrutiny 名)精密な調査、審査
 ここでは、法令が合憲であるかどうかという「司法審査」という意味で使われて

 いる。

・pressing 形)緊急の
・public 形)公共の、公衆の
・necessity 名)必要(性)
・justify 他)~を正当化する
・existence 名)存在
・restriction 名)制限、限定
・racial 形)人種の
・antagonism 名)敵意、反感


〈文法〉
● It is to say that…
   that 節は say の目的語であることから次の2点から分かる。
    ① It~that の構文でない
    ② Itは、前文の That を受けている
   結局は前々文(第1文)の内容「1つの人種の権利の制限は違憲の疑いが

   ある」を受けている。
    前文の not to say that…「…ということではない」に対して、そうではなく
   「…ということ」という展開である。

● them は、最も近い複数名詞、前文の all such legal restrictions を受けている。

● may sometimes 「時々~することがある」

● racial antagonism never can の後に justify the existence of such restrictions. が
 省略されている。


〈訳〉
 それは、裁判所がそれらの制限をもっとも厳格な審査にかけなければなら

 ないということである。緊要な公の必要は、時としてそのような制限の存

 在を正当化することがあるが、人種的反感は、決してそれを正当化できな

 い。



≪Par.2≫
[1] Like curfew, exclusion of those of Japanese origin was deemed necessary because of the presence of an unascertained number of disloyal members of the group, most of whom we have no doubt were loyal to this country.  [2] It was because we could not reject the finding of the military authorities that it was impossible to bring about an immediate segregation of the disloyal from the loyal that we sustained the validity of the curfew order as applying to the whole group.
 

[第1文]
  Like curfew, exclusion of those of Japanese origin was deemed necessary
  because of the presence of an unascertained number of disloyal members
  of the group, most of whom we have no doubt were loyal to this country.


〈語句〉
・like 前)~と同様に
● curfew 名)1.夜間外出禁止令、 2.門限
 この判決に先立って合衆国最高裁は、1943年の Hirabayashi v. United States

 にいて、強制退去命令の前に出された夜間外出禁止令に対して合憲判決を行っ

 ていた。

・exclusion 名)排除、退去
・those 名)人々
● origin 名)1.起源、 2.生まれ、血統
  those of Japanese origin 日系人

・deem O+C  O を C とみなす
・necessary 形)必要な
・because of~ ~のために(原因)
・presence 名)存在
・unascertained 形)不確定の  ←ascertain 他)~を確認する
● disloyal 形)忠誠心をもたない、不忠の 
  ここでは「スパイ活動をするような」という意味で使われている。

・we われわれ=合衆国最高裁の裁判官
・have no doubt [that]… …であることを疑わない
・loyal 形)忠誠心のある、忠実な


〈文法〉
● deem O+C の形が受動態になって、

 O was deemed C「Oは、Cと見なされた」となっている。

● because of the presence of A = because A were present
   「Aの存在のために」→「Aが存在したから」

an unascertained number of~ 「不確定の数の~」

● most of whom~の先行詞が入る位置は、通常の語順にするとwe have no doubt
 [that] most of [先行詞] were loyal である。we have no doubt [that] の後に
 S+V の形がつづくはずであるのに、主語なく were が続いているので分かる。
  「 [先行詞] のほとんどは、忠実であったことをわれわれは疑っていない。」

● whom 先行詞は、直前の group(日系人のグループ)である。
  仮に先行詞が disloyal members であるとすると非論理的な文になる:
  「忠実であったことを疑っていない不忠のメンバー」

 
〈訳〉
 夜間外出禁止令と同様に、日系人の退去が必要であると見なされたのは、

 日系人のグループ――そのほとんどはこの国に忠実であったことをわれわ

 れはまったく疑わないが――の中に数は不確定ながら不忠のメンバーが存

 在したからである。



[第2文]
  It was because we could not reject the finding of the military authorities
  that it was impossible to bring about an immediate segregation of the
  disloyal from the loyal that we sustained the validity of the curfew order as
  applying to the whole group.

〈語句〉
・reject 他)~を拒絶する
・finding 名)認定
・military 形)軍の
・authority 名)当局(者)
・impossible 形)不可能な
・bring about ~をもたらす
・immediate 形)即時の
・segregation 名)分離、隔離
・disloyal 形)不忠の、スパイの
・loyal 形)忠実な
● sustain 他)~を支持する、承認する
 ここでは「~に合憲判断をする」という意味である。

・validity 名)正当性、有効性
・curfew 名)夜間外出禁止
・order 名)命令
・apply 自)適用される、他)~を適用する


〈文法〉
● It is because… 「それは…であるからである。」
 文頭のItが何をさしているかは、単語の意味や文法、構文の知識だけでは確定

 することができない文法判断の限界に属する事項である。このような場合、

 いくつかの可能性を探って論理的な話の筋になる解釈を見つけなければならない。

 この文では3つの可能性がある。
   ① Itの内容として、まず前文の内容を受けていると考えることができる。
    because…の内容が整合するかどうかを検討する。
    ・前文の内容=日系人の中に不忠の者がいた。
    ・because…=最高裁は軍の認定を拒絶できなかった。
   「最高裁が軍の認定を拒絶できなかったから、日系人の中にスパイがいた」

    という因果関係が逆の非論理的な文になる。

  It がさすものが前にないから、後ろを探すことになるが、完全な文を伴っていて
   It~thatを作ることのできるthatが2つある。
   ② that it was impossible to bring… 
   ③ that we sustained…
    ② は、findingの同格としてその内容を説明すると解釈することが可能

     である。
    ③ は他に前のどの部分にもつながらないで、結局、これが It~that の構文

      を作thatであると解釈でき、またそれで論理的な文になる。
       It was because…that we sustained…. 
    「夜間外出禁止令を支持したのは、軍の認定を拒否できなかったから。」

● finding={ that it was impossible ~from the loyal }
          s   v     c   
     後に2文型の完全な文が続いているので同格節:「{ }という認定」

● it was impossible to bring about~   
   it~toの構文:「~をもたらすことが不可能であった。」

● bring about an immediate segregation of the disloyal from the loyal
  = to immediately segregate the disloyal from the loyal

「the+形容詞」=「~な人々」
   the disloyal 「不忠の者、スパイ」、the loyal 「忠実な人々」 

● as applying~
 as はそもそも「見てのとおり、そのまま」というのが原意である。そこから

 さまざまな意味が派生するが、ここでは「見てのとおり、グループ全体に適用

 されているそのままで支持した」というような内容である。

  訳としては、「~に適用されているものとして」くらいに訳しておく。


〈訳〉
 われわれが、日系人のグループ全体に適用されるものとして、夜間外出

 禁止の有効性を支持したのは、忠誠心をもっている者と不忠の者を即

 時に分離することができないという軍当局者の認定を拒否することがで

 きなかったからである。

 


≪Par.3≫
[1] True, exclusion from the area in which one's home is located is a far greater deprivation than constant confinement to the home from 8 p.m. to 6 a.m.  

[2] But exclusion from a threatened area, no less than curfew, has a definite and close relationship to the prevention of espionage and sabotage. [3] The military authorities, charged with the primary responsibility of defending our shores, concluded that curfew provided inadequate protection and ordered exclusion.


[第1文]
 True, exclusion from the area in which one's home is located is a far
  greater deprivation than constant confinement to the home from 8 p.m. to
  6 a.m.

〈語句〉
・true 形)真実の、本当の、副)真実に、本当に
・exclusion 名)排除、退去
・area 名)地域  ここでは特にディウィット中将が指定した軍事地域
・be located in~ ~に位置する
・deprivation 名)(権利の)剥奪
・constant 形)不変の、絶えず続く
・confinement 名)監禁、拘禁


〈文法〉
● 文頭のTrueは全文修飾の副詞を見ることもできるし、また、形容詞として、
  It is truethat exclusion…を略したものと見なすこともできる。

● 基本構造:第2文型
  exclusion is deprivation
    S     V    C   「退去は剥奪である。」
 現在形になっているのは、この事件に限らず、判決当時も妥当することとして述
 べられているからである。
   例えば、Yesterday, She said, " I feel fine" という直接話法の文を間接話法に
    変えると、Yesterday, she said that she felt fine となって、feelが過去形の
    felt になるのは、「時制の一致」という法則があるからではなく、「気分
    が良かった」のが昨日のことであるからである。
  拙稿「時制の一致について」『英語教育 』(1993年11月号)76-77頁、参照。
   
● exclusion  form the  area←〔in which one's home  is located〕 is 
    S                           v1        V2
  主語(exclusion)に付いた前置詞句(from the area)内の名詞(area)に関係
  代詞が付いた形。関係代名詞節の内部に動詞(is)が必要であるから、2つ
  目の動詞is )が基本構造の第2文型の動詞であることが分かる。

● far greater : far は、much や by far と同様に比較級を強調する働きがある。
  「はるかに、ずっと」


〈訳〉
 たしかに、自宅が所在する地区から退去させられることは、午後8時から
 午前時まで継続的に自宅に閉じ込められることより、はるかに大きな権利の
 剥奪でる。



[第2文]
  But exclusion from a threatened area, no less than curfew, has a definite
  and close relationship to the prevention of espionage and sabotage.

〈語句〉
・exclusion 名)排除、退去
・threatened 形)脅威にさらされている
・area 名)地域
・no less than ~に劣らず
・curfew 名)夜間外出禁止
・definite 形)明確な
・close 形)密接な
・relationship 名)関係
・prevention 名)防止
・espionage 名)スパイ活動
・sabotage 名)破壊(妨害)工作


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
    exclusion has relationship
     S    V    O   「退去は関係をもつ」
  現在形になっているのは、この事件に限らず、判決当時も妥当することとして
  述べられているからである。

● no less than curfew 「夜間外出禁止令に劣らず」は、前文のfar greater
  deprivationと対比的に使われている。


〈訳〉
 しかし、脅威にさらされている地域からの退去は、夜間外出禁止令に劣
 らず、スパイ活動と破壊工作の防止に明確で密接な関係がある。



[第3文]
  The military authorities, charged with the primary responsibility of
  defending our shores, concluded that curfew provided inadequate
  protection and ordered exclusion.

〈語句〉
・military 形)軍の
・authority 名)当局(者)
・charge A with B   A(人)にB(責任など)を負わせる
・primary 形)主要な、第一義的な
・responsibility 名)責任
・defend 他)~を防衛する
・shore 名)海岸
・conclude that… …と結論する
・curfew 名)夜間外出禁止
・provide 他)~を与える、提供する
・inadequate 形)不十分な
・protection 名)保護
・order 他)~を命じる
・exclusion 名)退去


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
  authorities  concluded  { that~protection }]
    S       V        O
  「当局者は {  } と結論した。」

● authorities, charged with~の charged は、基本構造の動詞ではない。
 charge A with B 「A(人)にB(責任など)を負わせる」という形で使われ
 るが、この文は、charged の後に A にあたる目的語がないので、「~(の責
 任)を負わされた」という過去分詞の形容詞的用法として使われていることが
 分かる
  関係代名詞の非制限用法 authorities, who were charged with~と同じである
  と見なしてもよい。

● and ordered exclusion は、一見するとprovided と並列されているように見
 える。しかし、それでは、curfew が ordered の主語となり非論理的な文になる
 (「夜間外出 禁止が退去を命じた」)。したがって、ordered は、authorities
 を主語としておりconcluded と並列的に使われていることが分かる。
             ↗ concluded that  
      authorities 
            ↘ ordered exclusion   
     

〈訳〉
 軍の当局者は、わが国の沿岸の防衛について第一義的責任を負っており、
 夜間外出禁止では充分な保護をえられないと結論し、退去を命じた




≪Par.4
[1]Korematsu was not excluded from the Military Area because of hostility to him or his race.  [2] He was excluded because we are at war with the Japanese Empire, because the properly constituted military authorities feared an invasion of our West Coast and felt constrained to take proper security measures.  [3] There was evidence of disloyalty on the part of some, the military authorities considered that the need for action was great, and time was short.  [4] We cannot -- by availing ourselves of the calm perspective of hindsight -- now say that at that time these actions were unjustified.


[第1文]
 Korematsu was not excluded from the Military Area because of hostility to
  him or his race. 

〈語句〉
・exclude 他)~を排除する、~を退去させる
・Military Area ディウィット中将が西海岸沿いに指定した軍事地区
・because of~  ~のために、~が原因で
・hostility 名)敵意
・race 名)人種

〈文法〉
● not excluded…because of~ 
 because of は、excluded のみを修飾している。
 →「『~という理由で退去させられた』のではない。」

 not excludedを修飾していると解釈すると非論理的な文になる。

 →「コレマツは退去させられなかった。なぜならば敵意をもたれていたから。」


〈訳〉
 コレマツは、彼または彼の人種に対する敵意を理由に、軍事地区から退去

 させられたのではない。


[第2文]
  He was excluded because we are at war with the Japanese Empire,
 because the properly constituted military authorities feared an invasion of
 ourWest Coast and felt constrained to take proper security measures.

〈語句〉
・exclude 他)~を退去させる
・at war with~ ~と戦争をしている
・Japanese Empire 名)日本帝国
・properly 副)適切に
・constitute 他)~を構成する
・military 形)軍の
・authority 名)当局(者)
・fear 他)~を恐れる
・invasion 名)侵略
・West Coast 名)西海岸
・constrain A to do~ Aに強いて~させる
・proper 形)適切な
・secure 形)安全な、防衛のための
・measure 名)措置


〈文法〉
● because…は、第1文の not~because of…と対比的に使われている。
  「~のためではない。~だからである。」

● 2つ目の because の前に and がないのは、おそらく畳みかけるようなリズム

 の文にるためであろう。

● properly constituted 過去分詞の形容詞的用法「適切に構成された

● felt constrained to~ 
  (~することを強いられていると感じた)→「~せざるをえないと感じた」


〈訳〉
 彼が退去させられたのは、われわれが日本帝国と戦争をしているからで

 あり、適切に構成された軍当局者が、わが国の西海岸への侵略をおそれ、

 適切な防衛措置を講じざるをえないと感じたからである。



[第3文]
  There was evidence of disloyalty on the part of some, the military
  authorities considered that the need for action was great, and time was
  short.

〈語句〉
・evidence 名)証拠
・disloyalty 名)不忠、 ここでは具体的に言うと「スパイ行為」のことである。
・some = some people
・military 形)軍の
・authority 名)当局(者)
・consider that… …であると考える
・need 名)必要
・action 名)行動  


〈文法〉
● the military…の前に and がなく、time was…の前に and があることから、3つ
 の文並列されていることが分かる。
     ① There was evidence…     
     ② the military authorities considered…
     ③ time was short

   the military authorities considered that time was short というつながりではな
  いことに注意が必要である。つまり③の「時間が短かった」というのは、軍当

  局者の考えではなくブラック裁判官の評価である。


〈訳〉
 幾人かの者について不忠の証拠があったし、軍当局者は行動の必要が大き

 いと考え、時間は切迫していた。



[第4文]
 We cannot -- by availing ourselves of the calm perspective of hindsight --
  now say that at that time these actions were unjustified.

〈語句〉
・avail oneself of~ ~を利用する
・calm 形)静かな、冷静な
・perspective 名)1.考え方、見方、 2.遠近法
・hindsight 名)後知恵
・unjustified 形)正当化されない


〈文法〉
● 基本構造:第3文型  
    We cannot  say  { that…unjustified }.
      S       V     O 

     「われわれは、{   }と言えない。」

● ダッシュで挟まれた部分は、付加的に挿入されたというよりもむしろ強調して

 いる表現である。「冷静な後知恵の見方を利用することによって」は、冷静

 に振り返ってることができる利点を活かしてというくらいの意味である。
  日系人の退去命令が出たのは、1942年3月であるが、この判決が出された

 のは、それから3年近く後の1944年の12月のことであり、すでに日本の敗

 戦が濃厚であり、西海岸の奇襲攻撃の心配はなくなっていた。判決の時から見れ

 ば、日系人を退去させる必要はなかったと思えるかもしれないが、真珠湾攻撃直

 後の当時としてはやむを得ない措置であったのだという趣旨である。


〈訳〉
 われわれは、冷静に振り返って見ることができる利点を活かして、当時これ

 らの行動が正当化されなかったと言うことはできない。



【解説】
 日米関係が悪化した1939年頃からFBIや軍の情報部は、日系人の活動の監視を強化し、スパイ活動などの恐れのある人物のリストを作成していた。真珠湾攻撃の直後から、そのリストに載った日系人がつぎつぎと逮捕され、逮捕者の数は翌2月には約2,000人に達した。日系人一般の強制退去が始まったのはその後のことである。したがって、強制退去と強制収容の対象となった約12万人もの日系人のうちスパイ活動を行う恐れのある人はほとんどいなかったと言える。
 ある法律の規制の対象となる人の中に、その法律の目的の達成とは無関係の人が含まれることを「過多包含(over-inclusiveness)」と呼ぶ。おおよそすべてのルールにはこの性質がある。スパイ活動などの防止を目的として西海岸の日系人全員を強制退去させたことは、明白に過多包含である。最高裁は、この過多包含について、時間が切迫しておりスパイ活動をする人とそうでない人を即時に分離できないという軍の判断を拒否できないという理由で正当化した。例えば、ある部屋の中に10人の人がいて、その中にジャケットの下に爆弾を巻き付けた自爆テロ犯が紛れている場合、警察の特殊部隊が突入して10人全員を拘束したとしても、テロ犯でない人も拘束したとして特殊部隊を非難する人はいないであろう。過多包含はこのような理由で正当化された。
 1970年代になって、日系人が強制退去・収容によって被った財産的損失の補償を求める運動が日系市民協会(Japanese American Citizen League: JACL)を中心に始められた。連邦議会の中にもこの問題を調査する調査委員会が設置された。調査委員会は、日系人によるスパイ活動を否定する信頼性の高い数多くの証拠が軍を含む連邦機関に存在したと認定し、強制退去・収容の原因を「人種偏見、戦時ヒステリー、政治的指導力の機能不全」であると結論づけた。
 このような動きの中で、コレマツを無罪にするための再審裁判も行われた。そのための調査の中で、コレマツ裁判の最高裁審理のためにディウィット中将が作成した報告書が書き換えられていたことが判明した。最初の報告書では、日系人の忠誠心の有無を「確定する時間が不十分であったというわけではなかった」と書かかれていた。しかし、司法省の弁護士は控訴裁判所において、忠誠心に関する個別審査の時間的余裕がなかったと弁論していた。このためにディウィット中将は、司法省に説得されて不承不承この記述を書き換えた。
 結局、最高裁判決が強制退去を是認した2つの大きな柱、スパイ活動の存在と時間の切迫性の両方に根拠がなかったことになる。コレマツは、1984年の再審裁判で無罪判決を受けた。合衆国政府が控訴しなかったので、無罪判決が確定した(同時に最高裁がコレマツ判決を改める機会も失われた)。再審の手続きが進行中に、司法省の担当官が、コレマツに裁判を取り下げさせるために恩赦(pardon)を申し出た。コレマツは、「政府の方が私から許し(pardon)を求める立場にある」としてこの申し出を拒絶した。この気骨の人は、1998年にクリントン大統領から大統領自由勲章を授与され、2005年に86歳で亡くなった。
 コレマツを無罪にした再審地裁判決は、1944年の最高裁判決について次のように述べている。「国際的な敵意と反感の時代において、われわれの立法、行政、司法の諸機関が、かくも容易に喚起される卑小な恐怖や偏見からすべての市民を保護するためにその権限を行使する覚悟でなければならないという警告として、この判決は存立している。(It stands as a caution that in times of international hostility and antagonisms our institutions, legislative, executive and judicial, must be prepared to exercise their authority to protect all citizens from the petty fears and prejudices that are so easily aroused.)」
 参考文献:姫路獨協大学・戦争と平和研究会編『戦争と平和を考える』「第4章 日系アメリカ人の強制退去」(石田裕敏)(2006年、嵯峨書院)

2018年03月04日