Marbury v. Madison  違憲立法審査権の確立

裁判所が違憲立法審査(司法審査)をできることを合衆国最高裁判所が認めた事件


マーベリー 対 マディソン
Marbury v. Madison

5 U.S. 137 (1803)
合衆国最高裁判所
Supreme Court of the United States
1803

 
 アメリカ合衆国憲法(the Constitution of the United States)は、合衆国最高裁判所(Supreme Court of the United States)が、第1審として審理できる訴訟の種類について規定している。つまり、憲法は、特定の種類の訴訟は、地方裁判所や控訴裁判所を経由せずに直ちに最高裁に訴えることができると定めている。この種の訴訟として、外交使節に関わる訴訟などがある。ところが、1789年に制定されたある法律が憲法に規定されたもの以外の事項について最高裁が第1審として審理できると定めたため、最高裁は、この法律が憲法に反して無効であると判決した。
 1800年の大統領選挙と連邦議会議員選挙で、連邦(合衆国)政府の権限強化を主張する連邦派(Federalists)は、連邦政府の権限強化に反対し州権限の維持を主張する共和派(Republicans)に敗北した。連邦派の現職ジョン・アダムズ(John Adams)大統領は残任期間にワシントン特別区に42人の治安判事を任命した。そのうちの1人が上告人のウィリアム・マーベリー(Willima Marbury)であった。マーベリーの辞令には国璽が押され封緘されたが、交付されないまま、政権は共和派の新大統領トーマス・ジェファソン(Thomas Jefferson)に引き継がれた。ところがジェファソンは、新国務長官のジェームズ・マディソン(James Madison)に対して、アダムズ前大統領が任命した治安判事の辞令の交付を保留するように命じたため、マーベリーにも辞令が交付されなかった。

 マーベリーは、辞令交付をマディソン国務長官に強制する職務執行令状(writ of mandamus)の発給を合衆国最高裁判所に求めた。マーベリーがこの請求の根拠としたのは、最高裁が第1審として職務執行令状を発給できると定める連邦法、1789年の「裁判所法(Judiciary Act)」第13条であった。ところが、最高裁が第1審として受理できる訴訟の種類について定める合衆国憲法第3条2節は、「大使その他の外交使節および領事に影響するすべての事件、ならびに州が当事者の事件」と規定しているのみで、裁判官の辞令交付を命じる職務執行令状の発給については規定していない。したがって、裁判所法第13条と憲法第3条2節の抵触の問題が争点となった。
 アダムズ大統領に任命された連邦派合衆国最高裁のジョン・マーシャル(John Marshall)長官が法廷意見(opinion of the court)を書いた。



≪Par.1≫
[1] Certainly all those who have framed written constitutions contemplate them as forming the fundamental and paramount law of the nation, and consequently the theory of every such government must be that an act of the legislature, repugnant to the constitution, is void. [2] It is emphatically the province and duty of the judicial department to say what the law is.  [3] Those who apply the rule to particular cases, must of necessity expound and interpret that rule.  

[4] If two laws conflict with each other, the courts must decide on the operation of each.



[第1文]
  Certainly all those who have framed written constitutions contemplate

them as forming the fundamental and paramount law of the nation, and

consequently the theory of every such government must be that an act ofthe legislature, repugnant to the constitution, is void.

〈語句〉
● certainly 副)~は確かなことである
 特定の動詞や形容詞を修飾するのではなく、

  文章全体を修飾する副詞(文修飾)=It is certain that…. 

 ・文修飾:Happily, President Reagan did not die.

    「幸いなことにレーガン大統領は死ななかった」 
 ・動詞修飾:President Lincoln did not die happily.

    「リンカーン大統領は幸福な死に方をしなった。」

● those who~ =those people who~ ~する人々
  those には「そのような」という意味があるが、「そのような人々

  「どのような」人々かは、who ~で説明されている。

● frame 名)枠組み(フレーム)、他)~の枠組みを作る、構成する、起草する
 英単語の名詞は、その名詞の意味に対応した動詞として使われることが多い 。
   例)water 他)(花などに)水をやる、 oil 他)~に油をさす


● written 形)書かれた
 過去分詞は端的に「~された」という意味の形容詞としてとらえる。受動態と

 分類される文、例えば、The house was built.もThe house was big.と同様に

 builtが「建てられた」という意味の形容詞であるととらえる。

● constitution 名)1.憲法、2.骨格、構造、3. 政体
 例えば、「アメリカ合衆国憲法」(the Constitution of the United States)という
 言葉には「アメリカ合衆国の骨格(基本構造)」というニュアンスがある

● contemplate 自)沈思する 他)1.~を凝視する 2.~を予期する、もくろむ
 contemplate A as B  AがBであると考える
・form 名)形 他)~を形作る 
・fundamental 形)根本的な
・paramount 形)至上の、最高の
・nation 名)1.国家、2.国民 3.民族
・consequently 副)結果として
・theory 名)理論
・government 名)1.政府、2.統治 
 
● act 名)1. 行為 2. 法律(議会制定法)
  おそらく、もともと「行為」という意味で使われていたものが、the act of
 Parliament「英国議会の行為」という文脈で用いられ、そこから「法律」という意味
 が派生したと考えられる。したがって、同じ法律でも「議会制定法」という意
 でか使れず「判例法」という意味では使われない。
  action(行動、訴訟)という単語についても同じことが言える。
   拙稿「日常語の法律用語としての固定化について」『英語教育』

    (2013年2月号)92頁、参照

・legislature 名)立法部、議会
・repugnant 形)1.非常に不快な、2.矛盾した、調和しない
・void 形)無効な


〈文法〉
● 基本構造(第3文型)  

         those contemplate  them.
        S     V      O 
     「人々はそれらについて考える。」
   先行詞(この文では、those)を肉付けして形容詞のように説明するの

   係代名である(動詞を必ず伴う)。 
   肉付け部分のwho~の関係代名詞節の中には必ず1つは動詞があるので(この

   文でframed)、基本構造の動詞は2つめの動詞であり(この文では

   contemplate)その前までが関係代名詞節である。 
       those ←〔…framed…〕 contemplate~
              V1      V2

  ※ contemplate が現在形であるのは、憲法の起草者達がまだ生きているからで

   ある。この訴訟の当事者のマディソン自身が主要な執筆者の一人である。

● as 「~として」以下の~ing…には、意味の上で V + O 「~を~する」という関

 係がある:forming { the fundamental…nation }   
       (v)       (o)     「(~)を形作るものとして」

● and consequently 以下の文の基本構造:
           theory be { that…void } 
          S   V     C     
 「SはCである」という第2文型。第2文型は、基本的にはA=B「AはBであ

  る(になる)」という文型である。したがって、Bは主語の意味内容を補う語

  という意味で「補語(complement)」と呼ばれる。

    この文では、theory =that…
     補語のthat 内部にまた第2文型の文章が入っている二重構造となって

     いる。
     {act  is  void}  act = void 「法律無効である。」
      s   v   c  

● repugnant to…「...に反する」が修飾しているのは、直前のlegislation、あるいは
 act のいずれかという疑問が生じるが、これは文法や語彙の知識だけでは決定で

 きな文法判断の限界に属する事項である。 
  直前をコンマで区切っていること、「憲法に反する立法部」は、それなりに筋

  が通るが、立法部の作った法律が憲法に反するということが言いたいのである

  と考えてact を修飾していると判断する。

         act  ↖

               repugnant to the constitution

      legislature × ↙

 
  文法的には両方の修飾が可能であるが、文法は万能ではない。結局は、文章の

  意がすんなりと理解できるもっとも筋のとおった解釈が優先される。
  (ただし、この部分は「憲法に反する立法部の法律」と訳さざるをえないの

   で、和訳にも同じ曖昧さが残る。)

〈訳〉
 憲法を起草してきた人々すべては、国家の根本的かつ至高の法を形成するも
 のとして憲法をとらえていることは確かであり、結果として、そのような統
 治すべての理論は、憲法に反する議会の法律は無効であるということであ

 る。



[第2文]
 It is emphatically the province and duty of the judicial department to say

 what the law is.

〈語句〉
・emphatically 副)1.断然、まったく 2. 強調して、断固として
 emphasize(~を強調する)の副詞形
・province 名)1.領域、分野 2.地方、地域
・judicial 形)1.司法の、2.裁判の、3.裁判所(裁判官)の 
・department 名)1.(政府、企業の)部、局、部門 

         2.(大学の)学部、学科 3.(米の)省

〈文法〉
● 基本構造(第2文型):
   It is the province and duty. 「それは領域と義務である。」
   It~toの構文である。れは断然に司法部の領域と義務である」と言う

   と、「それとは何か、という疑問が生まれる。続いて「何が法であるか

   を述べること」という不定詞の名詞的用法が続いて説明するという用法で

   ある
    和訳では「何が法であるかを述べることは断然に司法部の領域と義務で

   ある」となる。形式主語の it は訳さない。内容のある主語、to say…を

   文頭に置くと、To say what law is is  the province…という is が連

   続して文構造が分かにくい不格好な文なる。


〈訳〉
  何が法であるかを述べるのは断然に司法部の領分と義務である



[第3文]
 Those who apply the rule to particular cases, must of necessity
  expound and interpret that rule.


〈語句〉
・apply 他)~を適用する
・case 名)事件、事例、ケース
・of necessity 副)必然的に、必要にせまられて (=necessarily)
・expound 他)~を(詳しく)説明する
・interpret 他)~を解釈する


〈文法〉
● 基本構造(第3文型):
 Those expound and interpret rule. 「人々はルールを説明し解釈する」
  S       V        O  
  who~cases は、those を説明する形容詞節である。who~の関係代名詞節の

  中には必ず1つは動詞があるので(この文では、apply)、基本構造の動詞は2つ

  めの動詞のexpound…である。
   Those ←〔who  apply  the rule to particular cases〕must~expound….
             V1                      V2
 「特定のケースにルールを適用する人々」。those はwho~と一緒になると

 「人々」という意味になる。those people who~「~するような、そんな人々」

  という表現が土台にあって、そこからpeopleが省略された形である。


〈訳〉
  ルールを特定の事件に適用する者は、必然的にそのルールを説明し解釈し
  なければならない。



[第4文]
 If two laws conflict with each other, the courts must decide on the
 operation of each.

〈語句〉
● conflict 自)1.矛盾する、2.衝突する、対立する
  A conflicts with B  Aは、Bと矛盾する  conflict of laws 抵触法、国際私法

・each other お互い(に、を)
・operation 名)働き、機能 
● decide on ~について決定する
 on には、talk on the news などのようにabout「~について」という意味

 ある。


〈訳〉
 もし二つの法が互いに矛盾するならば、裁判所はそれぞれの働きについて決

 定しなければならない




≪Par.2≫
[1] So if a law be in opposition to the constitution, if both the law and the constitution apply to a particular case, so that the court must either decide that case conformably to the law, disregarding the constitution, or conformably to the constitution, disregarding the law, the court must determine which of these conflicting rules governs the case.  [2] This is of the very essence of judicial duty.  [3] If then the courts are to regard the constitution and the constitution is superior to any ordinary act of the legislature, the constitution, and not such ordinary act, must govern the case to which they both apply.  [4] Those then who controvert the principle that the constitution is to be considered, in court, as a paramount law, are reduced to the necessity of maintaining that courts must close their eyes on the constitution, and see only the law.



[第1文]
 So if a law be in opposition to the constitution, if both the law and the
 constitution apply to a particular case, so that the court must either
 decide that case conformably to the law, disregarding the
 constitution, or conformably to the constitution, disregarding the law,
 the court must determine which of these conflicting rules governs the
 case.

〈語句〉
・ opposition 名)反対、対立   in opposition to ~に反して、~と対立して 
・constitution 名)1.憲法、2.骨格、構造、3. 政体
・apply 自)適用になる、適用される
・…so that ~ …するので~、…それゆえ(したがって)~
・either A or B  AかBのいずれか 
・conformably to ~に準拠して、~従って  

  conform to ~と一致する、~に従う
・disregard 他)~を無視する
● conflicting 形)矛盾している  conflict (矛盾する、衝突する)の現在分詞
  この種の~ing(現在分詞)は、“She is charming” や“ His story is interesting.”
  などと同様に端的に形容詞ととらえる方が読みやすい。

・govern 他)1.~を規律する 2.~を統治(支配)する


〈文法〉
● 文の全体構造:(1)if a law…,(2)if both the law…, the court must determine…
 「もし(1)であり、(2)であるなら、裁判所は~を決定しなければなら

  ない。」
  the court must determine…の前には、if やso that などの文をつなぐ語句が

  付ておらずコンマしかないので、独立しうる文章、つまり主文であることが

  分る。また、so that…は、(2)if both the law…, に含まれていることも

  分かる。

● 文頭のSo ifの節の中で、動詞がis ではなく原型のbeになっている用法は、仮定

 法現在と呼ばれており、「現在や未来に関する単なる仮定を表す」古風な言い回

 しであり、is となっていても意味は同じである。

● disregarding の~ing は、分詞構文である。分詞構文は、前後の文脈に合った適

 当な接続詞でつなぐ用法であり、何が適当な接続詞であるかは自分が考える。
     ・Feeling sick, Mary went to school.   
      「体調が悪かったけれども、メアリーは学校に行った。」 
     Feeling sick, Mary was absent from school.       
      「体調が悪かったので、メアリーは学校を欠席した」
  これらのの例文では同じFeeling sickでも文脈によって含意が異なる。
 本文では、and disregardというくらいの単純な意味で前文とつながっている
 
● If節が終わった後の主文の基本構造は、第3文型
     court  determine  {which … }  
      S      V       O 「裁判所は、どの…を決定する。」
 文型は多重構造になっている。つまりこの文では第3文型の目的語の中でさらに

 第3文型がある二重構造になっている。
   O={ which of these conflicting rules governs the case} 
                s         v      o
 「これら矛盾しているルールのうちどれが事件を規律するのかを」


<訳>
  それゆえある法が憲法に反し、その法と憲法の両方が特定の事件に適用に

 なり、したがって裁判所はその法に準拠して事件について決定し憲法を無視

 しなければならないか、あるいは憲法に準拠してその法を無視しなければな

 らないかのいずれかとすれば、裁判所はそれらの矛盾するルールのうちどれ

 が事件を規律するのかを決定しなければならない。

 


[第2文]
  This is of the very essence of judicial duty.

〈語句〉
● very 形)まさに  

  後に名詞があるので、「非常に」という意味の副詞ではない。
● essence 名)本質、精髄   essential 形)本質的な


〈文法〉
● of +抽象名詞=形容詞
  of very essence = very essential「まさしく本質的なことである」
 This desk is made of wood.などように、そもそもof には「~の性質をもって

 いる」という含意がある。
  of+抽象名詞は、例えば、She is a woman of no importance.「彼女はつまら

 ない女性である。」というように直接名詞(woman)を修飾する形容詞して

 も、She is of no importance.というように文の補語となる形容詞としても用いら

 れる。


<訳>
 これは、司法の義務についてまさしく本質的なことである。



[第3文]
 If then the courts are to regard the constitution and the constitution is
 superior to any ordinary act of the legislature, the constitution, and not
 such ordinary act, must govern the case to which they both apply.

〈語句〉
・regard 他)1.~を尊重する、 2. regard A as B  AをBと見なす
・superior to 形)~より優れている、~を優越する
・ordinary 形)通常の
● act 名)1.行為、2.法律(議会制定法) 

  ※ Par.1の第1文の語句解説参照。


・legislature 名)立法部、議会  


〈文法〉
文頭のif節の中でBe動詞+to不定詞の形が使われている。この表現は、予定、

 義務、可能、運命、意図などの含意をもつが、基本的には「~する方向を向い

 ている」という意味ある。例えば、Man is to die.という文は、「人は死ぬ運

 命にある」と慣例的に訳されるが、「人は死ぬ方向を向いている」というのが原

 意である。この形で使われる不定詞の用法は形容詞的用法である。

    Man is mortal. 
  拙稿「原型不定詞について」『英語教育 』1997年11月号(84-85頁)参照
                   
  本文のthe court are to regard…は、「裁判所が憲法を尊重しなければなら

 ない、尊重することになっている」くらいの意味である。

● 文末の関係代名詞節 the case ←〔 to which they both apply 〕
  「それら両方が適用される事件」は、they both apply to the case という文が

  もとになっている。


〈訳〉
 それゆえ裁判所が憲法を尊重しなければならず、憲法は立法部の通常の法律

 のどれよりも優越するとすれば、そのような通常の法律ではなく憲法が、

 方が適用になる事件を規律しなければならない。



[第4文]
 Those then who controvert the principle that the constitution is to be
  considered, in court, as a paramount law, are reduced to the necessity of
  maintaining that courts must close their eyes on the constitution, and see
  only the law.

〈語句〉
・controvert 他)1.~ついて議論(論争)する、2.~を反駁(否定)する
・principle 名)原理、原則
・constitution 名)1.憲法、2.骨格、構造、3. 政体
・paramount 形)至上の、最高の

● consider A as B AをBと考える、みなす
  ここでは be considered as~ 「~と考えられている、みなされている」

  という受動態で用いられている。

● reduce A to B 1.AをBまで減らす、引き下げる、2.AをBの状態にする、
         3.AをBまで陥らせる(落とす)
  ここでは、3.の意味で、受動態の形で用いられている。
  例)He was reduced to begging.「彼は物乞いをするまでに落ちぶれた。」

● necessity 名)必要(性)
  本文のare reduced to the necessity of~ing は、「~することが必要な状況に

  陥っいる」「~せざるを得ない立場に追いこまれている」というくらいの意

  味である。

・maintain 他)1.~を維持する、2.~を主張する


〈文法〉
基本構造:Those are reduced to necessity.
 Those(複数形)に対応する動詞は、controvert とareの2つである。1つめの
 controvert は関係代名詞(who)節の内部の動詞であるので、2つめのare が基

 本構造の動詞であることが分かる。
  Those ←〔 who controvert the principle that…〕are  reduced to

             v1               V2      

● who節内のthat…は、the constitution is to be considered…と完全な文章が続いて
 おり関係代名詞ではなくprinciple の内容を説明する同格節である。

 「~という原理」
    関係代名詞節の場合は、後続部分の主語、目的語などが欠けている
      例) the principle ←〔 that they never know×

● principle に続く同格(that)節の中に、is to be considered…という

 Be動詞+to不定詞が用いられている。この形は、予定、義務、可能、運命など

 の意味をもつが、ここでは、「義務」=must be considered の意味である。

● maintaining that…「…と主張すること」のthat節内のmust に続く動詞は、close

 とsee の2つある。


〈訳〉
 したがって、憲法が裁判所において至高の法であると見なされなければなら

 ないという原理に反駁する人々は、裁判所は憲法に対して目を閉じ、法律の

 みを見なければならないと主張せざるを得ない立場に堕している。




≪Par.3≫
[1] This doctrine would subvert the very foundation of all written constitutions. [2] It would declare that an act, which, according totheprinciples and theory of our government, is entirely void; is yet, in practice, completely obligatory. [3] It would declare, that if the legislature shall do what is expressly forbidden, such act, notwithstanding the express prohibition, is in reality effectual. [4] It would be giving to the legislature a practical and real omnipotence, with the same breath which professes to restrict their powers within narrow limits. [5] It is prescribing limits, and declaring that those limits may be passed at pleasure.


[第1文]
 This doctrine would subvert the very foundation of all written constitutions.

〈語句〉
・doctrine 名)教義、教理、主義
・subvert 他)1(政府などを)転覆させる、2(信念などを)次第に失わせる
・very 形)まさにその
・foundation 名)1.設立、2.基礎、土台
・written constitution 名)成文憲法


〈文法〉
● would (will の過去形)の用法は、仮定法過去である。「仮にこのような教義

 が認められるとすれば」というような仮定の意味が込められている。

 

 ※ 仮定法になぜ過去形が用いられるかついては、さまざまな解釈があるであろ

  うが、一つの説明として、過去のことと同様に想起の対象としてしか存在しな

  (現実の世界では現在も将来においても存在しない)ことを表しているとみ

  ることができる。

    拙稿「過去概念と人ー―想起の時制」『ことばから人間を』所収、

    230~241頁(昭和堂 1998年)参照


〈訳〉
  このような教義は、成文憲法の礎そのものを壊すであろう。


[第2文]
 It would declare that an act, which,according to the principles and theory
 of our government, is entirely void, is yet, in practice, completely
 obligatory.


〈語句〉
・It = 前文のdoctrine「教義」を受けている。
・declare 他)~を宣言する、表明する
● act 名)1.行為、2.法律(議会制定法) 

  ※ Par.1の第1文の語句解説参照。
・principle 名)原理、原則
・theory 名)理論
・government 名)1.政府、2.統治
・entirely 副)完全に、まったく
・void 形)無効な
・yet 副)1.まだ、2.それでも、依然として
・in practice 実のところ、実際問題として
・completely 副)完全に、まったく
・obligatory 形)義務としてなすべき、義務的な

〈文法〉
● would は、第1文と同様の仮定の意味が込められた仮定法過去である。
● declare that…「…ということ宣言する」のthat節内の文は第2文型:
        act is obligatory  
         S   V    C            
 according to~や in practice という前置詞句が挿入されているので分かりにくい

 が、以下のような構造になっている。
 act, ←〔which, according~voidis yet in practiceobligatory.
  S                    V            C

 


〈訳〉
 そのような教義は、われわれの統治の原理と理論によれば、まったく無効で

 ある法律が、それでも実際は完全に義務的なものであると宣言するであろ

 う。



[第3文]
 It would declare that if the legislature shall do what is expressly forbidden,
  such act, notwithstanding the express prohibition, is in reality effectual.

〈語句〉
・It = 第1文のdoctrine「教義」を受けている。
・declare 他)~を宣言する、表明する
・legislature 名)立法部、議会 
・expressly 副)明示的に
・forbidden  forbid 他)~を禁じる、の過去分詞形
● act 名)1.行為、2.法律(議会制定法)

  ※ Par.1の第1文の語句解説参照。
・notwithstanding 前)~にもかかわらず
・express 形)明示的な、他)~を表現する、表明する
・prohibition 名)禁止
・in reality (ところが)実は、実際に
・effectual 形)有効な、効果のある


〈文法〉
● would は、第1文と同様の仮定の意味が込められた仮定法過去である。

● declare that…「…ということ宣言する」のthat節内にさらに if~forbidden

 という節が入っている。
  declare { that if the legislature…forbidden, /suchact…is in reality effectual.}

● if 節内は第3文型:legislature shall do{what is expressly forbidden}
            S        V       O
   whatは、do の目的語であるが、what節内では、主語である。

● if 節内にshall が入っているのは、おそらく「どうしても(何がなんでも)

 やる」とい非常に強い意志や強制力を表している。
  未来の仮定を表すif節の中では、未来のことでも原則として will が用いられ

 ないのは語源的には、will が時系列的に未来のことを示す言葉(単純未来)で

 はなく、「~したい」(wish to)という意味であったことから説明できる。

 単に「~場合は…る」という文では(「~したい」と言わない場合は)、

 現在形でよい。
 今日も「~する意志があるなら」と言いたい場合は、if節の中でもwillを使う。
    例)Smoke the cigarette, if you will.

 

 本文のように、if 節の中に shall が用いられている場合も、同じことが言える。

● that節内の主文の基本構造は、notwithstanding~とin realityが挿入されて分かり

 にくいが、act is effectual である。


〈訳〉
 そのような教義は、立法部が明示的に禁じられていることを敢えて行って

 も、のような行為(法律)は、実際には有効であると宣言するであろう。



[第4文]
 It would be giving to the legislature a practical and real omnipotence, with
  the same breath which professes to restrict their powers within narrow
  limits.

〈語句〉
・It = 第1文のdoctrine「教義」を受けている。
・legislature 名)立法部、議会 
・practical 形)1.実際的な、実践的な、2.実用的な
・omnipotence 名)全能 
・breath 名)息 

  with [in] the same breath (矛盾することを)同時に、矢継ぎ早に
・professes 他)1.(~であると)公言する、

          2.(to do~:すると)自称する、ふりをする
・restrict A within [to] B  AをBの範囲に制限する
・power 名)力、能力、権力、権能
・narrow 形)狭い
・limit 名)限度、限界、境界 他)~を限定する


〈文法〉
● would は、第1文と同様の仮定の意味が込められた仮定法過去である。

● be giving の現在進行形には、非難の意味合いが込められている。
  例)You are always finding fault with me.
    「君はいつも私のあらさがしばかりしている。」

 

〈訳〉
 そのような教義は、立法権能を狭い境界内に制限していると公言し、

 その舌も乾かぬうちに、実践的で現実的な全能を立法部に与えて

 いるであろう。



[第5文]
  It is prescribing limits, and declaring that those limits may be passed at
  pleasure.

〈語句〉
・It = 第1文のdoctrine「教義」を受けている。
・prescribe 他)1.(薬など)を処方する、2.(規則など)を定める
・limit 名)限度、限界、境界 他)~を限定する
・declare 他)~を宣言する、表明する
・pass 自)通過する、他)1.~を通りすぎる、2.(試験など)に合格する、
             3.(限界など)を超える
・at pleasure 意のままに


〈文法〉
● is prescribing この現在進行形は、おそらく前文(第4文)のwould begiving~

 との同一性(同時進行)を表している。しがたって、仮定が二重になるので

 wouldbeにていないのであると思われる。

be passed(受動態)は、the legislator may pass those limitsという能動の文が

 もとになっている。
  
 Marshall長官は、立法部が憲法の制限を超える例えとして、「州から輸出され

  た物品に対してはいかなる租税も関税も課してはならない」と定める合衆国憲

  法第1条9節に反して、州から輸出される綿やタバコに関税が課される場合を

  挙げている。

〈訳〉
 そのような教義は、限界を定め、同時にそのような限界は意のままに超え

 うる宣言している。




【解説】
 日本国憲法は、第81条において「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と定めている。合衆国憲法には、これに類する条項がない。合衆国最高裁は、このMarbury事件において、裁判所が違憲立法審査(司法審査)を行えるかどうかを判断する必要に迫られた。マーシャル長官は、これを肯定したが、その理論を単純化すれば、憲法は「至高の法」(supreme law)として創られたのであるから、法律が憲法に反する場合、その法律を無効とする、ということである。
 連邦派のアダムズ大統領が大統領選で共和派のジェファソンに敗れた後、司法部における連邦派の勢力を増大させるために泥縄的に裁判官を任命した。この時に任命された裁判官は、「真夜中の裁判官(midnight judges)」と呼ばれることがある。名前の由来は、アダムズが辞令に署名する作業が任期終了の直前の夜中までかかったためであると言われている。そもそもこの強引なやり方に問題があった。
 マーシャル長官は、アダムズ大統領に任命された連邦派の裁判官であったが、「真夜中の裁判官」を任命させる職務執行令状を発給する権限は憲法によって最高裁に認められていないと判決した。これによって共和派との決定的な衝突を避けることができた。同時に、合衆国最高裁には、議会の法律を違憲無効とすることができる強力な権能があることが確立した。
 比較的最近の研究において、合衆国憲法第3条2節によって最高裁に第1審管轄が明示的に認められた事件、すなわち「大使その他の外交使節および領事に影響するすべての事件、ならびに州が当事者の事件」について、最高裁が第1審として職務執行令状を発給できると限定的に解釈して、1789年の裁判所法第13条は、裁判官任命については適用できないが(適用違憲であるが)、条文そのものは合憲と判断することもできたと指摘されている。

 この判決をより詳細に解説・分析したものとして、樋口範雄『アメリカ法ベーシックス10―アメリカ憲法』pp.18-26 (弘文堂、2011)参照






 

 

2018年03月04日