教案作成について

 教案というと何を書いたらいいのかとか、どう進めていけばいいのかと悩んでいる方もいらっしゃる
かと思います。ここ数年、養成講座や教員育成に携わり、感じたことや実際に自分がやっていることなど
をまとめてみることも後進の方たちに必要かと思い、まとめてみることにしました。

 これから日本語教育に携わろうとする方や勉強を始めようとする方は小中学校の教員のように文部科
学省が出している学習指導要領のようなものがあり、指導するに当たりマニュアルのようなものがあ
と考えている方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、実際の現場の学習者は多種多様で、統一した指導要領のようなものは作れないというのが
現実だと思います。研修生の中には媒介語があればそれで教えられるから大丈夫などと安易に考えて
いる方も中にはいらっしゃいます。現場に出てみれば、すぐに気づかされることだと思いますが、教案な
しでは、効果的に練習を行うことも難しいですし、学習者をコントロールすることも難しいと思います。

 教案は実際に授業を展開していく上での台本であり、教授項目の手順をまとめたものでもあるの
で、しっかりと書いて、実際の授業で戸惑うことのないようにしたいものです。

 ここでは一般によく使われているスリーエーネットワークの「みんなの日本語」をもとに話を進めてい
きたいと思います。


授業の流れについて
 実際の授業で教室の中でやることと言えば、新出語彙を提示し、新出文型入→練習(基本練習、応用練習)という流れで進め、その課の教える項目をすべて終えてから、テキストの例文、会話などの読みに入り、最後に問題をやって一つの課が終わるという形になると思います。
新出語彙
 新しい語彙(名詞、動詞、い形容詞、な形容詞、副詞、接続詞、慣用句…)を提示する際には「みんなの日本語」では市販の絵教材があるので、それを活用している方が多いと思います。

例)
   読みます    新聞を読みます

 新出の語彙を教える際に私が研修生によく話すことですが、その言葉だけをリピートさせるのではなく、その言葉に関する助詞なども一緒に教えることが大切だと思います。具体的にいうと上記のような動詞「読みます」を教える場合、

(絵教材を見せて) リピートしてください。「読みます」 全員→個人

                       「新聞 を 読みます」 全員→個人

   板書) 新聞    読みます。

     
 「新聞」の部分を指さしながら、「雑誌」「本」など他の言葉を言います。
学習者に考えさせて、他に何を読むか考えさせて言わせたりもします。「車の雑誌」「パソコンの本」とか学習者も考えて言ってきます。

 この際に大切なことは教師が言うのではなく、学習者に考えさせて言わせることです。主体的に授業に参加させなければ「受け身の授業」になってしまいます。

 また既習の語彙も使えそうなものがあれば「ロビー新聞読みます」などのように助詞「で」の前に「場所の名詞」が来て、助詞「を」の前に「読むもの」が来るということを自然に理解できるようにします。

 課が進んで14課以降は「て形」「ない形」「辞書形」なども出てきますが、新しい動詞を提示する場合にはそれらの活用形も、学習者に考えさせて言わせてから全員でリピートするようにします。

 動詞を例にして新出語の教え方を紹介しましたが、他の品詞も同じように「名詞」や「助詞」を組み合わせて、例文を考えて提示し、発話させる様にすることが大切だと思います。
新出文型
 新出の語彙を教えてから、その課で出て来る新しい文型を教えていくわけですが、私が考えている流れは次の通りです。

導入) (その文型の意味や使い方などを理解させる活動)
 例) 17課 (〜なければなりません)

    日本の子供は6歳から学校へ行きます。あなたの国では何歳から
   学校へ行きますか?(学生と対話しながら、行かなくてもいいか…など話し   合う)

   日本の子供は6歳から学校へ行かなければなりません。 リピート

    野菜が好きですか?何が嫌いですか?

     (学生と対話しながら、野菜を食べなくてもいいか…など話し合う)

   嫌いな野菜でも食べなければなりません。  リピート

(「〜なければなりません」の意味がわかったところで、板書しながら説明)

    板書)   動詞(ない形)+(な)ければなりません。

   動詞の「ない形」の作り方をまとめたプリントを配布。3G,2G,1Gの順番で
  各グループの動詞を「なければならない」の形で言わせる。

             ↓

口慣らし (動詞の活用や文レベルの練習に入る前の基本的な練習)

  (17課までの動詞のフラッシュカードを使い、基本的な練習を行う)
  例) します → しなければなりません。 (3G)
     来ます → 来なければなりません。

     起きます → 起きなければなりません。(2G)
     食べます → 食べなければなりません。

     休みます → 休まなければなりません。(1G)
  行きます → 行かなければなりません。
             ↓

文型練習 (代入練習、転換練習、結合練習、応答練習、拡大練習など)

  (前の口慣らしで活用がスムースにできるようになった後、手書きで書いた絵教材などもある場合は活用して、練習を行う)

  例) 会社に電話をかけます → 会社に電話をかけなければなりません。
 1 毎日3時間勉強します → 
 2 日曜日に学校へ来ます →
 3 野菜も食べます。 →
 4 お金を換えます。 →
 5 新しい言葉を覚えます。 → 
 6 空港でパスポートを見せます。 →
 7 大阪で電車を乗り換えます。 →
 8 学校が終わってから病院へ行きます。 →
 9 私は薬が嫌いですが、飲みます。 →
10 日本のうちではくつを脱ぎます。 →
11 彼が好きではありませんが、結婚します。 →

  (その他、既習の語彙を使って、練習)

 ここで、注意することは短い文からだんだん長い文へ、また、学習者が意味を考えらながら答えられるように、できるだけ現実的なことや、面白い文なども盛り込んでいくことが、退屈な練習にならないコツだと思います。

             ↓

自由QA  
(今、習った文型を使いながら、自然な会話形式で実際のことを質問して、答えさせる)

 例) (実際の駅名)から(実際の駅名)まで行きたいです。電車を乗り換えなけ     ればなりませんか?

     寮のごはんは全部、食べなければなりませんか?
  
    (学習者の状況に合わせて、具体的な質問をいくつか準備しておく)

             ↓

アクティビティ
(その文型を使ったゲームなど。市販の「クラス活動集」やゲーム教材を利用)

 スリーエーネットワーク 「クラス活動集101―『新日本語の基礎1』準拠 」
「初級日本語 ドリルとしてのゲーム教材50 アルク などを活用する
 各課で出て来る新出語や新出文型を上記のようなやり方で繰り返し、すべて行った後にテキストを開かせ
る。

 上記のような流れで授業を行うのは文の構造的なことを教えるのは「導入」「口慣らし」「文型練習」の部分
で、実際に習ったことを使わせていく部分は「自由QA」や「アクティビティ」の部分だからです。

 言い換えるとオーディオリンガル法コミュニカティブアプローチの手法で「正確さ」と「流暢さ」を養う活動
を教室活動でやっていくべきだと考えからです。このことについては当ホームページの「さまざまな教授法」のと
ころで詳しく述べていますので、併せてご覧いただけれと思います。リンクはこちらです。
テキストの読み
テキストを読むやり方もいろいろあるようですが、私は「文型」はそのままリピート読み。

「例文」は全員でリピート読み。

例文によってはその内容で学生にQA形式で答えさせたりもする

例) 18課の例文
 1 スキーができますか?
 2 (実際の学生名)さんはパソコンを使うことができますか?
 3 (実際の施設)は何時まで見学できますか?
          その他、同様に…
会話
1回目 ビデオ視聴

新出語の説明 リピート、練習

会話本文のリピート読み → パートに分けて読み

2回目 ビデオ視聴 
(テレビのボリュームを0にして無音で流し、口の動きに合わせて学生に言わせながら視聴)

問題
CDを流して解答させ、その後 答え合わせ。文章題も学生に答えさせる

いかがだったでしょうか?教案を作成していく上で少しでも参考になれば幸いです。
しっかり準備して授業に臨めば、学習者と楽しく授業を進めることができることができると思います。

また、一度書いた教案で実際にうまくいかなかったことがあった場合などは、すぐにメモしておいて
書き換えていくことも大切だと思います。同じ教案を使っても別のクラスでは違う反応があったとか、
うまくいかなかったということも、よく起こります。完全な教案というものはないと思いますから、常に
修正を加えていくことが教師としての更なるステップアップにつながると思います。


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