山尾文男フォトギャラリー

遙かなる富士山

遙かなる富士山

信州塩尻に標高1670mの高ボッチ高原がある。
幸運に恵まれれば、眼下には諏訪湖、左は八ヶ岳、右に南アルプス連峰、そして、その遥か彼方100km先に秀峰富士山が臨めるという。
始めて訪れた2003年10月21日の夜明け前、暗闇の中を地元のカメラマン二人に案内を頂き、ブッシュで覆われた道なき道を追う様に歩き、永年通い続けた彼等の撮影ポイントに到着する。
待つこと暫し、漆黒の闇から微かな光が現れ、やがて空は徐々に茜色に染まり始める。
眼を懲らすと、遙か彼方に富士山の稜線が現れ、眼下の諏訪湖も薄く光を浴び始める。
千載一遇のチャンスとは正にこの時と、無我夢中で3台のカメラのシャッターを押し続けていた。
刻々と変化する大パノラマは私の生涯で一番忘れえぬ感動の瞬間であった。

長野県塩尻 高ボッチ高原にて

朝霧の日の出

朝霧の日の出

厳寒の頃の晴天の幾つかの日に、熊野山地から流れ落ちる川水がここ田原海岸に注ぎ込み、暖かい海水と混ざり合い、更に夜明け前の冷たい空気と触れ合い海霧が発生すると言う。
朝霧の中を朝日を浴びて出漁して行く漁師のシルエットに永久の営みを感じる一コマである。

和歌山県東牟婁郡田原にて

奥琵琶湖の日の出

奥琵琶湖の日の出

四季折々に奥琵琶湖の自然はとても美しく、訪れる度に心を癒される。
竹生島と伊吹山を見渡せる湖岸で、日の出を待っていると、突如、静けさを破るエンジン音が響き、ボートがこちらの方向に近づいて来た。
カメラを構えた前方の位置でピタリと止まり、矢庭に釣り竿を立て始める。
まるでその瞬間を待ってたかのように、燃えるような真赤な太陽が現れた。
なんという幸運、ああ、神様、仏様、キリスト様・・・・・・・

滋賀県マキノ町 海津大崎にて

薬師寺の日の出

薬師寺の日の出

この朝は快晴ではあるが、見渡す限り霞がかかり、若草山がぼんやりとして見え、薬師寺の伽藍は濃いシルエットを描き浮き立つ。
このような朝を迎えるのは滅多になく、深い青みがかった空に朱色に染まった太陽が昇って来た。
☆ 我々の撮影仲間では、梅干しの太陽が昇ると言い、大歓迎する。
澄み切った雲一つない日の出をスッピンの太陽が昇ると言い、空と地上の風景との明るさの差があり過ぎて写真にならない。

奈良 西の京大池より

薬師寺の朝

薬師寺の朝

西の京の大池から臨む薬師寺の伽藍は奈良の象徴であり、日本を代表する景観と云っても過言ではない。
残念ながらその光景は、国宝・東塔の修復工事のため今後7、8年は見納めだ。

この朝、薬師寺は濃い霧に覆われ、夜明け近くになっても、全く姿を現さない。
容赦ない時の流れを恨みつつ、ひたすら出現を待つ。
漸くにして、池の向こうに薄らと薬師寺のシルエットが見え隠れし、遅すぎた太陽がおぼろげに顔を出した。

大仏殿の朝

遙大仏殿の朝

秋も深まり霧の朝を迎え、若草山から大仏殿の大屋根を鳥瞰すると、
若き日に取材で撮影させて戴いた時の事が思い浮かぶ。
聖武天皇が天平の世に国民の安寧と幸福を祈願して、盧舎那(るしゃな)大仏を造立した。
別名は釈迦如来で、世界を照らす仏、光り輝く仏の意味をもち、左手に宇宙の智慧を、右手に慈悲を表し、人々が思いやりの心で繋がり,絆を深めることを願っておられる。
今の世に救世主的人物は現れる事はないけれど、皆が深い絆で結ばれることを祈願したい。

奈良市若草山頂上より

遥かなる古都

遥かなる古都

しんしんと冷え込む暗闇の中、眼下の奈良平野は未だ夜の帳に包まれ、静かに眠っている。空が白々と明け始める頃、急に京都方面から霧が沸き立ち、驚くほどの速さで膨れ上がり、正に押し寄せるような形で流れこんできた。
瞬く間に眼下は真っ白な世界と変わり、しばらく霧は生き物のごとくうごめいていた。
茫然と眺めていると、空白の世界の彼方に忽然、興福寺の塔と南円堂が浮かび上がって来た。
やがて潮が引くがごとく霧は薄れ、いつもの奈良の街並みに戻り、五重塔も南円堂も町の中に溶け込んだ。

奈良市若草山頂上より

吉野の桜

遥かなる古都

吉野山の起源は7世紀頃、修験道の開祖、役の行者に始まり、山岳信仰の霊場として、蔵王権現を本尊とする金峯山を中心に発展し、1300年の現在に至る迄、様々な歴史が展開する。
2004年、大峰奥駈道を含む紀伊山地の霊場と参詣道の出発点として世界文化遺産に登録された。
上千本から吉野山全景を見渡せば、歴史の悠久の移ろいに万感が胸をよぎる。
秋から冬にかけての雲海の吉野も良し、また、日本有数の桜の名所でもあり、霧の中に、金剛峯寺蔵王堂が浮かびあがる景色を撮りたくて、年間数度訪れ、やっと念願叶う。

奈良県吉野町

朝霧の中で

遥かなる古都

秋から冬にかけ冷え込んだ早朝に木津川付近では、頻繁に川霧が発生する。
淡い茜色に染まる川辺は霧につつまれ、餌を求めて飛んで来た二羽の川鵜と木々の緑とが織りなす、なにげない景色に、悠久の時の流れを感じる夜明けであった。

木津川市加茂町河原付近

石や塔

遥かなる古都

吉野から熊野への修験の道、世界文化遺産の大峰奥駆崖道を南に一越えした谷間に「石や塔」という秘境がある。
奈良を知り尽くしたプロカメラマンに情報を聞きながらも、初めて訪れた10年前を思い出す。
熊野へと向かう深夜の国道を霧の気配を感じながらひた走り、下北山村の池原ダムを過ぎると間もなく、国道を右に逸れ池郷林道に入る。
未舗装の道路をしばらく進むと、落石であちこちに小石がパラパラと散らばり、中には石器時代の矢尻の様な鋭利な石も混ざっている。
予め用意していた、スコップとほうきで、それらを取り除きながらのろのろと進む。
夜が白々と明け始める頃、池郷川を挟んだ対岸に100メートルは優に越す巨岩群が林立する空間が開けてきた。
大峰山の懐に抱かれた、正に、南画の世界を彷彿とさせる<石や塔>との最初の出合いであった。

奈良県下北山村にて

不動七重の滝

遥かなる古都

吉野から熊野を結ぶ修験の道、世界文化遺産の大峰奥駆崖道の前鬼に、大峰山きっての名瀑不動七重の滝がある。
日本の滝100選の一つ、落差は100メートルで7つの滝壺がある。
雨が振りしきる中、霧に包まれ流れ落ちる滝と、それ等全てを包み込み、分け入ることを拒んでいる大自然を眺めていると、遥か昔より、脈々と受け繋がれてきた修験の道を、決死の覚悟で挑んで来た修験者の姿に深い感動を覚える。

奈良県下北山村 前鬼にて