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 葡萄酒日記

その4 「ブーション」

 葡萄酒の栓のコルクのことを、葡萄酒愛好家の間では「ブーション」とよびます。 私がいつも思っていることですが、 この「ブーション」は葡萄酒にとって胎児の臍帯とよく似ています。 どうしてかと申しますと、葡萄酒の栓が開けられた瞬間に、 瓶の中の葡萄酒はこの世で初めて呼吸をします。 赤ちゃんが「おぎゃー」とこの世に生まれ出る時の産声と、 葡萄酒の栓が「ポーン」と抜かれた時の音が私にはだぶって聞こえます。 瓶に詰められた葡萄酒は、じっと瓶の中で成長し、この世に生まれ出る日を待っています。 それまで、この「ブーション」を通して少しずつ呼吸をして、 美味しい葡萄酒に熟成していきます。 母から臍帯を通して酸素吸収して、胎児が育つことをイメージするからであります。 私は葡萄酒を開ける瞬間いつもどきどき心がときめきます。 これは、葡萄酒生産家が手塩にかけ育てた気持ちを汲み取るからであります。 そして、大脳に期待と想像をかきたてます。「ブーション」は正直です。 よい「ブーション」であれば中の葡萄酒も美味しいし、悪ければ中の葡萄酒もよくないです。 だから、よい醸造家は「ブーション」に力をそそぎます。 私の経験で申し訳ないですが、 抜かれた「ブーション」でよい葡萄酒か、 よくない葡萄酒かの判別点をここに5項目ほど列挙いたします。
1. ブーションが長か短いか。
長いブーションは美味しかったです。 最長は6cmで、イタリアのGAJAという醸造家の葡萄酒でした。 ボルドーの特別級のものは、だいたい5.5cmです。
2. ブーションが堅いか柔らかいか。
堅い方がよかったです。
3. ブーションの端から端まで湿っているか。
いい湿り気のあるものは素晴らしかったです。
4. ブーションに酒石酸というキラキラ光る結晶がついているか。
輝きがあるとその葡萄酒も美味しく思います。
5. ブーションを嗅いだとき変な臭いがしないか。
嫌な臭いのするものは喉に葡萄酒を通す気が起きません。
さて、ここで私の経験したお話をさせていただきます。 注文した葡萄酒のエチケット(葡萄酒の瓶に貼られているラベル)は 年号が1990年でした。 ところが、ブーションに刻印されている 年号(よい葡萄酒には必ず年号が打たれてある)は1991年でした。 どちらが正しいのでしょうか?  それは1991年ブーションに刻印されている、年号が正しいです。 理由は葡萄酒を瓶詰めするときにブーションもそのとき一緒に打たれます。 ところが、エチケットは醸造家が出荷するときに貼ります。 あってはならないことですが、 まちがって違う年号の葡萄酒の瓶に間違った年号が 記載されたエチケットが貼られることが稀にあります。 よくレストランでソムリエが重々しくブーションを抜栓して、 ブーションをお客に見せるのは、 注文した葡萄酒の年号が正しいかどうか見ることも大きなファクターです。 同じ葡萄酒でも1年違いで価格、味は全く違うものがあります。 私の例では無条件に、注文した年号の葡萄酒と交換していただきました。
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