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 葡萄酒日記

その16 「香り」

 葡萄酒にとって命は「香り」です。 葡萄酒をくんくん嗅いで、葡萄酒愛好家は決して「におい」とは言いません。 「香り」といいます。 「匂い」は良いイメージの言葉ですが、「臭い」は良くないイメージを持ちます。

人間の脳神経の第1は「嗅神経」です。 発生学上、人間の祖先は「嗅覚」に頼って進化し、 後に「視覚」が発達してきました。 現代の人間はあまりにも「視覚」に頼りすぎ、 「嗅覚」が退化してきています。 犬は人間の100万倍以上の「嗅覚」があるといわれています。 しかし、「嗅覚」も訓練すればどんどん力がでてきます。 葡萄酒をいただいていると、自然に「嗅覚」を意識しますので、 嗅神経を鍛えることになります。 私は葡萄酒をいただく時以外でも、コーヒーや紅茶等「香り」を意識して飲んでいます。 このように習慣化してしまうと、いつのまにか「香り」に対して敏感になっています。

フランス人は「香り」に対して敏感で、 たくさんの香水のメーカーがフランスにあります。 パリのある店で、「Le Nez du Vin」(直訳で葡萄酒の鼻)という一風変わった本を見つけ、 これを購入してきました。 これは、下の写真のような「香り」を訓練するキットで、 54種の「香り」のエッセンスが小さなボトルに入っていて、 おのおのの「香り」の説明が書いてあります。 キットの中の「タール」は小学校の廊下を彷彿とさせます。 「ムスク」は麝香(ジャコウ)のうっとりとさせる「香り」です。

葡萄酒を口に含んで、息を咽頭から鼻腔へ送ります。 そのとき「香り」の素になる物質が、 嗅繊毛(鼻腔の天井からひげ状のものがでている)から嗅上皮を刺激し、 嗅球から大脳へ信号が送られて「香り」を認識します。 葡萄酒の楽しさは、飲んだ葡萄酒の「香り」と、 大脳に記憶されている「香り」のイメージを結びつけることです。 この結びつけは、かなり主観的な要素が入ります。 人によって同じ葡萄酒でも感じ方はさまざまです。 ここで大切なのは、能動的な姿勢です。 積極的に「香り」を探していかなくては葡萄酒から「香り」は発見出来ません。 そして、もっと大切なのは「香り」を「言葉」として表現することです。 たんに『この葡萄酒は「いい香り」がします』ではものたりないです。 『この葡萄酒から「アカシアの花の香り」がします』と表現したほうが、 葡萄酒は何倍にも美味しくいただけます。

「Le Nez du Vin」
「Le Nez du Vin」


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