前日は、今夏お世話になった平湯キャンプ場は利用せず安房トンネル・ゲート脇の広場で車中泊。
大きなトレーラーハウスのキャンピングカーやワゴン車、普通車も含め、広場の周りを取り囲むようにほぼ一杯。
翌早朝4時、アカンダナ駐車場へと車を走らせると暗闇のなか、不意に現れた車列。これは、まさに駐車場の開門を待つ車列で
「ここで車中泊すべきだったか。」
ヘリポートのあるT字路からつながっているので、ゲートまでそれなりの車が並んでいることになる。
事前のリサーチによると朝は4時に開門のはずなのに何たること。
この後、時間が経っても車列は動くことはなく
「もしかして、昨日の時点で満車で今日は入庫出来ないのでは?」
と、よからぬことを考えさせられたりもして、今回の山行のスケジュールも頭の中でグルグル錯綜していたが、ようやく夜が白み始めたかどうかの時間になって、車は動き出してくれた。
駐車場に入ると、別に何がどうってことでなく、よからぬ思いはすぐにしぼんだ。
あとで耳にしたところによると、料金精算機の調子が悪く、開門が遅れたんだとか・・・。
少しばかり気を揉まされたが、朝二番のバスに乗り込み上高地へと向かう。
近くの席に座ろうとしていた若い女子が
「右?左?、どちらだっけ?」
いかにもバスのどちらに席を取れば車窓から穂高が見えるかを言っているようだったので、
「左、左。」
つい、口をついて出てしまった。オヤジやな〜。
彼女たちはひと安心して席に着いたのもつかの間。安房トンネルを抜けるまでに、すでに夢うつつ。
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釜トンネルも今や立派なトンネルに変貌し乗り心地が良くなったせいか、そこを抜けても同じ様子。
やがて大正池が近くになり、今こそ左側の席に陣取った効果を発揮するその時になっても、さして様子は変わらず舟を漕ぐ。
「今や!今っ!!」
心の中でつぶやいたが、聞こえるはずもなく、その内の一人が少し遅れ気味に露の下りた窓を手で拭き、一瞬、「わ〜っ。」と小さな声を挙げたようにも見えたが、それで終わりだった。
ま〜、こんなもんか・・・。 |
梓川の流れと朝の穂高連峰 |
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こちらなんか、何度来ても、大人気もなくこの風景に胸高鳴らせ、感激させられるのに―。
朝もやにけむる穂高の峰々に朝日があたり素晴らしい景観だ。
河童橋から見上げる穂高はすっかり秋の装い。上高地付近でようやく木々が色付いて来たようだが、これから向かう涸沢や道中は、さてどうだろう。
気温の急激な低下と先日の降雪で葉が落ちてしまったとの情報も持ち合わせてはいるが、これ以上情報収集しても幻滅するばかりのようだったので、あとは現地を訪れ、実際にその様子を目の当たりしてのお楽しみ。 |
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徳沢で見たテントの数は尋常でない数だった。
昨日が三連休の初日だったので午後遅くに上高地着の人たちが、この多くだろうが、それにしてもすごい数。
さらに、この人たちの今日の行動を勘ぐってみると・・・、テント撤収して槍まで行く人、涸沢日帰りする人・・・、これより上部のテント場ははたしてどんな状況になってしまっているのか。 |
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徳澤に張られたテント群 |
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横尾ではトイレに長蛇の列。
テントの数もかなりのもので、横尾大橋の上流の河原にも張ってある有様。
横尾大橋を渡り涸沢へと向かうが、登山者は減ったようには感じられず列に従って歩く。
本谷橋は登り、下りの人が入り混じり、とにかくすごい人。
相対に紅葉が今一なこともあり、人のウェアのカラフルさがよく目につくこと。 |
本谷橋 |
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今、流行りの山ガール、山ボーイファッションに身を包んだ人だらけで、これだけ多いとどれが良くてどれが良くないかもよく解からず、どうでもよくなってくる。
紅葉を目的に涸沢に来た訳だから、本来のモノを見たいんだが。
でも、これはここにいる皆の願いでもあるし、どうしようもないか・・・。
本谷橋からの急登を過ぎ、ひと段落した登山路を歩いていてアクシデントは起こった。
これまでも涸沢方面から下山してくる人とすれ違うことは度々だったので譲り合いながらこ登って来たが、このとき、やや大きめのま〜るく長細い石の上に左足を置いた瞬間、そのまま足がつるりと滑ってしまった。
何人かの下りの人が道を開けてくれていたので、「あまり待たせては・・」から、少し気持ちが焦り気味だったのかもしれないが、あわや顔面を別の岩で強打しそうなほどの勢いで転倒。
その際、左手首のくるぶしの上部を、足を滑らせたその石で強打した。
確かに痛かった。
裂傷には至ってないものの、長さ3センチほどにわたり皮下の白い部分が見え、少し出血もしている。
左手の薬指、第一関節のところもどこかに打ちつけたようで、小さいながら皮がめくれ出血だ。
確認はしないまでも、両膝も少し痛みがあるから別の岩で打ったに違いない。
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地面がすぐそこに迫り、あわや顔面を強打するかとも思ったが、辛うじてそれは回避。
おかげで裂傷を負わなかったことでひと安心したが、次の瞬間、強打した左腕が正常に動くかどうか心配になった。
骨折していないかどうかだ。
幸い、打撲による痛みや腫れはあるものの、指も動くし手のひらや甲も異常なさそうだ。
周りの人に心配を掛けたが、大事に至らず再び涸沢へ向け歩きはじめたのだが、今後のルートをどうするか心に迷いを生じさせる事態となった。 |
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涸沢手前より奥穂高岳、涸沢岳を見上げる |
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今回の山行の本来の目的は、あくまで北穂でテント泊することと、北穂高岳からの夕景や朝の風景を見ること。
ここでへこたれていては始まらない。
この先には特にこの時期、クリアしなければならない難題が待ち受ける。
涸沢の紅葉だ。
矛盾した話しだが、この紅葉が見事であればあるほど、ここで時間と気持ちを費やしてしまい、そこからさらに3時間を必要とする北穂までの標高差700メートルをこなす気力、体力が萎えてしまいかねない。
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ところが幸か不幸か、これまでも含め、ここからも見る限り、木々の色付きはよくなく誘惑は少なそう。
モレーンの下部でやや色付いたナナカマドを見かけたが、全体にはすでに茶色く変色していたり落葉していたり。 真っ赤なナナカマドに至っては皆無。
カールを見上げても全体に濁った感じの色合いで上高地から見上げた岳沢と同じような感じにしか見えない。
今年の涸沢の紅葉はハズレってことだ。 |
モレーン下部のナナカマドと涸沢岳 |
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となると、あとは涸沢を通過するに当たり、そこで寛ぐ人たちを極力目にしないよう努力することだろうか。 |
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ならば、ヒュッテのテラスを目にしないのが一番と考え、迎えた分岐で迷わず右折。
キャンプ場を横切るように直接、北穂へ向かうルートをとる。
分岐付近にも張ってあったし、大きな岩の上にまであったりするから驚き。
主のいないテントがほとんどで奥穂高岳や北穂高岳へ日帰り登山に出掛けているのだろう。 |
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北穂沢より涸沢のテント村 |
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すでに撤収したテントもあり、この時間帯なら意外と良い場所が空いていたりするから、困りもの。
誘惑に惑わされることのないよう歩を進める。
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涸沢小屋テラスまで足を運び涸沢を見下ろせば、カラフルなテントの花盛り。
これだけの数があれば紅葉の色付きよりも、はるかに色鮮やか。
この日(8日)は1,200張りもあったそうだから、それもうなづける。
さて、こちらはここからが本番ともいえる北穂への登り。
天気も良く、時間はまだ昼前だったので特に焦ることはないが、問題は気力と、先ほど負った負傷の傷。 |
南稜下部より前穂高岳と北尾根 |
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出血はほぼ止まったが、やや腫れ気味の左腕が気になる。骨は大丈夫そうだが神経はどうだ?
左指は相変わらずヒリヒリ、チクチク。
さらに、ここに来て右腕の付け根、鎖骨の下部が少し痛み、ザックがいつもに増してこの部分に喰い込む気がしてきた。
確かに今回のザックはそれなりの重さがあり、それに伴い休む頻度も多くなるのもうなづけるが、それでも、そのたび腰を二つ折りしてザックを背中に載せてしまうような格好で休まないといけないことは、これまで経験のないことだった。
腕の付け根あたりにも何かしら傷があるのかもしれない・・・。
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続々下ってくる日帰り登山の人の合間を縫って鎖と梯子を上ると南稜の下部に着く。
北尾根のギザギザが目線の高さになりになり、カールのすり鉢が見える。
素晴らしい景観だ。
上高地から見上げた穂高には、残雪も含め雪らしきものは見当たらなかったが、北斜面のここには万年雪と、二日ほど前に降ったらしい新雪がケーキにまぶした白いパウダーのように残り、同じ山の表と裏とで、全く違う様相を見せてくれる。 |
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北穂高岳北峰・山頂と松涛岩 |
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南稜は岩場に付けられた登山路を、涸沢からほぼ同行だった福井からのおじさんと互いに励ましあいながらグングン登る。
やがて北穂小屋の姿が目視できるようになり、大きな岩の堆積する個所を登るようになるとテント場のある南稜の付け根、テラスはもうすぐだ。
着いたテン場は同じテント場でも涸沢となら雲泥の差。 |
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確かにキャパは小さく、そんなに大挙して押し寄せられても困ってしまうほどの広さしかないのだが、テントはすぐにでも数えられるほどの数しか張られてなく、重い目をして、ここまで足を運んだ甲斐があった。
北穂高岳山頂を間近に望む、地盤も平らで展望絶好の好位置のテントサイトをキープした。
プライバシーもバッチリ確保でき、何といっても眼前に前穂の峻峰が手のとどきそうなところに見えているのが一番の贅沢じゃないか。 |
無事キープできた今日のテン場 |
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涸沢からの所要時間は2時間40分。上高地からなら8時間強だ。掛かった時間よりもここまで一日で上がれたことが嬉しかった。
ひと段落着いたら山頂へ向かう。
「売店でTシャツを買わなければ。槍は見えるかな?」
北穂高岳小屋では、そこからの風景を見ることは第一の目的であり、楽しみであることは誰しも同じであろうが、自分には今回、もうひとつ大きな目的としていたことがあった。
今夏、岳沢で見かけた人が着てた北穂のTシャツだ。
今は二年前に買ったものを愛用しているのだが、この時見た、いかにも今年バージョンのカラーのそれを買おうと思って来たのだ。 |
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あいにく山頂ではガスのせいで大展望は広がっていなかったので、これをいいことに真っ先に売店を訪ねてみた。
「生ビールとぉ、Tシャツありますか?」
「すみません、Tシャツはどの色も昨日、売り切れたんですぅ。」
かなりショック。槍も見えない・・・。
一人、ビールで常念に乾杯だ。
ま〜、時間はたっぷりあるしテラスでのんびりしよう。 |
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常念に乾杯! |
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北穂の小屋は、それなりの人しか訪れない印象の強い小屋とはいえ、さすがにこの時期は別のようだ。
小屋内部を覗いてみると、小さな食堂兼談話室は人であふれていた。 |
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展望がなく少し風があり寒かったせいか、テラスにいる人はまばらだった。
そんな中、自身のそばにいた一人の青年。
涸沢にテントを残し、今日、奥穂高岳へ登った後、涸沢岳を越えてここまで来たという。
てっきりここの小屋泊まりかと思いきや、それまでには、まだかなり時間のある夕陽をここで見て、それから南稜を涸沢のテントへと戻るらしい。 |
夕暮れの笠ガ岳と遠くに白山 |
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なんでも、これまでに北アの稜線上から夕陽を見たことがないようで、ぜひここからの夕陽を見るために長居しているとのこと。
せっかくなので、何とか綺麗な夕陽が見れれば良いが・・・。
そして、やがてその時はやって来た。眼前を覆っていたガスが晴れて来た。(表題画像)
もちろん、周りのみんなは大喜び。
キレット越しのま〜るい南岳が姿を現せたかと思うと、やがてその稜線の先に天を突く槍の鋭鋒が姿を現せる。
「やっぱ、槍ってカッコいいよね。」
この大観に、こんなことを言っている人がいた。
まったく同感です。
この人、女性だったが、同じ女性でもバスの中で出会った、ちょっぴり拍子抜けの女性とはずいぶん違う感覚の持ち主に違いない。
この後、北側のガスはすっきり晴れ渡り、あまりに何もなくなりすぎて拍子抜けにも感じられた。
ガスが晴れればこの上なくよく見えて、これ以上のことはないはずなのに、ついこんな感じになってしまうのは自分だけなんだろうか。
人間って、なんてあまのじゃくなんだろ〜ね。 |
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夕陽は山頂で見ることにした。
確か二日前の夕焼けは、南岳小屋のHP担当の人が、もっとのんびり見たがったほど素晴らしものだったようだが、そこまでならずとも、今日も、それに近いものを見せてくれる気もしたが世の中そう上手くはいかない。
太陽が白山のやや上部にある頃は期待を持たせたが、地平線付近には幅広に雲が掛かり、やがて太陽はその雲の中へと隠れてしまった。 |
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黄昏の前穂高岳T〜X峰と吊尾根
前穂主峰の右は中アの山々 |
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期待の滝谷はもちろんまったく赤く染まらず、辺りは次第に暗くなっていった。
あとはテントでのんびりしよう。
暗闇の中、涸沢まで下る例の青年とテン場で別れ、遅めの夕食。
小屋の料理ほど美味くはないが、誰に気兼ねせずこれだけのスペースを占有し、おまけに前穂や北尾根を肴に食事をとり酒が呑めれば文句があるはずもない。
翌日の記録へつづく・・・ |
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