| ◆【山行日時】 2003年5月4日  快晴   ◆【コース・タイム】 一向ヶ平・野営場=35分=大山滝・展望台=15分=大休口(地獄谷分岐)=27分=三本杉別れ=23分=大休峠
 =33分=矢筈ヶ山山頂(=10分=小矢筈ヶ山=10分=)
 
 =25分=大休峠=22分=三本杉別れ=18分=大休口=15分=大山滝・展望台
 
 (=5分=河原=5分=)=22分=一向ヶ平・野営場
 ◆【正味歩行時間】 4時間25分 ◆【詳細】 昨夏の宝珠尾根〜ユートピア〜大休峠〜川床山行時、本来は大休峠から矢筈ヶ山まで足を延ばすつもりだったが、大休峠まで下山してみると何だか気乗りせず、置き去りにされた感のあった矢筈ヶ山。
 今冬、大山山麓『ペンション ぴあんぴあの』 永登さんと出会ったことにより大山の裏側とも言うべき奥大山、東大山の素晴らしさを垣間見ることが出来た。そこから見た冬の様相の沢や谷は大山の奥深さを存分に感じさせるものであり「出来れば、雪のなくならない間にもう一度」と思わせるには充分な光景を提供してくれていた。
 
 里では花はとっくに散り、春どころか初夏の装いとなってしまったが、このG・Wの機会を逃すとここを訪れるのは何時になるか分からないので、ファミリー・ハイクにかこつけ連休を利用し残雪と新緑を求め一向ヶ平をベースに大山滝と大休峠、矢筈ヶ山を訪れた。
 山行前日の5月4日、鳥取砂丘に寄り道した後、一向ヶ平・野営場に到着したのはまだ陽の高い14時頃だった。
 管理棟で受付を済ませ、最奥に程近いサイトにテントを設営。完了後、鏡ヶ成までミニ・ドライブ。夜はバーべキューで明日に備え腹ごしらえをし、ほろ酔いのうちに床に着いた。
 ここから大山滝までは格好のハイキング・コースとなっていて、早朝より老若男女を問わず多くの人がテント脇を通り過ぎる。
 ゆっくり目の朝食の後、皆に遅ればせながらこちらも山中へと足を運ぶ。
 
 大勢の人がこの道を行き来するのには訳がありそうだ。
 野営場やテントサイトも緑に包まれたとってもいいところなので、ここでも充分に新緑の雰囲気を味わえるが、野営場を後に歩き出すと更に素晴らしい緑を目の当たりすることが出来る。
 深く切れ落ちた谷筋のまばゆいばかりの新緑と、雪解け水を勢いよく流れ落とす加勢蛇川の急流。目を上に転ずれば上部になるほど淡くなる緑が山肌を彩る。
 
  
    
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      | 吊橋より飯盛山 |  林道をしばらく歩き、急流を吊橋で左岸へ渡る。滝まででは唯一の急坂ともいえる場所を短くこなすと緩やかに登るようになり、小さな沢を横切りヒノキ林を見るようになると、もう大山滝。約30分の行程も人気の秘訣の一つのようだ。
 雪解け水を二段になり轟々と流れ落とす様はこの時期ならではのもので、さすがは大山一の滝。
 
 ヒノキ林の繁る展望台付近は日が当らず鬱蒼としてとても涼しい。ベンチもいくつかあるので腰を下ろすにも場所を心配することもなく、軽装でも気軽にやって来れるのも嬉しい限り。河原まで下りずとも清い流れに心洗われるに違いない。
 
 また、クサリの手を借りて河原まで下りれば、雪解け水を「これでもか!」とでも言わんばかりに流れ落とす滝のド迫力を間近に感じることが出来る。
 
  
    
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      | 大山滝 |  大半の人はここで引き返すように、(あ)と(ひ)の二人は「ここまで。」これからは一人で大休峠を目指す。
 
 すぐに急登するが、ほんの短いもので全く苦にならない。それは辺りに気持ちよい自然林帯が広がることに他ならない。
 小さな沢を渡りヒノキ林帯を緩やかに歩くようになり、しばらくすると大休口。
 
 地獄谷への道を左へ分けるとヒノキ林は終わり、これまでよりも淡い新緑のブナ、ナラの広がる斜面を行く。
 急登となるもののそれを気にもさせない辺り一面の新緑と、ふと右手を見れば歩き始めにはあんなに上に見えていた飯盛山がずいぶん低くなり高度を稼いだことを実感しながら、一歩一歩着実に歩く。
 
 とにかく新緑が素晴らしく、ここでも今歩いているところが急な登山路であることを感じさせない。
 
  
    
      |  | 緑萌える |  |  しばらく沢筋を急登し、上方に矢筈ヶ山稜線が見える尾根に出るとルート上、大山滝の次に現れるハイライトの一つ、登山路脇のイワカガミに出会える。ツボミのものと可憐に咲いたもの、付近では取り混ぜてかなりの数を目にすることが出来る。 
  
    
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      | イワカガミ |  |  |  この先では左前方に羽を広げた烏ヶ山や大山東壁も姿を現わせ、辺りのブナ林帯とも相まってここも気持ちよく登れる。
 急登を過ぎ尾根を回り込むと、やがて三本杉別れ。標識にもあり、見ての通り現在このルートは通行不能のよう。
 
  
    
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      | 三本杉別れ |  傾斜の緩んだトラバース道を進むと、小さな谷筋に残雪が現れる。その先の大きな谷にはまだかなりの雪があり、注意しながら雪渓をトラバース。ここを過ぎると一旦見えなくなっていた振子山東面がずいぶん大きくなった姿を現せる。もちろん東壁も徐々に上部をあらわにする。大休谷を隔て振子山〜親指ピーク〜野田ガ山稜線が前景となり、背後に天狗が峰〜三鈷稜線が控える。
 ここでは東壁全景は、まだお預け。
 
  
    
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      | 雪渓を過ぎると振子山が大きく見えるようになる |  左手には崩壊著しい烏谷の奥に烏が羽を広げ、さながら「おいで、おいで」をしているよう。どちらかといえば下り気味とも思える登山路を進み、水場を過ぎ三鈷峰を正面に仰ぎ見るようになると趣のある三角屋根が見えてきて大休峠に着く。
 大休峠は、昨夏、名前の通り”大休み”してしまい矢筈まで足を延ばすきっかけを失った場所なので、あえて今回は気持ちが変わらぬ間にそそくさと小屋前の登山路を矢筈ヶ山へ向かう。 
  
    
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      | ブナの古木 |  古いブナ林帯を急登。ガレ場を登るようになると更に傾斜は増す。あいにく、ピークのように見えるところは山頂ではなく、そこでようやく尾根に出る。ここで一向ヶ平で見て以来ようやく目にすることの出来る矢筈ヶ山山頂、
 「まだこんなに・・」
 ブナを見ながら、また、背後に全景を見せるようになった大山東面の雄大な景色を見ながら平坦な道をしばらく行こう。
 遠そうに見えるが実はそう遠くないので、もうひと頑張り。
 
  
    
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      | 登山路脇のタムシバ |  ブナに代わり低木が現れると山頂は間近。遮るものが無くなってくるので展望は更に良くなり、潅木の先に少し開けた所が見えて来ると矢筈ヶ山山頂だ。 
  
    
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      | 烏谷と烏ヶ山 |  | 大山・東壁 |  「素晴らしーいッ!」第一印象はこうだ。そう広くない山頂からは360°ぐるりと見渡せ、特に東側は抜群の高度感をもって眺望を得ることが出来る。
 
 しかし、何と言ってもここからの第一の”ご馳走”は南西側に大きく見える大山東面。
 遠くに小さくしか見えなかった三鈷峰がここからはずいぶん大きく見えるようになり、象ガ鼻から天狗が峰へと続く稜線の中ほどに、まだ多くの残雪を残す振子沢源頭部。もちろん東壁は全体が手にとるように見える。
 
 稜線の向こうには弥山や北壁もわずかに望め、天狗ヶ峰稜線から急激に高度を落としながら槍尾根を辿ると、一度ドスンと落ち込んだところがキリン峠、さらには鳥越峠と続く。
 
 すっかり雪は消えてしまったが「あそこを滑ったのか・・・」とキリン峠下部斜面を感慨深く見つめる。
 鍵掛峠や南からなら難なくこの斜面を目にすることは出来るが、北側からそこを眺められることが妙に嬉しい。
 
 緩やかになった稜線を更に辿れば、烏が大きく羽を広げ、その左には鏡ヶ成・象山から蒜山三座へ、これまでとは好対照な緩やかな稜線が延びる。
 
 手前に目を転ずれば、いかにも長い年月をかけ侵食されたことにより形成された地形が広がり、大山が火山であったことを思い起こさせる。
 その中にあって唯一人工的な建造物と放牧場が目につくが、そこが一向ヶ平だ。下から見上げると近く、高く見えた矢筈ヶ山も、ここ、山頂から俯瞰すると一向ヶ平はずいぶん遠くに見える。
 
 北側には名前のとおり兜のような形をした甲ヶ山と、すぐそこにはとんがり帽子の小矢筈ヶ山と彼方に海岸線沿いの町。
 
 東、遥か彼方には扇ノ山、氷ノ山といった中国山地東部の山々。
 
  
    
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      | 甲ヶ山と小矢筈ヶ山 |  甲ヶ山まで行くことは考えになかったし、もちろんその気にはなれないが、すぐそこに見える小矢筈は気になる存在。山頂を見渡したが、腰を下ろせそうな場所が見当たらなかったことが追い風となり、小矢筈へ向かう。
 
  
    
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      | 西日本一のブナ林が広がる |  | 小矢筈から見ると一向ヶ平は案外遠くに見えた |  
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            |  |  |  |  振子山〜野田ガ山の親指ピークをひとまわり大きくしたような小矢筈、矢筈から一度下り足元に注意して慎重に登り返せば、10分ほどで登頂できる。
 ここからの眺望で特筆すべきは、足元から西に広がる大平原の見事なブナ林帯。
 『彼方に見える孝霊山まで延々と続く』と表現すれば広大さ加減が解かってもらえるだろうか。
 もちろん東にもブナ林帯は大きく広がる。
 
  
    
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      | 小矢筈からの展望 
 左から蒜山三座、象山、烏ヶ山、矢筈ヶ山、孝霊山と右端、甲ヶ山
 |  大山東壁は矢筈に邪魔をされ見えなくなるが、西日本一ともいわれる大山の広大なブナ林を俯瞰するにはここが最高の場所ではないだろうか。 しばらく静かな山頂を満喫したら矢筈ヶ山に戻る。小矢筈の南側の急斜面の下降はスリップに十分注意しながら下る。潅木を縫って急斜面を登れば再び矢筈ヶ山。
 
 景色を楽しんでいると西の空から聞こえてくるヘリの音。
 一瞬、凍りつく。
 「うちの家族たちは本当に大山滝までで引き返しただろうか?」
 「もしかしたら、大休峠まで行くかも・・」
 なんて言ってたから、飛来したヘリがすぐ下方で止まろうものならどうしようかと思ってしまった。
 もしこちらへ向かっていたなら峠手前にあった大きな雪渓をどう通過するか、かなり気になっていたのだ。
 
 幸いヘリはすぐ上空を通過、我が家族にアクシデントは無かったようで胸を撫で下ろしたが、いやな予感は半ば当たっていたようだ。弥山方面へ飛び去ることなく、ここからでもよく見えるユートピア上空でホバーリングを始めたのだ。双眼鏡を覗く人によれば一人、また一人、ヘリから地上に降り立つのが見えたようで、それがなくても遭難があったことを察するのは容易だった。
 剣谷方面で滑落でもしたのだろうか・・・。
 少し難儀だったのか、ヘリは10分以上もホバーリングの後、ようやく米子方面へと飛び去った。
 
 大自然の中では、その人(たち)の無事を祈るしか手は無かった。
 
  
    
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      | 天狗ヶ峰〜剣ヶ峰〜弥山と振子沢源頭の雪渓 |  | 烏ヶ山〜剣ヶ峰〜弥山〜三鈷峰 |  一人となった山頂でゆっくり撮影の後、下山する。 
  
    
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      | 大山・東壁 |  正面に大山東壁を見ながら潅木帯を下る。緩やかに尾根道を歩き、その後ブナ林帯のガレ場を足元に注意しながらしばらく急降下する。三鈷峰が高く見えるようになるとやがて大休峠・避難小屋の屋根が真下に見え、峠に着く。 下山後の温泉のことを思うとゆっくりしてられず休憩もそこそこに、ここを後にする。
 水場を過ぎ、しばらくトラバース気味に進むと唯一の難所、雪渓の通過。上りよりも下りの方が気を遣うが、ステップを切りながら慎重に下れば問題なくこなせる範囲だ。
 
  
    
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      | ショウジョウバカマ |  | ミヤマカタバミ |  
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      | イワカガミ |  
  
    
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            | シロイワカガミ |  | ダイセンミツバツツジ |  尾根をそれる前にショウジョウバカマやイワカガミ群落を見たら展望はなくなるが、気持ちのよい新緑帯は尚も続く。
 やがて沢音が聞こえてくると大休口。ヒノキ林帯を緩やかに下り、自然林の中の小さな沢を渡れば大山滝。
 よほど、このまま河原に下りることなくテントサイトまで戻ってしまおうかと思ったが、やはり『最後の締めくくり』に見過ごす訳には行かず河原へと駆け下り、大山滝と対峙する。
 
 鳥取県西部地震と昨年の大雨の影響で滝左の斜面が大きく崩れ、滝壷付近がせき止られた格好となり下段の滝はずいぶん低くなってしまっているものの、さすが大山一の滝、この時期ならではの水量豊かな滝は一見の価値は十二分にあると言えよう。
 
  
    
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      | 大山滝 |  早足で登山路を下り、吊橋を渡ると林道となる。大きな谷となった加勢蛇川を左手に見ながら緩やかに上り返すとやがて道端のお地蔵さんが出迎えてくれる。野営場はすぐそこだ。 
  
    
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      | 野営場・管理棟前 |  首を長くして待っていた二人と無事合流、関金温泉へと急いだ。 
 翌、5日には東大山大橋からの烏ヶ山や大山池からの大山東面の展望を最後に、帰路についた。 
        
          
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                  | 東大山大橋より烏ヶ山 |  | 西鴨谷 |  
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                  | 大山池から下蒜山 |  | 大山池より大山遠望 |  |  
 ◆【ワン・ポイント・アドバイス】 一向ヶ平野営場は多くの人が訪れる大山・蒜山においては穴場的存在のキャンプ場。施設は充実、管理も行き届いているのでファミリー・キャンプでも何の不安もなく利用できる。
 
 大山滝までのハイクでも新緑を満喫できるが、さらに奥へ足を延ばすと、大休口から上部のブナ、ナラなどの広葉樹の新緑はもちろんのこと、登山路脇のタムシバ、道端のイワカガミ等も可愛く、また愛らしく素晴らしい姿で出迎えてくれる。
 
 大休峠からさらにもうひと頑張りして辿りつく矢筈ヶ山、小矢筈ヶ山からの眺望は素晴らしいのひとこと。
 大山自体を望めることや下方に大きく広がるブナ林帯のことを考えると、弥山や剣ヶ峰、三鈷峰からのそれよりも一歩抜きん出ている。
 
 人工的なものがほとんど目に入らないことも要素の一つかもしれない。
 
 ただし、残雪期、雪渓の通過はくれぐれも慎重に!
 
 ◆【画像一覧はこちら】 
 ◆【編集後記】 大山滝へ向かう際、吊橋を渡り小さな沢を渡る手前で、いかにも地元の初老の方を追い越した。その沢を渡る際、ノロノロしているとその方に追いつかれた格好となり、話をすることとなった。ふと胸元の名札に目をやると『国立公園指導委員、松本 薫』と記してあった。
 「確か、何処かで聞いた(見た)ような・・・」。
 「失礼ですが、かつて地獄谷を彷徨った高見さんと最初に会われた方ですか?」
 
 「そうです。」
 松本さんは、今となればずいぶん昔の話となったこんなことを唐突に言い出した自身に、一瞬何ともけげんそうにも見えた面持ちに反し間髪入れず愛想よく、こう返事をしてくれた。
 
 このホンの短い会話をきっかけに、ここから大山滝までの短い時間だったが、高見さんと出会った時の事や、管理棟に飾ってあるかつて三段であった大山滝の写真のことなど、地元の人しか知りえないことをあれやこれや聞かせてもらえた。
 
 その後、大山滝で高見さんがこの滝のどこをどう下りたかを聞いたのを最後に別れることになったが、貴重な話を聞くことが出来、大山滝の違った側面の知識を深めた気分になった。
 
 当時、一向ヶ平管理人だった松本さんも今は現役を引退。この日は依頼を受け大山滝付近までの自然調査に出向かれていたようだ。
 
 貴重なお話を聞かせていただけたことに対しこの場を借りてお礼を言うと同時に、末永くお元気で東大山の自然を守ってもらいたいものだと願っていることをここに記す。2003.05.06
 
 
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