播州・戸倉スキー場〜赤谷ピーク(落折山)
山頂

稜線直下の雪原とブナの大木
◆【山行日時】 2005年3月6日  くもりのち時々晴れ
◆【コース・タイム】 
播州・戸倉スキー場、トップ=約150分=赤谷ピーク(落折山)

=約150分(赤谷経由)=播州・戸倉スキー場、ボトム
◆【正味登高時間+滑降時間】 約5時間
◆【詳細】
今回の山行が決まったのは、つい前日の午前中のことだった。

山行前日の土曜日、この日は太平洋上を低気圧が西から東へ進み、春先特有の気圧配置となるため太平洋側でも降雪が見られるとのことだった。幸い予報ほどの降雪は見られなかったものの翌、日曜日も低気圧の速度にもよるが、おおむねこの日と同じようなの予報しかでていなかった。
「この週末はおとなしくしてるか・・・」
と、思いかけた矢先、携帯電話が鳴った。

電話の主は、これから夜勤だというのに夜勤明けの明日のことを問い合わせるAさんからのものだった。
「明日、何か予定はありますか?」
とっさの返事は、
「特にないけど・・・」
つい先ほどまで天候のことを考えていたくせに、こう答えた時点で明日の山行はあっさりと決まっていた。

ルートは、Aさんが以前から狙っていたルート。
播州・戸倉スキー場のリフト利用しトップまで上がり、そこから西に伸びる尾根をシール登高。県境尾根に出て、ほんのわずかに北に位置する1,216.4メートルの三角点に立つ。
下りは地形図とにらめっこした上、手に負えそうな適当な斜面を滑りスキー場ボトムまで戻るといったものだった。

実は、自身も近いうちに「兵庫・鳥取県境付近を歩いてみたい」との思いもなくもなかったので、考えようによっては「渡りに舟」的なお誘いに、おもわず首を縦に振ってしまったのが実際のところかもしれない。

こちらにすればとっさに決まったような感の否めない山行だったが、さすがはAさんが以前より狙っていたルート。
稜線からは、前日に伝えていた天気予報も午後からは大きく外れ天候は回復し、県下では三指に入るといっても過言でない360°遮るもののない雄大な景観が待ち受けていた―


今回の山行でこれまでと違っていることがあるとすれば、前述のとおりAさんが夜勤明けのため出発時間が遅いこと。
「10時までにはそちら(我が家)に行けるでしょう。」
との電話での約束どおり、彼が我が家のベルを鳴らしたのは9時50分頃だった。
頭髪部に勤務中の痕跡を見出せた(家内曰く)のを見ても、大急ぎで駆けつけた様子がうかがい知れた。


荷物を積み込んだらR29を登山口のばんしゅう・戸倉スキー場へと車を走らせる。
ゲレンデ内で昼食を済ませたら、リフトを2本乗り継ぎゲレンデトップへ。
トップといっても標高はせいぜい840〜850メートル程度。
稜線、三角点の標高は1,200メートルちょいだから、そこまでの標高差は400メートル弱。水平距離は4.5キロ程度だから、この時間からの歩行開始でも何とかなるだろうとシール歩行を始めたのは午後1時前だった。

ゲレンデトップにある中継所施設の小ピークは、その後下らなければならないことが判っているので北斜面をトラバース。出だしから予想外の苦労を強いられるものの、難なく小ピーク先のコルに着く。
この先は特に危険な場所もなく快適にシール登高する。

ここから尾根中間あたりまでで、あえて(あくまで、あえてです)難点を挙げるなら、小さなアップダウンがいくつもあり立ち木がうるさい場所では少々歩きづらいくらいか。
尾根上を歩き始めてしばらくすれば天候が回復傾向を見せるとともに展望が利くようになり出したから、そんなことは大した問題ではない。
右手の梢越しに三ノ丸の大きな雪原が姿を見せてくれるようになり、景色楽しみながら歩けるからうれしい。

高度を上げるとともに辺りにはブナやミズナラも見られ、適度の傾斜であることも手伝って心地よい登高が続く。
自然林帯の尾根筋を行く 三ノ丸が見える
自然林帯の尾根筋を行く 三ノ丸の大雪原が見え出す
右手に見える稜線からの支尾根が低くなりだしルートが登り一辺倒になると、替わって左手の同、支尾根が目線よりわずかに高い位置に見えるようになる。
時折、針葉樹に展望をさえぎられるもののこの尾根が低くなるのを励みに登高すると右手に主稜線が近い。

左手の稜線からの支尾根が低くなる Aさんと奥に主稜線
左手に見えてくる稜線からの支尾根が低くなる ブルーのヘルメットがトレード・マークのAさんと奥に主稜線

ちょっとうるさ目の潅木帯を登るようになると、それらの先に白く弧を描くスカイラインとその向こうに真っ青な空。はやる気持ちを抑え一歩一歩、歩を進めるとしばらく影を潜めていたブナの巨木が現れ(表題画像)、小さな雪原に出た。
「そこが稜線だ。」
稜線は目の前だ。
スカイラインが目線より低くなり目に飛び込んできた光景は、これまでに見たことのないほど素晴らしく、雄大なものだった。

何をさておいても驚きは、目的地としていた赤谷ピーク南東に大きくせり上がった雪庇。
県下では扇ノ山や氷ノ山が豪雪山域として知られているが、そこは相対に平い(なるい)地形の場所が多く(北面にはそうでない地形の箇所もあるが)、特に南東面でこれほど見事な雪庇はそうあるまい。
ここは氷ノ山などとと比較しても標高はもちろん緯度も低いので、ここまで見事に出来上がったものが目の前に現れるとは思っても見ず、その美しさに圧倒された。
稜線間近 ピークへ向け最後の登高
稜線直下の潅木帯 稜線に出ればピークは目と鼻の先
ピーク南東面に出来た雪庇と遠くに三室山 右手に三ノ丸、氷ノ山
巨大雪庇と三室山遠望 三ノ丸、氷ノ山方面
ピークに向けては雪庇の乗越しが最大の難関かとも思われたが、右から巻けば問題なくピークに立つことが出来た。

雪庇の発達した南東側は白一色の世界で遮るものは何もなく北西面にわずかにブナがあり視界を遮るものの、ほぼ360°の大展望が広がった。

先週出向いた三ノ丸の西、ブナの森から大段方面へと続く西尾根はもちろん三ノ丸避難小屋、遠くは氷ノ山山頂小屋も肉眼で確認でき、その右手に蘇武山塊。

西にくらますや東山と南には県境尾根が三室山から三国境へと続き、三室山の左に道中に車中からも仰ぎ見た黒尾山。
東には県下の山々がのんびり横たわる。

見飽きることのない景色にしばらく見入る。
雪原の彼方に三室山 ピーク上より氷ノ山方面
三室山 ピーク上のブナ林越しに氷ノ山方面を望む
登ってきた尾根を俯瞰(奥の三角ピークは藤無山) ピーク脇の若ブナにこびりついた樹氷
登ってきた尾根を俯瞰 樹氷
ピーク上でしばしのんびりしたら後ろ髪引かれる思いながら下山する。

スキーを履き、稜線を往路のとおり短く引き返したら左の谷へドロップ。
稜線直下はこちらでも手に負えそうな斜面だったが、それも束の間。谷はいきなり狭まり、所々には不気味に口をあけた雪面の下方に小さな流れも見て取れるようになった。

やがて沢音が聞こえ出すと、脳裏に焼き付けたはずの天国のようにも思えたこれまでの光景はいきなり序曲へと取って代わってしまった。
そう、ここからが今日の本題となってしまったのだった。

それでも、しばらくは右上から落ち込む斜面を見上げては
「どこからドロップしても気持ちよさそうですね〜」
Aさんからはこんな言葉も聞こえていたが、沢音が大きくなるにつれ余裕は小さくなり、滑落しないようトラバースするのが精一杯の状況となってしまっていた。
やがて、いつかは来るであろうと思われたその時は訪れた。
何とか右岸を懸命に滑ってきたが、どうしても前へ進むことが出来ない状況に出くわしたのだ。

無理は禁物だ。
積雪量は充分だったのでこれを利用する意味もあり、板を脱ぎ沢にずり落ち渡渉する。
初体験だった。

この後、何度か目までは
「これで○回目」
と数えていたが、あまりの回数の多さとその際の緊張感からか、いつしか回数は判らなくなっていた。

基本的には右岸を下っていたので、右からの支尾根を越える度、
「この先には滑り易い(あくまでトラバースし易い)斜面があるのでは・・・」
と、期待を持って短く滑るものの、その都度、見事に裏切られ目の前には更なる難題を突きつけられたような斜面が横たわった。
短いスパンでの渡渉を繰り返しながら徐々に高度を下げると、この沢を下るにあたり稜線上から目標物のひとつとしていた植林帯の入り口と思しき植林が現れた。
この地帯を過ぎるとスキー場は間近であることが判っていただけに一息ついた気分になったが、それも束の間、とんだ置き土産が行く手を阻んだ。
置き土産の忘れ主は昨年秋に訪れた風台風。置き土産とはその強風によってなぎ倒されたスギやヒノキの植林だった。

はじめは左岸に現れ出したので滑るにあたって大きな支障にはならなかったが、やがては下っていた右岸にも現れるようになり(実際は積雪により雪の下になっているので倒木を目にすることはなかったが、積もった雪の形からその下にあるものは容易に想像することが出来た)急斜面を通過する際などは決まってこれらに邪魔をされるものだから、高巻いたり後ずさりしては板を脱ぎ、その度、沢に下りては渡渉を繰り返したのだった。
沢芯の核心部 沢芯の下部
沢芯の核心部より稜線部を見上げる 思わぬ難儀を強いられた赤谷
何度も渡渉するうち、ふとあることが気になりだした。
ここは、ほぼ源流に近い地点だから沢の水に不純物は含まれてないはずなのに、どういう訳か川床の小さな岩が元来の岩肌の色ではないのだ。

最初に渡渉した際、
「こんな川床の沢もあるんだ。」
これまでに見たことのないこの沢の様相を不思議に思ったものだが、その後、何度渡渉しても様子が変わらないので
「これは何か訳があるに違いない。」
と、自分なりに考えてみた。

普通の川床との違いは、そこの岩がどれも決まって少し赤味がかっていること。

「そうか、ただ単に川床が赤味がかっているから、この谷の名は赤谷なんだ。」
答えは意外と簡単だった。よくある地名や固有名詞の命名手法に過ぎなかったようだ。
きっと、源流近くのこの界隈に鉄分を含んだ鉱脈があり、そこから染み出した成分のせいで川床の岩が決まってこんな色になっているのだろう。(※これが真実かどうかは定かではない)

苦しい下降が続く中でホンのつまらないことながら、自分を納得させることの出来る発見があったことで幾分、気が楽になった。

確実に高度を落としていることに違いはなかったこともあり気分は少し楽になったものの、それでも渡渉はしなければならなかった。
あまりの回数と、本流は次第に沢幅を増すとともに水量が増えたこともありに遂にはブーツ内にも浸水し、冷たさを感じるほどになってしまっていた。

すでに薄暗くなった植林帯を下るようになると今日のものと思しきクロカンの踏み跡が現れ、右からの小さな沢を渡渉し(結果的にはこれが最後の渡渉)緩斜面を緩やかに下れるようになると、、ようやく人里の匂いがして来た。
林を抜け、いかにも林道らしきところを滑るようになるとようやくゲレンデの明かりが目に入るようになり、波賀町水源地が現れるとゲレンデ脇の広場に出た。

そこには昼間の喧騒(といってもかなりローカルなスキー場なので高々知れてますが・・・)が嘘のような、人っ子一人いない何とも不気味な空間があった。

振り返り見上げると入山時、ここから見上げた赤谷ピーク付近の稜線にはすでに夜の帳が下り、その付近の雪原は見ることは出来なかった。
安堵の中、ふと腕時計に目をやると時刻は間もなく午後6時30分だった。

スキーを脱ぎ駐車場に戻ると、案の定、暗闇の中、ジムニーが一人ぼっちで待っていた。

各々、家族に無事下山の連絡を入れ色んな意味での充実の山行を無事、終えたのだった。


◆【ワン・ポイント・アドバイス】

赤谷ピーク付近からの展望は県下三指(一指かも)の絶景!!(あくまで独断です)
好天に恵まれればこの上ない光景を独り占めできる。

ピークへは戸倉峠から県境尾根を辿るルートも考えられるが(詳細不明)、スキー場オープン中は距離、時間とも当ルートが最短と思われる。

下山は往路を引き返すか、車をあらかじめ戸倉峠付近にデポしておけば、こちらへのルートも選択肢に入る。

ただ、滑降を目的として登るには潅木や植林がうるさく適しているとはいえない。
今回下降した赤谷も本文のとおり昨年の台風の影響でかなりの倒木が見られた。

この日は春まだ浅く充分な積雪があったので辛うじて乗り越せたが、積雪量が少なくなるにつれそれらが顔を見せるようになれば、今回よりもさらに難儀なものとなるだろう。
そうなると下降は不可能に近い状況だ。
(現時点でも渡渉時以外で板を脱ぐと歩行不可能)

ピーク西面、稜線直下には気持ちのよさそうな雪原の斜面がピーク上から確認できたが、下方については詳細不明。
下るとハサリ川源流に出るはずである。
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