劇場版を観た時からこんな思いがあって、無意識に文字を打っていました。これはあるワンシーンが文字になっただけですね。どっちかというとポエムに近いかも。
体中が熱い。悲鳴を上げている。まるで熱病に侵されたようだった。けれども、頭ははっきりと冴え渡り、心には静かでやわらかな清々しいまでの風が吹いていた。 『これでいいんだ。』 彼は言うことを聞かない体を無理に動かし、前へと足を進めていた。 遠くで彼の名を呼ぶ声がする。 『ごめん。僕にはこうすることでしか・・・。』 届かぬ言葉をそっと呟き、彼は勢い良くドアを開けた。そこには心の中と同じ風が吹き、彼を迎え入れた。一切の雑音は彼の耳には届かなくなり、響いてくるのはオルガンのメロディー。 彼は心の中で微笑んだ。わずかだが、かけがえのない思い出たちが、彼の微笑みに答えた。 『ごめんなさい。そして、ありがとう。』 彼は包み込まれる思い出に言った、ひとつ、ひとつに。 彼はまた、駆け出した。前へ、前へと、やわらかな風に手を引かれるように−。 『なぜだろう、とても穏やかな気持ちだ。今までこんなこと、なかったのに。』 いつしか彼の目に写る光景は、次第にモノクロの背景となった。その前景には、彼の大切な人達が温かい笑顔を投げかけていた。 『本当に、ありがとう。』 彼は進めていた足を止め、辺りを見渡した。それは、脳裏にすべてを焼きつけるようだった。そして、目を閉じた。 『これで、終わる』 再び目を開けた時には、体中の熱も悲鳴もなく、抱きしめられるような澄みきった静寂とやわらかな風だけが、彼を包んでいた。 彼はゆっくりと前へ手を差し出した。 その瞬間、地響きのような音が響き渡り、彼の視界は真っ白に霞んでいったー。
どこからか、懐かしいメロディーが流れてくる。 どこからか、優しい風が吹きかけてくる。 どこからか、明るい笑い声が聞こえてくる。 どこからか、彼の名を呼ぶ声が。
目を開ける彼の前には、懐かしい景色が広がっていた。彼はそこに身を委ねていた。そこへ寝そべる彼の肩にそっと手を置き、彼を抱き起こす人がいた。 そう、あの人がー。 『・・・さん?』 何か言おうと彼が考えあぐねていると、あの人は言葉もなく、笑った。それにつられて、彼も笑った。言葉などいらない、そんな感じだった。
ただ、この時を、この瞬間を共に過ごせたら−。 今までその瞬間、刹那だけがすべてだった。 そんな彼の願いを閉じ込めるものは、もう、ない。 二人、笑い合い、過ごすとき。 それは、誰にも壊せず、時の流れさえも色褪せさせることのできない永遠(とわ)のものとなった。
その場所へ、彼は帰っていった−。
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