季節が木々を彩る時
item3a
When the season paints the

*三蔵法師

*悟 空

*八 戒

*悟 浄

「漆黒の疾走」

目に見えるものは、見渡す限り光のない暗闇
聞こえてくるのは、自分が吐き出す荒い息遣い
傷だらけの手で目に見えぬものをかき分け、ひたすらに走り抜けた
何も考えず、何も考えられず、走り続けた
ただ、生きたいという本能だけで

どこまで来たのだろう、どれだけ走ったのだろう
一瞬、脳裏を過る
「ここまで来れば、もういいだろう」
衰弱しきった身体がそう言っていた
しかし、すぐに頭の中で声が響く
走れ、捕まるぞ、みんなのように・・・
途端に怖くなった 恐怖が身体に鞭を打った
縺れる足を必死に動かしていた
そして、走り続けた

『水を・・・』
喉が飢えていた 干涸びた身体が欲していた
傷口から溢れていた血も枯れたように途絶え
皮膚の上で黒く変色していた
次第に意識も朦朧と霞み、
周りの暗闇と意識の中との区別がつけられなくなっていた

どこへ行く?
 ーどこでもいい
どこでも?
 ーああ。どうでもいいんだ、もう俺には
だったら、なぜ走る?
 ー・・・生きるため
生きたいのか?
 ーああ。
すべて失ったのに?
 ー黙れ!

そう思った時、何かに躓き、傾いた身体は支える力もなく倒れ込んだ
地面に顔をつけたまま 荒い呼吸だけ
立ち上がる力も気力もなかった
土の冷たさに体温を奪われながら、また頭の中で声が響く

生きて何になる?
 ー分からない
何のために生きる?
 ー何のため?
そうだ
 ー何のために・・・・?

もう身体も意識も限界だった
このまま眠った方が楽だと思えた
それでも、必死に考えた 自問した
『何のために生きる?』
一時の静まり返った静寂
そして、沸き上がった激情
深き悲しみから激しき憎しみが生まれた時だった

『・・・許さない!』

激しい怒りに身体は震えて血が駆け巡り
噴き出す憎しみが力となって身体を支えた
立ち上がった身体は亡霊のように揺らいだ
しかし、まだ死ねない
また走り出す 闇雲にただひたすら
目的地などない。ただ、生きてやる、復讐のために・・・・

走り続けた漆黒の闇に微かな光を見た
鼻にかかった微かな匂いに安らぎを感じた
遠くで耳にした音に確信が持てた
闇に閉ざされた森を抜け、光の中へ駆け込んだ
目の前には小川が月明かりを反射して輝いていた
倒れ込むように浅瀬の小川に身を沈めた
貪るように水を飲み、すべてを洗い流すように水を浴びた
体中の傷が疼き始め、感じる痛みが生きている証だった

『まだ、生きられる』

ふと見下ろした水面には、輝く半月と荒んだ青年が映っていた
擦り傷だらけの痩せこけた顔
深海の底のような黒青色の髪
王冠のように髪に納まる皿
どれも水滴がまとまりついて、月明かりに輝いていた
どれも見慣れたはずのものだったが
水面に映る顔は、もう以前の自分の顔ではなかった
本能のままに生きる獣のように、生に執着した貪欲な生き物となり
目には鋭い眼光と燃えたぎる怒りと憎しみが宿っていた

「おい、見ろよ!河童だぜ」
そんな言葉が聞こえた
なぜか馬鹿にされた気がした
『・・・気に入らない』
体中が怒りに満ちたようだった
「どうした、河童さんよ?」
肩に置かれた手に虫酸が走る
同時に声の主を打ちのめしていた
気付けば、五人の妖怪に囲まれていた
「お前、命知らずだな」五人の中の誰かが言った
「いいや、その逆だ」
低く冷たい声、初めて聞く声だった
しかし、自分の口から出たものだった
堪えきれない怒りを向かってきた妖怪たちに振り落としていた
弱った身体が次々と傷付けられる
それでも、怒りは一向に静まらない
身体の痛みなど気にせず ただ暴れていた
五人の妖怪は自分と同じようにボロボロになっていた
『ざまあみろ』
妖怪は意地になり、五人掛かりで押さえ込んだ
地面に押し付けられ身動きが取れなくなっても
もがき続けて暴れてやった
『死んでたまるか』
そこへ、また別の声が聞こえた
「ずいぶん、手子摺っているな」
漆黒の森から出てきたのは、同じく漆黒の鎧を纏った男
冷たい死んだような目 圧倒する妖気
『ちきしょ。とても勝てない』
咄嗟にそう悟った
『だが、まだ死ねない』
身体に蠢く憎しみが生に執着していた
怒りが反発して男を睨みつけていた
「いい目だ。気に入った。何を激しく憎んでいる?」
睨みつけたまま、あるがままの言葉を吐いた
男の口元が大きく緩んだ
「ならば、俺の元に来い。お前の望み通りにできるぞ」
男は視線を妖怪たちに送った
妖怪たちは押さえつけていた手を離した
「誰だ、あんた?」
「なんて口の聞き方をしてるんだ!」周りの妖怪達が口々に言った
「まあ、いい。俺の名は混世魔王。お前は?」

「俺の名は・・・」

(おわり)

<管理人の言い
 何も考えずポツポツと文字を打ってたら、こんなのができました。駄文です(^_^;
文字打ってると全く考えない方向へ行くんですよね。初め魔王は出てこない予定だったのに。罪を背負い悩む彼は書きやすいけど、悪の道に走る彼はあんまり見たくないような気がして(^_^;あからさまに名前は出さなかったんですよねー。魔王が出てくるなんて自分でも思いもせずで、もし本気であの二人の出会いを書くとしたら、もうちょっと考えてストーリーを作ると思いますデス。凱歌同様、彼の過去はついつい気になりますね〜。