銀糸の檻 < 赤月光 >


 銀糸の、さながら檻のように取り囲む長い髪に囲まれながら、何がいけなかったんだろう、とユーリルは考えた。そう言う場合ではないのだろうが、そう言う事を考えていなければ気がおかしくなりそうだったからだ。
 背中には柔らかく詰め物のされたベッドがあり、目の前には紅玉の瞳がある。ベッドの側には銀細工の香炉があり、そこからくゆる煙はそう広くない部屋に、えも言われぬ艶かしい香りを充満させていた。焚きしきめられた香は鼻腔を辿り、ユーリルの脳を酩酊させる。
 赤い光もまた、ユーリルの思考をまとまらなくさせていた。
 数年に一度、もしくは数十年に一度、ふいに姿を見せる赤い月が今宵、姿を見せていた。天井までを貫く巨大な窓からは、煌々とその灯かりが入り、灯のない部屋を照らしている。
 普通の月の冴え冴えとした光ではない、どこか禍々しささえ帯びた赤い月の光の中で見るピサロの瞳は、常よりもよほど爛々と輝いて見えた。その眼差しに見据えられ、ユーリルのうちに知らぬざわめきが生まれる。
 つと伸ばされた指に、ぴくりと身体を強張らせれば、ひどく静かに頬を辿られる。冷たく、とても人とは思えぬぬくもりではあるが、指の辿った跡を追うように触れる唇は、それとは裏腹に温かい。
 何がいけなかったんだろう、とユーリルはまたもや考えた。
 討つべき真の仇を倒し、世界に平和が訪れ、仲間たちは以前と変わらぬ生活に戻った。変わったのはユーリルの生活だけだ。誰もいない山奥の村で一人暮し、気ままにどこかへ遊びに行く。今日もまた、気まぐれに遊びにきただけなのだ。ピサロのいる、このデスパレスへ。
 呼ばれたわけではなかったが、突然に押しかけても邪険にはされたことはなかった。魔王であるピサロは常に多忙ではあるが、ユーリルが行くと仕事を休め、茶を振舞ってくれる。半ば一方的にユーリルがするとりとめのない話に耳を傾け、陽が落ちれば泊まるように勧めた。物静かな城主の姿に、迎え入れられているのだろうと思っていた。
 ところが、今日ばかりは違ったのだ。
 ピサロはユーリルの顔を見ると僅かに目を見開き、そしてすぐにいつもの無表情に戻った。最初からお前など知らぬと言うような顔でユーリルから目を背け、低く素っ気ない声で、帰れ、と告げたのだ。理由もなしにただ一言告げられた言葉に、ユーリルはひどく腹を立てた。どうして帰らなければならないのか教えろと口調を荒げ、掴みかかった。ピサロはされるがままにされていたが、苛立っているようには思えた。だが、ユーリルにはそこで止めてすごすごと帰ろうなどとは思わなかったのだ。
 取り立てて急ぎの用事があったわけでも、まして特別な用事があったわけでもない。ただ顔を見に、そして話をしにやってきただけだった。都合が悪いのならばと日を改めることだってできたはずなのに、ユーリルはそうできなかった。
 ピサロの態度に腹が立ったから。いや、違う。ピサロの態度が悲しかったからだ。
 ピサロにすげなく扱われることに慣れてはおらず、またそうされたこともなかったからかもしれないし、ロザリーがそうされている所を見たことがなかったからもしれない。ユーリルはいつもどこかで、ピサロにとって何よりも誰よりも特別な位置に存在するロザリーと自分とを比べていた。ロザリーよりもピサロにとって自分は特別なのだと思いたかったのかもしれない。浅はかな嫉妬心から生まれる些細な羨望に駆られ、躍起になって理由を聞き出そうとしたユーリルに、ピサロは低い声で呻くように告げた。
 どうなっても知らんぞ、と。
 そうして気付いてみれば、いつの間にやら寝室に連れ込まれ、ベッドに放り込まれていた。ピサロの長い指先が小さな炎を熾し、香木の端を炙ると嗅いだことのない香りが立ち上った。銀細工の細やかな香炉に香木が投じられ、そこがピサロの寝室だと知ったのは、ユーリルの身体がぼんやりとだらしがなくなった後だった。
 あれ、と己の身体の言う事の聞かなさに眉を寄せた時には、すでにシャツの前ははだけられ、炎を熾した指がそれとは間逆の冷たさで肌を辿っていた。
「…手足が動かぬだろう」
 鋭い刃の上を水が滑るようななめらかな声が、ユーリルの耳朶に触れる。
「古より閨に焚かれる香木だ。女であれ男であれ、人の子の四肢の力を奪うものだが…空の血の入る貴様にも効くとは思わなかった。まだ少し、動けるようだが…」
 言葉が触れるくすぐったさに首を竦めもがくユーリルに、ピサロはただ静かに告げる。
 手や足がぼんやりとして血の巡りが悪いように感じる。しびれくらげに刺されたときよりも痛みはなく、柔らかく暖かなものに身体中を包まれているかのようだ。
 眉を寄せるユーリルの頬に、ピサロの指が触れた。
「帰れと、私は告げた。聞き分けぬ貴様が悪いのだ」
「……だって」
 ユーリルは思い通りにならない身体をもどかしく感じながら、気を抜けばもつれそうになる舌で言葉を作った。
「…ピサロが、帰れなんて、言うから……」
 自分のものとは思えぬほど頼りない声を奪うように、ピサロの唇がユーリルのそれに触れた。軽く押し当てるだけに留まった唇に、ユーリルは目を瞬く。銀糸の檻の中で、ただそれだけが息づいているかのような紅玉の瞳がひたとユーリルを見据えていた。眼差しに促されるように、ユーリルはぽつりと呟いた。
「理由もなしに、帰れなんて、言うから」
 素っ気なく告げられた時のずきりと走った胸の痛みを思い出し、ユーリルは眉を寄せた。ぎゅっと目を瞑れば、閉じた瞼にピサロの唇が触れる。固く閉じた瞼の際を、熱い舌先が辿る。再びのくちづけは、先ほどとは打って変わって荒々しいものだった。瞼を辿ったピサロの舌が、怯え逃げるユーリルの舌を掴まえようと口腔を荒しまわる。息もできずに喉を鳴らすと、ピサロのものか、それとも己のものか定かではない唾液が喉を通った。飲み下し切れなかった唾液が、ユーリルの唇から漏れる。伸ばされた舌に頬を舐められ、ユーリルはぼんやりとした眼差しで赤い光彩を見上げていた。
「数年か、数十年かに一度、赤い月が昇る。貴様も今宵、見たであろう」
 ピサロの声は、どこか艶を帯びているようにユーリルは感じた。ユーリルの肌に触れる指や唇は、ユーリルの知らぬ微細な感覚を起こしては離れてゆく。ベッドと背中との間に無理矢理に手を入れられ、半身を起こされる。気付けば、羽織っていたはずのシャツは脱がされ、ズボンも片足の下腿にかかるのみだ。思わぬ己の姿に羞恥を覚えども、動かぬ手足では何もできない。
「赤い月が昇るその夜こそが、我らが魔族の繁殖期だ。そこへ転がり込んできたのが貴様だ。耐えよと言うのは、酷だとは思わんか?」
「……は、繁殖期って………ん、あっ」
 ついと長い手指に下股を撫でられ、ユーリルはかぁと頬に血を上らせる。唇から零れ出た声が己のものには思えず口を噤めども、ピサロは無論それだけに留まらない。繁殖期というものが一体どういうことを指すのかくらい、経験のないユーリルにとて解っていた。
「で、も…だったら…」
 逃れようともがきながら、だが実のところユーリルは少しばかりももがけてはいなかった。ベッドのすぐ側で焚かれた香はユーリルの脳に悪さをしでかし、ユーリルから自分の意思で手足を動かすということを奪っていたからだ。
 言葉ばかりが、ユーリルの意思だった。
「…だったら、ロ、ロザリーさんのとこに…、行けば、いいじゃないか…!」
 喉がひくひくと動き、鼻の奥がつんと痛む。ユーリルはピサロから顔を逸らそうとしたが、長い指に頬を捕らわれ適わなかった。じわりと滲んだ涙に気付かれぬようにとユーリルは唇を動かした。
「は、んしょくきなら、ロザリーさんのとこに」
「なぜ」
 眉を寄せ、さも不可解だと言わんばかりの表情をされ、ユーリルの方が面食らった。
 いくらユーリルでも繁殖期の意味くらいは解る。
 魔族と人間とがどれほどの違いがあるかは解らないが、その言葉は同じはずだ。子を成すための行為だ。だとすれば、その欲が向くべくはかのエルフではないのかとユーリルは告げたのに、向けられる視線は何をおかしなことを、と言うようなものだった。
「…な、ぜ…って……だって、ピサロが好きなのは、ロザリーさんじゃないか…」
 ロザリーのためにと人間を滅ぼそうとした魔族は、ユーリルの言葉に眉を寄せる。訝しげに、何を当たり前のことを、と言いたげな口調だった。
「確かにロザリーは好いているが?」
 すぐ間近に見合っていたせいで、ユーリルにはそれが嘘偽りのない言葉だと知ってしまった。心底からそう思っているのだとピサロの瞳は告げていた。
 ひく、とユーリルは喉が干上がるのを感じた。
 ずきずきと心臓が早鐘のように打ち始め、手首の裏がぎゅうっと締め付けられたように痛む。先ほどの比ではないほど鼻の奥がずきんと痛み、閉じた瞼の奥で眼球が溺れそうなほど涙が溢れた。
 悲しい悲しいと心が叫んでいるようだ、とユーリルは思った。
 ピサロがロザリーを好いているのは当然で、最初から解りきっていたことだった。二人の繋がりは十分に目の当たりにしてきたはずだ。進化の秘宝に変化を遂げたピサロは、だが、ロザリーの涙に失った我を取り戻すほどだった。
 ピサロとロザリーの間にある、とても適わないほどの愛情の深さ。
 ユーリルはそれに憧れ、それを欲したのだ。
 改めてまざまざと思い知らされた事柄に、ユーリルはようやく、ああ、と気付いた。
 ロザリーよりも特別になりたかったのも、当然のようにピサロの隣に立ち微笑むロザリーを羨んだのも、すべてはユーリルの心のうちにあるピサロへの愛しいという気持ちから生まれるものなのだ。
 自分は、この美しい魔族の王が好きなのだと、ユーリルは気付き、涙した。
「…なぜ、泣く」
 ひそりと触れる唇が、零れる涙をいくらか吸い取る。服を剥ぎ取られ、何ひとつ我が身を隠すもののない姿であるからか、ユーリルは思うまま言葉を紡いだ。
「ピサロが、ロザリーさんが、好きだから」
 唇と指から逃れ、顔を背けながらユーリルはまとまらぬ言葉を吐き捨てる。
「だったら、行けばいいじゃないか。こんな、とこで、俺なんか、構ってないで、ロザリーさんのとこに、行けばいいじゃないか。俺なんか、押し倒してないで、ロザリーさんを押し倒したら、いいじゃないか。俺なんか、たまたま、そこにいたからって、だけじゃないか。ピ、サロが、好きなのは、ロザリーさんなんだから、ロザリーさんと、し、したら、いいじゃないか…」
 涙はぼろぼろと留まらず零れ、ユーリルは喉が閊え、言葉すら満足に操れなくなっていた。喘ぐようなユーリルを見下ろし、ピサロはふと息を吐いた。
「……いくら繁殖期とて、好かぬ相手を押し倒すほど、私は切羽詰ってはおらん」
 さらりと若葉の色をした髪に長い指が入る。頭皮をじかに撫でられたかと思うと、ぎゅっと髪をつかまれ、無理矢理に上向かされた。見開いた目を真っ向から見据えられる。
「貴様が相手でなければ、誰が寝室にまで連れ込むものか」
 告げられた言葉の意味がすぐには理解できず、ユーリルは何度か瞬きをした。そのたびにぼろぼろと零れる涙が頬を濡らす。
「え?」
 間の抜けた言葉に、ピサロは深い溜息を吐いた。
「ロザリーを抱こうという気はさらさらない。あれは恋人であり、友のようなものだ」
「え、でも、あれ?」
「繁殖期であろうとなかろうと、貴様ならいつでもこうしてやりたいと思ってはいるがな」
「……あ、れ? ちょっと待って…い、意味がよく解らない…」
「ことが終わるまでに考え着け。私はもう待たぬ」
「え、な…ん、んーっ!」
 髪をつかまれたまま、乱暴に唇を重ねられる。頬に添えられた指が力を込め、閉じた顎を開かせる。無理矢理に舌と舌とを絡ませられ、息苦しさにユーリルが呻いている間に、ピサロの手指は下股をまさぐっていた。自分以外の誰にも触れられたことなどない箇所を手のひらで包まれ、ユーリルはかぁと頬が燃えるように熱くなった。
「な、に…す…!」
 おざなりになぶられ、無理矢理に半ばまで高められたあと、ピサロはベッドの側のテーブルから何かを取り上げた。手の中に隠れてしまうような小さな瓶の蓋を開け、中身をどろりと手のひらへ落とす。途端に咽るような香りが辺りに広がった。どこかで嗅いだことのあるような香りだったが、すぐには思い出せない。なんだろう、と思っているうちに琥珀の色を帯びた液体をぬるりと後ろへ塗りこまれ、ユーリルはびくりと震えた。
 およそ、人に触れられる場所ではないであろう場所を、よりにもよってピサロに触れられている。荒々しい剣を持つ手であるのに、無骨とは程遠い美しい指先に、不浄の場所を触れられているのかと思うと、ユーリルはたまらない羞恥に襲われる。逃れようと必死になるも、四肢は香木の効能によってやんわりと戒められていた。
「い、やだ……やめ…」
 するりと驚くほどあっさりとユーリルの後膣はピサロの指を飲み込んだ。痛みがないのはピサロが手のひらに受けた液体の滑りのせいであり、部屋に炊きしめられた香木のせいだろう。ユーリルの体内へと潜り込んだ長い指は、中を解すようにうごめいている。とてつもない違和感に、ユーリルは唇を噛み締めて呻くしかなかった。
「う、うー…」
 混乱やら羞恥やら悲しみやらでユーリルの思考は混濁していた。
 なぜピサロがこんなことを自分にするのかも解らないし、魔族の繁殖期ではあるらしいが、それならそれでロザリーの所へ行けばいいのにピサロはそうしない。曰く、ロザリーを抱く気はないのだからだそうだが、だとすればピサロがこうして自分を抱くのはなぜだろう、とユーリルは必死で考えた。
 手近にいたから? 首をかかれる心配のない相手だから? それとも、こうやって辱めてやりたいと思うほどに憎んでいるから?
 最後だったらやだな、とユーリルは喉を鳴らした。ぽろぽろと零れる涙はいつの間にかシーツに吸い込まれて消えていく。唇から零れる嗚咽にピサロは気付いているだろうに、一片の視線も寄越さなかった。ただ慣らすために指を動かし、増やし、また動かす。ほどなくして、前たてだけを寛げたピサロがユーリルの膝を割り開き身を入れる。後孔に押し当てられた熱いものが、ピサロの指によって解され柔らかくなった箇所へ押し入ってくる。
「や、あ、やだ、や、あぁあっ」
 ズズッと一息に押し込まれた灼熱の塊に、ユーリルはぎゅっと目を瞑った。がくがくと震える身体がまるで他人のようだが、ピサロの押し入ったそこだけは我が身であると自棄にはっきりと解った。神経のすべてがそこと直結しているかのようで、ピサロが僅かに身じろぐだけで、途方もない息苦しさに喉が詰まる。
「狭いな」
 耳元で囁かれた声に、ユーリルは驚いて目を開いた。先ほどまでは指の先すらも届かぬ場所にいたピサロの顔が、いつの間にか驚くほど間近にあったのだ。下股が繋がり、ユーリルは抱え込まれるような体勢だった。さらりと零れる銀色の髪が頬と鼻とをくすぐり、ふわりと漂った香りにユーリルは胸を喘がせた。後孔に塗り込められた得体の知れぬ液体は、どうやら乳香だったようだ。あまりにもきつい匂いなので咄嗟にそれがピサロの使う乳香の香りとは気付かずにいたが、ピサロがいつも纏うのは後孔に塗りこめられたそれを、柔らかく仄かにしたものだった。ふとした仕草の折にピサロから漂う香りを、ユーリルはいつの間にやら覚えていたのだ。
 銀色の髪に頬を覆われ、身体はピサロに抱きしめられている。目の前にあるのはただただ紅玉の光彩を持つ瞳のみ。そして鼻腔を通るのはピサロの纏う乳香の香りだ。
 ピサロに包まれている。
 そう考えが至ったとき、ユーリルは例えようのない感情の奔流に放り出されたような心地になった。ピサロに触れられている箇所すべてが熱く、背筋をびりびりと電気が走る。
「あっ、う、あ…」
 がくがくと震える身体を押さえつけるようにピサロが身を進めた。身体の奥を穿つ熱が、変則的にユーリルに押し寄せる。開きっぱなしの唇からは、ひっきりなしに声とも息とも吐かぬ声が漏れている。それがピサロの熱がユーリルの中の一点に触れた時、ユーリルはびくっと身体を震わせた。
「あぁっ」
 飛び出した自身の声の大きさに、目を真ん丸にするユーリルを、囲うピサロは見逃さない。唇の端にふとした笑みを浮かべ、密やかに告げた。
「そこが好いか」
 何を、とユーリルが思うよりも早く、ピサロは律動を始めた。ユーリルの膝を割り開き、奥へ奥へと身を進めながらも、ユーリルが一番敏感に身体を震わせた箇所をなぶることも忘れない。
「ひっ、あ、ぁっ…うぁ…」
 自分のものではないような身体をどうにかしたくて、ユーリルはピサロにしがみつきたかった。何か縋るものが欲しかったのだ。だが、焚かれた香に四肢の力は奪われ、己の意思では指先ひとつ持ち上げることができない。自由を奪われたもどかしさと、神経に直接触れる鋭利な刃物のような快楽にユーリルはぼろぼろと泣いた。
 それでもピサロは許さず、ユーリルが強く反応を示す場所ばかりを攻め立てる。指先で首筋を辿り、舌先で唇を愛撫する。息すらも絡め取られそうで、ユーリルはピサロのくちづけから逃れようと首を振った。だがそれが気に入らなかったようだ。腰を高く持ち上げられ、一際強く身を押し込まれた。
「ひっ、ぁあぁッ…!」
 脳裏が真っ赤になり、全身から汗が吹き出るようだった。
 神経が焼ききれる、と思ったのを最後に、ユーリルは気を失ってしまった。戦事ならばどんな苦痛にも耐えられるが、特殊な環境下で少年から青年へ変わる時間を半ば禁欲的に過ごしたユーリルにとって、性交による快楽は自分の意思で耐えられるものではなかったのだ。
 ぐったりと全身を弛緩させたユーリルは、頬を優しく撫でられるようなくすぐったさを、夢か現かの合間に感じていた。


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