終局は物語のはじまり




10



     
今日は抑えようと思っていた。
『1年待って欲しい』と進藤に言われた言葉にはそういった意味も
含まれているのだろうと思っていた。


だのに、君は僕にその身を委ねて誘惑する。



僕の全てを受け入れようとするように瞳を閉じた進藤を僕はきつく
抱き寄せ、バスタオルを剥いだ。







「はあっっ、ああ・・・・・あああ・・・」

進藤の唇から呼吸が喘ぎ声が大きくなる。
歯止めの利かない欲情が湧き上がってくる。

優しくなど出来ない。


君を征服している快感に酔う躰と、中国行きを勝ってに決めてしまった
ことにいらだつ自分の心が容赦なく彼の身体を甚振った。


ずっと僕に囚われてしまえばいい。


足腰なんて立たなくなってしまえばいいと繋がる深い
部分を激しく貫いた。



「いぁ・・・・うっああ・・・」



進藤の声がより激しく喘ぎ、肢体が沈む。




『・・・・それでも君は行ってしまう』



僕の腕を離れて、微塵も僕に弱さなどを見せることなく
かの大地へと旅立っていくのだろう。



激しい快感に僕は彼の中に吐精した。



なのに心の中に残った空しさはなんだろう。
確かに彼は僕の腕の中にあるのに今の僕には彼がぼんやり
霞むのは何故だろう。

まるでそれは先ほど二人で見上げた星空のようで、
耐えられなくなって僕はつぶやいた。



「愛してる。進藤愛してるんだ。僕は君だけをずっとこれからも、」


背後から強く抱きしめる。
それだけが真実だと言うように、



「俺もお前を愛してる。俺これからもお前を受け止めたい。
だからどんな時でも俺はお前の傍に居る。
離れていても心はここに置いていく。ずっと塔矢の傍にいるから。」



進藤の言葉に心が震えた。
僕が君の言葉にどれだけ涙を流したか君は知らない。







次の日の朝、玄関先で僕は彼を見送った。

「塔矢行ってくるな。」

「ああ。進藤気をつけて。」

「うん。俺さ、来年またお前と絶対北斗杯に出るからな」」

「当たり前だ」

「じゃあ」





本当に短い会話。でも余計な事を言ってしまえばお互いの弱さが
口を付いて出てしまいそうだった。



ぼやけて見えなくなる進藤の背に僕は区切をつけるため
自ら背を向けた。










進藤がその店の暖簾をくぐったのは昼前だった。

「よお。坊主来たか?」

「うん。おやじさんこんにちわ。ってあれ・・・・緒方先生!?」


俺は張っていた山勘が当たって内心微笑みながらも何事も
ないように進藤を手招いた。

「よお。進藤、残念だったな。今日は店はやってないんだぜ?」

「え〜そりゃないよ。俺中国行く前に絶対に親父さんのラーメン
食べたかったのに。」

文句をいいながらも俺の隣に腰掛ける進藤に親父さんが
どかっとラーメンを置いた。

「坊主、出来上がったぜ!」

「えっ?」

「だって今日は店開けてなかったんじゃなかったの?」

ここの主が豪快に笑いながら言った。

「ああ。緒方先生と坊主の為にな、店は開けなかった。」

「えっ!?」

進藤ははその言葉に親父さんと俺の顔を見比べた。

「俺このラーメン食っていいの」

「当たり前だろ。お前さんの為に作ったものだ。緒方
と俺からだ。伸びる前に食えよ。」


進藤の瞳が潤んで見えたのは湯気のせいではないだろう。


「頂きます」

ラーメンをすする進藤の横顔はいつもより大人っぽく
感じたのは気のせいではないはずだ。



アキラくんと同じ匂いのする進藤の髪に身体に嫉妬をかんじ
ながらもどこかでほっとするしている自分がいる。

ラーメン屋の親父に二人で礼を言った後 俺は進藤と一緒に店を
出た。

「先生ありがとう。」

「ああ」

俺は先ほど感じた確信をからかい半分で進藤にいった。

「進藤 、昨夜アキラくんと一線をこえたんだろ?」

驚いたように俺を見た進藤はその事を肯定も否定もしなかった。

「俺緒方先生には感謝してるんだ。」

「・・・・・・」


「若獅子戦の晩さ、塔矢を俺んちに寄越したの先生だろ?中国
棋院に推薦してくれたのも先生だって聞いた。俺感謝してるんだ。」


同じ事をしても恨む奴もいれば感謝する奴もいる。俺は内心の苦笑を
抑えた。

「俺塔矢とずっと一緒に居る。先生に塔矢は渡さねえからな」

そう言った進藤の瞳は眩しいくらい輝いていた。

「俺はお前にしか興味をもたないアキラくんなどもうどうでもいい」


それは本音とは逆で・・・アキラにしか関心を持たないお前など
興味がないと言うべきだったのだろう。

いやそれさえ違う。俺はきっとアキラを一途に追いかける進藤
に恋をしたのだ。

他人のものであればこそ惹かれる恋もある。
だが、そんな俺の心情になど気づかない進藤はうれしそうに微笑む。


「そっか。なら安心した。」

そういった進藤の心はもう中国に飛んでいるようでなんで
遠くに感じる。

「明日にはお前はもう中国にいるのだな。」


咥えタバコのままそういうと進藤は遠く空を仰ぎ見た。」


「うん。俺は行くよ。緒方先生ありがとな。」



それだけ言うと進藤は振り返ることなく軽やかに歩き出した。


大地へと・・・・・



  
     

      

章終了。第2章の大地へと続きます。
大地へは19話あります(苦)
まあぼちぼちさせてくださいね。

再々編集2016.1月


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