終局は物語のはじまり







     
進藤の部屋は僕の部屋とは全く違うようでいて基本的なものは
同じだと思う。

碁盤も専門書の種類も僕が持ってるものと差はない。

彼が同じ碁打ちなのだから当たり前といえば当たり前なのだが、
僕は彼の匂いがするこの部屋がどこか落ち着いた。

部屋を一通り見回すと二人は自然と碁盤を挟んで向かい合っていた。

その対局に勝ったのは進藤で、だのに、進藤はため息を吐きながら
ベットの上に転がった。




「ここでお前に勝ってもなァ〜意味ねえよな。」

「そんなことはないだろう」

「公式手合いで俺一度もお前を負かしたことない。今日だって俺若獅子
戦お前に勝つ気でいたんだぜ。何で負けちまったのかな。」


近い将来彼なら僕を公式戦で打ち負かす日がくるだろう。
そう思ったがそれはあえて口には出さなかった。
悔しかったし、なによりそんな言葉は今の彼には慰めにもならないだろう。

進藤はアキラに背を向けぽつりと言った。



「北斗杯お前だったら高永夏(ヨンハ)にだって勝てたかもな」

彼らしくもない弱気な言葉とヨンハと比べられた事に憤慨して僕
は怒鳴っていた。


「ああ、僕なら負けなかった。」

「そうだよ。お前だったら負けなかった。そして俺だって、絶対来年
は負けねえ。そしてお前にだって・・・お前だっていつか追い越してやるんだ
から・・・。」


僕は進藤を覗き込み、肩を抱くと逸らされた視線が重なった。

大きく見開いた進藤の瞳にその強い眼差しに今日僕に負けた事が本当に
悔しかったのだという事を悟った。


自分をひたすら追ってくる彼を待っていた。


今まで気づかなかったがそれが進藤が僕を想っているという
何よりの確信だったのかもしれない。
僕は彼に覆いかぶさると そっと彼の唇にキスを落とした。
唇が離れて 至近距離で彼の瞳とぶつかる。

無言の攻防が二人の間に流れ先に口をついたのは進藤の方だった。

「とうや・・・」

囁かれた声に僕の理性は崩れ落ちた。

彼の唇に僕のそれを押し付けた。
今まで隠してきた想いが雪崩のように押し寄せてくる。

唇を這わし体を擦り合わせ、全てで彼を感じようと進藤に体を
密着させた。

彼を自分のものにしてしまいたい。
感情に任せて彼を掻き抱いてしまいたい。



合わせていた唇を離し首筋に這わせたとき、進藤の体が
びくっと震えて彼の腕が僕を引き離そうともがいた。


「塔矢・・・ちょっと待て!!」

僕は、進藤の体から僅かに起き上がる。

「塔矢、これ以上はだめだ。」

真っ赤になり拒否した言葉は甘くて、
僕はもう一度進藤の体を掴んだ。だが進藤は頭を横に大きく振った。

「進藤どうして・・・・」

焦りすぎたのだろうか。

「あ、そのお前が嫌とかそんなんじゃ。てかオレお前の事・・・」

言いかけて真っ赤になった進藤が言葉を探す。

「そのただ・・・付いて行ってない」

「進藤・・・」

進藤の気持ちがわからないわけじゃない。
どうすればその欲望を叶えられるのか本能は知っている。
だが、行き着く場所を知らないのだ。

このまま突き進んでいったいどうなってしまうのかわからないのは
進藤だけでなく僕も同じだ。

それでもを抱きしめたい。彼が欲しいと思う。
僕は湧き上がる欲情をこらえて彼の耳元につぶやいた。


「進藤もう何もしない。だから君の傍にいるのは、抱きしめる事は許して
くれないか?」



小さく頷いた進藤に僕は頬を寄せそっと抱きしめた。
今まで片想いだったと思っていたのだ。抱きしめる事を、今ここにいることを
許されただけでも幸せなはずなのに・・・。

それでも求めようとする欲求はどうにもならなくて、


それから間もなくして進藤の寝息が僕の腕から漏れると
僕は耐え切れなくなって部屋を出ていた。













『進藤・・・・・』

塔矢の呼びかけに俺は俯いていた顔を上げた。
そこには一糸纏わぬ塔矢がいて・・・・俺自身何も身に着けてなくて
恥ずかしさに視線を彷徨わせると背に手を回されて強く抱きし
められていた。

その瞬間塔矢の体温が身を纏う。


塔矢の腕は心地よくって直接触れる肌からは全身に電流を流したような
刺激が訪れ俺はこのまま塔矢に身を任せてしまいたい衝動に駆られた。


塔矢の熱い熱い吐息が耳元に吹き込まれた瞬間俺の下半身が
するどい刺激に耐えられなくなる。

「塔矢、もう俺・・・」



激しい快感と衝撃で俺は目を覚ました。
口元に両手を押さえて俺はそっと隣で寝ている塔矢に目線をやった。

夢だった。
けど、昨夜の塔矢との事は夢じゃなかった。


今しがた自分が見た夢と自分が起こした生理現象に
いいしれぬ罪悪感をかんじながら俺は塔矢に心の中で謝った。

こんな事塔矢に知られたら俺への恋心も冷めるだろう。

俺はそう思うと悲痛な気持ちになって、とにかく気づかれぬよう
そっと部屋を抜け出すと風呂場に向かった。

服を脱いで汚した下着を手に風呂場の戸を開けた瞬間、塔矢の服が
目に入った。


昨夜、乾燥掛けたままにして寝てしまったのだ。

その衣類が俺を責めているようでいたたまれなくなり、
乾いた塔矢の服を無造作にカゴに突めこんだ。


「塔矢ごめん。俺・・・なんでこんなこと、」


つい言葉に出てしまった言葉に俺はうつむいて唇をかんだ。

初めての事ではないし、無造作のうちの生理現象だとわかってはいても
夢の中で見た塔矢の肌の色や表情が頭に焼き付いて離れず俺は自分
の起こした所業に自己嫌悪を覚えた。

シャワーを浴び下着を洗い終わって脱衣場に出ようとした時いきなり
脱衣場の扉が開く音に俺の心臓は跳ね上がった。

塔矢が自分の服を取りに来たことを悟って俺は足が竦む。


「進藤風呂場に入ってもいいだろうか?」

その言葉に俺はどうしようもない事態を知った。

「塔矢待って。お前の服は脱衣場に・・・」

言い終わらぬうちに風呂場の戸は開いていた。

俺はとっさに後ろ手で下着を隠したがそれ以上に塔矢が何も
身に付けていなかった事に大きな衝撃を受けた。


「何だよ!?」

「進藤・・・」

そこには夢の中で見た塔矢よりもきれいでリアルな塔矢の肢体
があり、見てはいけないものを見てしまったように下を向いた。

塔矢が俺に近づき俺は後ろ手で庇いながら数歩後ずさった。


「と・・塔矢!?あの、そのお前の服は外にある」

慌てて言い訳をすると塔矢は歩みを止めて俺の顔を見つめた。

「進藤何を僕に隠してる?」

「え!?」

あまりのことに俺は顔だけでなく体中が熱くなる。
その瞬間塔矢に腕を掴まれていた。


「バカ辞めろ!!」


俺は大きな声を上げたが構わず塔矢は俺の
手を持ち上げた。俺の手から下着が零れ落ちた。

塔矢に知られてしまった事に俺はどうしようもない
罪悪感と絶望との入り混じった想いがこみ上げて
自分でも気づかぬうちにえぐえぐ泣いていた。


「ごめん。塔矢、オレ・・・」



言い訳すら出来ない状況に俺はとにかくこの場を離れたくて塔矢を
押しのけ風呂場を出ようとしたらいきなり塔矢に腕を掴まれ後ろから
抱きすくめられた。

直接ふれた塔矢の乾いた肌に俺の心臓が大きく跳ね上がり全身の毛が
逆立つような感覚が襲った。

「進藤 すまない。君を泣かせるつもりなんてなかった。
許してほしい 。」


「でも俺・・・・」

「僕は何とも思ってはいない。むしろ嬉しいぐらいだ。」

塔矢の言った言葉を疑った。

「何 言って・・?」

「君はどうして僕に謝ったんだ。謝らなければいけないことでもしたのか?」

あまりの恥ずかしさに俺は体を震わせる。
塔矢は俺を抱きしめていた腕に力を込めた。


「進藤。君が言えないというならあえて聞かないよ。
僕も一緒なんだ。知ってるだろ。昨日の僕の失態を、君の前では僕も
ただの男なんだ。君は僕がこんな奴だとわかって嫌いになっただ
ろうか?」


俺は思い切り顔を横に振った。


「進藤 今度二人で会った時は君が欲しい」

塔矢の甘美な誘惑が俺の脳天に突き抜ける。

「いや、でも俺は・・・・」

「怖い?君が嫌だというなら無理強いしない。だけど僕は
夢の中の君でなく本当の心と体のある君が欲しい」


躊躇いながらも小さくうなずいた俺に塔矢がそっとキスの雨を降らせた。





進藤ごめんね。
本当は僕の方がずっと罪悪感に囚われてる。

昨日 君が寝てしまったあと僕は耐えられなくなって
君を想って・・・・自慰行為をした。



そして今朝も・・・・・・。
出なければこんなに冷静に裸の君と向き合えるわけがない。



君が思っている以上に僕は欲深くて


・・・・君を愛してる。





  
     

      

なんだかやってないのにそれ以上に怪しいような(笑)
こういう二人が好きなんですよ(笑)

    再編集 2007・3月 再々編集 2016 年1月



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