アキヒカ三銃士




13





     
伊角と和谷とあかりは暗い船室の中で身を潜めていた時でした。

突然甲板にカンカンとバラバラに打ち付けたような甲高い足音が響きました。
それと同時に男たちの話す声がかすかにしました。

「・・・侍女とト・・・ヤアキラ。」

「確かに港から・・・へ向かう・・・?」

「だが・・・時化で・・・船は・・えって」

「だから明日出向する船をしらみつぶしに当たってるんだ!」


最後の声主はでかい声だったので船底にまで特に声が通りました。

「とにかく探しだせ!!」

和谷と伊角は目配せするとあかりを大きな木箱の後ろに隠し荷造りをまとめていた風呂敷で箱を覆いかぶせました。

がやがやと大きな男たちが船底まで下りてくると和谷は突然大きな声を上げました

「伊角さん。この葡萄酒すげえうめえ〜!!」

「和谷飲みすぎだって。」

船底に入る小さな戸が開いた瞬間あかりの心臓はドクンと大きくなり体がガチガチ震えました。

「てめえら、こんな所で何してるんだ!!」

「お前らの方こそ、(ヒック)誰の許しを得て船に乗って
んだ?」

和谷はわざと絡むように男たちを睨みつけました。

「てめえ酔っ払ってんのか?」

「すみません。こいつ酔うとすぐ絡むもので。」

伊角が弁解するように謝ると男たちが穴があくほど
二人の顔を見ました。

「親方 こいつら探してるやつとは違いますぜ!!」


ひそひそと聞こえる後ろの声に
伊角が申し訳なさそうにもう1度謝ると男の一人があかりの隠れている大きな木の箱に気づきました。

「お前ら、その箱のもん見せてみろ。」

「てめえらに見せるようなものはねえよ。
帰れってんだ!!」

和谷は酒臭い息を男たちに吹きかけると男たちは露骨に
嫌な顔をしました。

「その箱の中を見たら帰ってやるよ。」

「なんだと!!!」

それでも絡もうとする和谷を制して伊角は男たちに
耳打ちしました。

「あの中にあるのは葡萄酒ですけれど・・。」

「なら見せてみろ。」

伊角は箱の中を開けると中身を見せました。

「ほお〜こりゃ高級なワインだな。」

和谷はお前らにはやらねえぞ〜と
威嚇するように吼えましたが足はふらつき酔いつぶれていたので、伊角がその中から数本抜いて男たちに渡しても文句は言いませんでした。

「悪かったな。」

「いえいえ。なんだか知らないけどそっちも大変そうですから・・。」

最後の男が船底をチラッともう1度振り返ったので伊角は
にっこり笑ってその男にもワインを渡しました。
それで男たちは機嫌よくそこから引き上げていきました。

「なんとか・・危機は脱したようだな。」

「うん。あかりさん大丈夫?」

和谷があかりに手をかすとあかりはまだ震えていました。

「ありがとう。和谷くん伊角さん。助かりました。」

「まだ礼を言うのは早いって。旅はこれからだろ!!」

和谷はあかりを励ますようにそういうと伊角と二人で小さな芸を披露しました。
それは本とに些細な誰にでも出来るものでした。

ハンカチを丸めるとウサギと狼をつくり、その人形で
あかりのために二人はお芝居をしたのです。

あかりにようやく笑顔が戻ると伊角は船底の火を消しました

「あかりさん 和谷とりあえず今日は寝ようぜ。」

「ああ。今夜はもうあいつらもこねえと思うからあかりさんゆっくり休めよ。」

「うん。おやすみなさい。」

時化がきていると言うけれど3人を乗せた船はまだ穏やかでした







さてもう一方の鋒山をいくアキラとヒカルはというと。

サイの案内あって一山超えて山脈の中腹ちかく洞口に作られた祠で夜を過ごす事になっていました。


「なんでもこの祠は千年も昔 緋国の舞台の発展を祈願して作られたものらしいぜ。」

ヒカルがサイの受け売りをそのままアキラに話すとアキラはいたく感心しました。


「ヒカルは鋒山に詳しいんだな。 尾根の道といいこの祠といい。
どうして君はここの国の人間じゃないのにそんな事を知ってるんだ?」

「いっただろう。俺には守護神がついてるんだって。」

その返答を聞いてアキラを小さくため息をつきました。はぐらかされる事はなんとなくわかっていたのです。

それにおそらくこの旅が無事終わってもヒカルは話してはくれないのだろう事を察したのです。


冬でなくても高い鋒山ではかなり冷えるので、
洞窟に火を炊いて毛布に包まると二人は身を寄せ合うようにあたりました。

真っ暗な暗闇の中にたった一つの炎。
アキラは不思議な感覚に襲われました。

「ヒカル もし無事に帰れたら僕と・・・。」

「なんだよ。もし・・ってらしくねえなあ。」

「確かにそうだな。」

アキラは自嘲ぎみに笑うと言いました。

「明日は日の出と共に出発するよ。」

そこには先ほど見せた弱気な語気はありませんでした。
ヒカルはほっとすると目を閉じました。

「わかった。アキラおやすみ。」

「おやすみ。」

二人は疲れもたたってあっという間に睡魔に襲われたのでした。



「さて、二人とも寝たようですね・・」

二人の様子を伺っていたサイはそうつぶやくと洞窟の先を見つめました。

「先ほどから祠のこの先、何か感じるのは私の気のせいでしょうか。」

サイは二人が寝たのをもう1度確認すると立ち上がり
洞窟の奥へと進んだのでした。







13話緋色担当。さてアキラくんはヒカルに何を言いかけたのでしょう?
そりゃあもう
あの一言です。(^^ゞ


目次へ

14話へ