アキヒカ三銃士








     
翌日、ヒカルは、二人と連れ立って、いつも和谷たちが立つという場所へ出かけました。
「決まった時間に決まったところでやれば、固定のファンもできるからな。」
伊角は、そう言いました。

パフォーマンスは、ジャグジーをやりながら、演奏し歌うという、若々しい力が
満ち溢れたものでした。
和谷が投げて寄越すボトルをヒカルはやっとのことで、よろよろと受け止めるのでした。

でも、肝心な時に、それを落としてしまう。 
それは道化がわざと落とすようにも見えて、可笑しみがあったのですけれど。
「これは絶対受け止めねえと。」
ヒカルが、そう思った皿がヒカルの横を通り過ぎていって、後ろの客の方に。
「危ない。」
ヒカルは、はっとしましたが、皿が落ちる音がしないのです。

振り向くと、明るい感じの少女が、その皿を受け止めていました。
少女は、そのお皿を器用にくるくる回しながら、和谷たちの方へステップを踏んで
歩いていきました。
そのまま踊りながら、三人は、不思議と息のあった演技を見せるのでした。

一通りの出し物を終え、盛大な拍手が起こったその時でした。
「お前ら。 ここは俺たちの場所だぜ。 どけっ!」
そう言って、観客を蹴散らすように、一団の男たちがやってきました。
大半の人々はさっと、散ってしまいました。

「お前。 真柴じゃねえか。 何するんだよ。」
皿や、小道具を叩き壊す男たちを見て和谷は、叫びました。
「やあ。 まだこんなところで、ストリート芸人などやってるのかい。
まあ。 能力のないものは仕方ねえよな。 でも、やっぱり舞台は
気持いいものだよ。」

真柴のその言葉に、血気盛んな和谷は、頭にきたようでした。
真柴を殴リ倒すと、それを合図にするかのように、残って見ていた観客も加わり、
乱闘騒ぎ
になったのです。
「まずい。 和谷。 行こう。」 伊角がそう促しました。

「待てーっ。」
何人かが、ヒカルたちを追ってきました。
ヒカルたちは、とにかく、全速力で走り、やっと、彼らを撒き、ちょうど近くに開いていた
扉の中に逃げ込んだのです。
「もう追って来ないな。」
ぜいぜい息を切らしながら、「ねえ。真柴って誰。」とヒカルは聞きました。

「あんな奴。もっと、殴っちゃえば良かったのよ。」
そう息巻いたのは先ほどの少女でした。
「あのー。」
ヒカルが訊ねようとした時、
「あんたは? 誰?」
その少女に逆に聞かれてしまいました。

「奈瀬。 久しぶりだったな。 相変わらず冴えてたぜ。 その腕。」
「俺たちと奈瀬はトリオを組んでたことがあったんだ。 奈瀬が飯島とコンビで、
歌を始める前にな。でもどうしたんだ。 今日は。」
「うん。 あんたたちが元気にしてるか覗きに来たのよ。 そしたらお皿が
飛んできたから。」

「飯島は?」
「うん。 今ね。 コンビ休業中。 飯島君、自信失ってるのよ。 このまま、ステージを
目指して頑張り続けるかどうかって悩んで、家に戻ってるのよ。」
伊角が頷きながらヒカルを指しました。
「こいつな。 昨日偶然知り合った奴なんだ。 何にもできないけど、
何か面白そうな奴なんだよ。」

「ヒカル。挨拶しなきゃあ。」
佐為に促され、ぼーっと突っ立っていたヒカルは慌てて挨拶しました。
「俺。 進藤ヒカルです。 よろしく。」
「宜しく。 私、奈瀬明日美。 得意な楽器はフルートよ。」
「そうだ。 進藤。 お前も何か楽器を演奏できるといいな。」
「進藤君。 失敗するのは演技のうちよね。 できるけれど、間違える。 
失敗する。 できないから失敗するのは、駄目なのよ。 今日は私じゃなかったら、
危ないとこだったわね。」
笑いながら、奈瀬が言いました。

「こんなことになったら、明日はあそこには立てないよ。 
真柴、座間一派に雇われてるのかな。」
「舞台に出してもらうとか言うことと引き換えだろ。 すぐ捨てられちまうよな。」
「また別の場所、開拓するさ。 ま。 とにかく、練習だよ。練習。」

和谷のその言葉に、佐為が言いました。
「そうですよ。 ヒカルは。 特に。 でも良かったですね。 こういう人たちと知り合えて。 
三人にみっちり、しごいてもらいましょう。」
「ちぇっ。佐為の奴。」

「おい。何か言ったか?」
「ううん。俺もしっかり練習するよ。」
「おう。」
4人は互いに向かい合って、右手を上げ、それを重ねあい、声を揃えました。
「頑張ろうぜ。」と。

その時、声がしました。
「あなたたちは、何してるの? ここで?」
この家の人でしょうか?





6話はさびる様担当。真柴に奈瀬 飯島くん。ヒカ碁キャラぞくぞく登場です。
ヒカルはパフォーマーとしてどう成長していくのか、これからです〜






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