アキヒカ三銃士






     
街へ着きました。

100年前、この街にいたというサイはきょろきょろしました。
「随分変わったのですね。 ステージはまだあるのでしょうか。」

「ねえ、サイ。 ステージって、一体、何なんだよ。」
「あらゆるものがそこで演じられるのです。 
悲しいものも楽しいものも。 
人の心を揺さぶったり、楽しませたりするのです。 
ステージってそういうものです。」

ヒカルには、よく理解できませんでしたが、百聞は一見にしかず。
二人はとりあえず、近くのお店に入ってみました。
そこでは、ちょうどお芝居をやっていました。

山奥の村から初めて出てきたヒカルは、そのお芝居に
ただ、見とれるばかりでした。
実際はそれほどでもない小さな舞台でしたが、
初めて見るヒカルには、素晴らしいきらびやかな舞台に見えました。
初めて大勢の人を見て、演じる人たちを見て、とうてい筋などに
注意を払う余裕もありませんでした。

その時、観客が、どっと笑いました。
サイも笑っていました。主役を務めている子を見ながら、
「あの子、なかなか見所のある子ですね。」と。

「ねえ。サイ。俺聞いてなかったよ。何が可笑しかったの?」
サイは、ため息をつきつつ、ヒカルにその笑いのツボを説明
しました。
サイの説明があまりに面白かったので、ヒカルは思わず声を出して
笑ってしまいました。

その時芝居は、ふだん笑う場面ではなかったのですが。

でもヒカルの楽しそうな、ワンテンポずれた笑いは、実は、
そのお芝居の核心をつくような場面を微妙に盛り上げたのです。
観客は思わず一緒に、囁くように笑ったものでした。
ただ、主人公の少年だけはきっと、ヒカルの方を睨みました。

ヒカルは、それを感じ取り、自分がこの場にそぐわないことをした
と思い、あわてて外へ出ました。
「ヒカル。悪いことをしたわけではないですよ。 
あなたに悪気があったわけではないから。」

それにしても、ああいう場面でも、ヒカルの笑いだから、
お芝居を損ねないですんだのだと。

そう思いながらサイは、ヒカルの潜在能力を改めて感じました。
でもこの、少しぼけた感じが、うまく花開けばいいのですが、
粗忽で注意力も散漫ですし、先は長そうですね。 
そうため息をつきつつ。

一方、お芝居は、常になく観客の拍手を浴びて、終わりましたが。
「アキラ。どうしたんだよ。今日はすごく、芝居の運びが良かったぜ。」
「芦原さん。 あの場面で、笑われたのは、初めてです。」
アキラは少し腹立たしそうに言いました。

先輩で、今回は端役だった芦原さんはアキラを見ながら思いました。
「アキラがもう少し堅物でなくて、柔らかくなれば、素晴らしい芸人
になれるのにな。 
今日のあの笑いはアキラの固さをほぐしてくれた気がするけれどな。」と。


さて、その日、そこでお芝居を見ていた男が、もう一人いました。 
眼鏡をきらめかせ、白いスーツを着こなしたその男は、すべてを見終わると、
ロビーへ出て、タバコをくゆらせながら、何事かじっと考えにふけっていました。





2話はさびる様が担当。アキラくんと芦原さん。そしてなにやら
怪しげな忘れちゃいけないあの人が登場!!次回に続く〜

 


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