SAI〜 この手が君に届くまで 15






僕が呼び出されたのはやはりサイに搭乗するためではなかった。
サイを通じて映し出された映像が広がっていた。

「アキラお前が戦ったやつか?」

一面に映し出された街のビジョンは壊滅状態だった。
僕は一瞬で凍りついたようにそのビジョンの前で固まった。
人の声が大地の声が・・・全く聞こえてこない。
僕のサイコメトリー能力も感知しないほど一瞬の出来事だったんだ。

なぜこんなに急に?
サイが間に合わないほどにこれほどに侵食されてしまうとは。

廃墟の街にサイが立ち尽くしていた。
まるでサイがそのすべてを破壊してしまったようにどす黒く立ち上がる煙の中
で輝いていた。
一体堕天使たちはなにを考えてるんだ。
捕食というより人を壊滅しようとしている気がしてアキラは震える胸を押さえた。

「アキラ大丈夫か?」

「っはい、ですが残念ながら・・・。」

『わかりません』と首を振った後ヒカルが言った言葉を思い出していた。
あのムラカミという『堕天使の波動』と言っていたことを。

「本当に大丈夫か?アキラ顔真っ青だ。ま、こんな状況をみたら
無理もねえけどな。まだ本調子じゃねえんだろ。
呼び出してすまなかったな。」

倉田がポンポンと僕の肩をたたく。
ただそれだけで少し落ち着いたような気がした。
これも倉田の能力の一つなのだろうか?

「あの、倉田さんお願いがあります。どうしても気になることがあります。
僕を一人にしてもらえませんか?」

「かまわねえが、司令室にか?」

「いいえ僕の部屋で構いません。何らかの事がわかったら必ず報告します。」

「いいだろう。」

僕の胸がすっと軽くなった。
自分の感じた不可解なこの感じも
ヒカルならわかるだろうと思ったし、先ほど彼が別れ間際に僕に言ったことも気になっていた。
そして今は彼の傍にいないと僕自身が不安でたまらなかったんだ。

僕が退出するのを待って倉田が和谷に耳打ちしたことをしらなかった。




部屋に戻った僕は呆然としていた。
そこにヒカルはいなかった。
部屋を出るときからこうなることがわかっていることはわかっていた気がした。
ただ約束することで信じたかったんだ。

去来する虚無感に僕は胸を押さえた。

「なぜ、君は行ってしまったんだ。」

彼と先ほど抱き合った場所に膝をつき僕は彼の気配を追った。

ヒカルは窓の外から誰かに呼ばれて出て行ったようだった。
彼は僕がこうやって記憶をたどることを予測していたのだろう。
彼の気配と彼の意思がはっきりとそこに残っていた。

『お前はオレたちを堕天使って呼ぶけどな。お前らの方がよっぽど
堕天使だろ。こんなに地球を汚しちまってさ。
アキラ・・・天使は人間が汚しちまった地球を取り返そうとしてるんだ。
羽をもがれて地を這うしか能力がねえお前らは散々なことをやってきたんだ。
けど、お前には見えねえかもしれないけど翼があるんだぜ。
だからこっちにこいよ。
でないとオレお前をヤんないといけない。』

ヒカルの声はそこで一旦途絶えた。

『何をしている早くしろ!!』

ヒカルが声の方を向くとそこに白いスーツを着た長身の男が立っていた。
気配からかなりがっちりとした体躯のようだった。

「オガタさん?へんなカッコだな。なんだよ。その目につけてるやつ。」

僕は映し出された男を凝視した。この男がオガタ!?

「それはお互い様だろう。
人間の真似ごとをしないとここには入れなかかったからな。
それともまたこの間みたいなことがしたいのか?」

「なっそんなわけないだろ。」

ヒカルはかなり慌てた様子だった。

「だがそうも言ってられないようだ。」

「どういうことだよ。」

「お前をもう子ども扱いすることもできなくなったってことさ。
だから言ったんだサイには近づくなと。」

オガタとヒカルの視線が絡み合う。

「つまりオレも出陣しなきゃならないって事?」

「そうかもしれん。」

オガタと言う男は含んだような笑みを見せるとヒカルに近づいて体を引き寄せた。




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