SAI〜 この手が君に届くまで 7






僕を包む空間は温かくて、心地よくて僕はその空間に身を任せていた。
そうして目の前に映し出された景色を僕はぼんやりと眺めていた。


どこまでも美しく咲き乱れる花園に腰ほどにも届くだろう美しい漆黒の髪の
青年がいた。
その人は引きずるほどに長い衣を纏ってかなり慌てた様子で
誰かを探しているようだった。

「・・・ル、どこにいるのです?
全くこんな時に、しょうがない子です。」

その人はため息をつくと花園にしゃがみこんだ。
そうして優しく花に手をかざすと花びらはまるが風に舞うように飛んでいきやがて
彼に何かを教えるように舞い落ちた。
その方向からごそごそと動くものがあった。

「鬼ごっこはもう終わりです。」

「ちえっ、もう見つかったのかよ。つまんねえ。」

花の中から姿を現した少年の前髪は金色に輝いていた。
僕はこの少年に見覚えがあった。

「それより、ヒカルここからすぐ離れてください。」

「何で?」

「私の所に羽なしの少年がいると密告したものがいるのです。」

「誰がそんなことを?」

「およその見当はつきますが私にもハッキリは・・。」

「ふ〜ん。その見当ってサイの許婚のオガタさん?」

サイと呼ばれた青年は困ったように顔をしかめて溜息をついた。

「明らかではありませんが・・・。
私とヒカルの関係を知ってあの方に告げ口をしたのでしょう。」

「だったらオレだけじゃなくて、サイも逃げないとまずいだろ?」

ややあってサイは少年に微笑んだ。

「そうですね。ヒカルとなら地の果てでも地獄の果てにも一緒に行ってもいいですね。」

「じゃあ地獄に付き合ってもらおうかな。」

2人は見つめあい笑うとどちらともなく抱きあった。
そして二人が強く抱き合うとまるでその姿を隠すように強風が吹きあれ花びらが大きく舞いあがった。

風がおさまった後2人の姿はどこにもなかった。







次に映し出されたのは荒波の孤島に佇む2人の姿だった。


「もうこれ以上は無理だよ。やっぱり天使とただの人間のオレが一緒に生きてくなんて無理だったんだ。」

ヒカルはもう少年ではなかった。

「時間だって、能力だって違う。ましてオレたちは羽ありと羽なしで
敵同士なんだぜ?どこに行ったって、オレたちの場所なんてないんだ。」

「ヒカル・・・。」

ヒカルには少年だった頃の無邪気さも明るさも残ってはいなかった。
きっとあれから何年という歳月がたちいろいろなことがあったのだろう。

「サイもうお前はあいつらのところへ戻れよ。今ならまだ間に合うかもしれねえ。」

「何をバカなことを・・・私は私の種族を裏切りました。
もう人間のあなたの仲間です。」

「でも・・・。」

「ヒカルは私が嫌いになったのですか!?」

「そんなわけねえだろ!!」

サイはヒカルをぎゅっと抱き寄せた。
サイはしばらくそのままでいたが何かを言い出しかねているようだった。

「サイ、オレお前に何を言われてもおどろかねえぜ。」

ヒカルはわかっていたのだろう。そういうとおどけた様に少し笑った。
ややあって戸惑いながらもサイはそれを口にした。

「ヒカルは私と未来永劫、体も魂も一つになってもいいと
思いますか?」

ヒカルの返事は聞くまでもなかったような気がする。

「ああ。サイとなら、オレ体も魂も一つになってもいい。地獄にだって一緒に行くって約束しただろ。」

「辛いかもしれませんよ。」

「辛えだけじゃねえだろ?。」

「ヒカル・・・。」



抱き合う2人がやがて一つへと重なり姿を変えていく。
僕はその姿に胸が切ないほどに締め付けられた。

ヒカルは・・・ヒカルだ。



映像はそこで途絶えた。





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あとがき


ヒカルは前世では普通の人間だったみたいです(笑)これ以上はお話の中で。