SAI〜 この手が君に届くまで 8





僕が目を覚ました時、一番に目に飛び込んできたのは司令の倉田さんと
副司令の芦原さんの姿だった。

「く・・らたさん?」

オレは救護室のベッドの上にいた。

「塔矢、悪かったな、俺の留守中に無茶させちまったみてえで。」

僕の額から温かな感覚が流れてきてそれが五臓六腑にまで染み渡るように
流れてく。ヒーリングの能力者・・・?
僕は倉田さんにヒーリング能力があるというのをこの時はじめて知った。

「すみません。このような所をお見せして僕はもう大丈夫・・・。」

僕はそういって起き上がろうとしたが動いたのはほんのわずかだった。
頭がぐらっとして体を支えることが出来なかったんだ。

「アキラ無茶はするな。」

隣で見ていた芦原さんが僕の体を支えてくれた。

「芦原さん、すみません。」

「今はとにかく休息が必要なんだ。」

支えた手が僕に横になるように即す。

「塔矢、お前は体も精神もとにかく消耗している。大人しくしてろ。
それで消耗した分、栄養をとれ。でないといつまでたっても戻らないぜ。」

倉田は普段子供じみている感があるのだが、
(候補生と食事の取り合いをしたり、ゲームの勝ち負けに拘ったり)
それでもこの時ばかりはアキラは司令官の顔を見た気がした。

「はい。」

「白川の見立てでは2週間は絶対安静らしいからな。」

「そんなに?」

「それだけ今回の事は大変だったってことだ。」
お前は一人でよくやった。」

心底からそういわれて僕はそれに無言で頷いた。
やはり彼の事を報告すべきではない。

「司令、オレたちがいたらアキラがゆっくりできませんから・・。」

「ああ、そうだな。とにかく塔矢安静にな。」

「司令待ってください。」

部屋から退出しようとした2人の背を僕は思わず呼び止めていた。
どうしても聞いておきたいことがあったんだ。

「どうした塔矢?」

「あの・・・一つ聞いてもいいでしょうか?」

倉田さんが無言で頷くと彼の存在感が急に大きくなったような気がした。

「僕が出撃した時、マザーはなぜ起動を停止させてしまったのでしょう?」

かなり遠まわしに聞いたつもりだった。
でなければ勘のいい倉田に悟られてしまいそうな気がしたんだ。

今も倉田さんは僕の心の中を覗くようにじっと僕を見すえていた。
だが、僕の質問に応えたのは芦原さんだった。

「よくわからないんだが、アキラが帰ってきた直後マザーは正常に動き出したんだ。
一体なんだったのか・・・。」

マザーとサイは電子ニューロンによって繋がっているといわれてる。
サイの戦闘はすべてマザーによって把握され司令室のモニターに映し出された。
マザーはサイとパイロットの状態を伝えるだけでなく敵の特徴も的確に送る。

場合によっては司令の指示でサイを操縦することもあるし、パイロットの生命に
危機が及んだ場合マザーを介してパイロットチェンジすることも出来た。
だが、マザーが完全に停止していたのであればヒカルがサイに搭乗したことは
僕しか知らない『事実』ということになる。

「だが・・・和谷が妙な感じがしたといってな。」

「和谷くんが・・?」

和谷は透視と目に見えないものの本質を見抜く能力を持つ候補生の一人だ。

「なんでもサイの搭乗者は2人いる気がすると・・・。」

僕はそれを聞いて無意識にごくりと唾を飲み込んでいた。

「だが・・うちの候補生は全員あの場にいたわけだ。それに
戻ってきたのも塔矢一人。だよな塔矢?」

倉田さんに鋭く問われて僕の背に冷たい汗が流れた。
やはりこの人は侮れない。

「塔矢・・・お前顔色だいぶ悪いぞ。とにかく今日はもう休め。」

倉田さんはそこで話を切り上げると足早に退出していった。
芦原さんがその後を慌てて追いかけていった。

2人が退出した後、僕は深く長いため息をついた。
夢と現実がまだ交差している・・・そんな感じだった。

・・・ヒカルの事は夢ではない。
そして・・・先ほどの見た夢、あれは・・・。

サイコメトラーの僕は意識しなくても触れたものの
過去を見てしまうことがある。だが、サイに関しては
(搭乗して戦闘能力が上がっても)何度試みてもサイ自身にリンクすることは
出来なかったんだ。


だが、おそらく僕がみたものはサイが今までに見てきた過去の一つ?
それともサイそのものの過去?
僕はあの長い衣をもとった青年の記憶を辿ってみようとしたが
その部分だけぽっかりと抜け落ちたように曖昧だった。

僕は大きくため息をつくと目を閉じた。

「サイの事も君のこともわからないことだらけだ。」








その頃、アキラの部屋から立ち去った倉田は場所を見計らうように
足を止めた。

「司令?」

「芦原、お前臭いと思わねえか?」

「臭い何が・・?」

天然の芦原は間抜けた返事を返し倉田はあきれるように溜息をついた。

「お前ってホント鈍感だよな。ま、だから塔矢と付き合ってい
られるんだろうがな。」

「なんですか、それは!!わかるように言ってくださいよ。」

「ははは・・・ま、塔矢の事しばらくよく見とけってこった。あいつの事だ。
無茶するかもしれねえからな。」






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あとがき

次回は伊角さんが登場予定です。