その晩、仕事を終えた後は早々に部屋に退散した。 10時を過ぎても緒方は戻ってこなくて、疲れたオレはそのままもう横になった。
逆に寝てしまった方が先生も相手をしないだろう。
浅い眠りの中、緒方が部屋に戻ってきた事は意識の中感じていた。
「もう寝てるのか?」
覗き込むようにそうつぶやいた緒方に『うん』と相槌をかえしてごろりと寝返りを打った。
「進藤・・・」
布団に冷気が差し込み、ベッドに侵入してきた何かにオレの睡魔はようやく吹き飛んだ。 その時には背後から抱きしめられていた。
「なっ・・・先生!?」
「わめくな」
緒方は酒臭くも、タバコ臭くもあった。
「バカ野郎、酔ってるだろう!!」
「酔ってないさ」
『酔ってない』という時ほど緒方が酔ってる事をオレは知って
いた。
「やめろよ」
「いいじゃないか、男同士だろ。減るもんじゃない」
いいながら緒方がジャージを弄る。
「そういう問題じゃねえだろ!!」
朝のように肘で突いたが密着した布団の中ではあまり効果はなかった。 緒方は強引にオレを覆うと両腕を掴んだ。これで緒方からの手の攻撃はないがそれはオレ自身もだった。
「オレをからかってるのか?」
「からかってなどないさ」
暗闇の中近づいてくる緒方の顔にせめても背向けたが、緒方の唇がなぞったのはオレの鎖骨だった。ざわりとした生温かな感触に思わずのけぞりそうになる。
やばい・・先生は本気だ。
オレは足でけり上げたが、緒方はそんな事はお見通しだったらしく逆に足で受け止められ耳元で笑われた。
「ワンパターンだな、」
頭がカッとなったのは交差した緒方の膝がオレの下半身を刺激するように撫で上げたからだ。
「今までと同じだと割り切ればいい。アキラくんにも言わなければいい」
上った血が冷静になったのはこの時だった。
それを逆手にとられ、関係を要求するつもりじゃないかと 脳裏に掠めたからだ。 そんな事を緒方がするとは思えなかったが、これ以上は本当に酔いや冗談ではすまされない。
緒方の頭が浮いた瞬間を狙って、オレは
覚悟を決めて思い切り頭突きをかました。
「ちっ、痛っ!!」
オレも相当痛かったが流石にこれは緒方にも効いたようだった。 緒方がひるんだすきにベッドから抜け思い切り扉めがけて走る。
「待てっ」
緒方の引き留める声がしたが、オレは構わず飛び出した。
外に出たあとで後悔したのは靴もスリッパも履かずに来てしまった事だった。当然携帯も所持金もない。
途方に暮れたが、今部屋に戻るわけにはいかず仕方なくロビーまで下りた。
この時間でもまばらにロビーに客がいたのはイベントがあった為だろう。 ロビーに待機していたホテルマンが素足のオレに気付いてすぐ駆けつけてくれた。
「先生どうかされましたか?」
「あっいや、少し外に出たいんだけど、履くものあるかな」
「お客様用の外出サンダルがございますが」
温泉地なので外風呂をめぐる為のものだと説明され、オレは頷いた。
それでも靴がないよりは全然いい。
「それを借りてもいい?」
「もちろんです」
それ以上聞かないでくれたことが流石にプロフェショナルだと思う とりあえずここから離れたかった。
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